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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
1章 肉体
5/76

初めての任務

「では、本日の集会は以上とします。集会は毎週金曜日、同じ時間に行いますので忘れないように」


 リオーシュの言葉に、全員が無言で頷いた。


「それでは、本日は解散にいたします。サモナー、貴方だけ少し残ってください。任務内容の説明を行います」

「分かった」


 他の面々が、隠し扉を開いて引き上げていく。そして、集会所に俺とリオーシュのみが残った。


「では、説明をしましょう」

「ああ」


 リオーシュが、水晶を触って映像を映し出す。それは、この街の地図だった。


「任務内容は、周辺で起こっている誘拐事件の調査をすることです」

「誘拐事件?」

「ええ。被害者達に規則性はなく、また、犯人の潜伏地域も絞り込めていない、とても厄介な事件よ。この地図上の点が、被害にあったと思われる住民が住んでいる地域」

「バラバラだな」

「そう。この街もかなりの広さがあるというのに、そのほぼ全域で行方不明者が出ている。行方不明者の家族や友人たちによれば、どの人々も行方不明になるような理由、動機を持っていなかったらしいわ」

「なるほど」

「そして、何故私達がこの任務をするのか。警護の兵士ではなく。何故、我々が誘拐事件を調査するのか。それには理由があるの」

「というと?」

「先日、我が学園の生徒が3名、行方不明になったわ」


 リオーシュはそう言うと、水晶を触る。すると、3人の女生徒の顔写真が浮かび上がった。


「一人は、リータ・セブロス。赤い髪に、褐色肌が特徴の生徒。正義感が強く、親しみやすい性格で、生徒たちの間では人気の高い生徒らしいわね」

(姉御肌って感じの顔をしているな)

「次に、ドレッド・スクリバ。茶髪で、オールバックの髪型。フリアという生徒と一緒に行動している事が多く、その他の人物とのコミュニケーションは少ない生徒だったみたい。授業を無断欠席することも多く、素行が良いとは言えなかったみたいね」

「いわゆる不良生徒というやつか」

「最後に、フリア・レギルス。さっきのドレッドとよく一緒にいた生徒ね。以上よ」


 リオーシュは、水晶を触って映像を消した。


「この3名の行方不明者発見。これが今回の任務の内容。何か質問はある?」

「……手掛かりは、何かないのか?」

「一応、手を打っておいたわ。リータ・ゼブロス。彼女の友人に明日の放課後、話を聞くことになってる。それを貴方に聞いてもらうわ。そこから、手掛かりを探してちょうだい」

「他には?」

「ドレッドとフリアの2人は、何か怪しい物を持っていたという生徒たちの証言・噂のようなものが有るわね。もしそれが分かれば、手掛かりになるかも」

「……分かった。明日の放課後から動こう」

「そうしてもらえる。私は、アーチャーの書類を見るから、女生徒との話し合いが終わったら、私の所に報告に来てちょうだい。単独行動は、出来るだけやめましょう。チームなんだし」

「分かった」

「じゃ、本日は解散ということで」


 リオーシュは、席を立って隠し扉を開ける。それに合わせてロギルも、席から立ち上がった。


「あ、そうだ」

「ん?」

「貴方の仕事、明日紹介するわ。まずは、明日の朝9時に体育館に来てくれる。青色の屋根の建物よ。あの作業用の服を着てね」

「了解した」

「それじゃあ、また明日。おやすみ」

「ああ」


 そう言うと、リオーシュは隠し扉を締めて出ていった。


「俺も戻るか」


 最後に、ロギルが部屋を出ていく。すると、部屋の照明が消え、集会場は闇に包まれた。


「自動照明か。……つくづくこっちの街は、俺の住んでいた村とは違うなぁ。はぁ……」


 ロギルは、ため息を吐いて隠し扉を締め、部屋に戻っていった。


 部屋に戻ったロギルは、明日の準備を整える。着ていく服を、寝る前に机の上に綺麗に畳んで置いて、最低限のお金を入れた財布も同様に机の上に置いた。


「そういえば、まだ見てない部屋があるな」


 ロギルは、自分の家の部屋を見て回る。一応、各部屋には注意書きのようなものがされており、ロギルにもどんな部屋か分かるようにされていた。


「水とお湯が出る部屋。体を洗えます。蛇口をひねる?蛇口ってなんだ。これか?」


 ロギルは、それらしい所に軽く力を入れてひねって回す。すると、三度目には蛇口に到達し、その蛇口がひねられた。すると、壁にかけられていたシャワーヘッドから、ロギル目掛けて水が噴射される。


「ぶっ!?」


 頭から、ロギルは水を浴びた。しかし、まだローブを着たままだったので、体は濡れていない。ロギルは、落ち着いて蛇口を締めると、水を完全に弾いたローブを脱ぎ、部屋のベッドの柱の一本にかけて干した。


「……タオルとか、あったけ」

「棚に入ってたよ」


 ソフィーに言われて、棚からロギルはタオルを取り出す。そして、シャワー室へと戻っていった。その後を、ソフィーが当たり前のようについていく。シャワー室手前の脱衣所に入ると、ソフィーは、そっとシャワー室前の扉を締めた。


「……あああああああああぁぁぁぁ~~~~~!!!!」


 シャワー室に、ロギルの悲鳴がこだまする。シャワー室前の扉を勢いよく開けるとロギルは、その場に足を滑らせて倒れ伏した。


「もう、逃げなくてもいいのに~」

「お前、何やってんだよ!!直に肌同士で直接サキュバスと触れ合うとか、自殺行為過ぎるんだよ!!やめろよ!!やめろよ!!」

「大丈夫。死にはしないって。ちょっと、痺れるだけだから」

「よせ、やめろ!!」

「……でもさぁ、慣れておいたほうが良いんじゃない?相手が、こんな攻撃をしてくるかもよ?」

「いや、その時は触れずに殺せばいいし」

「そう上手くいくかなぁ~。少しでも、刺激に耐性が合ったほうが良いと思うけど?」

「そう言いながら、のしかかってくるのをやめろ!!」


 ロギルは、匍匐前進して何とか逃れようと進む。だが、体に力が入らないのか動きが鈍い。すぐに、ソフィーに捕まってしまった。


「ふふっ。これも、修行ってことで~」

「ダンタリオン先生は、そんな修行させない!!」

「どうかなぁ~。そうかも?」

「あ、ちょっ……」


 ソフィーの肌が近づいていく。タオル一枚隔てて押し付けられたその肉体の感触に、ロギルの肉体は、既に抵抗できなくなっていた。


 それから数時間後。やっとロギルの肉体は、その身を痺れさせながらも、動くことが出来るまでに回復した。


「全開状態の肉体でもこれとは。サキュバス、恐るべし」

「ね。やっぱ、慣らしていったほうが良いよ」

「慣れるのか、これ?」

「慣れるって。そしたら、徐々にステップアップしていって……。ふふっ」

「しかし、毎回身動きさえ取れない状態で水浴びするのはちょっと……」

「大丈夫。私、苦じゃないから!!ご主人様の体を洗ってあげるの!!」

「そういう問題じゃなくてだなぁ……。はぁ……、良いから寝るぞ。明日から仕事だ」

「は~い」


 一つのベッドに2人は寄り添って倒れ、そしてそのまま眠気に任せて眠った。


「……」


 夢を見ている。いつも見る夢だ。飛び散る鮮血。響き渡る悲鳴。見知った顔から、命が消えていく絶望。それを、ロギルは眺めている。体を動かして、目の前の光景を止めようとロギルはする。しかし、体が動かない。ドス黒いモヤのような物が体に纏わり付き、ロギルの動きを止めていた。その光景の中で、一人の男が笑っている。銃を持った男だ。魔物を引き連れ、奴は銃を持っている。そして、奴が銃の引き金を引く度に、誰かが倒れて、新たな魔物がその場に姿を現していた。


「殺す、殺す!!!!」


 ロギルは叫ぶ。その男は、ロギルを見ると、彼をあざ笑うように笑った。ロギルは、次第に黒いモヤに飲み込まれて、意識を失った。 


「……」


 目覚めだ。時刻は朝の5時。寝ているソフィーを残し、ロギルは水浴びをする。体を拭き、用意した服装に着替えると、ロギルは体を動かして雑念を払うことにした。怒りに身を任せて体を動かす。それを研ぎ澄まし、無駄のない動きに変えていく。一通り体を動かすと、ロギルの精神は落ち着いていた。


「仕事だな」


 体育館の場所を確認して、ロギルは呟く。その後、家の調理場で元から持っていた食材を調理して、朝ごはんを作った。ソフィーを起こすと、共にテーブルに座って食事を行う。約束の時間の30分前になると、ロギルは身なりをただし、体育館へと向かった。


「少し、早すぎたか」


 体育館には誰も来ていない。音一つ聞こえず、空気が澄み渡っている。そんな中で、見知った顔が近づいてくるのを、ロギルは遠目に確認した。


「おはよう、ロギル先生」

「校長、おはようございます」


 やって来たのは、リオーシュだった。彼女はスーツに身を包んでいる。今まで持っていたコートを、彼女は今日は着ていない。身だしなみを整えた彼女の姿に、初めてあった時のような暴力的な印象は受けず、女性らしいとロギルは感じた。


「早く来たわね。いい心がけよ」

「ありがとうございます。ところで、ここで何をするのですか?」

「今日は、新任の先生方を生徒に紹介するの。そのための集会ね。貴方にも学校行事に参加してもらうことになるかもしれないから、今日はその練習も兼ねてるの。と言っても、特定の位置で話を聞いていればいい。その位置を覚えるだけね」

「そうですか」

「……何か、質問は有る?」

「……何故、ロギル先生なのでしょうか?俺は、用務員のはずでは?」

「ああ、それね。貴方は相談係だって言ったでしょ。役職的には用務員だけど、貴方は、色んな人々の問題を解決する助っ人ってわけ。そんな人を、呼び捨てにする?先生でいいでしょ。困っている人を助ける先生。う~ん、素晴らしい」

「は、はぁ……」

(やっぱり、ロギル先生だね!!)

「……」


 嬉しそうに言うソフィーの言葉に、ロギルは押し黙った。


「貴方が座るスペースはここ。ここの座席のどれでもいいわ。しれっと、一緒に座ってなさい。その服装なら、大丈夫でしょう」

「はい」

「……にしても、まだ時間が有るわね。そうだ。あそこ、行っときましょうか」

「あそこ?」

「貴方の仕事場よ」


 そう言うと、リオーシュは歩きだす。その後に続いて、ロギルは移動を始めた。リオーシュは、迷いなく建物へと移動する。それは、ロギルの家が有る建物であった。


「一階の、一番奥の壁の方」

「お悩み相談室?」

「そう。ここが、貴方の仕事場」


 リオーシュが、ドアを開けて入室する。中を見ると、椅子が何個か置かれており、事務机と長机。本棚に、色々な知識学の書籍が置かれていた。


「どう?」

「どうと言われましても」

「あ、これ。相談中の札。内緒話なんかをする時は、これを扉のフックにかけて鍵をかけること。よろしい?あ、不在の時はこっちね。それと、この部屋の鍵はこれ。なくさないように」

「はぁ……」

「構内に、今日からこの相談室が開くという張り紙もしてあります。貴方は、何か用事がなければ、食事以外はここに居てください。ここにいる時間は、朝の9時から、夕方の6時まで。時間になったら鍵を締めて、この相談室は閉鎖すること。良いですね?」

「はい」

「宜しい。あ、土日はやらなくていいです。休んでください」

「はい」

「そして、先日話した相談者、リータ・ゼブロスの友人が、放課後にここに来ます。忘れずに対応するように」

「分かりました」

「結構。では、集会に行きましょうか」


 ロギル達は、一度戻って体育館に移動する。そこで集まっていた職員達に混ざって、ロギルは新任教師の就任式を見た。


 新たに増える教師は5人。一人は、魔学教師。背の低い、分厚い眼鏡をつけていて、どこかおっとりした性格の女性だった。後、胸がとてもでかい。


 その次に、体育関係の教師が2人。一人は体格のいい女性教師。もう一人は爽やかな男性教師だった。2人共、人並み以上には鍛えているようにロギルは感じた。特に男性教師の方は、ふらつかず、歩きがしっかりしているとロギルは感じた。


 文学の教師が一人。メガネを掛けた、優しそうな男性だった。彼の自己紹介のときだけ、女生徒が嬉しそうにざわついていた。


 そして最後に、科学教師が一人。彼は不自然なほどに鍛えており、勉強にも体力が必要だと熱弁していた。ちなみに、趣味は筋トレらしい。


「以上が、本日から来られる新任の先生方です。皆さん、新たに来られた先生方を拍手で迎えましょう。拍手」


 リオーシュの声に合わせて、生徒たちが拍手をする。それに合わせて、職員たちもやっていたので、ロギルもそれに合わせて適当に拍手をしておいた。


「さて、最後に教師の皆さんの他に、もう一人、我が校で働かれる先生をご紹介しましょう。ロギル・グレイラッド先生。こちらにお願いします」

「!?」


 リオーシュが、壇上でウインクする。ロギルは、内心嫌がりながらも姿勢を正すと、椅子から立ち上がり、建物の端側を通って壇上に上がった。


「こちらが、本日から来られたロギル・グレイラッド先生です。先生には、我が校初の相談室で働いてもらいます。相談室では、個人的な悩みから、家族の悩み。学校問題から、精神的ケア。心の支えが欲しい生徒や職員の皆様のために設置された場所です。学年、性別、職業問わず。ロギル先生に相談が有るという方。誰でも、是非ともお立ち寄りください」

(なんだか、凄いめんどくさそうな物を押し付けられそうな触れ込みだなぁ……)


 ロギルは、心の中でリオーシュに向かって溜息を付いた。


「ではロギル先生、生徒たちにご挨拶をお願いします」

「……あ~、本日から相談室で働かせていただくことになりました、ロギル・グレイラッドです。このような仕事をするのは初めてなのですが、できるだけ皆さんのお役に立てればいいなと思います。易しい内容から、難しい内容まで、解決できるかはともかくとして、私が出来るだけ力にならせていただこうと思います。何かありましたら、気軽にご相談ください」

「素晴らしい挨拶です。ロギル先生、ありがとうございました。では、お戻りください。なお、ロギル先生には、用務員としても働いていただきます。相談室にいない場合もありますので、その時は、再度相談室を訪れてください」

「……」


 その後、滞りなく就任式は閉幕した。


「……相談室に行くか」

「ロギル先生、見事な挨拶だったわね」


 移動しようとしたロギルに、リオーシュが声をかけてきた。


「校長も人が悪い。事前に言ってくださいよ」

「ごめんなさい。忘れてたわ」


 リオーシュは、悪びれる様子もなくそう言う。


「改めて、我が学園にようこそ」

「はぁ~、宜しくおねがいします」


 ロギルは、リオーシュに軽く礼をすると、相談室に移動した。


「ま、相談と言っても、人には話しづらいことが大半だろう。相談室がありますよと言って回ったところで、今日は誰も来ないだろうな。例の生徒が来る放課後まで待つのか。暇だなぁ……」


 ロギルは、そう言いながら相談室に有る本の背表紙を見てみた。対人関係の礼儀。相互コミュニケーションの勘違い。などなど、ロギル的には読書意欲をそそられない本が並んでいた。だが、暇なので適当に読もうと、ロギルは本に手をかける。すると、相談室のドアが開いた。


「ロギルせんせ~い!!聞いてくれよ~!!私さ~、勉強が嫌なんだよ~!!」


 そう言って、一人の女生徒が入ってきた。若干泣きながら。よく見ると、その女生徒はロギルが昨日目が合った女生徒であった。白い髪を靡かせて、彼女は勢いよく椅子に座る。そしてそのまま、長机に突っ伏した。


「お~いおいおい。勉強なんてクソだよ~。やり方が分かんないよ~」

「……えっと、取り敢えず、自己紹介してもらえるかな?」


 ロギルがそう言うと、彼女は涙を拭いて顔を上げた。


「アマナ。アマナ・セルテド」

「えっと、アマナさんでいいかな?アマナさんは、それでどうしたいんだい?」

「やめたい!!勉学反対!!!!」


  迷いなく、彼女はそういう。


「じゃあ、他にやりたいことは有るのかな。勉強以外で」

「えっとねぇ~、私、運動が得意だから、体を動かす仕事がしたい。用務員とか、私に合ってる気がする。雑用、素敵」

「なるほどねぇ。じゃあ、校長に言ってみたらどうかなぁ。卒業までに雇用契約を取れれば、勉強なんてしなくてもいいじゃないか。それでどうだい?」

「なるほど。頭いいな、ロギル先生!!」

「ははは、そうかなぁ~」

「でも、卒業まで待つの面倒くさい。今すぐ移りたい。あの校長、意地悪だ」

「校長先生に、何か言われたのかい?」

「用務員が良いですって、来た時に言ったんだ。そしたら、話を聞かずに入学させられたんだ。酷い。師匠に、お前は用務員のほうが良い。他は向いてないって言われたから言ったのに。こんなの、拷問だ。訴えたい」

「……あまりそういうことは、人には言っちゃいけないって校長に言われなかったかな。アマナさん」

「ん?校長が、ロギル先生になら良いって言ってた。だから来た。駄目だったか?」

「あ~、なら良いよ。だけど、他の生徒がいたら言っちゃいけないよ」

「は~い」


 そう言って、アマナは机に突っ伏した。


「眠い。寝ていい?」

「駄目だよ。まだ授業が有るだろ。出席だけ、しとけばいいんじゃないかな」

「う~ん、昨日も遅くまで書類書いてて眠いんだ。許して。勘弁して」

「……」


 そう言うと、アマナは寝息を立て始めた。


「こういう時、どうすればいいんだ?う~ん、机に何か無いかな」


 ロギルが、机に置かれている書類を調べる。すると、相談室のマニュアルと書かれた書類が出てきた。


「えっと、精神的に疲れている生徒は、休ませてあげること。無理はさせない、か」


 ロギルは、寝ているアマナを見つめる。


「ま、良いか」


 ロギルは、アマナをそのままにして、本を読むことにした。数時間たち、お昼の時間を告げる鐘が鳴る。その音と同時に、アマナは飛び起きた。


「うおおおお!!飯だ~~!!」

「元気出たかな?」

「うん。元気出たよ、ロギル先生!!ありがとう!!」

「うん。午後から授業、頑張ってね」

「は~~い」


 去ろうとするアマナの背中、その背中を見て、ロギルはあることを思いつく。


「あ、アマナさん」

「ん、なに?」

「ちょっと、頼みが有るんだけど」


 そう言って、アマナにお金を渡すこと数分後。アマナがお釣りと共に、とある物を持って帰ってきた。


「はい、お釣りと服」

「ありがとう」

「そんなの、どうするの?」

「知り合いが欲しいって言っててね」

「ふ~ん、変わった人だね。じゃあね」


 そう言って、アマナは再び出ていった。


「……買ってもらったぞ」


 ロギルは、相談室の鍵を締めて服の包装を破く。それは、女生徒用の学生服であった。


「で、私に着替えろと」


 その服を、出てきたソフィーが手に取る。


「これなら、ここにいても怪しまれないだろ」

「確かに。ロギル先生は、頭がいいね」

「よせ、いらないなら捨てるぞ」

「うううん、着る着る!!せっかく、ロギル先生がくれた服だもん。大切にするね!!」


 そう言うと、ソフィーはロギルの目の前で着替え始めた。その間、ロギルはソフィーから目をそらす。音がやんでロギルが目線を向けると、人間に擬態して、制服を着たソフィーが立っていた。


「どうかな、ロギル先生?」

「ああ、完璧だ。どう見ても、一般の生徒にしか見えない」


 そう言うロギルに、ソフィーは抱きついて、耳元に口を寄せる。


「興奮しちゃう?」

「しない」


 ソフィーに抱きつかれたまま、ロギルは部屋の鍵を開ける。そして、ソフィーを持ち上げると、床に着地させた。


「飯を食いに行くぞ、ソフィー君」

「はい、ロギル先生!!」


 部屋から出て相談室の鍵を締め、2人は食堂へと向かった。


 食堂には、昨日と同じメニューの他にも、日替わりするランチがある。それを、2人は同じ席で食べて、相談室へと戻ってきた。最初のアマナ以降、その日の相談室は人の出入りがなかった。ソフィーとお喋りをしながら、ロギルは時間が過ぎるのを待つ。そして、学校の授業終了を知らせる鐘が鳴り響いた後、ロギルはソフィーを内へと戻し、情報提供者の相談者が来るのを待った。そして、数分後。


「あ、あの」


 気弱そうな女生徒が、相談室に入ってきた。


「ん。まぁ、座って」


 ロギルは、彼女に椅子に座るように言う。そして、立ち上がると相談室前の扉に相談中の札を掛けて、扉の鍵を締めた。


「で、校長先生が言っていた相談者っていうのは、君かな?」

「は、はい!!セシル・メロといいます」


 セシルは、とても真面目そうに見えた。きっちりと髪は束ねて後ろで結んでおり、清潔感が感じられる。そして、分厚いレンズのメガネをしており、どこか挙動不審な感じでロギルを見ていた。


「……」


 ロギルは、セシルを見つめる。数秒後、話し始めた。


「リータって子の友人なんだって?それで、彼女が見つからなくて困ってると?」

「はい。リータは、私の友人なんです。それで、学校もサボったこと無くて、すごく真面目で。なのに、あの日から来なくなっちゃって。私、最初は病気かなって思ったんです。でも、寮にも帰っていないみたいで。私……」

「それは心配だね。何か、彼女がいなくなる前に何をしようとしてたとか、手掛かりになるようなことを知らないかな?小さなことでも良いんだ」

「えっと、確か、ドレッドとフリアって生徒がいるんですけど。その2人から、何か相談を受けていました。その内容までは分からないんですけど、何か薬のようなものを、2人はリータに言われて捨てていました」

「薬かぁ……」


 ロギルは、セシルの言葉をメモしながら、彼女の言葉に相槌を打つ。


「その薬の特徴は?」

「えっと、白かったかな。それで、粉末状でした。こう、紙で包んでありまして。よく分かんないですけど、そんな感じです」

「なるほど。セシルさんは、その薬の詳細に覚えはないんだね?」

「はい。残念ながら」

「……そうか。最後に、彼女がいなくなってから今、何日経ってる?」

「……3日です」

「そうか。その間に、街の兵士からの連絡はなかった?」

「いえ、何も。一度話を聞いてくれただけで、それ以降はなにも」

「……あまり、時間はなさそうかな」


  ロギルは、椅子から立ち上がる。描いたメモを持つと、部屋の扉を開けた。


「俺はこれから、リータさんを探しに行くよ。君は帰りなさい」

「い、いえ。なら、私も行きます!!リータは、私の大切な友人なんです!!協力させてください!!」

「……分かった。じゃあ、校門の前で待っていてくれるかな。準備してくるから」

「はい!!」


 セシルは、荷物を持って相談室から出ていく。それを見届けると、ロギルは校長室へと向かうことにした。


「確か、この辺だったか?」


 それは、食堂に行く道すがら散策して周った校舎の一階。そこに、校長室と書かれた赤い表札がついている部屋があった。ロギルは、その扉をノックする。


「入っていいわよ」

「失礼します」


 リオーシュに招かれて、ロギルは入室する。すると、室内の立派な椅子にリオーシュが座っていた。書類と、にらめっこをしながら。


「アマナは、もう帰ったのか?」

「あら、知ってたの。アーチャーのこと」

「俺のところに来たぞ」

「そう。ま、アマナはストレスが溜まりやすいみたいだから、色々と発散に付き合ってあげて」

「分かった。それと、外出をしたい。戻りはいつになるか分からない。あと、生徒を一人連れて行く」

「随分勝手な通達ね。その書類、見せて」

「ああ」


 ロギルは、先程のメモを渡した。


「なるほど。あまり時間はなさそうってわけ」

「そうだ。生きているうちに発見するのなら、今出るほうが良い」

「……分かったわ。外出許可を出しましょう。その生徒も一緒に」

「ありがとう」

「あと」

「?」

「私も行くわ。学校長としてね」

「良いのか、そっちの書類」

「ええ、まぁ。大したことない内容だし、明日適当に決めるわ。デスクワークばかりで気が滅入ってたし、丁度いい。後で合流しましょう。校門でね」

「了解した」


 ロギルは、自身の家へと移動する。そして、スーツに着替えてコートを羽織、帽子をかぶると校門へと移動した。


「あ、ロギル先生!!」


 校門には、セシルが待っていた。そして、同じタイミングで黒いコートを羽織ったリオーシュが現れる。彼女も帽子をかぶって、スーツを着ていた。


「えっと、校長先生?」

「そっ。じゃあ、行きましょうか。生徒を連れ戻しにね」

「上手く発見できたら、ですけどね」


 ロギルとリオーシュが、先頭に立って歩き出す。その後ろを、セシルが恐る恐るついていった。



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