表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/26

13.みたらし団子の恨み

「アザミ、ユリ、調子はどう?」


「あ、お母様!」


屋敷から顔を覗かせたのはカオリだった。


仕事をひと段落終えたのだろう。彼女は首を傾けて肩を回す。四十肩というにはまだ若いが、肩の動きが少し悪い。


はんっ! さすがの鬼ババアも老いには勝てないっていう事か! あはは!


「アザミ、あなた何か失礼な事考えてないかしら?」


「い、いえ! そんな事は考えていませんよ!? ちょっとお疲れのご様子かなと」


「あ、そう」


カオリはイチョウ様との一件で教育熱心な親となった。


幼いユリの面倒を見る合間に魔法の練習を確認しにくるなど、私に対して感心を持つようになった。今までなかったわけではないが、叱り方や私との会話がちょっと違っていた。


そしてユリが魔法を使い始め、私が副教育係に任命さると、カオリは巫女としての仕事に取り掛かる事となった。


仕事といってもお父様のような討伐隊のような物では無く、屋敷の中で書類とにらめっこをするものだ。


「それで? どうなのかしら?」


「はい! お母様、わたしの無詠唱魔法見てください!」


ユリはさっと腕を出し、先ほどコツをつかんだ無詠唱魔法を披露する。


私はちゃんと成功するかなと心配してみるも、それはただの杞憂に終わった。


ユリの魔法陣からは土塊が出現する。


成功だ。


私は薄っすらかいていた汗を拭き、安堵する。


良かった良かった。これで失敗したら私のせいにされてしまう。


もうお母様にどやされるのはこりごりだ。


「あら、やるじゃない! よく頑張ったわね、ユリ」


けっ! 良く言うよ! 私の頃はスパルタ一辺倒でケツ叩きまくってたくせに。


私が両親に始めて魔法を見せた時はドン引きしてたくせに!


今ではなに? 褒めて伸ばす方針なの?


私にもそういう方針でいてほしかったなぁ。


「えへへ、たまたま上手くいっただけですよお母様! それにお姉さまの教え方が上手かったからです!」


おお、なんとできた妹なのだろうか。


自らの努力を他者のお陰と手柄を譲る。


将来、ユリは大成するだろう。


「アザミはどう?」


「はい、お母様。今のところ魔法陣を見えないようにする練習をしていますが、あんまり芳しくないです。無詠唱と同じように模様を変えないといけないのは分かっているのですが……」


まだまだ練習したい事はいっぱいある。


例えば上位魔法。


これは単体に対する殺傷能力がある中位魔法と違い、複数体に対する殺傷能力のある魔法だ。有名所なのは炎の雨を降らす『ファイアーボールレイン』、広範囲に木の槍を生やす『ウッドスパイクフィールド』。


もしこれらを庭で発動させてしまったら大惨事になる事間違いなし。


というわけで、たまにはドカンと行きたいのだが無詠唱や魔法陣を隠すといった地味な練習がメインとなる。


「そう……じゃあたまには実戦もいいかしらね」


「実戦?」


「ええ、少し違うけどアザミが適当に魔法を撃って私が参ったと言えばアザミの勝ちよ」


「なるほど。つまり現段階の私の実力を見たいっていう事ですね?」


「そうなるわね」


「ですが万が一にも怪我の心配があります。それにお母様の魔法を防げる自身が……」


「ああ、言い忘れてたけど私は攻撃しないわ。するのはアザミだけよ? あと、私はアザミの親。怪我なんてしないわ」


カオリは鼻を鳴らし、自身ありげに腕を組む。


「本当ですか?」


「ええ、本当よ」


よっっっっっしゃあああああ!


私はこの日を何度もまちわびたッ!


あの日は忘れもしない。


私はおやつの時間に食べられる、みたらし団子を練習の後に取っておいた。


いい汗をかいたので、電気ではなく氷塊で冷やす冷蔵庫を開けた。


しかし、そこにあるはずのみたらし団子が無かった。


なぜ無いのかと、お手伝いのおばさん達に問うと、こう返ってきた。


『ああ、それならカオリ様がユリ様の分と一緒に持っていきましたよ』


私は大急ぎでお母様の下へと急いだ。


距離が縮むたびに強まる甘い香り。


障子を開けると犯人はいた。


口元にみたらしをべったり付けたユリが。


ユリの隣にはお茶をすするお母様が。


『私のお団子は……?』とお母様に問うと『もうないわ。一応声はかけたけど、あなた練習に夢中で気が付かなかったじゃない』


私は文字通り崩れ落ちた。


百歩譲ってユリにあげるのは良い。


しかし! せめて、せめて私の手でユリにあげたかった……。


そうしたらアーンや、『あらユリ、ほっぺにみたらしがついてるわよ? ペロッ』が出来たのに。


チッックショオオオオオオ!!


これを境に私は誓った。


必ず復讐してやる。


土下座されてもゆるさないッ!


食べ物の恨みをとくと味あわせてやる!





そして今、好機は訪れた。


何でも私が攻撃してもやり返してこないらしい。


千載一遇のチャンス。これを逃せば私はただの大馬鹿者だ。


ひひひ。目にものを見せてやる。





私とお母様は互いに距離を開ける。


観戦者のユリは危険が及ばないように、お屋敷の中で待機している。


「これぐらいで良いかしらね」


お母様は足を止め、こちらに向き直る。


彼女が持つのは絶対的強者が持つ絶対の余裕。事実、お母様は現役の巫女なのだ。


あのお父様でさえ下手に出る程の実力者。相手にとって不足はない。いや不足しているのはこちらなのだが。


ええい! そんな事はどうでもいい! 私はお母様をコテンパンにしてやりたい! ただそれだけだ!


「では、アザミ。来なさい」


「わかりました」


私は緊張したような面持ちで答える。


しかしそれは仮の姿。心の中は狂喜乱舞の真っ最中。


どの魔法を使ってやろうか。どんな風にして追い込もうか。頭の中はそればっかり。


とりあえず、様子見で魔法陣を展開する。もちろん不可視の状態で。


確かに、芳しくないとは言ったが使えないとは言っていない。


使うのは速度、威力、ともに優れた中位の雷魔法『ライトニング』。


土塊で試しに威力を測ってみたが、かなり凄い。結構硬めに作ったつもりなのに一瞬で穴が空いた。それほど凄い魔法。正直使うのをためらうレベル。


さて、この『ライトニング』をお母様に放っても大丈夫なのだろうか。


何かの手違いで急所に当たって絶命。『ライトニング』をお母様に放った事で不敬罪。


そんな感じのダークな未来が待っているのでは無いのだろうか。


やば、ちょっとブルってきた。


だけどお母様は大丈夫って言ってたし……。


「どうしたの? 早く撃ってきなさい?」


あぁもう! 


もし怪我しても光魔法で全回復するよね!?


巫女なんだからこれぐら大丈夫だよね!?


私は極度の不安を覚えながらも、万が一の事を考えてお母様の足元に狙いを定める。


いっけぇ――ライトニング!


魔法陣から放たれた雷は、一直線に走る。


狙い通り、お母様の足元へ。


ライトニングはそのまま彼女の足を貫き、黒く焦げた穴を作る――かのように思えた。


だがしかし、突如現れた水の壁によってそれは弾かれた。


行き場を失ったライトニングは向きを変え、衝撃と共に地面をえぐった。


「アザミ、心配なんていらないわ。全力できなさい」


おっけい! 


もう手加減は無しだぁ!


みたらし団子の恨み、アーンの恨み、ペロッの恨み。ここで晴らさせてもらう!


「お姉さま頑張ってください!」


ユリが私を応援している。


彼女の声があれば百万力。


私、やっちゃうよぉ!?


まずは土魔法。


『サンドマス』で土塊を二つ生み出し、それぞれ私の背丈ほどの筒を作成。ポイントはほんのちょっと、ほんのちょっとだけ筒を傾かせる。さらに土塊を生み出し、球形に変形してから筒の中に投入。


次に風魔法。


これは二本の筒が入るような大きさで魔法陣を展開。即座に魔力を込め、筒の中にある土塊を天高く射出。目標の高さは目で見えなくなるくらい。そうでなければお母様にダメージを与えられない。この工程を同時にやれば良いのだが、あいにく一種類の魔法しか同時に使用できない。以上で全魔力の三割を消費。まだいける。


お母様は不思議そうに見ていたが、さっきの土塊はとりあえず放置。


私は美味しい物を最後に食べる派だ。もちろんみたらし団子は最後だ。


私が手を前にして構えると、お母様は軽快したのか水の壁をより厚くさせる。


ほほう、あれで全部防いでやるつもりか。


あの壁は多分純水で出来ている。でなければライトニングを退けた理由が思いつかない。


雷魔法はさきほどライトニングが無効化されたので却下。


ミネラルを含んだ水魔法だったら楽だったのに。


火魔法は空気を燃焼させる必要があるので、空気を遮断して温度を吸収する水魔法とは相性が悪い。


土魔法や風魔法などの環境魔法では、あの壁を突破できそうにない。恐らく壁の中は高圧の水流が流れ、来るものを拒むだろう。私ならそうする。


結論、有効打なし。


くそ、あの鼻につく自信もこれのせいか。


だが、やってみなければわからない。


もしかしたら壁の強度が思いのほか低く、貫通するかもしれない。


知識が足りないせいで対処法を誤るかもしれない。


よし、いっちょやってみるか。


魔法陣を展開させ、すぐさま火球を呼び出す。


魔力を練りに練って温度を極限まで高め、満を持して発射する。


「ファイアーボール!」


どうせ無駄だと思うから叫んでみた。案外気持ちいい。


ファイアーボールは魔法陣から離れ、お母様に向かって飛んでいく。


熱風がべたつく私の前髪を撫でる。


さて渾身の一発、通用するだろうか。


ファイアーボールが水の壁に接触する。


瞬間、爆発音が轟き、水の壁がファイアーボールを包み込むように変形することで被害を最小限に留めた。


「そんなものなの?」


「いえいえ、これからです」


やっぱり、という感じでお母様は無傷。変形した水の壁は、何も無かったかのように元の姿を取り戻す。


だよね、結果は分かってた。


すかさず私は次なる魔法を放つ。


土魔法に風魔法を組み合わせて弾丸を作成、発射――やはり防がれる。


分かり切っていた結果に唇を噛む。


悔しい。今でもユリが応援しているのに、手も足もでないなんて。


何と言っても水の壁が鬼門だ。


あの壁は長方形で存在し、お母様を包むようにしては作られていない。


恐らく、守る範囲を限定する事で防御力を高めているのだ。


多分、そこに突破口はある。


一番簡単なのはお母様の背後に魔法陣を展開して魔法を放つ。しかし、魔法陣を展開できる範囲は自分の身体からおよそ五メートルが限度だ。なので魔法陣は作りたくても届かない。だからこの状況では真正面から打つしかなくなる。


となると、接近する必要があるのかぁ……。


やだなぁ、怖いなぁ。それすらお母様はお見通しな気がする。


それでも勝機はそこしかない。


しゃーない。


私は真っ直ぐに駆け出す。


それに同調するように段々水の壁が大きくなる。


以外に大きい。


ちょっと? 遠近法ちゃんと守ってますぅ?


土魔法で大量の砂を生み出し、風魔法で一斉に散らす。


しかし、こんなもので水の壁を突破できるはずがない。


いや、突破しなくていい。


風に吹かれた砂は土煙となり、私のちっこい身体を容易に隠す。だがそれはお母様も同じ。お母様は私の姿が見えない。私はお母様の姿が見えない。


しかし、私はお母様の立ち位置については確信がある。


自分の勝利しか認めない傲慢なお母様だ。きっとその場から動かずにふんぞり返っている事だろう。


目に土が入らないように魔法で風を操りながら走る。


視界は悪いが。大体お母様の後ろに場所取りできたはず。


道中、魔法で足音を消せば完璧なのだが、いかんせん魔力がもう残り少ないので断念していた。自分の血管が切れる音もわからないお母様だ。私の足音に気づけるはずがないだろう。


背中がガラ空きだぜ? お母様。


私はお母様がいるであろう方向に魔法陣を作成する。


「さらばだお母様ァ! 裁きの滅槍! ライトニィィィィィィングッ!!」


魔法陣からは、残った魔力を全て注ぎ込んだ雷光がほとばしる。


瞬間、脳裏に不意打ちで攻撃したら本当に危険なんじゃないのか? と浮かんだが後の祭り。


すでにライトニングが着弾していた。


発動からここまで一瞬の出来事。当然ストップは効かない。


私は心の中で合掌しつつも、お母様にライトニングが当たっていて起き上がらない事を強く願った。


砂の量が多すぎたのか、はたまた風がちょうど土煙を起こすのに最適な勢いだったのかわからないが、煙は一向に晴れる気配がない。


お母様の姿が見えない。確認してみたいが、確認する勇気が湧いてこない。


なぜだろう。


しかし、そんな心配を蹴散らすように、辺りは一陣の風によって一変する。


ああこりゃだめだ。


「ねえアザミ。私はなんで壁を強固な土で作らなかったと思う?」


「……水の方が流動性に優れているからでしょうか?」


「正解。だからさっきのライトニングも防げた」


お母様は私に背を向けている。


だが、水の壁は彼女の前ではなく、後ろにあった。


「最後に、さらばだお母様って……どういう事かしらね?」


お母様はゆっくりと振り返る。


額には青筋を浮かべ、眉間にシワを作りながら笑っている。


「あの……お母様。そういう表情は良くないと思います。ほら、ほうれい線とか眉間のシワとか目尻のシワとか」


「だまらっしゃい!」


「ひぃ!?」


やばい。心の臓がハイテンポでビートを刻む。


ガチでビビったせいでパンツに湿りを感じる。


今の私は精神衛生上、衛生管理上とてもよろしくない。命の危機すら感じる。


これが巫女の力かァ!?


「アザミ、ちょっとこちらにいらっしゃい」


「え、でも」


「いらっしゃい」


「……はい」


諦めてお母様に歩み寄る。


おしりペンペンだったらまだマシかな?


おやつ抜きはちょっと厳しいかな?


ユリとの接触禁止が一番キツイ。


私は最悪のパターンにならないように願う。


「!?」


思いが通じたのか、天より風切り音を連れて落下物が迫りくる。


数は二。


呆然としてそれを見上げていると、それはドカンドカンと爆音をたてて降り立った。


幸いにユリとお母様、そして私への被害はない。


だが不幸な事に、二つの落下物は落ちて欲しくない所に落ちてしまった。


一つは最近になってお母様が育て始めた大切な松の木。まだ成長していないので小さいが、育てば立派な大木となるだろう。しかしそれはペシャンコになって見る影も無い。


もう一つは庭にある池へ。水しぶきを盛大にあげたそれは狙いを澄ましたかのように、お母様に降りかかった。


彼女の髪先からはポタポタと水滴が垂れる。


「……アザミ、これってあなたの魔法よね?」


「あ、はい、そうですね。ちょっと風魔法の調整が甘かったかもしれませんね。……参りました?」


「うふふ。アザミも冗談が得意ね」


お母様の笑顔がやけに眩しい。


眩しすぎて直視できないよ。ははは。


水も滴るいい女とはお母様の事だろう。





この後、私は陽が落ちるまで魔法の練習と称してお母様のサンドバッグにされた。


火・氷・雷・風・水・土。光と闇を除いた全属性の魔法でお母様は私を攻撃し続けた。


必死で抵抗したり回避していくが、捌ききれずになんども尻を(バーニングな意味で)焼かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ