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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
8章 隣人
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追憶

 手応えでレドリアには、分かる。


 強靭な力を得ようとも生物を殺した感覚。


 人々の生活を守るためとは言え、レドリアには何処かこの感覚を完璧には克服することが出来ないでいた。


 誰かから何かを奪うなど、元よりレドリアには向いていないことだった。


 しかも、それが誰かの命ともなれば血の気が引き、体が固まる程かつての彼ならばその行いに恐怖したことだろう。


 しかしレドリアは、それでも守る力を得て戦うことを選んだ。


 それは、彼がかつて友人に自身の命を救われたからであった。


 レドリアの住む街は、田舎ながらしっかりと発展したいい町であった。


 人々は、日々笑顔で挨拶を交わし、今日という日を力を合わせて生き抜いていた。


 だがある日、突然その出来事は起きた。


 早朝、まだ日も登っていない時間にまだ幼かったレドリアは、家の中で悲鳴を聞いた。


 外からの悲鳴にレドリアの父は、様子を見てくるとランタンと武器になりそうな農具を持って出ていった。


 それから暫くして、隣人のエルマン夫妻が子供を連れて家に駆け込んできた。


「急げ!!逃げるぞ!!!!」


 訳も分からないうちにレドリアと母は、家から荷物も余り持ちだせずエルマン夫妻に続いて駆け出す。


 エルマン夫妻の息子。ロイとレドリアは、家が近いこともありよく話をする友人であった。


 訳も分からず走り続ける中、背後から奇妙な声が響く。


「……俺が囮になる。二人は、子供達を連れて一刻も早く町を離れるんだ」


「あなた」


「……行け」


 ロイとレドリアは、共に母に抱えられたままその場を後にする。


 逃げて、訳も分からず必死で逃げ続けたがその何かは、あっという間にレドリア達の背後へと迫ってきた。


「!!」


 それは、大型の犬のように見えた。しかし、明らかにレドリアの今まで見た犬という生物とは、構造が異なり、その大きさも違っている。


 その犬が、あっという間に距離を詰めるとロイの母の腹部に噛み付いていた。


「母さん!!」


 自身に起こったことを悟ってか、ロイの母は、ロイを手放して倒れこむ。


 そして、数秒と持たずにその体から多くの血を流してこの世を去った。


「ロイちゃん!!こっちへ!!」


 レドリアの母がレドリアを、細い路地へと行かせる。そして、石を投げて犬のような化物を一瞬ひるませるとロイを引っ張りまた細い通路へと押し入れた。


「おばさん!!」


「母さん!!」


「いい、ここは大人も通れないから二人でなら抜けられるはずよ。……生き抜いてね。二人共」


 そう言うとレドリアの母は、駆けていく。その後を、化物が追っていくのを、レドリアは感覚的に感じ取っていた。


「……行こう」


 町は、二人にとって遊び場である。だからどこを通れば化物の目を避けて進めるのか、二人はよく知っていた。


 しかし、それは町の中までの話である。


 狭い通路。木々の植え込みの僅かな隙間。店の下の僅かな空間。子供にしか通れない所を二人はなんとか渡って町の端にまで辿り着いた。


 だが、そこに広がっていたのは、絶望とも言える光景であった。


 街の入口に待ち構えるように先程と同じ犬の化物がいたのだ。


 それが二匹も。


 「……どうしよう」


 今にも泣き出しそうだが、なんとか声を抑えてそう呟くレドリア。


「任せろ。レドリアは、あいつらが居なくなったら一気にあそこから駆け出るんだ。それで、町の近くの川があるだろ。あれを目印に移動していけば他の街に着くって母さんが言ってた気がする。そこまで助けを呼びに行くんだ。頼めるか?」


「う、うん。でも、ロイ君は?」


「あれだよ。前やったろ。イタズラで紐つけて仕掛けの木を引っ張るとさ、立てかけてあった木の棒が一気に倒れて音を鳴らすやつ。あれをやるんだよ。あれなら、遠くで出来るから逃げられるだろ」


「そ、そうか。そうだね」


「ああ、任せてくれ。ちょっと俺は仕掛けてくる。あいつらが居なくなったらお前は、逃げるんだぞ。いいな」


「うん」


 その数分後、町中に木が倒れる音がして犬達は、それにつられるように移動を開始した。


 その姿を見送って、レドリアは全力で駆け出す。そして、自らの生まれた町を抜け出した。


 言われたままに走る。助けを呼ぶ為、自分に出来ることをする為レドリアは、懸命に走った。


 子供である自身の肉体が限界を確実に迎えていたが、それでもレドリアは走った。


 そして、薄れる意識の中で辿り着いた町の住民に助けを求めると、レドリアはそのまま倒れるように意識を失った。


 後日、レドリアの町の住民で生きていたのは、レドリアのみであるという知らせが届いた。


 あの時、力があれば。


 レドリアは、今でもそう思う。


 だからレドリアは、力を求め誰かの為に力を使い救うことを決めた。自分を救ってくれた家族、そして友人達の為にも。


「さて、アマナさんが心配です。戻るとしますか」


 膨張した筋肉を落ち着かせてレドリアは、後ろを振り返る。すると、何処からともなく聞き慣れぬ音が聞こえるのを聞いた。


「……まさか」


 空を見上げる。そこには、無数の光の矢の雨が、レドリア目掛けて急降下を始めている所であった。


*****


「鬱陶しい」


 街の外壁をよじ登る化物、その全てと四方八方から飛んでくる光の矢を、アマナはたった一人で全て撃ち落としていた。


「……あ~~ん?」


 更に表情を嫌そうに歪めて矢を連射しながらアマナは、建物の屋上に上がってきた侵入者を見据える。


 そこには、自身の筋肉を極限まで肥大化させ巨大になった肌の色の悪い人間らしき者が佇んでいた。


「劣化バーサーカーってところ?でっ、そのご自慢の近接格闘兵器なら私を殺れるって考えかな?冗談でしょ」


 無言で筋肉の化物は、アマナへと拳を振るいながら飛びかかる。


 その拳を、矢を放ちながらアマナは躱すと、光る弓を化物目掛けて剣を振るうように一閃した。


 弓の通り過ぎた太刀筋そのままに、化物の腕が両断されて空中を舞う。


「アーチャーが近接出来ないと思ってるの、時代錯誤過ぎるでしょ」


 弓を構え直して矢を放つ。アマナの放った矢が、空中に舞った化物の腕を飲み込むと腕を塵へと変えて消滅させた。


「うん?」


 背後も見ずにアマナは、避ける。すると、背後からなにかの塊が飛んできて化物の腕にくっついた。


 それは、新しい化物の腕であった。まるでそこにあったかのように、化物の腕はなくなった腕先に違和感なくくっついている。


「ふ~~ん、ちょっとは楽しめそうだけど」


 矢を放ちながらアマナは、再度回避動作を取る。すると、アマナが逃げた位置に同じような筋肉の化物が拳を振り下ろしながら現れた。


 それが更に増えて5つの化物が建物の屋上へと上がってくる。


「ダンスの相手は、一度に一人って良識はないみたいだね。はぁ~~」


 溜息を吐くとアマナは、目に纏う炎の出力を上げた。


「来いよ。私達レギオンが街を守る正義の味方で、お前らみたいな悪役に負けないってことを、教えてやる」


 アマナが弓に出現させた矢の大きさが増していく。巨大な出力の矢をアマナは構えると、口の端を釣り上げて笑みを浮かべた。




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