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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
8章 隣人
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位相

 それはどのような理由か、定かではない。


 しかし、まるで息をすることを求めている様に巨大な黒き化け物は、肩を上下させて呼吸するような動作をしている。


 動くことなく巨大になった化け物がその場に留まってそんな行動をしていることに違和感を、ロギルは覚えた。


「あれは?」


「自身を構成する物が足りないと見えますね。急激に大きくなった代償と言うところでしょうか」


 急激な肉体の変化。その大きな変化を形にするために何も使う事もなくという訳には行かない。


 必ず肉体を構成するために必要なものがいる。それが魔力である。


 空気中に魔力は、目に見えない程多く漂っているが、それでも黒き巨人の姿を完全に保つまでには、周囲には魔力が存在し得なかった。


「ならば、やれることもありましょう」


 ダンタリオンが懐から本を取り出して開く。すると、本が赤く輝き始めた。しかし、何かが起こったような変化は、周囲にはない。


「先生、何を?」


「苦しめているのですよ。あれをね」


 巨人の肩の動きが徐々にだが早くなり、大きく吸い込むような動きに変化していく。幾度かのその動きの後、巨人はゆっくりとだが吸う動きを止め、上体を倒し這うように地面を動き始めた。


「求めて動く。正しい結論です。しかし」


 巨人の動きが止まる。何かに気づいたように空を見上げて周囲を見渡した。


 巨人の眼に魔力が目に見えるのなら気づいただろう。魔力が巨人自身から遠ざかっていることに。


「あまり役に立たない魔法ですが、これだけ対象が大きければ良い力を発揮致しますね」


 周囲に漂う魔力。それを、巨人を対象に反発し合う磁石のようにして遠ざける魔法をダンタリオンは使っていた。


 この魔法には、殺傷性も無く、周囲の魔力を多少から遠ざけること以外に利点はない。


 普通の生物は、自身の体の中に使う魔力を貯蓄しておく。故に、空気中の魔力を遠ざけても本来相手の体に溜め込まれた魔力を使われるのであまり普段は意味をなさ無い魔法である。


 だが、この状態の巨人には効果的であった。


 少なくとも、相手が体制を整えるまでの時間稼ぎにはなるだろう。そのはずであった。


 だが、巨人は上半身を起こすと、あっさりと自身の腕をその体のうちに飲み込み消した。


「おや?」


 空間にヒビが走る。


 空に大きな穴が出現したかと思うと、その空間に頭を突っ込んで巨人は、呼吸を始めた。


「躊躇なく自身の体を糧にして他所と空間を無差別に繋げたということでしょうか?何とも、無茶な」


「簡単に出来ることなのですか?」


「いえ、そう簡単ではありません。世界の繋ぐというのは、自身を移送するのとは、訳が違うのです。ですが、それを中途無く選択するということは、最早あれは自身を保つためになら何でもすると考えても良いかも知れませんね。思いつくことを全てやるでしょう。奴の思ったままに」


「それは、まずいのでは?」


「ええ。ですが、時間を稼いだ意味はあったようです」


 ロギルが音に気づいて目線を向ける。空を切り裂いて閃光を放つ龍が巨人に激突して大きな爆発を起こし消えたが巨人のその体には変化がなかった。それすら構わずに巨人は、呼吸を続ける。


「なによあれは?」


 焼けただれた大地の外周、そのロギル達のいる場所に一台の車が止まった。


 その車には、リオーシュとレシアが乗っていた。


「力を求めた者の成れの果てですよ」


「……生半可な攻撃では、倒せそうに無いのは分かったわ。それで、どうするの?」


「先生?」


「一つは、自滅させる方法があります。あと一つは、あれを分解するというのもありますが」


「どちらが成功確率が高いの?」


「分解でしょうかね。あれは、手当たり次第に周りを食い尽くす。自滅を誘うのは、骨が折れる事でしょう。被害もただでは済まないはず」


 その言葉の途中で新たに空の空間に別のヒビが入って違う空間に穴を繋げた。その穴に、巨人から別の顔が生えて伸びていき首を突っ込む。


「際限なくあれは、穴を開けて食い荒らすってことね」


「ええ、時間が経てば立つほどに。そう考えると、分解してしまったほうが早いでしょう」


「出来るの?」


「……我々には、昔、それぞれに役割があったといいます。ですが、我々にも出来ぬことがあるようにそれぞれ権限を封じられて我々は、生まれたと私は考えています。扱うことの出来ぬ力が存在するということですね」


「それが?」


「それでも我々の祖先には、神に抗う程の大きな力があったと言うのが現実です。しかし、あれ程の者は倒せなかった。かつて神が作ったという獣。それは、眠らせるしかなかったと私の頭の中には入っています。しかし、あれは作られたもの。ならば、壊す方法がある、というのが当たり前ではないですか?全てを消し去る程の強力な毒など無いのと同じ様に」


「あれがとてつもない程硬い何かってことは分かるけど、それを壊す方法があるっていうの?」


「構成出来るのならば崩せるのが通りです。まして、神でも無い人の身にもあれは出来た。ならば、同じ人の力ならば、あれは壊せるということでは無いでしょうか?」


「確かに、あれは元人なのかも知れないけど、そんな簡単に」


「私は、見ていましたよ。あの物質が削れた瞬間を。貴方方には、それぞれ不思議な力がある。そこで私は思ったのです。あの物質が壊せなかったのは、我々には手出しする権限のないもので構成されているからなのではないかと」


「どういうこと?」


「我々の力とは別に、この世界には法則があるのです。眼にも見えない魔力。それを管理する世界が私達の知らないこの世界のどこか違う位相に存在している。そして、恐らくあれはその世界にも自身の形を構成する骨組みを残しているのでしょう。ですから、この現実の位相からいくら強力な攻撃を加えても完全に壊すことは出来ないのではないか、と私は考えます」


「じゃあ、その位相と現実側から威力ある攻撃をしてやれば」


「分解できる。と、思うのですが」


「とすると、あいつを倒す為に必要な力を持っているのは、アマナということか」


「ええ、そうなるでしょうね」


 ロギルが、ソフィーに目を向けて立ち上がる。しかし、その肩にダンタリオンは手をおいて止めた。


「行く必要はありません。まもなくです」


 音が聞こえる。風を切り裂いて何かがこちらに迫ってくる。その音の方向に目を向けると、ノーマンがボロボロになった服装のままこちらに向かって走ってきていた。


「ああ、無理!!マジ無理!!重い!!」


 踏み止まってロギル達の周囲に付くなり背負っていた荷物をノーマンは下ろす。


 そのバッグの中から、力無さげにアマナが這い出てきた。







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