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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
5章 狂乱
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夜間

 夜が来る。


 月明かりもなく、遊ぶ場所すらない田舎の街ならばともかく、魔学も進み夜でさえ道に明かりを灯せるようになったこの都市では、この時間でも出歩いている者は少なくない。


「おいおい、大丈夫かよ」

「いや、今日は飲みすぎたな。おえっ」


 同僚に肩を貸しながら男は溜息を吐いた。自身の家の方角と反対方向の同僚をわざわざ送ることになってしまったことに少しの苛立ちを覚える。だが放っておけば同僚は、道端に寝そべって記憶のないまま朝を迎えることになるだろう。それは、この街では決していいことではなかった。最近は、スリも多いと聞く。財布を取られる確率が少ないとはいえあるのならば見捨てていくことが男にはできなかった。


「あら、お兄さん達大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫ですよ。ちょっとこいつが飲みすぎただけで」

「うぃっぷ」


 歩いていると道端に女が立っていた。見目麗しく身奇麗で煌びやかな服を着た女だった。その女が、こちらを見てほほ笑みを浮かべる。その顔を見て男は、酒で赤くなった顔に笑みを浮かべた。


「酔い止め、余ってるけどいる?」

「ほ、本当ですか!?いや~~、助かります」

「ほら、そこの路地で飲ませてあげて。連れの人辛そうだし、座らせて飲ませてあげたほうがいいでしょう」

「そ、そうですね。いや、ありがとうございます。おい、良かったな」

「うい」


 女性から紙の袋を受け取ると男は、路地裏へと進み同僚を道に寝かせた。そして紙の袋を開けると同僚の口に紙の中の粉末を流し込んでいく。


「どうだ?」

「……水が欲しい」

「我慢しろ」


 ゆっくりと粉末を唾液で飲み込もうとする同僚を男は眺めていると、ふと急に腹が何かに締め付けられるような感覚を感じた。


「うん?」


 腹を見ると、細い糸のようなものが自身の腹に巻き付いている。


(いつの間に?) 


 そう、男は思った。指で掴んでその糸状のものに男は触れようとする。だが、すぐに全身が何かに押さえつけられて動けなくなった。


「んんっ!?」


 何かに体を包まれた男は、その全身を縛り上げられてしまった。そして、その何かに引っ張られるままに男の体は、宙へと浮いていく。寝ていた同僚も、間を置かずに同じような姿となって路地裏に浮いていた。


「今日は、お二人でいいかな」


 全身を包まれ繭のようになってしまった男二人の耳に女性の声が響く。そして、自分達がゆっくりと女性の声のした方に引き寄せられているのが分かった。


「いただきます」


 笑うように女性のその声が聞こえる。さっきまで女性の形だったそれは、今は体が裂けて大きな口を持つ怪物へと変質していた。


 何もすることの出来ぬまま男二人は、怪物の口へと運ばれていく。


「楽でいいな。その姿のままだと間違ってないと確信できて助かるよ」


 その時、若い男の声が聞こえた気がした。その次の瞬間、自身の頭に軽い衝撃が走る。何かに当たったのかと男が思った瞬間、男の意識は飛んで無意識へと落ちていった。


「次だな」


 ノーマンは、自身が持っていた剣を消して路地の闇目掛けてジャンプした。たったの一足でノーマンは、目の前にあった建物の屋上へと到達する。そして、屋上から街を見渡した。


「次はどっちだ?」

「そのまま真っ直ぐ。ちょっと大きめの集合住宅の中だな」


 緑の炎が一瞬ノーマンの近くに現れてそう言った。


「了解」


 ノーマンは走り出す。ノーマンが飛んできた路地には、怪物も男二人を包んでいた糸すらなくなり、意識を失った男二人だけが路地裏に倒れていた。


「お兄さん、今日はうちの店は特売日でしてね。お酒、安くしときますよ!!」

「おお、いいね」

「では、こっちです。あとに続いて来てください!!」


 陽気な表情で背の小さな男は、赤い顔の男を案内していく。だが、酔っていた男がちょっと目を離した瞬間に、その小さな男の姿は消えていた。


「あれ?」


 その光景を、建物の上からレドリアは見ていた。レドリアは、片腕で小さな男の顔を握りつぶしながら街を眺めている。


 すると、小さな男の体が糸状にばらけてレドリアへと飛んできた。


「頭を潰しただけでは、ダメということですか」


 レドリアは、驚いた様子もなく男の頭を放して腕を振る。一瞬だけ巨大になったその腕は、男の体に当たると衝撃を放って全ての糸ごと男の体を粉砕した。


「今の破裂音で人目が来ている。移動するぞ」

「はい、ロギル先生」


 レドリアとロギルは、そう言うと人目を避けて街の闇深い位置へと移動を始めた。


「……」

「なんだ?」

「本当に本調子ではないのですか、ロギル?私には、問題なく見えますが?」

「いつも頼っている仲間が調子が悪くてな。俺の特技をいつも通りにというわけには行かない」

「なるほど。サモナーゆえですか」


 進み続ける二人の隣に緑の炎が現れる。


「そのまま進み続けろ。次は、富裕層の居る付近まで二人には行ってもらう」

「了解しました」

「急ぐぞ」


 建物を飛び移りながら二人は進んでいく。レドリアは、その肉体で。ロギルは、蛇の尻尾を腕に部分召喚し利用しながら進んでいった。


「……レドリアは、その力を得るために肉体改造をしたらしいな。アマナの言い方を見るに、その肉体は最早普通ではないんだろう。そんなことに体がなる修行、危険じゃなかったのか?」

「……どうなんでしょうかね」


 レドリアは、ロギルの言葉を聞いて自身の昔の事を思い出した。


「お前達には、今後運動したあとに朝・昼・晩、欠かさずにこれを飲んでもらう!!」


 そう言って師匠となる女性が取り出したのは、虹色に光る謎の飲み物であった。


「これには、栄養価を考えた食事と我らの魔導の基礎となる物が入っている。決して味は良くない。だが、無心で飲み干せ!!それが、お前たちがクリアするべき第一の課題だ!!」

「……」


 その言葉に候補者たちの顔が、青くなっていく。だがその中でレドリアだけは、表情を動かすことなくその飲み物を受け取った。


「よし。では飲め!!」


 合図と共に一斉に候補者達は虹色の飲み物を飲み干す。耐え切れず吐き出す者。鼻をつまんで飲む者。吐き気を抑えながら何回かに分けて飲もうとする者。色々な反応を候補者たちはしていたが、レドリアだけは、迷いなく一気にその飲み物を飲み下した。


「おお、飲みきったか。早いな」

「いえ、別に大丈夫じゃないですか?本当にこんなことで強くなれるのでしょうか?」

「安心しろ、直ぐに分かる」


 そう言われた瞬間、レドリアは立っていることすらまともに出来ない激痛を肉体全てで感じた。


 それと同時に、周囲にいた候補者たちも同じようにして倒れていく。そして誰も立つことの出来ぬまま激痛が過ぎ去るのを待つしかなかった。


「これがこの飲み物の反動だ!!諸君らの体は、生まれ変わる!!だがそれは決して楽なことではない!!文字通り、体が生まれ変わるのだからな!!」


 師匠である女性は、激痛に全員が倒れる中そう言い始める。


「どんな魔法使いも己の肉体を弄ろうとしない!!それは何故か!!危険極まりないからだ!!己の肉体に換えなどない!!失敗すら出来ない!!だが、全てを行う上で我々に必ず必要な物は何か!!それは、己の肉体に他ならない!!」


 そう言う女性の体格が瞬時に巨大になっていく。あっという間にレドリアよりも小さかった女性の肉体は、巨大な筋肉を持つ巨体へと変化した。ぶかぶかだった服は、今ではぴっちりと彼女の体を包んでいる。


「無論体質も個人個人で違うゆえ、この肉体改造が合わない者もいるだろう。それがこの魔導でのふるいとなる!!体質が合うもの。この激痛を我慢でき受け入れられる者。その者だけが、私と同じように力ある肉体を手にし悪に抗うことが出来るようになる!!さぁ、進め!!明日を生き抜く力を手に入れるために!!」


 その言葉に、激痛の中でレドリアだけが笑みを浮かべた。


 次の日、飲み物を出されて飲むことを断念したものは多かった。あまりの痛みに失神した者さえもいた。そんな中で、レドリアはいつも変わらずに飲み物を一気飲みし続けた。


 そしてある日、いつものようにレドリアは、飲み物を飲み干す。だが、体に痛みが走ることはなくレドリアは平然としていた。


「至ったな」

「ミラー師匠」

「肉体を作り終えた。よくぞここまで来たな」


 その時、その場に残って居た候補者は、レドリア一人であった。


「筋肉の暴走を意思で押さえ込み、その姿のまま君はここまで来た。よくぞ耐えたな」

「いえ、自分には楽なように思えました。痛みさえ耐えれば力が手に入るのですから」

「そうか。他の者は、肉体の暴走に耐え切れず訓練を断念したというのに、君は大した奴だ」

「……他の人たちは、治るんですか?」

「ああ、治る。飲み物を摂取し続けることが大切でね。途中で止めてしまえば肉体が不純物を体から排出していく。時が経てば元通りになるさ。時間はかかるがね」

「そうですか」

「さて、レギオンバーサーカー。その力で、君は何を成す?」


 師匠のミラーに問われてレドリアは、目を閉じた。そしてこの場に来ることになった理由を思い出した。共に人生を歩んできた友人のことを。もう二度と会えなくなった彼のことを。


「守りたいです。誰かに守れない大切なものを、誰かの代わりに」

「合格だ。君は今から、レギオンバーサーカーだ」


 レドリア・テークルスは、こうして常識はずれの肉体を手にし。レギオンの一員となった。


「一緒に訓練をしていた人たちも治ったみたいですし、安全ではあったんじゃないですかね」

「そうか」


 レギオンになる前、レドリアは訓練中に苦しみだした同僚たちのお見舞いに何度か行ったことがある。初期の頃にそうなった者は、今では何事もなく退院し、国に諜報部員として務めることが決まっていた。レドリアと最後まで競っていた者も、肉体が飲み物の摂取をやめてからは落ち着き、回復傾向にあった。きっと今では退院して元気にしているだろうとレドリアは考えていた。


「でも治ったということは、どこかを壊したということだろ。やはり、そういうものなんだろうな」

「普通でないのは、確かですね」

「ともかくその力を得たのがレドリアで良かったよ。助かる」

「……そう言っていただけると嬉しいです」


 二人は急ぐ。この街には、まだ異形の怪物が残っている。それらを全て片付けるまで、彼らの今日は明けない。



 





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