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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
7章 知識
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色香

「あ~~、笑った笑った。そんなつもりはなかったんだが、どうにも、他者の思惑を潰すというのは、気持ちがいいね。さて、何をこの子は知っていたのかな」


 ベルゼビュートは、男の体から抜き出した透明な靄のようなものを握る。


 そして面白くなさそうに顔を歪めた。


「ただの崇拝者か。これはこれで見るものもあるが、やはり自分で足掻こうとしない所には僕は面白みを感じないね。まして他者に自身の命を預けるなど……。ともかく、他に仲間はいないようだね。ここからの情報の持ち出しは阻止できたようだ」


「まことですか?」


「嘘をついてどうする。ま、この人間の記憶のみを頼っていうのならばだがね。一応、辺りを調べておくかい?」


「ええ」


「好きにしたまえ。僕は、彼がここにいた理由を聞きに行ってくるよ」


「……お任せ致します」


「ロギル君も来るかね?楽しいと思うぞ?」


 ベルゼビュートがロギルを見つめてそう言う。


 その顔は、何事もない表情をしていたがロギルは、その表情を見て首を横に振った。


「そうか、残念だよ。バアル君、行こうか」


「はい」


 ベルゼビュートは、上の階へと戻っていく。


 それを見送るとロギル達は、室内の見回りを始めた。


「異常はあったか?」


「いえ、どこも埃まみれで触れられた形跡すらございません」


「そうか。では、この場に結界を張る。準備をしろ」


「はっ!!」


 サブナック達が部屋の封鎖を試みる中、自身の出来ることを終えたロギルは、不本意ながら上の階に戻ることにした。


 受付フロアまで戻ると、一般客が座る座席にベルゼビュートが缶ジュース片手に座っていた。


 ロギルは、缶ジュースが何か分からなかったが特に気にすることなくベルゼビュートとバアルへと近づいていく。


 無視したほうがいいかもと一瞬ロギルは思ったが、そのほうが面倒なことになりそうだとロギルは思い、見かけた時点で近寄ることにした。


「やあ、ロギル君。来てくれて嬉しいよ。まぁ、座り給え」


 そう言ってベルゼビュートは、自身の隣の位置を叩く。


 しかしロギルは、少しベルゼビュートから距離を離して座った。


「照れているのかい?それは嬉しいね」


「どうでしたか、上の階の捜査は?」


 ベルゼビュートの話に付き合うことなくロギルは、単刀直入に聞く。


「もう少し会話を楽しんでも良くないかい?退屈なものだったよ。職員の全員が協力的でね。あっさりと彼を通す手引きをすることになってしまった女性職員が見つかってしまった。ま、彼女はそんなつもりはなかったようだがね」


「どうやってあの扉の中に?」


「あの扉には、ちょっとした魔術がかかっていてね。決められた者以外は、どうやっても開くことは出来ない。だが、扉であるのには違いがなくてね。密閉空間を作る為の特別な加工はされていないことから、隙間から紙などのような細いものを差し込むことは可能なんだよ」


「それ、いいんですか?」


「実は、あの扉の素材は加工が難しくてね。あの形にするのにもかなりの年月が必要だったんだ。おかげで壊れはしないが、そこまで複雑にはつくり込めていなくてだね。それに、認証系の魔術を既にかけているから辺りに違う魔法を設置するのにもリスクがあってだね」


「……直されたほうがいいですよ」


「ああ、そうかもね。気長に考えとくよ」


 言い終えるとベルゼビュートは、缶ジュースを飲み干す。


 そして振りかぶるとゴミ箱に向かって優しくカラの缶を投げた。見事に缶がゴミ箱に缶を収めるために開けられた穴の溝にはじかれて床に転がる。


「……」


 それを見てベルゼビュートは、居住まいを正すと魔法で缶を持ち上げて優しくゴミ箱に捨てた。


「おほん。ところで先程犯罪者達に協力した女性職員がいると言っただろ。彼女は、どうやら誘惑されてそうしてしまったようだ。あの扉の前には、行くのも禁止だからね。そこを直前まで案内を頼まれて通してしまったらしい。可愛らしいことだ」


「この事件の犯人達への協力者には、インキュバスがいると考えられます」


「インキュバス」


「君の連れているリリスと反対に位置する淫魔さ。女性に高印象を与え、尚且つ興奮させる。おっと、君の連れているリリスは、特殊な感じがするからちょっとこの喩えは違うかな」


 そう言ってベルゼビュートは、ロギルを見つめる。


 ロギルは、何も言わずにその視線に目線を合わせて返した。


「大したことがないとでも言うのかね。僕に連れの魔獣を当てられるのは、想定の範囲内だったということか。もっと君を驚かせたいのに、残念だね」


「しかし、面白いですね。リリスを連れていながら、男性である貴方は生きている。その秘密、お聞かせいただいてもよろしいですか?」


 バアルがわざわざロギルの耳元に口を寄せてそう囁いた。


 その言葉にベルゼビュートは、顔を横に振る。


「余り秘密を軽率に聞こうとしてはいけないよ、バアル君。我々は、堕天使だ。聞くなら、それ相応に見合った誠意を示さねばならない」


「それもそうですね。では、お話いただければ、私が一度貴方をお助け致しましょう。それでいかがですか?」


「……何から?」


「貴方がそれを決めるのです。貴方自身の欲望からか、もしくは、誰かの為か。どのようにでも構いませんよ」


「君の選択肢によっては、バアル君が君の子供を孕むことさえあるということだ。もっとも君は、興味がないだろうけれどもね」


「……ベルゼビュートさんは?」


「いいね。僕からも交渉材料を引き出すその心持ちは、実に刺激的だ。少し熱くなってしまうよ。いいだろう。僕も君を助けようじゃないか。もしかしてだが、バアル君よりも僕の方が好みなのかね?それはそれで、面白い話じゃないか」


「……サキュバスの時から一緒にいる。それだけですよ」


 ロギルは、気にせずにそう言う。


 それを聞くとベルゼビュート達は、少し考える素振りを見せた。


「なるほど。それで君を殺さなくて済むように成長したと。面白いな。そういう有様になれるのか」


「精気を吸うことに特化したリリスが。面白い話ですね」


「いいねぇ。レアな事例というのは、見聞きすることはあっても目の当たりにする機会は少ない。君との出会いは、貴重でいいねぇ」


「ええ、そうですね」


「……良かったよ。今回のことを任されたのが僕で。君を、アスモデウス君が見たら、それはもう酷かっただろうね」


「あの方達なら、ロギルさんを自身の庇護下の置こうとするかもしれませんね。一生」


「違いない」


 そう言ってベルゼビュートは、笑う。


「さて、そろそろ下の封鎖も終わるだろう。では、次に行くとしようか」


「そうですね」


 ベルゼビュートとバアルが立ち上がる。それに合わせて、ロギルも席を立った。


「どこにインキュバスが居るのか分かるんですか?」


「君達性別のある者にとってフェロモンとは、面白いものでね。異性の者であればとても香しいものなのだけれど、同性の者であればそれはそれは、不快なのものであるらしい。まぁ、単純に匂いだからね。臭いと感じれば臭いものさ。それで我々性別のないものにとってはだけれどね」


 ベルゼビュートは、自身の鼻を押さえる。


「とても酷い。まるで香水の原液を撒き散らしたかのようだ。それに魔力も乗っているものだから余程時間が経たない限り彼等の行き先を見間違うことなどないよ」


「サブナック達の準備も整ったようです。では、参りましょうか」


「ああ、そうだね。行こう」


 そのままベルゼビュート達は、外へと出ていく。その後を、ロギルは肩をすくめてからついて行った。



 

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