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12.マザーオーガとの死闘

あの事件から七年。


私は十二の歳になった。


あれからイチョウ様は殺そうとする素振りを見せず、訪れるたびに身を震わせていた私は肩透かしをくらった。


あの時は何か勘違いのような物があったのだと、そう思い勇気を振り絞って声をかけてみたが無反応。どうやら私はいない者として認識されているらしい。


ま、そういう扱いされるのも私が巫女の子供なのに、魔力量が少なすぎるのが原因なんだけどね。


私は十歳の時に、両親から巫女の説明を受けた。


なんでも特別な家系で、かなり魔法の扱いに秀でた血族らしい。


それに伴い、色々な規則や儀式が必要、というのが手に入れた情報。


残念ながら、情報を提供しても外出許可は下ろさなかった。


「お姉さま、こうですか?」


「うーん、そうねぇ。あ、ここの線が間違ってるわよ」


「わ、本当ですね!」


彼女は私が指摘した所を直す。しかし、ほんの少し左に傾けるだけなのだが、誤って真下に向けてしまう。


「むぅ、難しいですね」


「大丈夫。ユリはコツを掴み始めてるから、このまま練習すれば物にできるわよ」


「はい! お姉さま、私頑張ります!」


ニヘラぁ。


おおっと、ダメだダメだ。


危うく半開きに口を開けて醜態をさらす所だった。筋肉の緩み具合から察するに、あのままだったらヨダレは間違いなく出ていただろう。


今の私は頼れる姉として、妹のユリに魔法の手引きをしているのだ。


だが、習得するスピードが格段に遅い。


ユリは今年で九歳だ。


私は転生した事もあって五歳で魔法を使えるようになった。


巫女であるお母様は七、八歳ぐらい。お父様は十歳。


本命のユリはすでに自らの魔力を認識していたので、四歳という異例の速さで魔法を使えるようになった。


しかし、初めて魔法を使ってから五年が経った現在。ユリは無詠唱魔法に悪戦苦闘していた。魔法を何度使っても底をしらぬ魔力量を保持しているのだが、彼女は魔法のコントロールを苦手としている。そのため、今でも魔法を発動させた後の移動や変形がぎこちない。


「お姉さま! 今度はどうでしょう?」


「私が言った所は直してあるわね。だけど、他の線がズレているわ。あとほら、円が歪んでるわ」


「ふぇ……」


ユリは見て分かるほど大げさに落ち込む。


私の頃はたったの数回、魔法を発動させるだけで魔力が枯渇してしまう。その度にあのゲロまずなスライムを摂取しなければならない。あれで腹を満たした日は百の先から数えていない。


従って一回一回の練習に緊張感を持って取り組んでいた。そのおかげか今では数多くの中級魔法を扱えるようになった。と言っても苦手である水魔法はからっきしだが。


練習中の彼女は魔力を枯渇させた事がなく、一回も補給した事がない。そのせいで遅れが生じてしまうのだろうか。


「ふう」


思えばこの庭も随分と様変わりしたものだ。


私が魔法を覚え始めた時は青々としていたのに、毎日のように魔法で荒らすせいで雑草すら生えない更地となっている。過去にはお母様が大切にしていた松の木を雷魔法で炭に変えている。当然こっぴどく叱られたが。


「お姉さま! 出来ました!」


見れば彼女の魔法陣から土の塊が出現していた。それも水滴一つ二つ分のレベルではなく、頭をすっぽり覆えるほどの量。


「やったじゃない! じゃあもう一回」


「ええー。やっと出来たのにですか?」


「そうよ。魔法は何回も使って慣れる事が大事。無詠唱も何回も何回も使う事で簡単に出来るようになる。それこそ私みたいにね」


無詠唱にする魔法陣には規則性が存在する。


例えば氷魔法では線と線で鋭角を多く作らなければならない。対象に火魔法は鈍角を多く作らなければならない、といったように決まりがある。


では全員が無詠唱で火魔法を発動させると、まったく同じ魔法陣が出来上がるのか?


否、人によって魔法の得手不得手があるように他者の魔法陣には差異がある。


魔法陣を完璧にコピーさえすれば一応発動するが、火力不足やら魔力の過剰供給やらに繋がってしまう。


よって、必ずしも他者の魔法陣をコピーした方が正しいという事ではない。


魔法陣は自分にとって使いやすいようにカスタマイズする必要があるのだ。


一方、ユリは私の魔法陣を真似るだけで精一杯だ。これに慣れてユリ専用の魔法陣を作り始めるのはいつになるのやら。副教育係を任せられた私にとって荷が重い気がする。


いいや、手が掛かるほどやりがいがあるってもんだ。


「出来ました!」


今度はさっきからそれほど時間は経っていない。


ようやく魔法陣の扱いにも慣れてきたのだろう。


まだまだ発動までにタイムラグや失敗があるものの、成功する確率が高くなってきた。


そろそろ他の魔法にも挑戦してもいいころだろう。


「え?」


「それで、これを……」


てっきり私はユリが新たな魔法陣を作るのだと思っていた。


しかし、彼女は魔法を止める様子はなく、なぜか土塊を空中に漂わせていたままだった。


何をするのだろうかと私は見守っていると、土塊は形をゆっくりぎこちなく変えていった。


変わっていくそれは楕円に伸び、手足のようなものを生やす。


上部には目と口だろうか、三つの穴があけられた。


一言で形容するならハニワだ。


「わたし、は、おねえさま、です」


ユリが喋るとハニワはぎこちなく動く。


手を曲げたいのだと思うが、何回も千切れてはくっつけてを繰り返す。


「きょう、も、すごいまほうを、つかっちゃうぞ」


ユリはなめらかに動かす事を諦めたのだろう。


ハニワはカックカクのコマ送りでポージングする。


「いっけー、さんどしょっと!」


彼女がそう叫ぶと、ハニワは自らの片腕を弾頭にして発射する。


弾丸はヒョロヒョロと波を描き、コテンと転がる。


「ふふ、何よこれ? 私は自分の事をお姉さまなんて言わないわよ」


私は突然ユリの始めたお人形遊びに笑みを隠せなかった。


彼女を見ればいたずらに笑って舌をちょこんと出す。


「もう、しょうがないわね」


そういってこちらも無詠唱で土塊を出現させる。


顔と胴体は大きめで、手足は短く。


顔はデフォルメしてフリフリが付いた可愛いお洋服を着させる。


うん、我ながら良い出来栄えだ。前世の世界にあったねんどろいどを意識して作ってみたが、こうも上手くいくとは思わなかった。


「私はユリ! 今はお姉さまと一緒に悪者を退治する道中です!」


「え!? これユリですか!? 可愛いです! お姉さまありがとうございます!」


私がユリ人形を軽く躍らせると、彼女は嬉しいぐらいに喜んでくれた。


ジャンプさせれば「凄いです!」


てちてち歩かせれば私の腕を掴んで大きく笑う。


これほどまでに幸せな姉は、この世界に二人といるだろうか?


うへへ、恐らくいないだろうねぇ。


「ユリ、まだまだこれからよ?」


私はユリ人形の足元にある魔法陣を広げた。


空いたスペースからはもう一体土塊を出現させる。


今度は簡単な構造で、ユリが作ったハニワを元に作成する。


ユリのハニワとは違う点。それは頭部に生えた二本の角、手にはトゲトゲのバットを持っている。誰をモチーフにしているかは言わない。口は災いの元だって言うしね。


「グヴォオオ!」


「出ましたね悪者!」


「ゆ、り。あれは、なんですか?」


カチカチのハニワがユリ人形に問う。


「はいお姉さま。あれはマザーオーガと呼ばれる魔物です!」


「そう、ですか。じゃあ、やっつけましょう!」


「はい!」


私は鬼ハニワとユリ人形を戦わせる。


鬼ハニワがバットを振り回す。しかし、ユリ人形はそれをかわしてパンチパンチ!


これ、本人に見られたら絶対にただで済まないやつだな。


「いけー! 頑張れー!」


私が戦わせていると、横から声援が聞こえ始める。


ユリのハニワに目を向けると、静かに横たわっていた。


おい、私の分身も活躍させてよ。


仕方がないのでユリ人形は鬼ハニワから一振りもらうとする。


「うっ」


「グワッハッハッハ!」


「頑張ってー!」


「このままじゃマザーオーガには勝てない……。そうだ! お姉さまと一緒なら!」


ユリ人形は寝ているハニワの元へ駆け寄る。


「?」


せっかくハニワに近づいてあげたのに、ユリは私の意図を上手く理解していない様子。


ちょっとまてやい。


私が小声で「動かして」って囁くとユリはハニワを動かし始めた。


「だい、じょう、ぶ?」


「はい、私は大丈夫です。ですが思ったよりもマザーオーガの力が強く、私一人では勝てません。ですので、二人でアレを使えば勝てると思います!」


「……お姉さま、アレってなんですか?」


「アレはサンドショットのことよ」


「ああ、アレですね!」


二人は素に戻り、情報を共有する。


そもそもサンドショットなんてした事無いんだけど。


まあ、右腕に筒状の土塊を付けて『サンドバスター!』なんて言って土塊飛ばしてた事はあるけど、かなり恥ずかしかったからそれ以来やってない。もしかして、あれ見られてたの?


「ゆり、いく、よ」


「はい! お姉さま!」


「グヴォオオ! ナニヲシテモムダダグヴォオ」


ハニワとユリ人形は片腕を前に出す。


「サンドショット!」


「さん、ど、しょっと」


それぞれの腕が射出される。


なんとかしてタイミングを合わせたかったのだが、ユリが操るハニワが遅れて発射する。


相変わらずユリのサンドショットはへろへろだが、私はそれについていくように低速で進ませる。


ユリをサポートしてやりたいのはやまやまだが、彼女のサンドショットをこちらが操ってしまうと混線の危険性がある。もし混線してしまったらあらぬ方向に飛び、ユリを怪我させてしまうかもしれない。なので、ここはユリに頑張ってもらうしかない。


ヒョロヒョロ。


鬼ハニワまでの距離はおよそ十数センチ。


なんとかコースアウトせずに到達してほしい。


残り十センチ。


頑張れユリ!


残り五センチ。


あとちょっとだ!


残り一センチ。


ユリ、よく頑張った!


鬼ハニワに二発のサンドショットが同時に着弾する。


今だ!


「わぁ凄いです!」


私は新たに土を生み出し、サンドショットと鬼ハニワを中心に爆発させる。


もちろんこれに火薬は関与していない。百パーセント土。


ハリウッド映画顔負けの大爆発を演出。


爆発の影響で鬼ハニワは無残な姿に。


これにはユリも大満足。


こうしてマザーオーガを倒す物語は終幕を迎える。


「お姉さまは何でも出来ますね! わたし尊敬しちゃいます!」


「ユリも頑張れば出来るわ。でーも、今は無詠唱の練習をするはずだったよね?」


「あぅ……」


「と、いうことで、これは没収です」


「ええ!? お姉さまのイジワル!」


私はユリが作ったハニワを取り上げる。


褒める時は褒める。叱る時は叱る。取り上げる物はもらう。


これこそが姉の正しい姿だ。


ぐへへ。コレクションがまた一つ。


「ほーら、遊びの時間は終わり。無詠唱の練習をするわよ」


「はぁい。わかりました……」


しかし、あの人形遊びもユリにとっては魔法のコントロール上達に役立つかもしれない。


遊びなのでモチベーションは下がらずに出来る。


ただでさえ娯楽の少ない世界だ。


たまにはこういった息抜きも必要だろう。


早速明日から練習メニューに追加するとしよう。






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