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一夜が開ける。
その日、街には原因不明の突然死を迎えた死体が多く発見された。
それと同時に、失踪者の捜索届けも増え、街の一部では化物を見たという噂話が聞こえた。
しかし、それらは街に流れる紙面や政府の発表情報には一切載せられず。人々は、何が起こったのかも正確に知らぬまま今日も街で穏やかに暮らしている。
「君たちが見たという人の形をした魔獣のことだが」
「はい」
「一応調べてみたけど、人の姿を真似る魔獣はいるみたいなんだ。しかし、聞いたように姿を糸状に変えるという魔獣ではないようだ」
「そうですか」
「もしかしたら新種なのかもしれないな。その一匹だけなのかもしれない。だが一応、兵士の方々には話を通しておいた。パトロールを強化してくれるみたいだ。……すまないが、これ以上は個人で気をつけるしかない。俺も、日中常に君達についてまわることは不可能だからな」
「……そう、ですよね」
「……気休めかもしれないが、近々魔獣と人間の姿が似ていても判別することが可能になる道具が出回るらしい。それを持って兵士達が街を見回るようになるそうだ。完璧とは言えないかもしれないが、もう二人がそんな魔獣に会うこともなくなるんじゃないか、と思うんだが」
「そんなものがあるんですか?」
「兵士の皆さんに聞いただけで実物はまだ見てないけどな」
そのロギルの発言から数日後。街には、水晶をかざして人々を見つめる兵士たちの姿が確認された。
それからさらに数日後。
「ええ、今回街の中で同じ症例で突然死を迎えられた人々がいました。遺族の方たちの了解を取り、その方々の遺体を検視させていただいた結果、突然死の原因が判明いたしました。魔力が体内で固形化し、血管を塞いでいたのです」
「魔力が」
「体内で固形化。有り得るのか?」
「何故魔力が体内で固形化し、血管を塞いでいたのか。その理由は、まだはっきりとはしていません。しかし、今後このような突然死を防ぐために、企業や学校に定期的に肉体が正常であるかを検査し診断する仕組みを設けようと思います。これにより、症状の発見が早まり突然死を防ぐことが可能になるでしょう」
その日から、街では年二回の健康診断を企業や学校などで行うように取り決められた。
「検査項目は、身長、体重、血液、魔力溜りがないかか。これで偽物を探し出す、という仕組みなわけだな」
「そういうこと」
地下の会議室で、リオーシュのその報告をロギル達は聞いていた。
「うちでも年の半ばと年末にすることになったからそのつもりで」
「分かった」
「はい」
「うん」
「ええ」
「私は受けるだけだな」
こうして街は、穏やかにひっそりと変わっていく。
「人間社会も大変だねぇ~」
「……すっかり元気になったな」
「うん。もう大丈夫」
ロギルは、そう言ってベッドに寝そべったまま暴れるソフィーを見た。
「……しかし、何が変わったんだ?」
「ああ、見た目はあんまり変わってないから分かりづらいかもね」
ロギルは、ソフィーを見つめる。ソフィーは、あまりといったが、ロギルの目にはどこも変わっていないように見えた。
「まず第一に、この姿が本来の姿として肉体が固定されました!!」
「なるほど。今までは、仮の姿だったわけか」
「どっちかというと相手の好みに合わせて変えるというのが淫魔の手というか。決まった姿に固執しない主義なんで」
「それが、固定されたと」
「そうそう。本当は、今までの経験から一番無難な見た目になるらしいんだけど、私はご主人様のソフィーだから。これが一番だよね!!」
「……そ、そうなのか?」
「そうなんだよ!!」
ロギルは、ソフィーの言葉に首をかしげる。
「そしてさらに、容姿を固定したままでも異性を蕩かして引き付けるフェロモン力のやや向上が見られます」
「やや、なのか」
「やや、です。ダンタリオン先生が言うには、普通の淫魔とは特性の伸びに違いがあるんだって。ふつうならもっとフェロモン特化だって言ってた」
「それで、どこが普通と違うんだ?」
「……えっと~」
「……」
「戦闘力、みたいな?」
「もしかして、俺のせいか?」
「それはある」
そう言ってソフィーは、自身のしっぽを撫でた。
「このチャーミングな尻尾だって、今はいつも通りの形にしてるけど」
「……」
「力を入れると、ほら」
ソフィーの尻尾が、一瞬のうちに硬い装甲を纏った凶悪な尻尾へと変化した。
「これ、普通こうはならないでしょ」
「……いつも通り伸ばせるんだよな?」
「伸びるよ。ほら」
そう言ってソフィーは、尻尾を伸ばしてロギルの目の前に持ってくる。
「ふぅ~~、ならよかった」
「そこ心配するんだ」
「ああ、お世話になってるからな」
「ま、ご主人様が好いてくれるならそれでいいけどね。後の力は、一緒に試して確認していこうよ」
「そうだな」
「よし。それじゃあ、まずはフェロモンがどれだけ向上したかのチェックから!!」
「いや、それはいい」
「え~~。大事なことなのに」
「いや、真面目にしなくていい」
ソフィーも体調を直し、少しだけ落ち着ける時間をロギル達は手に入れた。
カエルの鳴き声がする。目的の場所に近づくたびに大きくなるその声を、気にもせずに男はとある山の奥を目指していた。
「お~~、来たべか」
そう言って男を出迎えた男は、身長が二メートルもある大男であった。少し太ってはいるが力強い体格をしている。
「どれほどに増えた?」
「わかんねぇ。だどもこの声が聞こえるだろ?一回分には十分だで」
そう言って男は、山の亀裂に指を向けた。その先からは、カエルの鳴き声が多く聞こえてくる。
「そうか。では、一度試すとしよう」
「お~~、待ちくたびれただ。やっとこの声とおさらばできるだよ」
男が山に向かって手をかざす。すると、山の亀裂が閉じていき山全体に悲鳴のような声が響き始めた。そして亀裂がすべて閉じきると、山にカエルの声は聞こえなくなっていた。
「行くだか」
「うむ」
男達は、山奥へと進む。そして、山にある洞窟の一つへと入っていくと、その中で男達は台座の上で光り輝く一個の巨大な石を見つけた。
「いい具合に固まっとる。密度は良くないだが、巨大な魔力でできた魔石だ。あの増えるしか能のない魔獣、ええ働きをしただがや」
「物は使いようということだ」
「それで、どうするだ?」
「そうだな。約束通り、君に力を上げよう」
「おお、遂にくれるだな!!」
男は、そう言うと体格のいい男に銃と弾を渡した。
「そこの魔石も持っていくといい。君が使い給え」
「いいだか?」
「君の望みは、神を呼ぶことだっただろう」
「ああ、そうだ」
「その君の呼ぶ神がどれほどのものか、見てみたいんだよ、俺は」
「ふっ、後悔するなよ。俺が、神を食って神となるだ」
「ああ、成れるならばなるといい。ところで、力を試す相手がいなければ力の大きさも分からないだろう。丁度いい街がある。そこで試すといい」
「へ~~、神に抗える人でもいるっていうだか?」
「ああ」
男は、笑みを浮かべる。
「レギオンという人類の力が生み出した最高の戦闘集団がいる。その彼らで敵わないのなら、君は本当にこの星に君臨する神となれるだろう」




