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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
5章 狂乱
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帰路

 その後、パセラが持ってきた課題をロギルが手伝っているうちに相談室を閉める時間が来た。いつも通りに解散し鍵を閉めて校長室へとロギル達は向かう。ただ今日は、そこにソフィーの姿がなく、代わりにリータがついてきていた。


「……やる気あるね」

「私のバイトのことですから、私が熱意を伝えないと」

「……本当にバイトしたいんですか?」

「そうですけど?」

「それ以外には、何かないんですか?」

「何かとは?」

「……いえ、無いなら別にいんです」


 そう言いながらサシャは、ロギルの腕に自身の腕を絡ませた。


「……恥ずかしいからやめて欲しいんだが」

「必要な行為だから。うん。必要」

「いや、ダメでしょ。離れてください」


 ロギルとサシャの腕の間に手を入れてリータは、二人を引き剥がそうとする。しかし、リータの腕力にサシャは、全腕力を使って抗った。


「あらあらリータさん、やめて下さる?私とロギルの中を引き裂こうとする様な真似は」

「ロギル先生、困ってるでしょ!?クッソ、予想以上に力ある、この人!!」

「ふふん。サシャ先生は、学生に腕力で負けたりはしません!!」

「なんでその細腕でこんな力が出るんだよ!?おかしいだろ!!」

「先生も色んなことを経験してきましたからね。特に乗馬は得意です」

「この学校で乗馬なんて教える必要ないでしょうが!?」

「そうなんですよね~。でも得意です!!半日以上乗り回してたこともあるので」

「はぁっはぁっ、全然引き剥がせない。どうなってんのマジで」


 リータが諦めて手を離す。それを見ると満足した様子でサシャは、笑みを浮かべた。


「サシャ、校長室についたから離してくれるか。真面目な話をするから」

「え~~」

「え~~、じゃない」

「……分かった」


 サシャは、ロギルに言われて手を離す。それを見届けるとロギルは、校長室の扉を叩いた。


「どうぞ~~」

「失礼します」


 扉を開けて校長室へと入っていく。ロギル達と一緒に入ってくるリータを見かけるとリオーシュは、机の上にあった書類を自然な動作で書類の山の下に重ねた。


「珍しい子がいるわね。何か相談かしら?」

「はい、校長。実はですね」


 ロギルは、リータが校内でのバイトを探している事を説明する。


「相談室でセシルがやっているようなバイトがいいです」


 その説明の途中で、リータがそう付け加えた。


「そうね。相談室は、現在人数が足りているようだし、新たに雇うことは考えていないわね。それにセシルちゃんの場合は、まだバイトとはいえ、最終的にはうちの正規職員になる訳だし。研修期間という意味も兼ねてバイトしてもらっているというところが強いから、セシルちゃんと同じようなバイトはさせてあげることは出来ないわね」

「それは、私も正規職員になればいいということですか?」

「セシルちゃんは、家庭の事情があるから特別にってところもあってだから。リータさんの所は、普通のご家庭でしょう。無理してバイトをする必要はないんじゃないかしら?」

「いえ、うち、家族が多いので。少しでも負担を減らそうと」

「なるほど。そうね。セシルちゃんと同じ勤務条件だと無理だけど、たまに構内の清掃活動に出るっていうのはどう?時間も短時間だからそんなには出せないけど」

「構内の清掃ですか」

「大体は、草むしりね。校舎の外壁も定期的な掃除が必要だし、業者も呼ぶけどやる箇所が多いのよ。少しリータちゃんにそこを担当してもらってもいいかなって話」

「なるほど」

「あと、基本的に休みの日にやってもらうことになるわ。トイレ周りは、業者の方に毎日回ってもらってるけど、他は基本的に生徒たちのいない休日にやってもらっているの。そこにリータちゃんも入ってもらうことになるわね」


 そう話しながら白紙の紙にリオーシュは、リータの事をメモする。


「後日相談室にバイト内容をまとめた紙を持って行くわ。それを見て、引き受けるかは決めてちょうだい」

「分かりました」

「ならこの件は、また後日ね。それじゃあ、今日の日誌をもらおうかな」

「はい」


 サシャは、持っていた日誌をリオーシュの机の上に置く。リオーシュは、日誌を受け取るとさらっと見て閉じた。


「あ、そうだロギル先生」

「はい」

「例の件、レドリア先生に伝えておいたわ。書類もすぐに作って下さるって」

「そうですか」


 ロギルは、リオーシュの言葉を頭の中で理解する。書類を作るという言葉は、対象を観察するという隠語である。つまりレドリアは、今日一日男子生徒を警護することにしたと、そうリオーシュは、ロギルに言っていた。


「さて、今日もご苦労様。じゃあ、また明日よろしくね」

「はい。失礼します」

「「「失礼します」」」


 ロギル達は、校長室から出ていく。その後ろ姿を見送るとリオーシュは、隠した書類を一人取り出して眺めた。


「ここ最近の不審な失踪届は、無し、か。レドリアの結果次第だけど……」


 リオーシュは、椅子を回して窓の外を眺める。


「厄介なことにならないといいけどね」


 外の景色は、夕焼けに染まり太陽が沈み始めていた。


「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」

「はい。さようなら」

「さようなら」


 校門前でロギルとサシャは、セシルとリータに別れを告げる。そして、一旦校舎へと戻っていった。


「で、どうするんだ?」


 校舎の入口にロギル達が入ると、アマナが壁に背を預けて佇んでいた。


「話は聞いたのか?」

「ああ。今も見てるよ」

「周囲に人は、いないよな?」

「じゃなきゃこんな話かたしないだろ?」

「それもそうだな。どこまで見れそうだ?」

「主要な通学路は大丈夫だ。それ以外の実家住まい達は、ちょっと無理だな」

「なるほど。なら俺達は、これから寮生達以外の生徒が一番通る街の居住区周りに行ってみようと思う

。何かあったら連絡してくれ」

「分かった」


 ロギルは、アマナに向かってポケットから取り出した鍵を投げる。


「相談室の鍵だ。使ってくれ」

「助かる。集中してみる落ち着いた部屋が欲しかったんだ」

「鍵は締めておけよ。誰かに入ってるところを見られたら厄介だからな」

「大丈夫」


 アマナと別れて、ロギルとサシャは歩き出す。少し道を歩くと、まだ下校途中の生徒が居るのを見つけた。


「結構、ゆっくり帰ってる子多いんだね」

「全部を見て守るのは、物理的に無理だな」

「仕方ないよ。人数が、人数だもん」

「……行くぞ。出来ることをしよう」

「うん」


 ロギル達が街へと向かっていたその時、セシル達もまた寮への道をゆっくりと進んでいた。


「校内清掃かぁ」

「乗り気じゃなさそうだね」

「相談室みたいにポスター作りをするわけじゃないから。少し大変かも」

「やめとく?」

「でも、お金が欲しいのは事実だし。短時間ていうのも、ある意味魅力的かな?」

「じゃあ、決める?」

「今度まとめてくれた書類次第だけど、多分やるよ」


 二人以外に周囲には誰もいない。しかし、少し進むと道の前にゆっくりと進む老人がいるのを見つけた。


「やっぱ元気が有り余ってるのか、下の子達は、本当にやんちゃでさぁ~」

「……」


 老人の脇を二人は、通り過ぎようとする。すると老人は、道端の石にでも躓いたのか、その場にこけて転んだ。


「……大丈夫ですか?」


 リータは、それを見て老人へと少し近づく。老人は、ゆっくりと起き上がるとリータに笑顔を向けた。


「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

「そうですか」


 老人が起き上がるのをリータは、手を差し伸べて手伝おうとした。老人の手がリータの腕を申し訳なさそうに掴む。すると老人の腕が、リータの腕の中でバラけた。


「えっ?」

「リータ!?」


 リータの腕に、筋繊維で出来た何かが巻きついて腕を締め上げる。その目の前で、老人の肉体が割れて、老人ではない別の何かがリータを見つめた。


「あんた、学校の生徒さんだろう。丁度いいねぇ」


 老人だったものから、無数の糸のようなものがばらけてリータへと迫る。しかしリータは、それを睨みつけると自身の腕へと力を込めた。


「悪いけど、触れないでくれる。気持ち悪いから」


 その瞬間、リータの腕が炎を発して燃えた。


「!?」


 燃え盛った炎が、リータに絡まっていた筋繊維の糸を焼き焦がす。その隙に手を引っ張ってリータは、糸を引きちぎると老人から距離を取って離れた。


「リータ、何、それ!?」

「ペイントマジック。腕に書いておいたんだ。護身用にね」


 リータの制服が燃えて左手部分のみ露出する。するとそこには、黒い模様のようなものが書かれたリータの腕が見えた。


「ああ、ただのインクだから洗えば落ちるよ」

「いや、熱くないの?」

「まぁ、制御を間違えなければね。腕は燃えないよ。でも、こいつ何?」


 ゆっくりと下がりながらリータとセシルは、老人だったものへと目を向ける。その怪物は、リータ達を見つめたまま動きを止めていた。


「……普通の学生、ではないのか?」

「色々あったんでね。私は」


 リータは、もう片方の腕の袖部分をまくる。そこにも黒いインクで模様のようなものが書かれていた。


「セシル、私が時間を稼ぐ。その間に誰か助けを」

「いや、それは困る」


 怪物が、再び動き始めた。


「見られてしまったからね。少し汚れてしまうが、君達には、消えてもらうとしよう」


 怪物の体から無数の糸が飛んできて迫る。その光景を見てセシルは、自身のメガネに手を添えて位置を直した。




 


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