第八話 吸血鬼様、退治される
ラーメン事変の記憶が新しい。
実は昨日の出来事でだったりする。
「本当に大変でしたねぇ、誰かさんのおかげで」
かきピーが私を責めてくる。
本当にごめんなさい。
「私は完食しました」
「俺も完食したな」
「ごめんなさい。途中棄権しました」
そう、発起人である吸血鬼が意外と健闘したわけで。
かきピーはあの山盛りを食べきったわけで。
「これでも食べてにんにくの臭いを消しなさい」
かなり上から目線でミントガム一粒よこしてきた。
入念に歯も磨いたし、お風呂も長く入ったし、もう臭わないはず。
でも、念のためガムを噛んでおく。
「じゃあ、私は昔買った漫画を読み返すから、先に帰るね」
昨日のはただの適当な理由だと思っていたが、本当に読み返すためだったのか。
心の中で申し訳ないと告げておく。
「それでは、帰路につこうではないかよっシー」
「何で一緒に帰るのが当然みたいな言い方しないで」
断る理由もないし、昨日は迷惑かけたし、大人しく付き合おう。
雨も降らないのに傘を差している吸血鬼と帰るのは辛いのだが……。
これが正しい大人の対応。
帰り道、やたら吸血鬼が絡んでくる。
昨日一緒に買い食い(?)ができたことが本当に嬉しかったようだ。
アイマスクを付けられて、椅子に縛り付けられたというのに。
「覚悟!」
唐突に誰かの叫び声が聞こえる。
その声の方を見る。
そこにはフードが着いた外套を纏う人影があった。
その人影は素早い動きで私たちに迫り、ナイフで斬りつけてきた。
「危ないわね。何してるの」
その振るってきたナイフを持つ手を簡単に掴むことができた。
「くっ! 離せ!」
よく聞くと、声が幼い。
というか、小学生くらい?
「こ、こいつは! バンパイアハンターか!」
吸血鬼が戦慄している。
外套、ナイフ、確かに人を襲う気満々である。
吸血鬼のいう通りかも知れない。
吸血鬼が実在しているのだから。
小柄な人影は私に蹴りを放ち、拘束から抜け出す。
その時、ようやく顔を見られたが仮面をかぶっているようだ。
真っ白い、のっぺらぼうのように平らで、瞳すら表にでていない。
視線を一切見せないその顔が、どうにも気分が悪い。
「その仮面、協会の手のものだな」
吸血鬼は普段見せない真面目な顔で襲撃者を睨む。
正直、付いていけない。
何が起こっているのかさっぱりわからない。
「とにかく、そんなお面は取りなさい。初対面なのに失礼でしょ」
「あっ」
思ったより簡単にお面を取れてしまった。
その様子に襲撃者はもちろん、吸血鬼も驚いていた。
仮面の下あったのは、可愛らしい女の子の顔だった。
「君は?」
「わ、私は乃絵瑠。三浦乃絵瑠。ハンターだ」
小学五年生くらいだろうか。
薄い茶色のショートカット。
幼いが日本人とは雰囲気が違う顔をしている。
英国くらいの血を引いているようだ。
「おばさん。そこの吸血鬼を押さえつけて!」
ふむ、聞き間違えたかな?
何か今、屈辱的な呼ばれ方をされたのでは?
「お譲ちゃん。なんて?」
「おばさんもそこの吸血鬼を狙うハンターなんだから押さえてよ」
そこを聞き返したわけではないが、別に訂正させる必要もないか。
「これは私の獲物じゃないから、好きにしたら?」
「なら、遠慮なく!」
少女が外套から拳銃を取り出す。
それは流石に不味い!
街中で発砲とか冗談では済まない。
パン、パン、パン、パン
「痛い! 痛い! 死ぬ、死んでしまう」
銃撃を受けて死にそうな吸血鬼がいた。
「どうだ! 吸血鬼には銀の弾丸が効くだろう」
凄い笑顔で吸血鬼を見ている。
そんな自慢顔でいる少女を見ると、なんともいえない複雑な気持ちになってきた。
「次はこれだ!」
少女は握ったナイフで吸血鬼へ斬りかかる。
そのナイフは先ほど襲撃してきた銀色のナイフ。
「ちょっ! マジで死んでしまうから、止めて、本当に止めて、死んでしまうやろ」
ナイフで斬られながら吸血鬼は涙ながら助けを請う。
これは流石に止めた方が良いかな。
「はいはい、ちょっと止めようね」
少女からナイフを取り上げる。
「ちょっと! 返しなさい!」
私からナイフを取り返そうと手を伸ばすが、身長が違う。
このナイフ、プラスチック製である。
先ほどの銃撃、モデルガンである。
銀の弾丸、銀色のBB弾である。
つまり、歳相応の武器なのだ。
「はいはい、おもちゃでもナイフで斬ったり、モデルガンを人に向けて撃っちゃ駄目」
少女は私の言葉に焦っている。
「駄目よ、同じハンターならわかるでしょ? そいつ、ただのバンパイアじゃないわ。バンパイアロードよ」
ロード? 何のことかだろう。
「とにかく、こんなことはやったら駄目よ」
「さ、流石はよっシー…… ハンターを子供のようにあしらってしまうとは」
いや、相手は子供なんだけど。
吸血鬼が私をどのように思っているか、後で問いただす必要がある。
「うん……わかったよ(このおばさん怖い。相手を容赦なく殺す目だ……)」
「よし、いい子ね」
私は少女の頭をなでる。
遊びとはいえ、こんなものを使ったらいけない。
「でも、おばさんもハンターなんでしょ? にんにくの臭いで身を守っているし」
!!
「そのネタはもう最初でやったから!」
私は叫んでいた。
この後、もっとミントガムを食べました。




