製造
学校の地下室で普通では、有り得ないような音が響く。
近代に入って魔法という人々が性質も分からずに使っていた物は、今では研究が進み学問としての一分野として世間に認知されるまでになった。
これにより、様々な人々が魔法に興味を持ち始める。
自分でも使えるのか。簡単に扱えるのか。使えたら便利なのか。その疑問、全てにいい返事を魔法ならば返すことができる。
しかし、その道の最奥を覗くことは、未だ人類でもできておらず誰もなし得ていない。
いや、成そうとしないのだろう。そのあまりの万能さ。その恐ろしさ故に。
「アハハハハ!!!!これですよ!!やはり、魔法は最高です!!」
「テンション上がってるなぁ」
「いや、有り得ないだろ。この速度でこの大きさの製品を作るって」
「なぁ。急造とは言えな」
魔学。それは、人々を豊かにし、新たな実りある生活を送らせるための学問。
だが、その深淵を覗けば、使用用途は其れだけにあらず。
世界を破滅。作り直すことすら可能とする。まさに悪魔の学問。しかし、それでもなお魔学は、禁止されない。国に規制されない。なぜならば。
「やはり、製造魔法陣はいいものですね。ミスすらなく、一度完成させれば次々に素材を消費して物が出来ていく!!」
その生産性において魔法は、機械を完璧に凌駕するのだから。
「いいですよ。今日のマジックアイテムもいい出来です。さぁ、このマジックアイテムで、敵の計画を潰してあげましょう」
紫の光を放っている魔法陣が、その光の中に周囲に配置された箱の中にある素材を吸い込んで一個の製品を生み出している。それは、長いチューブパイプ。その先端が光の中から出てきては、徐々に伸びて行っている。
それは、レシアがこの製品を作ろうと思ってから三時間も経っていない間に行われている生産であった。
なのにもかかわらず、その出来は一般向けに作られているのかと見紛うほど綺麗で、試作品とも初めて見た人ならば気づけもしないだろう出来をしていた。
これが魔学が国で規制されない理由である。この生産性は、国の経済を圧倒的に回す。
そして文明を、一日ごとに進化させていく。
「アハハハハ!!!!」
「レシアさん、楽しそうだな。武器開発部に顔出してくれないかな。頼もしすぎるんだけど」
「バカいえ。レギオンだぞ。俺達よりも頼りになるのは確かだが、彼女には武器開発よりも世間を救ってもらわないと困る。俺達がぬくぬく開発だけするのにも、明日まで命がなければ意味ないしな」
「そうだな」
「惜しいがな」
「惜しいけどな」
嬉しそうにチュープパイプをチェックするレシアを見ながら、職員達は溜息を吐いた。
その状況は一晩続き、そして夜が明ける。
「出来ました」
「そう。じゃあ、始めましょうか」
週の休みが明けて学校が始まる。しかし、その中にロギル達の姿はなかった。
「全部積めたわね」
「ポイントは、こちらからでお願いいたします。他の部品は、既に職員たちが各所に運んで手配済みです」
「そう。なら、私達も行きましょうか」
「ああ」
「うむ」
車の後ろの席にロギルとアマナが座りながら答える。リオーシュとレシアも車に乗り込むと、目標のポイント目指して車を発進させた。
「ノーマン先生とレドリア先生には、連絡ついてる?」
「ああ。確認済みだ。もう職員達の護衛に入ってる」
「なら安心ね」
「我々が行くのは、ここ。本当にここから近い距離。街の中心部です。ここの下水道から全てを仕掛けます」
「頼むわよ。一歩間違えたら、街が大変なことになるから」
「ふふっ、任せてください。計算は完璧です」
目の下にややクマを残したレシアが嬉しそうにそう答えた。
そんなに時間もおかず車は、目標地点に到達する。車を降りると、ロギル達は車の荷台から何かを降ろしてマンホールから下水道へと降ろしていった。
それは、何かの装置と、木箱に入った色のなくなった大量の魔石であった。
「さて、証明をお願いします」
「ここを押すのか?」
持ってきた装置の一つのボタンをアマナが押すと、周囲が明るく照らし出される。それを確認すると、レシアは自身が抱えてきた大事そうな装置の電源を入れた。
「……よし。動作に問題はなさそうですね。あとは、アマナちゃん。貴方のタイミングでどうぞ」
「うん」
下水道で、アマナの髪が緑の炎を纏って揺らめく。その両の目も炎を宿して光らせるとアマナは、自身の腕に巨大な緑の炎で出来た弓を出現させて持った。
「準備はいいよな?」
「職員さん達が大丈夫そうなら」
「パイプも隠し部屋に全部セット済みだな。パイプの先も装置をつないで魔石に寄せている」
「完璧ですね。では、始めてください」
「ああ」
弓を、アマナは引く。その巨大な弓は、まるで木製であるかのようにギチギチと音を立ててしなりながら開いていく。そして、開ききるとアマナの腕の間に、5本の炎の矢が出現した。
「……始めるぞ」
「はい」
その瞬間、アマナが弓から手を離した。
下水道に、強烈な風圧を撒き散らして矢が弓から離れて飛んでいく。それぞれの矢は、それぞれが違う方向を迷うことなく目指して飛んでいった。
複雑に折れ曲がって繋がっている下水道を、矢は壁に当たることなく進んでいく。そして、街に配置されて5つの隠し部屋へと潜り込むと、その中にいる生物を一気に同時に差し貫いた。
「今!!」
「了解です!!」
魔獣の死。アマナの狙撃によって五箇所で同時に起きたそれは、部屋の中にあった魔法陣を起動させる。しかし、それとは別に部屋の中にはあるものが設置されていた。
それは、レシアが徹夜して作ったチューブパイプであった。それが、部屋の中に魔獣から溢れ出した魔力を吸って、外へと流し込んでいる。
「……魔石に色が付き始めたな」
「順調ですね。中の魔力が、消費された魔石に移っている証拠です」
「これで間に合うのか?中の魔法が発動するまでに」
「魔法には、いくつか段階があります。その段階を迎えるには、魔力が一定量なければいけません。この分なら、大きな発動は防げるでしょう」
「完全には、無理と言ってたか。ならいいか」
ノーマンは、そう言って頭をかく。
召喚魔法。その魔法は、この世界に存在するはずのない存在さえも、魔力が足りれば召喚してしまえる恐ろしい魔法だ。
しかし、それは全て魔力が足りればという前提の元に成り立つ。
レシアの作った魔力移送用のチューブパイプ。魔石を材料として作られたこれは、魔石が魔力を貯める性質を利用して作られている。
それを部屋に入れることで、魔獣達が死んだことにより部屋に充満していく魔力を運び出す。
すると、どうなるのか。
答えは、簡単であった。魔力が少ない状態では、少ない魔力量で呼べる者しか召喚出来なくなる。
「召喚を確認。なんか大きな猫みたいなやつと、犬みたいなやつと、蜘蛛と蛇とナメクジだな。殲滅する」
「それでも、そこそこのが来ましたね。一般人なら相対したら確実に死ぬ魔獣ばかりです」
アマナが、再び5本の矢を放つ。矢は、また迷いなく目標へと飛んでいくと、魔獣たちのその体を避けられることなく射抜いた。
「召喚魔獣、全ての死亡を確認。状況終了」
「お疲れ様です。これで処理完了ですね」
レシアは嬉しそうに言う。
その後ろでロギルは、短いパイプと装置の繋がった木箱に入っている魔石に、色がついていっている光景を眺めていた。
「なぁ、なんでここの魔石にも色がつくんだ?ここには、それ程の濃厚な魔力は無いはずだろ?」
「ああ、それはですね。周辺の魔力の濃度差によって魔力がこちらに流れ込んで来てるんです。恐らく、それですね。それを逃さないためにも、これを持ってきたんですよ。製造で魔石の魔力がなくなってましたからね」
「濃度差?」
「はい。周辺に大きな魔力の塊のある空間が発生すると、それに伴って周囲の魔力量を一定にしようとする効果。濃度調整が働きます。これによって、世界にある魔力の量は、常に一定に保たれている。というのが、昨今の研究で言われていることですね。これは、魔力濃度の薄い地域に消費する前の集めた魔力が霧散して逃げていく現象で、このような囲まれた一定の地域においては、内側と外側に魔力が発散します。その場合、内側に5箇所の発散された魔力が集うわけでして、一時的な魔力溜りになり」
「おい」
「はい」
「街の中心部に魔力が集まるってことか?それって、危険じゃないんだろうな?」
「まさか。危険なはずありませんよ。まして、今回は発生した魔力をこちらが吸って魔石に保管しています。濃度の上昇自体が抑えられて拡散も緩やかになっているはずですし、そんな危険はありません」
「そ、そうか」
「ええ。まぁ、5箇所が正常に作用していた場合は、危険だったかもしれませんけどね」
「おい、それって中心部にも何か仕掛けられている可能性があるってことじゃ?」
「ええ、しかしちゃんと事前調査をして何もないのは確認済みです。安心してください」
「そ、そうか」
「ええ」
その瞬間、地面が揺れた。何かが落ちてきて地面が揺れたのだと、ロギル達はその衝撃を感じて気づいた。
「……アマナちゃん、中央に居てもらってる職員さん達は確認できますか?」
「ああ、元気だぞ。ピンピンしてる。ただ、全力疾走してるけどな」
「何が起きたんでしょうか」
「分からない。ただ」
「ただ?」
「巨大な魔獣が、街の中央に出現したことだけは、確かだ」
「ちっ、急ぐわよ!!」
街の中央。そこより少し離れたところに、ロギル達の学校はある。ロギル達は、足早に下水道を出て中央へと急いだ。




