続く日々
銃弾より生み出された霊獣は、白銀の光を纏う半透明の龍であった。生み出されてすぐの霊獣は、何もせずに空中を漂うと自身の標的へと顔を向ける。そして口を開き、全てを覆い尽くさんばかりの極光の光を吐き出した。
「なっ!?」
「目を閉じろ!!」
辺り一面の視界が白く染まっていく。黒き巨人さえも光は覆い尽くし、その一帯が一瞬だけ世界から色を失くした。
特殊な構造を持つ黒い巨人。かつて神が大地を作るために開発した土台となる装甲を持つ巨人は、自身に迫り来る光を避けることすら出来ずに飲まれていく。
どのような物質にも構成の仕方がある以上分解できない道理はない。
ただ今までは、その分解工程をこなすのに権限を持つ者がいなかったが為に破壊されることがなかった。しかし、今回は違う。
相手は、天使でも堕天使でもなく人間である。かつて大地を作るために協力していた天使、堕天使には、土台となる物を破壊する力は意図的に付与されていなかった。
しかし人間は、多くの者と独自に接触しその力を借りるまでに至る。
その結果、天使でも堕天使でも破壊不可能な物を人間は、破壊する為の力を得た。
「ばか、な」
崩れていく。自信を構成するこの世で最も硬いと言われる物質が崩れていく。先程までの硬さが嘘のように装甲が消し飛んで塵へと変化していくのを、巨人は見つめていた。
再構成しようにも魔力も足りず、既に別の空間から魔力を吸引する為に生やした吸引口も崩壊して消えている。
そんな中で出来るのは、全てをかけて己の存在を守ることだけであった。
視界すら奪われた光の中で念じる。ただ生き残りたい一心で。
だが、そんな願いをかき消すように何かが自身の中心へと手を伸ばし、かき分けて侵入してくるのを巨人は感じた。
「大人しく死ね。お前が多くの命にそうして来たように」
「俺は、全てを救う。その為にも死ねない。俺が成さなければ誰も気づかずに世界は、絶望を迎える」
「なんで俺達がお前を、殺すのか分かっていないようだな」
「俺が犯してきた罪故だろう。犠牲に報いるためだろう」
「違う。お前が人を蔑ろにし、人の尊厳を踏みにじり、人の命を粗末に扱ったからだ。そしてそれは、お前が生きている限り続くものだろう。お前は、取り付かれている。犠牲の上にしか物事は成し得ないのだという考えに」
「有り得ない。俺は、人を救うのだ。そしてこの行為にもいつか終わりが来る。人が全てを超えた時に」
「それまでにいくつのしょうがないで、犠牲を積み上げるつもりだ。これ以上は、許さない。今生きている全てに勝手な事をしてもらっては困る。お前は、殺されなければならない。これ以上、お前はこの世界にいてはいけないんだ」
何も見えないはずの光の中で、何かが口を開いたような音が聞こえた。そして悟る、自分に死を与えるものが近くにいるのだと。
「そうか、お前が俺の為に用意された死神か」
「俺は、死神ではない。だが、お前の命はここで消す。人の明日を守るのが、俺達の仕事だからだ」
白い光の中に青い光が灯る。その光が、光から逃れようとしていた何かを欠片も残さずに消した。
「これでやっと、俺は少しだけよく眠れる」
光が晴れて消えていく。大地は残り、空中に開いていた穴は消えた。周囲からは、黒い巨人だけが消え何者もそこにいなかったかのように、静寂だけが辺りには残っていた。
「お、終わったの?」
「何だあれは、目がまだ開けらんねぇ」
「大丈夫そうですね。巨人が消えています」
「ふぅ。地上に降りますよ」
「ロギるんは?」
巨人が消えた大地の上で、ロギルは、一人大の字で寝そべって居た。その体からは、部分召喚が消えて元のロギルの姿で横たわっている。
「……流石にダメかと思ったな」
「まぁ、そうだろうね」
ロギルは、顔を動かさない。だが、その何かは強引に視界に入ってくるとロギルの体を撫で始めた。
「うん、変異した様子も無い。いいじゃないか、君」
「……勝手にこちらに来ていいんですか?」
ロギルは、動けない自分の体を触りまわるベルゼビュートを見てそう言う。
「確かめなければならないことがあるというのは、残しておいてはいけないことだよ。君が変質していた場合、唯一戻せるのは僕だけだろうからね」
「その心配がなくてよかったです」
「そうだろう。君が手遅れだったら、こちらに置いておくには、少し問題がありそうだからね。回収せねばならなかったかも知れない。ほら、紛い物としてこちらに風評被害が来ても嫌だろ」
「そうですね」
「人間には、思わぬ変化を遂げるものもいる。君がそうでなくて良かったよ」
「それで、要件は済みましたか」
「そう邪魔者扱いしないでくれ。こちらも大事な約束をした者が傷ついているのか心配で来たんだ。少しぐらいこちらの空気を、楽しんでもいいじゃないか」
「いえ、そうは見えないもので」
そのロギルの言葉に、少年の姿をした何かは笑みを浮かべる。
「また会おうロギル君。今度は、君の溺れる姿が見られると嬉しいな」
「遠慮致します」
少年の姿をした何かは、その姿を溶かして消えていく。どうやらロギルのそばに居たのは、本体ではなかったようだ。
「……あれとやり合うのは、無茶だな。人間じゃなくても」
ロギルは、そう感じた。戦う以外の道を選ぶしかない。それが人間の選ぶべき道なのだろう。
「ロギるん!!」
アマナが駆けてくる。そして横たわっているロギルを起こそうとするが、ロギルは全身に力を入れられないのでまだ起きることが出来なかった。
「もう少し寝かせてくれ」
「それで、何かあった?」
遅れてきたリオーシュ達も合流する。その問に、ロギルは少し考えて答えた。
「あれは、こちらが人でなくなった瞬間に殺しに来る気だった。人で居るから俺達は、隣人で居られるんだ。そうでなくなれば、俺達はあっちにとって駆除するべき脅威になるんだろうな」
「安全を得るには、無害でなければならない、か。難しい話ね」
「あっちにとってでいいんだ。そこまで難しい話じゃないさ」
「そう」
リオーシュがロギルを指差してレドリアを見つめる。レドリアは、ロギルを背中におぶると歩き始めた。
「車、この状況で残ってますかね」
「廃車寸前でも動かすしかないでしょ。徒歩は、きついわよ」
「走って代わりを取ってくるか?」
「出来るならお願い」
ノーマンは、走ってその場から消える。そして、本当に吹き飛ばされて廃車寸前になっていた車を、なんとか魔法で動かしてロギル達は、学園近くまで帰還した。
数週間後、人の力によって穴だらけになっていた地面は復興されて街に平和が戻ってきた。学園にも生徒が戻り、災害前の日常が始まる。
「皆さん、この度のことで……」
失われた命もあった。しかし、救われた命もあった。その出来事を受け止めてロギル達は、今日を生きて行く。
「ロギル先生、久しぶりにあったし、その、何か特別なことでもしないか?」
「いいですわね、リータさん!!なら私が、とっておきのご馳走を用意いたします!!」
「いや、そんな気を使わなくてもいいから」
「二人共、ロギル先生困ってるよ」
セシルがはしゃいでいるリータとパセラを落ち着かせる。その光景を、サシャとロギルは生暖かく見守っていた。
「ロギル先生、ちょっといい?」
相談室へと校長のリオーシュが入ってくる。その声にロギルは、躊躇なく席をたった。
「じゃあ、ちょっと出てくる」
「うん、いってらっしゃい」
相談室を出てリオーシュとロギルは、並んで歩く。
「それで?」
「最近、農場付近で家畜の死骸が多く出てるみたいなのよね。それも変わった形の」
「何の仕業なんだ?」
「さて人か、はたまたそれ以外か」
校長室へと二人は足を踏み入れる。そこには、呼び出された他の四人が居た。
「魔術的痕跡が見られる。レシア」
「これは明らかに生贄ですね。何かを呼び出そうとしているのは確かでしょう」
「レドリア」
「破損した動物の死骸の中に人間の物と思われる骨がいくつかありますね。これが農場の主かと」
「アマナ」
「農場周辺に変な小屋を確認。無関係ではなさそうだな」
「ノーマン」
「ちょっと現場を見てきたが、普通じゃない悪臭がした。これは、人じゃない何かがいると見ていいと思う」
「そう。という訳でロギル先生」
「ああ、行くとしようか」
魔法。便利であるが故に悪用されることもあるこの世界でロギル達は、人々が安らかに眠るために戦い続ける。真に人々に平和が訪れるその日まで。
ラグナレク・レギオンズ 完
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