銃声
アマナは、手を離して矢を放つ。
巨大な光の矢が、空中で拡散して無数の矢へと姿を変えると、屋上にいる全ての怪物の膝目掛けて飛んでいき、その両足の膝を破壊した。
破壊された膝から屈強な上半身が崩れ落ちていく。しかし、膝がなくなったのにも関わらず、その未だ下にある太ももなどの肉体部分が、無理やり上半身を掴んでその落下していく体を支えて体制を元に戻した。
それと同時に、アマネ目掛けて怪物達は、無理やり繋げた足に力を入れて走り始める。
その速度は、膝がなくなったからと言って遅い訳では無い。
無理矢理に繋がった足のパーツが、失われた膝の役割を十分に果たしている。
その肉体から出される力には、少しの衰えも発生していなかった。
「普通の奴相手なら、それでいいんじゃない。私以外が相手ならね」
駆け出した怪物が異変に気づく。また、上半身が支えを失ったかのように突然前に進む力を大きく減退させた。
視界に映る光景に怪物達は気づく。
自身を通り過ぎたはずの矢が、また戻ってきて自分達を打ち貫いたのだと。
目の前で更に矢は、空中で方向転換すると怪物達へと降り注ぐ。
最初は、下半身がなくなり、次に腕、そして胴体がなくなり、落下を終える前に考えていた頭が矢の直撃を受けてその意識を消し飛ばした。
「何人居ても無駄無駄。私の相手にならない。その程度の速度じゃね」
再度弓を構えてアマナは、後ろを振り向く。そこには、見慣れぬ黒いマントをかぶった人間らしき者が佇んでいた。
「恐ろしいな。それがこの街のレギオン・アーチャーの実力だというのか」
「だとしたらどうだって言うの?」
弓に矢を番えてアマナは、その男へと向ける。男は、腕を持ち上げると持っていた黒い銃を構えた。
「生かしてはおけまい」
「あっそ」
放たれた銃弾と矢が空中で激突する。その瞬間、周囲に青白い炎が飛び散って広がった。
「うん?」
「さて、どれほど持つか」
炎が収束していくつかの円を形作る。その円が形として完成した瞬間、その上に先程の怪物達が一瞬にして姿を現した。
「召喚、したのか」
「君は、危険すぎる。数に頼らざる負えないだろう」
矢を番え直して、アマナは男を睨みつける。
怪物達は、その場に佇んで動こうとしない。まるで何かを待っているかのように。
「さて、君に事実を話しておこう。この街は、今日から生まれ変わる。人を超えた者達の国として」
「何を言ってるんだ。あんた、正気の発言とは思えないね」
「事実だ。おかしいと思わなかったのか。君がいくら撃ち落とそうと怪物の数が減らないのを。君なら見えただろう。際限なく彼らが湧いて溢れてきたのを」
「あんたらの召喚による仕業だろ。全て潰せば問題ないことだ」
「違う。君は、知らないようだな。あれは、召喚ではない。復活だよ。彼らは、死ぬことがないのだ。この君に一度は消された彼らも、君が先程相手にした彼らと同じ者だ。だから君を警戒している。安易な行動には出ない」
「分かりやすい嘘だな。そんな事を、次々に出来る魔力などあり得ようはずがない。むしろ勿体ないだろ。こんな役立たずばかり蘇らせてもな」
「これでも彼も、レギオンまで上り詰めた者の果の姿なのだがね。君には、そうらしい。だが、出来るのだよ。そうなるように彼らは進化したのだから」
「……」
「人間は脆い。ならば死せども何度でも蘇る体。そして朽ちることのない体を得る。そうすることで人という種族の限界を超えて、人という種を後の世まで栄えさせる為に新たな人という種族として君臨する。それが我々だ。死することの無い軍隊に、勝利など出来ると君は思うか?」
「ああ、出来るね」
「不可能だよ。そして、君も君の仲間達も死ぬ。俺達としては、早々に抵抗を諦めてくれたほうが嬉しいのだがね」
アマナは、笑みを浮かべる。
「笑える冗談だ」
矢を男目掛けて放つ。だが、怪物がその矢に飛び込むと男の盾となって矢に当たって吹き飛び消えた。
「良い力だ。その力もいずれこの国を支える力となろう。君の死後にな」
「ごめんだね」
「そうは行かない。では、死ね」
男の合図と共に、怪物達がアマナ目掛けて突っ込んでくる。再度矢を放って怪物達の体をアマナは、消滅させるが、青白い炎から殺すと同時に新たな怪物が光と共に現れて直様アマナを襲った。
「ちっ!!」
怪物だけでなく、男も銃を放ってアマナを追い詰める。怪物の対処に手間取っているが、なんとかアマナは、男の銃弾を躱しながら怪物達の猛攻を凌ぎきっていた。
「鬱陶しいな!!」
殺しきらなければ復活しないのかと思って首のみ残し放っておいた怪物も、新たに炎が光ると失った身体部分だけが復活してくっついていく。
青白い炎を先に破壊しようと思えば、破壊した端から男が銃弾を放って再度青い炎をばら撒いていった。
男自身は、怪物達に守られていて直接的に狙えない状況にある。
出力を高めた矢ならば、怪物ごと男を貫通する矢を準備出来るだろうが、怪物達の攻撃を避けるのに手一杯で今のアマナには、その合間に出力を高めた矢を準備する余裕がなかった。
面倒だと、アマナは感じた。
安全に攻めきれない今の状況が歯痒かった。
しかしアマナは、無理せず自身が攻撃を受けないことにのみ専念した。
「よく動く。その小さな体でいつまで保つかな」
「気づいてないのか?さっきから周囲から飛んでくる光の矢がまったくないことに」
アマナにそう言われて男は、周囲を見渡す。
確かにアマナの言った通り、アマナ目掛けて飛んで来ていたはずの攻撃が、今は一発も確認出来ないでいた。
「同士討ちを避けるために攻撃を止めたのだろう」
「そうかな。あんたは、レギオンを知ってるみたいだから言うが、レギオンは、6人のチームだ。あんたが把握している私達の仲間は、何人だ?全員を補足出来たのか?」
「何が言いたい?」
「見てれば分かるだろ」
アマナの矢が、怪物を貫いて殺す。しかし、新たな怪物が炎の魔法陣の中から現れることは、なかった。
「……」
「魔法の種は、尽きかけてるみたいだぜ。裏切り者さん」
男が、アマナ目掛けて銃を構える。その銃目掛けて、一筋の閃光が男目の前を通り過ぎた。
「くっ」
身を引いて躱したが、銃は閃光の直撃を受けて崩壊した。男が、光の飛んで来た方角に目を向ける。するとそこには、黒い羽を生やした男が飛んでいた。
「遅かったな、ロギるん!!」
「悪い。少し手間取った」
アマナの近くに降りるとロギルは、手に出現させた黒いムチのような物を振るって怪物達の体を切り飛ばしていく。
そして、銃を失った男に向けて体を向けた。
「……」
その時、ロギルの心に言いようの無い感情が渦巻く。それは、大きく言うのならば怒りだった。
体が、心が殺せとその男を前にして言っているのがロギルには聞こえた。
だが、長き戦闘の経験が怒りに任せてロギル自身に突発的な行動をさせるのを阻止した。
その代わり、冷静にロギルは男に向かって殺意を向ける。
どうすればより効率よく相手を殺せるのかを考えて。
「ロギるん?」
「……リーダー達が動いている。原因の処理は、あいつがやるそうだ。俺達は、こいつの処理をする」
「分かった」
ロギルとアマナは、一人残った男に向かって武器を構えた。




