帰還
食事を終えてホテルへとロギルがベルゼビュート達と戻ると、ベルゼビュートが何かをホテルの店員へと聞いているのをロギルは見かけた。
その間、何故かバアルがロギルの服の裾を掴んでロギルが先に部屋に戻ろうとするのを止める。
店員との話が終わると、ベルゼビュートは静かにこちらに向かって外を指さした。
「帰る準備が出来たようです。では、大急ぎでお送りいたしますよ。ロギルさん」
「えっ、ええ」
そう言うとバアルと共にロギルは、もう一度外に止められていた車へと乗り込む。
遅れてベルゼビュートも車へと乗り込んできた。
「出してくれたまえ。予定通りに」
「はい」
運転手が返事をすると、ゆっくりと車を走らせる。
「居ましたか?」
「居たみたいだよ。まったく、行動が早い連中だ」
「待ち伏せという感じでは、なかった訳ですか」
「入れ違いかもしれないね。飲食店を今頃は、片っ端から探しているかも」
「暇な人達ですね」
「暇過ぎてやる気が溜まっていたんだろう。悪いねロギル君。面倒を起こしそうだから、巻き込まれないように君を帰すよ」
「いえ、ありがたいです」
「そう言ってもらえると助かるよ」
そのまま車は、数分走り続ける。すると、人影の見えない郊外にある小さな屋敷へと車はたどり着いた。
その屋敷には、見慣れた馬車が止まっている。
「さて、サブノック君がすぐに出てくるだろう」
ベルゼビュートがそう言って車を降りるとその言葉通り、走ってサブノックが馬車から出てきた。
「ご無事でしたか?」
「ああ、騒動も運良くなしだ。でも、これからとも限らないからね。なのでややこしくなる前にロギル君には、お帰り頂こうと思って」
「……分かりました」
サブノックは、そう言うとすぐさま魔法を使って人間界に繋がる扉を開く。
「ロギル殿助かりました。またお礼には、改めて」
「お役に立てて良かったです。では」
ロギルは、ベルゼビュート達にも会釈すると急いで扉へと飛び込む。
サブノックが魔法を消して扉を閉じると、何か小さな音が近づいてきているのが耳に入った。
「いやはや、別れぐらいゆっくりしたかったものだが。これではね。致し方ない」
「どう致しましょう?」
「僕が説明するよ。代表者だからね。といっても、なにか責められる覚えはないから大丈夫だろう」
「あっちが勝手に騒いでるだけですからね」
「そういうこと。さて、サブノック君」
「はい」
「僕達二人は、ロギル君の力になると約束した。そして、君も力を貸す約束をしているだろう。いざという時は、必ず僕達二人の力を借りるよう伝えるように。約束の反故は気持ちいいものではないからね」
「はっ!!」
「よろしい。それだけでまだ10年は、退屈しないで済みそうだよ。いや、意外と早くその時が来るかもしれなけどね」
そう言ってベルゼビュートは、にこやかに笑った。
*****
「今、水色の銃って言った?」
「ああ」
「水色。そして骨の騎士の霊獣」
「心当たりが?」
ロギルは、帰還後すぐに校長室へと赴いて魔界で有り得たことをリオーシュへと話した。その言葉にリオーシュは、顔を歪める。
「少し、確認することができたわ。それが分かってから答える。必ずね」
「……分かった」
「話をまとめると、そのガンナーと思われる人間は、私達と同じ存在で、それでいて私達の仲間の死体を利用して兵士を作って魔界に乗り込んだということになるわね」
「そうなるだろうな。じゃなければ、ここまでレギオンに近しい能力を持つ人間の死体は、手に入れられないだろう」
「敵は、同じ組織、いや、レギオンガンナーの可能性もあるわね。しかも、仲間殺しの可能性もあると」
「どうする?」
「……話は、全体に流すわ。あとは自衛ね。私達は、存在しない組織。死んでも誰も気にも止めないもの。殺されていても死体がなくても、その話が流れることはない。それがこんな結果を生んだのかもね」
「……」
「何かが起こる、か。丁度いいからこの話と共に何人か増員しましょう。それと」
「それと」
「同じレギオンが相手になる可能性があるから、訓練だけはしておくように」
「分かった」
「ふぅ、ともかく、ロギル先生。出張お疲れ様。今日は休んで。明日、報告書を提出して。後はこっちでやっておくから」
「任せた」
ロギルは、そう言って校長室を出ていく。
一人になった部屋でリオーシュは、銃を取り出して手のひらで一回転させると、その銃口をしばらくの間黙って見つめた。
*****
「君も見ただろう。人間の進化の遅れを」
暗い中、ロウソクの灯りだけがその空間を照らしている。
岩壁の中で男が一人、奥へと続く空間へと向けて話しかけていた。
「あれが神が作った生物だ。なんとでたらめな力であることか。神が小間使いとして作っただけのことはある。奴らは、なんでも出来るのだ。神が自らやろうと思わない作業をやらせるために作った生物だからな。大概のことを、連中は出来てしまう。それがあの強さの理由だ。人間など、堕天使や高位の魔獣の前では、同じ目線に立てるだけの塵に等しい。奴らと相対した君になら分かるだろう。俺のこの焦りが」
闇の中から言葉への返答はない。ただ静かに静寂のみが満ちている。
「俺の考えは正しい。いずれ人は、人以上の存在によって排除されるだろう。人は、この不完全な存在のまま存在していては駄目なんだ」
「……」
「今こそ人が人を超える時だ。神が作ったオリジナルは手に入らなかったが。あの地そのものに、神や堕天使達が使った魔法の記憶其の物が埋まっている。あれほど魔力溢れる土地で、時が経ったからといってその全てが風化するわけではない」
男は、懐から布を取り出すとその中に入っている鉱物のかけらのようなものを摘む。そして、一気に口の中へと入れると飲み込んだ。
「さて、始めようか」
男は、懐から銃を取り出すと銃口を自身の頭に突きつけて構える。
「今こそ、人の新たな時代の始まりだ」
銃を持つ腕に力が込められていく。
「なぁ、死霊王よ」
ロウソクの灯りが消える。そして、暗闇の中に銃声のみが聞こえた。
魔法によって発展を始めたこの時代。その中で今、人の殻を破った厄災が動き始める。




