住処
闇の中を一台の車が走っている。その窓から緑の閃光が放たれると、迷うことなくその閃光は闇を切り裂いて飛んで行き、対象となる怪物を射抜いて消滅させた。
「うん。3階で唯一明かりがついてる部屋。男の方だけ。女性は、違う」
「予想以上に多いわね。これまで気付かなかったのが恐ろしいわ」
車を走らせながらリオーシュはそう言う。その隣では、目を発光させながらアマナが弓を構えていた。
「……待って、止まって」
「あっちの方?それともこっち?」
「どっちも」
アマナの言葉にリオーシュは、車の速度を落として道の端に止める。そして、アマナの次の言葉を待った。
「……ロギるん達が当たりを引いたかもしれない」
「へぇ~」
「一つの屋敷に集中して固まっている所がある。これで当たりじゃなかったら面白いけどね」
「確かに当たりみたいね。それで、何人ぐらいいるのかしら?」
「……50かな?いや、それ以上かも」
「……全てが喰われた人の数だとは考えたくないわね。今のうちに気づけて良かったわ」
「どうする?私たちも向かうのは確定だけど、二人には待機してもらう?」
「揃っていった方がいいと思うけど、二人に先行してもらいたい理由でもあるの?」
「あの屋敷にいる化物だけ明らかに動きが違う。こっちを待ち構えているみたいだ。その中で何匹かは慌ただしく動いてる」
「……逃げるってこともあり得るってことか。そうよね。ここまで多く殺して回ったんだもの。もし全ての化け物が大元の本体でつながっているとしたらそりゃバレるわよね」
リオーシュは、顎に手を当てて考える。
「私達も急ぎましょう。それと、二人には先行してもらう」
「分かった」
「解決しても構わないって言っといて」
「了解」
アマナが魔法で言葉を飛ばす。その言葉をロギル達は、屋敷の向かいの建物の上で聞いていた。
「あの屋敷にいる人間全部が化物か」
「分かりやすくていいのですが、少々骨が折れそうですね」
「ああ。どれだけ広いんだろうな、この家は」
ロギル達の視界には、長々と続く土地を覆う囲いの壁が見えていた。
「行こうか」
「はい」
壁を飛び越えて二人は、敷地内に音も少なく着地する。そのまま足を止めずに二人は、目の前に見える大きな屋敷へと即座に駆け寄るとその玄関前で足を止めた。
「……匂うな」
「ええ、匂いますね。鉄のようなこの匂い」
「血の匂いだ」
レドリアが先行して屋敷の扉の前に移動する。そして玄関を蹴破ると、屋敷の中を見回した。
「血痕が多いですね」
「ああ、掃除をする気はないらしい」
生物がいないことを確認すると二人は、そのまま屋敷の奥へと入っていった。
「夜目は効くほうか?」
「ええ。暗い中でも問題なく。死体が放置されているようですね」
「そうか」
いつもとは違うレヴィアの力を目に使いながらロギルは、死体を確認する。
「死臭がする。殺されたのはだいぶ前だな。しかし、何故この死体はこのまま放置されているんだ?怪物は人を食べるんじゃなかったのか?」
「食べる必要がなかった、ということでしょうか」
「これだけの数を、か……。殺すだけ殺して」
「分かりませんが、するべきことは決まっています。どうします。上から調べますか?」
「いや、下からだ。上ならアマナが既に異常な物を見つけているはずだ。アマナでも地下にある物を無差別に探すことは難しいらしい。なら、そこに俺達は行くべきだろう」
「分かりました。では、階段は使わずに奥の部屋に進んでみましょう」
左右に配置された階段を通り過ぎて二人は、一直線に奥へと続く中央のドアへと手をかける。鍵が掛かっていたが、レドリアは何事もなかったかのような表情で無理矢理ドアノブを回して扉を開けた。余りにも常識はずれな力に、ドアノブが捻れて曲がる。
「パーティールームでしょうか?」
「センスのない会場だ」
「ええ、お世辞にもいいとは言えませんね」
その部屋の壁には、何人もの死体が壁に打ち付けられていた。死体の一つ一つはポーズが異なり、踊っているような者、はしゃいでジャンプしているような姿の者もいた。
そして、それらの死体には共通点があった。全員がパーティードレスを着ていて、その顔には顔が存在していなかった。
顔の表情を構成する部分。目、鼻、口。それらが死体からは、全てえぐり取られてなくなっていた。
「さっきの死体も顔だけがなかったな。表情だけ奪った、ということだろうか」
「必ずしも全てを取り込む必要はない。ということですかね」
奇妙に揃えて置かれたテーブルを避けて二人は奥へと足を進める。部屋の奥には、大きなステージがあり、そこには一つのテーブルと椅子が置かれていた。
「他には何かありそうか?」
「いえ、何もないですね」
「そうか。さて、どう探したものか」
ロギルが頭をかく。その横でレドリアは、屈むと床の表面を撫でた。
「少し、揺れるかもしれません」
「んん?」
レドリアは、右腕を振り上げる。そして筋肉を膨張させて右腕を巨大化させると、力任せに床に向かって右腕を叩きつけた。
ロギルの耳に、床を殴ったのだとは思えないような爆発音が響く。そして、その音と共にロギルは、自身の体が下へと落ちていく感覚を感じた。
「よっと。ありましたね。地下室」
「……ありましたね、じゃないと思うんだが。まぁいいか。あったな。確かに」
ロギル達が立っていたステージ部分の床が崩れ落ち、ロギル達は地下の一室へと落ちた。その先には、長く暗い通路が続いている。
「見えるか?」
「問題なく」
「よし、行くぞ。と、言いたいところだが」
ロギルは、自分達が落ちてきた部屋へと目を向ける。そこからは、微かに何かが蠢く音が聞こえてきていた。
「慌てて追ってきたみたいだな」
「この移動方法は、予想外だったみたいですね」
「……」
ロギルは、巨大な蛇の頭を自身の腕先に部分召喚する。
「先に行け。ここは、俺が掃除しておこう」
「いえ、私も手伝いますよ」
「いや、慌てて出てきたところを見ると、時間を稼ぎたいのかもしれない。奴らの思惑に乗るのは駄目だ。レドリアは、先に進んで大本を潰せ。それと」
「それと?」
「俺をここに置いて行ったほうが、お前も気兼ねなく暴れられるだろ?」
「……分かりました。お気をつけて」
レドリアは、暗い通路を一人駆けていく。その後ろ姿を見送るとロギルは、こちらに近づいてくる化物の姿を直視した。
「さて、掃除の時間だ」
化け物達の体から、何本もの糸が網のように折り重なってロギルへと迫る。その網目掛けてロギルは、蛇の頭を振り抜いた。
蛇の牙から放たれた毒が、一瞬のうちに触れた部分の糸を溶かして上の部屋にいる怪物達へと飛んでいく。数体は、飛んできた毒によって一部が溶け始めたが、それでもひるむことなく怪物達は、ロギル目掛けて糸を飛ばし続けてきた。
「チッ!!」
蛇の頭を振り続けてロギルは、糸を破壊していく。しかし、いくら破壊しようとも糸が降り止むことはなかった。
「面倒だな」
(いや、違うじゃろ)
下がって糸を躱すロギルの脳内に声が響く。
(何故、蛇を使う。お前が今、使うべきは蛇ではあるまい)
「……」
ロギルにも分かっていた。便利なソフィーとダンタリオンがいなくとも、ロギルにはまだそれを補って余りある殲滅力に長けた魔獣がいた。
しかし、ロギルはレヴィアから力を借りることを躊躇っていた。レヴィアの力を使えば、自身の体に途方もない負荷がかかる。それを、ロギルは知っている。故にロギルは、レヴィアの力を気軽に振えないでいた。
(何を躊躇う。今まで、何のために瞑想してきた?わしという本質を理解し、力を無理なく使えるようにするためじゃろ。ならば怯むな。やって見せろ)
「……」
ロギルは、部分召喚を解除して蛇の頭をしまう。そして、その代わりに自身の肩部分から部分召喚の魔法を発動させた。
一瞬の間に間を詰めて怪物の糸の洪水がロギルへと迫る。しかし、その糸の洪水は見えない何かによってちぎり飛ばされた。
「……出来るもんだな」
(うむ)
ロギルの肩。そこには部分召喚の光が宿り、その先には、人の腕の大きさの変わった腕がついていた。その腕は、青い鱗で表面を覆われた鋭い爪のある龍の腕であった。
「腕だけでこれとは、レヴィアさんは凄いな」
(褒め言葉はよい。さっさと片付けさせろ)
ロギルは手のひらをかざす。そして、その先に小さくなった龍の頭が出現した。
「消えろ」
龍の口から、広範囲に高温度の熱線が放たれる。その熱線が怪物達を例外なく飲み込み跡形もなく消し飛ばしていった。
「ま、こんなもんじゃろうな」
「助かったよ」
「この程度に手こずるな」
そう言うと、レヴィアの頭は消えた。腕も戻し、ロギルは自身の体を確認する。
「まだ動けるな。……行くか」
そう言うとロギルは、レドリアを追って通路を進んでいった。




