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19.宴

「うんまぁぁぁああああい!」


「アザミさん、食べすぎじゃないですか?」


「うるさいわねえ。ちゃんと運営費は払ったし、まだまだ腹三分目よ? 全然いけるわ」


「はぁ、ほどほどにしてくださいよ?」


テーブルに並べられた料理に次々と手を伸ばす。

おっと、こっちには鹿肉のステーキが。ガシガシむしゃむしゃ。

あっちにはベーコンとポテトの炒め物だぁ。ベーコンってなかなか流通しないから貴重なんだよね。おいしい食べ物食べつくせ!


「お嬢、食べてますかい?」


私が一心不乱にがっついていると、後ろから声をかけられる。


「その様子を見るに聞くまでもありやせんでしたか」


「あ、あらゴウダさん。これはお見苦しい所を……」


「今更ですよ」


この人はゴウダさん。討伐隊の中で二番目に偉い人。

ゴウダさんはとてもガッシリとした体形で、遠くから見たら熊に見間違えるほどの大男だ。


「おいユウジ、お嬢を見習え? お前さんは剣士なのにひょろっちい。たくさん食って俺みたいに肉付けろ?」


「わ、わかりました」


「おう、その意気だ。それとお嬢、巫女様――いや、妹さんの御成人おめでとうございやす」


この世界における成人する歳は十六らしい。

ここでも誕生日パーティーのような物はあるが、お披露目と一緒に行われるとなんだかかわいそうな気がする。ほら、クリスマスと誕生日が近くて一緒にされちゃうやつ。

ちなみに私は十九、既に成人している。


「ありがとうございます。ユリもきっと今日という日を迎えられて喜んでいると思います。もうお会いになられましたか?」


「それがあっしも挨拶しに行こうと思ったのですが先客がいっぱいでして」


本日の主役、ユリの周りにはたくさんの人たちに囲まれていた。中には細工屋のおばさんもいる。それほど新しい巫女の存在が喜ばしいのだろう。


「まあ時期を見計らってあっしは後でさせてもらいやす」


「そうですね。私も人が少なくなってから行こうと思います」


「にしても、あれから七年も経つんですなぁ。あんなに小さかったお嬢がこんなに立派なべっぴんさんに……」


ゴウダさんが人差し指と親指で豆粒ほどの大きさを作る。


「もう、私はそんなに小さくないですよ」


私とゴウダさんは他愛もない話で笑い合う。

あぁ、肉くいてぇ。食い足りないよ。あ、あそこのベーコン取られた。


「そういやユウジも討伐隊に入ってきたのは七年前だったな。ちゃんと今でも鍛錬は怠ってないよな?」


「はい、もちろんです」


「そうか。お嬢、コイツはちゃんとやれてますかい? 良い腕は持っていやすが、いかんせん抜けた所がありやす。迷惑をかけていないといいんですが」


当の本人であるユウジに目を向けると、なにやら落ち着かない様子。

瞬きの回数が格段に増え、アイコンタクトを取るかのように何かを訴えかける。

彼の思いを察するなら「変な事は言わないでくださいね? お願いしますよ!?」と言ったところだろうか。

ふふ、馬鹿な男だ。私がそんな願いを叶えてくれる人間だと思うのかね。


「いえ、彼は良くやってくれています。今日の討伐でも仲間の安否を気にかけたり、ここぞという時に攻勢に出てくれたりしていたので大変助かりました。私はユウジが同じ班にいてくれて良かったと思います」


「おお、そうでいやしたか。ユウジ、お前さんお嬢にべた褒めされたじゃねえか。ちったあ嬉しそうにしろい」


気を良くしたのか、ゴウダさんはユウジの背中をドンと叩く。


「いやいや、それほどでも」


まんざらでもないご様子の彼に笑みを見せる。それはもう不快感を覚えてもらえるほどのスマイルで。

――貸しね。

たったの三文字。

どうやら彼の気を削ぐのに、この口パクは十分過ぎたようだ。


「んじゃあ、あっしは他の所をまわってきやす」


「わかりました」


「ユウジはもっと食べろよ?」


そう言うとゴウダさんは、他の班員を見つけてどこかへ行った。

やはりあの人はデカ過ぎる。そこら辺の人より二倍背が高い。


「はあ、やっぱり僕はゴウダさんが苦手です」


「いつもあんたお世話になってるじゃない。いい加減慣れなさいよ」


「それもそうなんですけどね」


ユウジと初めて会ったのは、私が討伐隊に入ってからすぐの事だ。

始めはおどおどしていて、頼りないやつだと思っていたのに今ではこんな生意気なやつになっちゃって。


「ご飯とかご馳走してもらってるんでしょ? 男同士なら普通、もっと仲良くなるんじゃないの?」


男と言えば体育会系。討伐隊という特殊な職種ともあれば尚更だ。

そんな人種なら飲みにケーションとか、日々の上下関係やらで仲良くなるのが男性にとっての普通ではないのだろうか。


「たしかにおごってもらってますけど、それ以外がかなりきつくて」


「ああ、なるほどね」


「それに聞いてくださいよ。休日はもちろん、討伐に出かけた日だって『ユウジ、鍛えるぞ!』とか言って鍛錬しないといけないんですよ。さらにご飯だって吐く一歩手前まで食べさせられるんです」


「うわ大変ね」


という事は、強制的に毎日鍛錬しないといけないって事か。

熱血系とは良く言ったものだが、内容だけ聞けばかなりブラック。

まあ、それも彼に才能があるからなんだろう。


「もう食べ物のおいしさとかあんまりわからないです。いかに早く食べ、どれだけ腹の中に入れられるかだけしか考えられません」


「じゃあベーコンと豆ならどちらを選ぶの?」


「もちろん豆です。豆は一つ一つが小さくたくさん食べられますので」


「じゃああんたのベーコンいらないわね」


「ちょっと!」


すかさず彼の持つ皿からベーコンを取り上げ、口の中に放り込む。

燻製もの特有の香りと、噛むたびに溢れ出る肉汁が口内で踊る。


「アザミさん! いくらなんでもそれは酷過ぎですよ!」


「あら、ベーコンより大豆の方がいいんじゃなかったの?」


「それとこれとは別ですよ!」


「ったく、うるさいわねえ。ほらこれ」


空になった皿を半ば強引に彼へ押し付ける。


「なんですか? これ」


「持ってきて」


「何をですか」


「食べ物」


「何で僕が持ってこないといけないんですか! これくらい自分でやってくださいよ」


「へー。そんな事言っちゃって良いんだ」


頬を上げ、含みのある笑顔を見せる。


「ど、どういう事ですか?」


「良いのよ? ゴウダさんにさっきのは嘘で、毎日毎日使えないので困ってますって言ってあげても」


「あーもう分かりましたよ。行ってきますよ!」


「分かればよろしい」


彼はやや不貞腐れながらも、両手に皿を持ちながら旅立つ。各地に眠る財宝を求めて。


「あ、私お肉多めねー」



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