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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
7章 知識
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 騒がしく興奮した声が上がる道を移動する。


 よくここまでこの時間に魔獣達が騒げるものだとロギルは思ったが、ベルゼビュート達は、普通のことであるように気にせず椅子に座って休んでいた。


 途中、何かを弾いたような音をさせながら馬車は、博物館へと到着する。


 もう遅い時間であるはずだが、博物館は時間の経過など感じさせない程の魔獣達で賑わっていた。


「ふむ。そういえば、晩ご飯を食べていないね。ロギル君どうだね、そこのレストランで食事でも?」


「いえ、今は目的の物を見つけましょう。食事は、その後にでも」


「そうか。ロギル君は、せっかちだね。少し遅れて面白いことになる方がいい気が僕はするのだが。まぁ、そう言うなら仕方ないな。食事は、後で我が家でご馳走するとしよう」


 その言葉を聴き終えるとロギルは、サブノックに肩を叩かれる。


 何も言わずサブノックは、その首をひたすらに横に振った。


 それだけでロギルは、何かしら理由をつけて断ろうと固く心の中で誓った。


「君、ベヒモスに関連のある展示品を全て押さえてくれたまえ。表にあるものは、大したものではないだろうから、地下にあるもの優先で頼むよ」


 この博物館にも地下があるのかとロギルは、思う。


 表から見ただけでもこの博物館の作りは巨大であり、上にも何階あるのか分からないほどの作りであった。


 しかし、それ程の大きさがあるのにも関わらず博物館は、地下へと続く道がある。


 厳重に固く閉じられた扉。その扉の前にベルゼビュートの後に続いてロギル達は、移動するとその扉がベルゼビュートのちょっとした指先の力で押されただけで開くのを見た。


 僅かな力であったように見えたが、扉は勢いよく開け放たれる。


 そして、そこには地下へと続く暗闇に飲まれた階段が存在していた。


「埃まみれで結構。誰も最近は来ていないようだね」


「そのようですね」


 バアルが辺りを魔法で照らす。


 臆することなくベルゼビュートは、埃にまみれた階段を踏みしめて進んでいった。


 そのあとを、ロギル達も追う。


「ところでロギル君。我々には、性別がない。それは何故か分かるかね?」


「いえ、分かりません」


「なかなか正直だね。正解は、作られてないからさ。元からね。先祖からして神の為の道具としてしか作られていないからね。繁殖することを目的としていないんだよ。繁殖もそもそも神が決めた自身と違う個体を生み出すための行為でしかないけどね。性別も、壁を作ることである程度の繁殖の制御をしようと神がした結果だけれども、それらが生物にとっては大昔に作られた根源的ルールに当たるせいで弱点という形で表現されることも多い」


「はぁ……」


「何せ、神程の不滅性を持っている生物などそうそういないからね。自身の遺伝子を後世に残すには、繁殖するしかないわけだ。よって繁殖という行為は、生物であるのならば当然の優先目的であると言える。それが刺激されれば、抗うことは難しい。頭で分かっていてもね」


「そう、ですかね?」


「ああ。極度の興奮状態というものは存在するんだよ。ただ、それにも慣れる事は出来る。慣れるまでが大変だというわけだ。依存という言葉もあるから、それに落ちてしまうこともあり得るがね。最初に与えられた極度の自身が感じた興奮状態には、抗うことは難しいだろう。ここが混乱するからね」


 そう言ってベルゼビュートは、頭を指さす。


「だが、我々には性的興奮が存在しない。性別がないからだ。しかし、僕はここに存在するんだよ。どういうことか分かるかね?」


「繁殖する手段を得た。ということですか?」


「物分りがいいね。その通りだよ。我々は、性別を手に入れる手段を得たんだ。しかしながら、生まれながらに性別があるわけではない。子孫を残すのに必要なはずの性別を、我々は繁殖という手段を得たのにも関わらず子孫に備えることはなかった。それは、先も言ったとおり性別が弱点になり得るからだ」


「なるほど」


「あの神々ですら、性別という括りには囚われていた時期があってね。いや、大抵のことができてしまうからそうなったというべきか。自分の決めたルールを確かめるというか、楽しんでいたというのか。ともかく、備えることのデメリットが大きかったせいだろう。しかも、長い歴史で性的興奮を武器とする者も生まれるほどであったからね。性別というものがどれほど生物にって大切であり、脆い部分か君になら分かるだろう」


「……そう、かもしれないですね」


「そこを考えるに、君の前では、どちらの性別を持っていても脅威になりかねないと僕は思うのだが、どうかね?」


 ベルゼビュートは、そう言ってロギルの目を真っ直ぐに見つめる。


「……俺は、性別を武器に相手の尊厳を奪おうとは思いません。俺が相手にするのは、命を弄ぼうとする奴らばかりです。相手が命を奪おうとするのならば、俺も……」


「命を奪うことで結果を決めるということか。なるほど。合理的であり、容赦のない判断だ。死神といってもいい。だが、敬意を払うことが出来るのはいいことだよ。生きる上で大切なことだからね。生きることに敬意を持つのは」


 視線を外すとまたベルゼビュートは、階段を下りていく。


 その後を付いていこうとロギルが階段を下りようとしたが、バアルの顔が目に入り、その顔は僅かに笑っていた。


「邪魔する者の命を奪うという発言。今、この場でしたこと。大変面白いと思います」


 そう言うとバアルは、笑みを浮かべたまま下へと降りていった。


 その笑顔に、何か背筋が寒くなるものを感じたが、何事もなかったかのようにロギルは下へと降りていく。


「ふむ」


 ベルゼビュートは、降りながら首をかしげる。


 その意味が分からないまま、ロギル達は目的の階層へとたどり着いた。


「……一目瞭然だね」


 その言葉に、ロギルがたどり着いた階層の床を見ると、所々埃のつもりにばらつきがあるのを確認できる。


 そのばらつきは、繋がって一本の細い線のようになっていた。


「小動物がこの中に偶然紛れた、など、流石に有り得まい」


 ベルゼビュートの眼が赤く光る。


 すると、階層の奥から一匹のねずみが空中を漂って何かに掴まれているかのようにこちらへと飛んできた。


「哀れだね。気を引く相手を、君は間違えたんだ」


 ねずみの姿が、変わっていく。何かに掴まれたままねずみは、その姿を大きく変化させると人の姿へとその形を変えた。


「さて、聞くべきことを聞くのもいいが、生憎とこちらは急いでいるものでね。ここで僕と会えたのが君の運命ということだろう」


 ベルゼビュートは、近づかずに腕を前に出して握り締めると、空中で何かに体を掴まれている人間の男の体から、何かが搾り出されて口から湧き出してきた。


「迷惑料に、記憶と命を貰おうかな。それで君のことは許そう。その苦しみも直ぐに終わるさ。怯えることはない」


 男の体が断末魔の叫びとともに潰れていく。その顔を見ながらベルゼビュートは、満たされているかのような笑みを浮かべた。


「おやすみ」


 血を撒き散らして男の体が潰れる。


 その光景を見てベルゼビュートは、心底楽しそうに笑った。


「……おっと、いけないけない。命には、敬意を持たなくてはね。こんなにも簡単に無くなってしまうんだ。大切にしないとね」


 笑顔を浮かべたままベルゼビュートは、そう言う。


 その顔を、ロギルは無言で見つめていた。





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