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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
7章 知識
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野心

「ふむ、外に出てもこの匂いの濃さ。どうやらまだ逃げてそう時間が経っていないようだね。順調に我々は、敵の後を追えているようだ」


「かと言って風通しの良い場所には違いがありません。少し急ぐことにいたしませんか?」


「そうだね。サブノック君達がまだもたついている様だが、待つ時間はなさそうだ。行くとしよう」


 ベルゼビュートを先頭に、ロギル達は街中の歩道を歩いていく。


 周囲に注意しながら歩みを進めていくが、居るのは人とは程遠い外見の者達ばかり。


 歩みを進めるほど周囲に向ける警戒心が増していくロギルに対して、ベルゼビュート達は悠々とその中を散歩でもしているかのように歩いていった。


 歩道の脇には、ブツクサとうずくまって呪詛のように小言を呟き続けている者も居る。酔いつぶれたのか、歩道を塞ぐように寝ている者。セミの真似をして木に捕まり自らの生まれを嘆いている者も居た。


 それがまるで日常のようにベルゼビュート達は、気にも止めず歩く。その警戒心のなさがロギルには、不思議でしょうがなかった。


「さて、意外と早く見つけられたかもしれないね」


 ベルゼビュートが立ち止まったのは、甘味を扱う飲食店の前であった。


 店の前のテーブル席には、女性? と思われる魔獣達が座って楽しそうに話をしている。


「失礼。こちらに男性の姿をした者は、来なかっただろうか?」


「いえ、見ておりませんけど」


「我々は、パンデモニウム所属の軍人だ。治安維持活動にご協力願いたいのだけどね」


「……奥の方に背丈の高い何者かが入っていくのは、見たかもしれませんわ」


「ご協力感謝致します。では、行こうか」


 そう言ってベルゼビュートは、店の奥へと踏み入っていく。ベルゼビュートの言葉を聞いた女性のような客達は、食べている途中の料理を残して静かに席を離れて店から遠のいた。


「いらっしゃいませ」


「インキュバスが居るはずだ。出してもらえるかね」


 ベルゼビュートがカードのような物を胸元から取り出して見せる。すると店員は、営業スマイルを消して静かに店の奥のトイレを指さした。


「ご協力どうも。さて、手荒に行くかね」


 ベルゼビュートが人差し指を曲げる。それだけで、勝手にトイレのドアが開き、中を塞いでいた留め具が弾けとんだ。


「臭い消しでも使っていたのかな。最も、遅かったようだがね」


 中指を引く。トイレの中で何かが打ち付けられるような音がしてその何かがこちらへと引っ張り出されて出てきた。


「くっ、一体何が?」


 それは、人間の男に近しい容姿をした魔獣であった。一見するとその男の容姿は、優しげで力もなく人畜無害のように見えた。


 しかしロギルは、そのような見た目であるはずの彼に、軽い不快感を覚えた。


 イラつき、警戒、そして敵対心。およそ人間の抱きうるあらゆる相手を敵だと判断する感情が一斉に沸き立つのをロギルは感じた。


 このようなことが、初めて出会う相手に対して起こるのは、ロギルにとって初めての事であった。


 しかし、自身の生まれ持っている何かがその魔獣を生かしておいてはいけないと叫んでいるような気がした。


「それは、目の前の彼が、君達の種族という生命を繋ぐ行為を逆手に取り蹂躙し、搾取する為に存在している生物だから湧きえる感情だよ。滅多に味わえるものではないだろうから覚えておきたまえ。その不快な感情の波を、今一度味わう時が来たら迷わず相手を敵と認めるといい。きっと、君が殺すに足る理由を、相手から与えてくれるはずだ」


 男よりも小さく、力もなさそうなベルゼビュートが男の首を掴む。


「さて、僕も君の匂いを嗅ぐと不快でね。すぐに終わらせよう。ロギル君の中から君に面白いほどに殺気を向ける者もいることだしね。彼女に君を殺させるわけにはいかない。ここでは、生殺与奪の権利は、我々にあるからね」


「た、助けてください!!僕は、騙されていたんです!!」


「一応、手順だから聞いておくよ。何が不満だったんだ?話せば少しは、酌量の余地があるかもしれない」


「ぼ、僕は、彼らに手伝って欲しいと!!それで、困っている彼らを見過ごせなくて……」


「不快だな。正直になり給えよ」


 ベルゼビュートの手を離れて、男の体が宙に浮く。


 見えない力に男の喉が圧迫されて閉まっていくと、必死に抵抗して男は逃れようとするが、その行為は、無意味であった。


 男の口から泡が湧き出て全身から力が抜ける。すると、男の容姿が変化していき筋骨隆々の体格へとその姿を変貌させた。


「……おかしいだろ。この世には、オスかメスかの二通りしか最終的には無い。堕天使だって性別を得なきゃ子孫を残せないんだ。そんな世の中で、片方を好き勝手に操れる力を持っている。それで大人しくしていろってほうが無理な話だろ」


 意識を失ったインキュバスの口が、勝手に話し始める。


「それが手を貸した理由かね?」


「そうだ。一度秩序が壊れてしまえばいいと思っていた。この持って生まれた力を好き勝手使ってみたい。そうすれば、俺がいかに有能か示せる。世界を自分の好きなように変えられる。そう思った」


「うむ。野心があるようで大変結構だ。しかし、君は秩序の破壊に失敗した。その意味が分かるね」


「……」


 指を弾く。


 ベルゼビュートの指から音が鳴ると、インキュバスの体は、醜い音をたてて凹み始めた。


 数秒の時を置いて体が分解されて小さな粉の集まりになると、それが空中へと浮いて外へと消えていく。


「あれが人の子の元へと連れて行ってくれるだろう。では、この騒動を終わらせるとしようか」


「ええ、行きましょう」


 ロギルは、インキュバスが居た場所を一瞬だけ確認する。


 そこには、塵一つなく何かがいた痕跡すら既にない。


 己の欲望。その一欠片を満たす為だけに行動し、そして生きた形跡すら残さずに消えていく。


 それがとても哀れなことのようにロギルは思えたが、同情という感情はその中には湧いてこず。


 ただ何も言わぬまま、その場をロギルは後にした。


「おっ、あそこで曲がったね」


 暫くの歩行の後、街のビルの角で塵が曲がる。


 その後を追ってロギル達が通路へと入ると、塵が何かに触れて燃やされている姿が確認できた。


 そして、路地の奥には銃を構えた一人の男が立っている。


 水色の銃を、構えたローブで全身を覆った男が。


「早く出会えて何よりだよ。では、終わらせようか」


 ベルゼビュートが指を曲げる。しかし、その動きに合わせて男は動かず、代わりに何かが男の体から外れたような音がした。


「うん、なんだ?骨、かね?」


 ベルゼビュートの指の動きに合わせて何かが宙に浮いている。それは、明らかに骨であった。


 自身の骨が外れたのにも関わらず男は、銃を気にせずこちらに向かって構える。


 そして、明らかに人の眼光から放たれるものではない光を、その目に宿らせて男はフードの下からこちらを見つめた。


「……人、ではないのか?」


「いえ、変質したのでしょう。今、俺達の街ではこのようなことが起きている」


「態々人で有ると言うことを捨てるというのか。僕には、理解出来ない考えだね」


「……」


 無言で男は、銃の引き金を引く。


 しかし、発射された銃弾は、空中で浮いたまま止まった。


「そんな物でどうしようというのかね?」


 ベルゼビュートが笑う。


 だが、空中で静止した弾丸は、自ら弾けてその形状を変化させた。


「おう?」


「霊獣。やはり、俺達と同じ力を……」


 弾丸から溢れた魔力が、巨大な骨の馬に乗った骨の騎士を形作っていく。


 魔力で出来た巨大な太刀を振り上げ、その騎士はこちらに向かってビルの壁を削りながら突進してきた。





 

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