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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
1章 肉体
6/76

「で、まずはどこから向かうの、ロギル先生?」

「警護兵のいる兵舎に。そこでまずは、薬の存在を知っているか聞こうと思います」

「なるほど。まずは薬からね」

「校長は、薬について何かご存知ですか?」

「いえ、そう言う情報は、学校に周ってきてないわね。今度から周してもらうように頼もうかしら。生徒たちへの注意喚起のために」

「それはいい考えですね」

「……」


 セシルは、無言で2人の後をついていく。ロギルとは、ある程度普通に喋っていた彼女だったが。学校長であるリオーシュがいるため、とても喋りづらそうにしていた。


「セシルさん」

「は、はい!!なんですか、校長先生!!」

 

 リオーシュの突然の声かけに、驚いた様子でセシルは反応する。


「貴方も、何か気づいたことがあったら教えてね。3人で、リータさんを必ず見つけましょう」

「は、はい!!」


 リオーシュのその言葉に、嬉しそうにセシルは返事をする。ロギルは、特に気にした様子もなく、視認できる距離に入った兵舎を眺めていた。


「そういえば、学校から近いんですね」

「まぁね。ほら、ここらへん街の中心部だから。立地的には、ここが良いし」

「なるほど」


 ロギルは、兵舎の扉を開けて中へと入る。それに続いてリオーシュ、セシルが兵舎に入った。


 兵舎の中は、役所のような作りをしていた。訪れた人に対応するためのカウンターが用意されており、その向こうには多くの机が並べてあって、書類仕事を多くの職員がしている。ロギルは、手で2人に待合室の椅子を指差すと、自身は兵舎の窓口へと移動した。


「じゃ、私達は待ってましょ」

「はい。……良いんでしょうか、一緒に話を聞かなくて?」

「任せろって、ロギル先生が言うんだもの。任せましょう。大勢で聞きに言っても、職員さんの邪魔になるでしょうし」

「そ、そうですね」


 20分ほど待っただろうか。ロギルと、窓口で2人の男が話をしている。そして、何かの書類をもらうと、ロギルは席を立ってお礼を言った。


「どうも、ありがとうございます」


 振り返るとロギルは、2人に出口を指差す。そのまま、3人は兵舎を出ていった。


「で、収穫はあった?」

「はい。似ている薬は、何種類かあるようです。幻覚作用と中毒性のあるもの。これが2種類。その他に、街中で売られている粉末状の室内香製品。これが3種類ですね。こちらも白い粉末で、火で炙ることで室内にいい香りが広がるのだとか」

「あら、それは素敵ね」

「ええ。ただ、これらに紛れさせて違法薬物の密輸が行われる。ということがあるようです」

「良いものと、悪いものが似ているって嫌なことね」

「そうですね。近々法改正で粉末状の香製品の販売は中止にするらしいですが。今は、まだのようです」

「それで、どうする?」

「この街で確認されている違法薬物の種類は1種類。そして、この近辺でそれらが出回っているという地域。その場所に行こうと思います」

「あら。そんなことまで教えてくれたの」

「ええ」

「話が早くて助かるわね。私には、そんなことを言っているようには見えなかったけど」

「……きっと、聞き逃したんでしょう」


 ロギルが知っている理由は、別にある。彼には、心を読むダンタリオンという魔獣がついている。人の口が語らずとも、彼には相手が心で想像するためのキーワードさえ与えてやれば、それが見えるのだ。ダンタリオンという、頼れる助っ人を通して。


「そ、で、どこに行くの?」

「兵舎から離れた、5ブロック先の路地に怪しい男がいると言っていました」

「じゃあ、行きましょうか。セシルさんもね」

「は、はい!!」


 日が沈み、夜が迫ってくる。街に明かりが灯り、路地には暗い闇が差した。怪しげな雰囲気が、街にたちこめる。その中を、気にした様子もなくロギルとリオーシュは進んだ。セシルは、辺りを見回しながら進む。夜道に怯える子供のように。


「……おっと、いました」

「どこかしら?」

「待っていてください。ちょっと見てきますよ」

「……分かったわ。セシル、ここで待ちましょう」

「え、は、はい」


 月明かりで、辛うじてリオーシュ達には人影が見えている。ロギルは、その人物に奥の路地を指差すと、一緒に路地裏へと入っていった。数分後。路地裏から、ロギルだけが出てきた。


「何か聞けた?」

「ええ。どうやら、別種の薬が出回っているらしいです。その薬を販売させている人物は、効果を偽って出来るだけ広範囲で売ってくれと持ちかけたんだとか。それに乗っかって、彼らは薬を売っていたようです」

「別種の?」

「そうみたいです。違法薬物とは違って、中毒性の無い物らしいです。ただし、この薬を吸引すると、極度の恐怖症状を引き起こすと言っていました。不安、怯え、孤独。それらを大きく感じるのだとか」

「そんな物、売ってどうするの?」

「分かりません。彼らも理由は知らないようです。ですが、この薬を買った人物は、再度声をかけてくる確率が高いようです。その時は、売りどころの売人に直接合わせるようにと言われていたようでした」

「……なるほど」

「怪しいと思いませんか、校長先生?」

「ええ。怪しそうね、ロギル先生」


 ロギルとリオーシュは、お互いにそう言うと静かに笑った。


「なんでお二人とも、笑ってらっしゃるんですか?」


 セシルが、若干引き気味にそう言う。それに対し、リオーシュが笑みを正した。


「おほん。リータさんを探す手がかりが得られたから、嬉しくてね」

「そ、そうですか」

「さて、では行きましょうか。ところで校長、ここら辺で巨大な溜池が作られている山はどこか分かりますか?」

「巨大な溜池?貯水ダムのこと?それなら、ここから徒歩で三時間かかる地域にあるけれど。ほら、あっちの山よ」


 リオーシュが、遠くに見える山を指差す。ロギルは、その山を見上げながら頭をかいた。


「なるほど。あの山ですか。移動に時間がかかりそうですね」

「そうね」

「……セシルさんには、もうおかえり頂きますか。流石に、これ以上連れ回すのは、どうかと思うんですけど」


 そう言いながら、ロギルは目線を明後日の方向に向ける。それを見ると、リオーシュはセシルの肩を抱いた。


「セシルさん、まだ頑張れる?」

「はい、大丈夫です!!早く、リータを見つけましょう!!助けてあげないと!!」

「あら、いい子ね。と、言うわけだからロギル先生。生徒の自主性を、尊重しようと思うわ」

「……分かりました。しかし、3時間ですか。着く頃には真夜中ですね。出来るだけ急ぎましょう」

「あ、ちょっと待ってくれる」


 一歩踏み出したロギルを、リオーシュは止める。そして、明後日の方向を指差すと歩き始めた。


「あ、あの」


 歩き始めたリオーシュを、セシルが呼び止める。


「さっきの人は良いんでしょうか?兵士の方たちに、引き渡したりとかしなくて」

「それもそうね。どう、ロギル先生?」

「もう、いなくなってるんじゃないですか。少し、時間が空きましたし」

「そ。なら仕方ないわね。先を急ぎましょう」

「……」


 リオーシュは、再び歩き出す。その後を追って、ロギルとセシルがついて行った。先程ロギルが入った路地は、路地の裏側にも道が通じていた。その路地には、もうロギルと会っていた男の姿はない。かわりに、路地の道の部分が、何かで溶かされたかのように凹んでいた。それ以外、何も残っていなかった。


 黙々と3人は、来た道を引き返していく。そのままリオーシュは学校まで戻り、学校の塀の近くにあるコンクリートで出来た建物の扉を鍵で開けた。


「これで行きましょう」

「うわぁ~、これって、車じゃないですか」

「車?」

「魔石動力自動走行車よ。魔力で動くの。今は高いし、生産台数が少ないから世間には普及してないんだけど、学校用に買ったやつがこれ。これで行きましょう」

「学校用?」

「そ。こういう時間が無いから急ぎたいって時用ね。じゃ、行きましょうか」


 そう言って、リオーシュは鍵でロックを外し、運転席へと座る。ロギルは、どこに座れば良いんだと少し悩んでいたが、セシルが後部の扉を開けて座るのを見ると、それに続いて座席に座った。


「少し揺れるから、頭をぶつけないようにしてね」

「は、はい!!」

「この布らしき物で、体を固定するのか。なるほどな」


 ロギルは、シートベルトをまじまじと見つめている。その間に、リオーシュがエンジンを掛けて車を発進させた。赤い車体が、ライトを付けて夜道を走っていく。ロギルたちは、初めて乗る車から見る景色を、窓から物珍しそうに眺めていた。


「早いですねぇ」

「そうよ。そして、楽ちん。これが良いところよねぇ。将来的に、絶対に売れる製品だと思うわ」

「……何故、この街はこんなにも俺の住んでいた村と違うんでしょうか?」

「ああ、そうね。この街、学校があるでしょう。それのおかげで、今とあることが起きているの。産業革命って、人々は言っているわね。学校で学んだ知識を持った人々が、それを物づくりに活かし、こういう物ができ始めているの。それが、今のこの街と周りの村が違う理由。ここは教育と学問の最先端。そこが、他の村と違うところよ」

「教育って、偉大なんですね」

「そういうこと。ま、いずれ他の村にもこの技術が伝わっていくでしょう。その間だけよ、違うのわ」

「そうですか」


 街に残る明かりを、セシルは見ている。その隣で、ロギルは兵舎で渡された資料を、街の明かりで照らしながら見ていた。


「恐怖を植え付ける薬。それに、いったい何の意味が?」

「……私、分かるかもしれません」


 ロギルの呟きに、セシルがそう答えた。ロギルは、セシルを見つめる。セシルは、窓の外を眺めたまま、ゆっくりと話し始めた。


「恐怖を持つっていう状況は、今の私と同じかもしれません。親友を失いたくないという恐怖。それを持つと人は、誰かを頼ります。自分で何かを出来ないなら、誰かに話をしてなんとかしてもらうしか無い。それしか無いと思います」

「と、言うと?」

「この薬は、そういう誰かをおびき寄せようとしている。そんな気がします。先生たちのように、頼りになる誰かを」

「「……」」


 その言葉に、ロギルとリオーシュは笑みを浮かべた。


 山にも道ができている。ダムを作る上で、物資運搬のために作られた、魔法で舗装された道路だ。それはコンクリート製ではないが、なだらかでいてとても強度がある。車一台が走るには、十分な道であった。


「もうすぐ着くわね」

「何か、建物がありますね」


 ロギルの目に飛び込んできたのは、真新しい倉庫であった。それはとても大きく。3つ横並びで、道の脇に建っている。


「あれかしら。建設資材を置いておくための倉庫かしらね?ここで止めて、見に行きましょう」


 リオーシュは、車を道の脇に寄せて止めた。エンジンを切って、全員が外に降りる。ドアの鍵を閉めると、リオーシュは何かの玉を車の上目掛けて投げた。すると、車が岩で覆われていく。


「お~~」

「なんですかこれ?」

「生徒が開発したものよ。岩のテントが出来る魔石。まぁ、私は車の車庫代わりに使ってるけどね」

「便利ですねぇ」

「車が入っているとは、誰も思わないですよ」

「さて、行きましょうか」


 リオーシュは、先頭に立って倉庫を目指す。その後をセシル、ロギルの順でついていった。


「……あ、あの」

「うん、どうしたのセシルさん?」

「少し、不用心すぎませんか?道の真中じゃなくて、横の森側から隠れながら行くというのはどうでしょう?」

「ふ~ん、そうねぇ~。でも、周りが見やすいほうが私は良いと思うの。その方が、すぐに異変に気付けるでしょう?」

「な、なるほど」

「だから、堂々と行きましょう」


 リオーシュは、その言葉通り進んでいく。道の真中を歩き、障害物のない開けた場所を見回しながら進んだ。


「……」


 ロギルは、セシルを見る。彼女は俯いて、何も喋らずにリオーシュの後を追っていた。彼女の体に震えはない。その足取りは重く、だがしっかりとリオーシュの後を追っていた。


「……」

「さて、誰かいるかしらね」


 リオーシュは、倉庫の左端の扉が開いているのを見つけると、そちらに近づいていく。そしてロギルを呼ぶと、先に行くように指で指示した。


 ロギルは頷くと、サッと身を滑り込ませて中へと入る。一通り辺りを見回すと、ロギルは2人を手招きした。


「……何もなさそうね」


 リオーシュとセシルが、ロギルの案内で中に入る。月明かりで中の様子を二人が見ると、そこには多くの建設資材らしきものが、種類ごとに分けられて積まれていた。


「リータちゃん……」


 セシルは、少しでも友人がいそうにないか探すために、2人よりも前に出て資材の隙間などを覗いて見ている。


「いるわね。音がした」

「ああ。森にも、ここにも。既に囲まれていると見ていいだろう。それでも、手を出してこない」

「誘ってるわね。私達を」

「なら、招待されてみますか」

「良いわね。どんなパーティーかしら。楽しみだわ」


 2人は、セシルに聞こえない声で話す。そして話し終えると、倉庫の中央付近を目指して歩み始めた。


「え、あの、お二人とも?」


 2人が進むと、靴音がなる。それが、中央に近づくと音が変わった。


「何かありますね」

「ロギル先生、足元よ」


 ロギルは、リオーシュに言われて足元を見る。するとそこには、取っ手のついたブロックが一枚はめ込まれていた。


「資材置き場に地下室ですか」

「招待状を見せる警備員はいないみたいね」

「では、直接確かめるしかなさそうですね」


 ロギルが、取っ手を引っ張ってブロックを持ち上げる。すると、ブロックはあっさりと持ち上がって取れた。


「非力な子でも、なんとか持てそうね。一般生徒でも」


 そう言って、リオーシュはセシルを見た。


「階段になっています。そして、明かりがついている。確実に誰かいますね」

「行きましょう。うちの生徒が迷子になっていないか、探さないとね」

「ですね」


 3人は、下へと続く階段を降りていく。階段は鉄製で幅広く、入り口は小さいが中は大きな空洞になっていた。階段を下まで降りていくと、一本道の鉄製の通路が続いている。その先を目指して進むと、分かれ道が見えてきた。


「右と左かぁ……」


 リオーシュは、コートからコインを取り出す。そしてそれを空中に投げると、手の甲に落下させて受け止めた。


「裏。私は、左に行くわ。ロギル先生とセシルちゃんは、あっちね」

「分かりました」

「えっ、一緒に行かないんですか!?」

「手分けした方が、速いでしょ」


 そう言って、軽く手を振るとリオーシュは、先に歩いて左側の通路を進んでいった。


「俺達も行こう」

「良いんでしょうか?」

「校長だからな。なんとかするさ」


 そう言って、ロギルは右側の通路を進んでいく。その後を、セシルはついていった。


*****


 暫くすると、リオーシュの視界に扉が見えてくる。それを見ると、リオーシュは黒い手袋を両手に付けた。そして、ドアノブをまわしてリオーシュは部屋の中へと足を踏み入れる。


「……悪趣味ね」


 その部屋の中は、真っ赤に染まっていた。大きな空間に作られたそこは、部屋の壁にいくつもの檻を積み重ねて何かを閉じ込めている。それは人間ではなく、魔獣であった。しかし、どの魔獣もどこかの部位がかけており、檻の中で苦しみもがいている。


 そして、その部屋の中に漂う吐き気を起こさんばかりの悪臭。それは、その部屋に転がっている肉の匂いであった。何の肉かは分からない。だが、廃棄された肉を捨てると思わしき肉のプールが、その部屋には存在していた。その悪臭に顔を少し歪めると、リオーシュは部屋を出ようとする。


 チャプッ。


 すると、その肉のプールから音がした。リオーシュが振り返ると、肉のプールの血溜まりから、人間の手と思われる何かが突き出ていた。それは、プールから上がろうと力を入れる。そして、それはそこから出てきた。


「……」

「アガッ、ガッ」


 それは、人間であった。体が腐り、右腕が欠けている人間であった。しかし、右腕には別の物がついている。それは獣の、いや、魔獣の腕であった。


「うちの生徒ではなさそうね」


 リオーシュは、そう言うとコートの内側に手を入れる。血に塗れた合成人間が、リオーシュ目掛けて駆け出した。体液を撒き散らせ、合成人間はリオーシュへと迫る。


「いい足ね」


 一瞬、音が聞こえた。すると、合成人間の足が止まる。いや、合成人間が自身の下半身に目を向けると、もう既に合成人間の足はなくなっていた。


「どこを壊すべきかしら?こういう時は、頭かしらね」


 リオーシュは、そう言うと合成人間の頭を撃ち抜いた。すると、一瞬身体を痙攣させた後、合成人間の動きが完全に止る。それを見届けると、リオーシュは銃をしまおうとした。


 直後、すぐに複数の水音が聞こえる。複数の何かが、肉のプールで蠢いているのが分かった。それらは順に、プールの端に手をかけると上がってこようとする。それを見るとリオーシュは、やれやれと肩をすくめた。


「ロギル達のためにも、残しておくわけには行かないわね」


 リオーシュは、指で赤い銃のシリンダーを回す。そして、シリンダーを止めて、銃を構えた。


「フレア・ドラゴン」


 そう言うと、リオーシュはプール目掛けて引き金を引いた。その瞬間、射出された弾丸が弾けて、赤い焔の龍を生み出す。それはフレア・ドラゴン。火の魔力で作られた霊獣。それは、肉のプールへと咆哮を上げて飛び込むと、プールの中の血ごとその中の全てを焼き尽くし、蒸発させた。


「ロギル達の方が当たりだったのかもね。つまらないわ」


 そう言って、リオーシュは部屋を出ていった。


*****


 ロギルとセシルは、何もない一本道を進んでいく。やがて、壁沿いに出来ていた鉄の道は、その両脇の横幅を広げて、一本の鉄の橋へと変わった。橋の脇には、巨大な穴が空いていることが分かる空間がある。ロギル達は、その橋の先にあるドアを目指して歩みを進めた。


「……開けるぞ」

「はい」


 赤い扉を、黒い手袋をしてからロギルは開ける。2人がゆっくりと部屋の中に入ると、そこには円柱が積み重なってできた山のようなオブジェが、そこかしこに置かれていた。


「なんでしょうか、これ?」


 オブジェは、それぞれがライトアップされており、その頂上に何かの剥製らしきものが置かれている。ロギルは、その剥製を見ると目を細めた。


「魔獣を、切り貼りした剥製か」

「惜しい、ちょっと違うなぁ」


 部屋の中に、ロギルでもセシルでもない男の声が響く。その声の方向、部屋の中央をロギル達は見つめた。すると、部屋の中央がライトアップされる。そこには、同じ円柱の積み重なったオブジェが置かれており、その上には黒いローブで顔を隠した男と、三人の女生徒が拘束器具で磔にされていた。


「ようこそ、今宵の侵入者諸君。歓迎するよ。で、率直に聞くんだが、君たちはレギオンかな?」

「レギオン?」

「……何のことだ?」


 ロギルは、正体を知られないように疑問で返事を返す。


「そうか。まぁいい。どっちにしろ、ここから逃げ出すことは不可能だからねぇ。嘘をついていても、関係ない。どちらにしろ、君達も貴重な実験サンプルだ。ただ、僕としては君達がそれなりの実力ある者であったら嬉しいんだけどねぇ」

「何を言っている?」

「ところで、この3人が目当てかなぁ?最近来たばっかだから、まだ手を付けてないんだけどね。2人は外れかなぁ。この肉体じゃあ、良いサンプルにはなりそうにないね。でも、こっちの子はいいよ。若いのに、随分と鍛えている。良いサンプルになりそうだ」


 そう言うと男は、意識を失っているリータの頬を舌で舐めた。


「リータから離れて!!」

「ほら、やっぱりこの子達の関係者だ。ま、君は同じ制服を着ているし、そうじゃないとおかしいよね。で、そっちの君は何かな?保護者?」

「そんなところだ。彼女達を、返してもらおう」

「駄目だね。若いサンプルはあまり扱ったことがないんだ。たまには、レアな化け方をするかもしれないからね。手放すことは出来ない」

「さっきからお前は、何を言っている?」

「さっきの答えを話そう。その剥製、魔獣の物じゃあない。人間だよ。元人間の物だ」

「……何をおかしなことを言っている?」

「魔獣同士っていうのはね、厄介なことに種族ごとで細胞の拒絶反応を起こすのさ。まぁ、肉体が上手くくっつかないってことだよ。でもね、元人間から出来た魔獣には、それがないんだ。素晴らしいだろ。好きに色々なパーツを組み合わせた人形を作り放題さ」

「人を、魔獣にだと……」


 ロギルは、感情を押し殺しながらも、腕を強く握った。


「そう。この銃と弾を使ってね。これを打ち込むだけで、適正のある人間は強き魔獣へと変わる。弱いやつは、まぁ、ゴミみたいな。そんなのになるよ。だから、君達は強いと嬉しいんだけどねぇ」


 そう言いながら、男は銃へと弾を込める。そして、リータへ向かって銃を構えた。


「何するの、やめて!!」

「見せてあげるよ。そして、お友達が君達にどんな反応をするのか、見てみたいなぁ~。お友達を残しては、逃げられないだろう。君達は、この子を殺しちゃうかなぁ?それとも、殺されちゃうかなぁ?どっちにしろ、楽しみだよ。強ければ強いほど、新しい人形も強く作れる。楽しみだなぁ~。君達と、この子。どっちが強いのか」


 男が、銃の引き金へと指をかけようとした。


「外道が。死ね」


 その声は、男の真横から聞こえた。それは、低い男の声だった。瞬間、黒いローブの男目掛けて、剣が振るわれる。それを、上体を反らしてローブの男は避けた。


「おや、いったいどこから?」

「よく回る口だな」


 剣を振るった男は、開いた腕で男のローブを掴む。そして、力任せにローブごと男を持ち上げると、壁に向かって投げつけた。


「ガハッ!!」

「受け取れ」


 男は、ロギルに向かって磔にされていた3人の女生徒を救出して投げ渡す。それを、ロギルは上手く受け止めた。


「行け」


 ライトで、その男の顔が映し出される。それは、メガネを掛けた筋肉質の男性であった。白髪で、白い髭を僅かに生やし、男はローブの男目指して飛ぶ。


 それを見届けると、ロギルは3人の女生徒を担いで、セシルと共に来た道を戻っていった。やがて、倉庫の外へと出て車の置かれている岩の前に行くと、ロギルは女生徒を降ろす。


「校長がいないな」

「あっ、そ、そうですね」

「……探しに行ってくる。待っていてくれるか?」

「は、はい!!」


 セシルを残し、ロギルは倉庫へと戻っていく。ロギルがいなくなったのを確認すると、セシルはリータの首元を露出させた。そして、懐から何かの注射器を取り出す。それを、セシルは迷うこと無くリータ達の首元に突き刺した。


「……血流が良くなってきたね。これで大丈夫かな。心配したんだよ、リータ。一個貸しだからね。だからやめておけって言ったのに」


 セシルは、3人に薬をうち終えると、注射器をしまう。そして、辺りを眺めた。


「先生にはああ言ったけど、逃げちゃおうかなぁ~。正直、こっちの2人はどうでもいいんだよね。リータを危険な目に合わせたしさ。それに、先生達が帰って来るかも分かんないし。しっかし、あんなの作ってたのか、うちのクソ師匠は。喋り方と存在が相変わらずキモい。変な組織とつるんでるって、あの銃のことかな。たしかにあれはヤバイね。でも、正直無いかなぁ。さすがの私でも、ひく。人間を魔獣にして素材にする?無いわ~。無い無い。第一、それって途方もなさすぎる労力でしょ。やる気ないわ~」


 セシルは、メガネを外す。そして、髪留めを解いて、髪を振り乱した。セシルの周りに、黒い人影が複数近づいてくる。それは、肉体が腐食しており、人間らしからぬ挙動で、セシル達に近づいてきていた。


「ネクロマンサーの欠点はこれだよね。簡単な命令しか受け付けない。直接指示しないと、敵味方、知り合いの区別すらつかない。あ~~、だるい。でも、一応ちょっと待ってみるか。先生達、やり手かもしれないからね。だから、相手してあげてよ」


 セシルは、そう言うと指を弾いてならした。


「ポチ」


 瞬間、森の奥から何かが出てくる。それは、一瞬で近づいてきていた死体達の首を食いちぎって、セシルの前に立った。


「あ、死体の残りは森に捨ててね。私が疑われるから」


 それは、巨大な魔獣の狼の死体。セシルの命令に、忠実に従う番犬。セシルの命令を聞くと、ポチは死体達の胴体を口でくわえて、森へと戻っていった。





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