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14. 初めての外出

空を見上げる。


気が滅入るほど真っ青なキャンパスには、悠々と泳ぐ雲の群れがあった。


太陽は燦々と輝き、私の皮膚を赤く焦がす。


季節は夏。


まだ午前中なのに身体が火照る。


こんなバッドコンディションの中、私とユリは魔法の練習に勤しんでいた。


「あっつ……」


毎度代わり映えしない練習に、日差しも相まって一層やる気をそぐ。


転生直後は魔法という未知の概念にワクワクしたものだが、こうも毎日関わっていると目新しさや好奇心なんてものはとうに失せていく。


処遇、マンネリというやつだ。


あー、なんか楽しい事ないかなー。


私と違って真剣なユリを一瞥しつつ、お屋敷を囲む石壁に目を向ける。


外、出たいなぁ……。


「ねぇユリ」


「はい? どうしました?」


「今から私がする事、お父様やお母様には言わないでくれる?」


「へ? いいですけど……」


こうしてユリは私の味方になった。


後はバレなきゃ完璧。


私は石壁の下へ歩き出す。


高さはおよそ四メートル。大人が腕を上げても届かない。


サンドマスで土塊を生み出し、階段状にして設置する。


やはり土魔法はお父様も言うように便利だ。


簡単な建造物ならちょちょいのちょい。


「お、お姉さま! 危ないですよ!?」


「大丈夫よ。ちょっと覗くだけだから」


段差につまずかないよう、足元に気を付けながら登る。


巫女やミズハ家の決まりで、私達は十六の歳を迎えなければ外出許可が下りない。


そのせいで私はこの世界に来てから一回もお屋敷から出た事がない。


私が巫女じゃない事はイチョウ様のお墨付きをもらっているので、外ぐらい出て良いと思うのだが。


しかし、そんな不満も今日で解消される。


私は最後の段差に足をかけた。


「これが……外の世界」


あまりにも広々とした世界に、私は感銘を受けた。


緑に染まった大地、長い年月をかけて作られた緩やかな丘陵。


少し先に目を向ければ村が見える。ここからではプラモデル並みの小ささなので、詳細な規模や情報は掴めない。人の出入りが頻繁に見え、廃村というわけではないそうだ。


私は好奇心の赴くまま、誰にも見つからないように階段を作りまくった。


東西南北。方角は分からないが、四方を囲む石壁を片っ端から覗きまくる。


覗いたら階段を砂に変えて証拠隠滅。証拠隠滅したら階段を作るの繰り返し。


覗きまくったことで、色々分かった事がある。


まずはこのお屋敷。


なんとお屋敷はデカい山の頂上をガッツリえぐり、そこに建てられていた。


その山下には村が存在し、お屋敷から村を見下ろせる形となっている。


どうりでこのお屋敷からは空しか見えなかったはずだ。


世界って……こんなに広かったんだ。


この事実に私は歓喜を禁じ得ない。


見知らぬ世界を知ってしまったわけだ。


当然、ある欲求が込み上がってくる。


「ユリ、今から外に出てみない?」


「しょ、正気ですか!?」


「あら、ユリは外の様子がきにならないの?」


「それは、多少はありますが……」


「じゃあ決まりね」


強引にユリの腕を掴み、自ら作った階段を登らせる。


「大丈夫よ。お母様は仕事が忙しいらしいし、おばさん達はお休みでいないし」


「だからって」


「まあまあまあ」


壁の外側にも階段を作り、私達は初めての一歩を踏み出す。


視界に入りきらない程の森。壁の向こう側にあった大いなる自然。


お屋敷の外から聞こえていた動物たちの鳴き声や環境音。その全てがクリアに聞こえる。


見ればユリの足取りは慎重だ。


それもそうか。彼女にとってはこれらの全てが初めて。誰だって何の情報も無く放りだされたら危機感を持つだろう。


だがしかーし!


これが私の本当の狙いなのだ!


恐がるユリに動じない私。


自然とユリは私にしがみつく事になるだろう。


こうしてつり橋効果やらなんやらで、私に対するユリの評価は爆上がり。


ほらね! いつの間にかユリは私の腕に引っ付いてきた!


「お、お姉さま! 本当に大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫よ。私についていれば安全よ」


欲求に身を任せ、ユリの頭を撫でる。


一撫でするごとに彼女の香りが鼻腔をくすぐる。


よおし、お姉ちゃんはユリに良いとこ見せちゃうぞぉ!





「お姉さま! あれはなんですか?」


「あれは多分シカよ」


「魔物ですか?」


「いえ、動物よ」


遠くに見えるのは、短い赤茶の体毛で覆われた四足歩行の生き物。


私が一歩近づくと、一目散に駆けていった。


「あぁ、逃げてしまいました」


外に出てから太陽が少し傾いた。


あんなに緊張していたユリも、今では私と手を繋でいれば平気になっていた。


残念な気持ちもあるが、初めての物を見て笑うその姿は私を笑顔にさせた。


やはり、ユリには笑顔が似合う。


たまに怒る表情もグッと来るものがあるが、彼女が心から楽しんでいる姿が最も良い。


「あれ、スライムではありませんか?」


ふと、彼女が指さす方を見ると、テラテラと光沢を放つ液状の物体がそこにはあった。


「そうね……近づいてみましょう」


「ええ!? スライムって魔物ですよね!? 食べられちゃいますよ!?」


「食べられそうになったら返り討ちにするから問題ないわ」


と、足早に向かう。


「うぇ。間近でみたら結構グロテスクな見た目してるわね」


水色に着色された半透明の液体。


そのフォルムは水滴型で目と口が付いた愛嬌のあるものではなく、重力に抗うことなくべちゃっとしている。


さらにうねうねネチョネチョと動くので気色が悪い。


こんなものを今まで私は飲まされていたのか。


これ、児童相談所に訴えたら確実に動く案件でしょ。


「ちょっくら倒してみるか」


「ちょっと、えぇええ!?」


パパっと魔法陣を起動させ、土塊で作ったバット――土塊バットでスライムを殴る。


スライムは、ただ殴っただけでは倒せない。


魔物には魔核という、人間に例えると心臓のような物を体内で保有する。


スライムはこの魔核を破壊しなければ倒せないが、他の魔物はこの限りではない。


性質上、半透明の魔物なので魔核の位置は丸見えだ。


振り下ろした土塊バットをどけると、スライムはキラキラと黒紫の光を散らして消滅した。


どうやら的確に魔核を破壊できたようだ。


「初めての討伐。案外あっけないものね」


「あっけないものね、じゃありませんよ! いきなり何するんですか!?」


「もう、ユリは細かい事いちいち言わなくていいのよ。まるでお母様みたいだわ」


「だからって」


「あわわわわぁ~。きーこーえーなーい」


耳を軽く叩き続け、聞こえる情報を遮断する。


呆れたらしく、ユリは大きく息を吐いて肩を落とした。


「ユリはお母様じゃなくて私――」


その時だった。


少し離れた藪から、草木が擦れる音が聞こえた。


私は瞬時に身を屈め、ユリにもするようにジェスチャーで指示した。


物音を立てないように移動し、音がした方向に対して死角になるよう樹木に隠れる。


擦れた音はしだいに何かを踏むような音に変わる。


一定のリズムを保っているので恐らく足音だろう。


もしかして、お母様は私達がいない事に気づいて捜索しに来たのだろうか。


だが、いくらなんでもそれは早すぎる。


そんなにお屋敷から離れてはいないと思うが、すぐ来られる距離じゃない。


では山菜取りにきた村人?


ならば見つかっても逃げればいいが、知らない子供を見たという事でお母様たちがもしかして? っていう事もあるかもしれない。


さっさと遠ざかってくれと思っていると、足音の主が姿を現した。


「っ!?」


私も驚いたが、ユリが声を出しそうになったので慌てて口をふさぐ。


深緑の皮膚に、三日月型の尖った鼻。瞳は大きくせり出し、その両端は鋭く釣り上がる。


低身長に肥えた腹部。ずんぐりむっくりな体型で、口元からは薄汚れた犬歯が見える。


それらは視覚的、生理的嫌悪を催すのを容易にさせていた。


「……ゴブリン」


小さく、ぽつりと呟く。


ユリはその言葉を聞いて身震いした。


本で得た情報に頼れば、このゴブリンに人間が殺されることは少なくないという。


つまり、命の危険がある。


何を思ったのか、ゴブリンは鼻を鳴らし始めた。


匂いを辿るように、ゴブリンは一歩、また一歩と私達へ近づく。


ゴブリンは確実に私達を探している。


その証拠に、ある程度近づいた所でゴブリンは剣と盾を構える。


「ど、どうしますか?」


「決まってるじゃない。倒すわ」


「そんな無茶な!?」


小声でやり取りしたのち、ユリを待たせたままゴブリンに接近する。


接近する際には石を投げ、注意を逸らした後に移動する。


私は木の陰に身を隠す。


この距離なら届く。


実はお母様の時には試せなかった魔法があるんだよね。


その実験台にゴブリンはなってもらおう。


ゴブリンは魔物であって人間じゃないから問題ない。


え? お母様? あの人はその範疇じゃないから問題なし。


私は不可視状態で魔法陣を起動させる。


可視状態にしたら光でバレちゃうから当然だよね。


呼び出すのは風魔法。


魔力を集中させて風の刃を射出するもの。


名付けるなら『ウィンドブレード』かな?


ちょっと安直すぎるかも。


私はゴブリンの首に狙いを定め、ウィンドブレードを――その時だった。


「ゲゲェーゲ?」


「ゲゲゲェ」


「ゲゲゲェーゲ!」


奥から新たに二体のゴブリンが現れる。


なにか会話をしているようだが、その二体はこちらにくる気配はない。


しかし、近づいているゴブリンは歩みを止めない。


これはちょっと不味いかもしれないね。


現在、私は一種類の魔法しか同時に発動できず、発射系の魔法は単発でしか攻撃できない。


もし同時にゴブリン三体を相手にするとなったら苦戦は必須。


運が悪ければ負けるかも。いや、戦った事がないからどんな動きをするのか分からない。だからマジで負けるかも。


転生者の私が負ける?


いやいや、ないないない。


ここは各個撃破がセオリーだと思う。


私はあのお母様に冷や水を浴びせた実績を持つ。


そんな私がゴブリン程度に遅れを取る訳がない。


大体、ゴブリンなんて前世の創作物では雑魚中の雑魚だ。


楽勝でしょ。


今の私はオーガレベルの魔物なら対等に渡り合える自信がある。


早速起動させていた魔法陣を消し、新たな魔法陣を作りだす。


今度は木魔法。


魔力を流すと、魔法陣からツルが出現する。一本では強度が心配なので何本も絡ませて丈夫にする。


それを手近な木に上へと這わせていく。


ゴブリンは私との距離を狭め、ついには他のゴブリン達には隠れるようにして木の裏へ立つ。


今だっ! 行けぇ! プラントウィップ!


あ、『プラントウィップ』は今命名しました。


だっていきなりだったんだもん。もうちょっと名前には凝りたかったけどね。


あらかじめ木々に這わせていたプラントウィップは急降下してゴブリンの首を巻き上げる。


完全な頭上からの襲撃に、ゴブリンは気づけなかったのだろう。


「――ッ――――ッ―ッ!!」


ほっほー。釣れた釣れた。マジで楽勝じゃん。


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