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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
1章 肉体
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集結

 時間をかけて、ロギルは移動する。拠点への集合日時は、予め決められていた。それは3日後。その間、世間の情報を移動する街々で集めながらロギルは移動する。ソフィーと他愛もない会話をしながら、ロギルは3日後に拠点のある大都市・ファーゼンへと辿り着いていた。


「……まるで、違う世界のようだ」


 その都市を覆う壁。その門の前でロギルは呟く。今までロギルが住んでいた地域とは、そこは大きく異なった景観をしていた。道は舗装され、街中に見える人々は、ロギルが着ている服とはどこか趣の違った服を着ている。ロギルの着ている服を素朴とするのなら、彼らの衣服はサッパリとしていて、オシャレに見えた。


 ロギルが呟いたように、まるで別の世界にでも突然迷い込んでしまったかのような景色が、そこには広がっていた。


「これが、貧富の差ってやつかしらねぇ?」

「差がありすぎるにも程がある。俺の知っている今までの街では、誰もが同じ様な服装をしていた。使い込んで、着古したような服を着ていた。だが、ここの住民はどこか違う。何故だ?何故なんだ?」


 ロギルは、頭を抱えた。彼の脳には、この景観の違いが理解出来ていなかった。そんなロギルを、なだめるようにソフィーは彼の頭を撫でる。そうこうしていると、都市に入るための人々の待機列が進み、ロギル達のもとへと警備をしている兵士がやってきた。


「どうも、失礼します。都市へ来た理由をお聞かせ願えますか?」

「あ~、就職のために来たんだ」

「お二人とも?」

「そうで~す」

「そうですか。何か、身分を保証出来るようなものを持っていらっしゃいますか?この都市で働く場所が決まっているのであれば、事前に通門証も送られていると思います。お持ちでしたら、見せて頂きたいのですが」

「あ、これですかね」


 ロギルは、バッグから一枚の紙を取り出した。


「ありがとうございます。少々お待ちください。確認をしてきます」


 そう言うと、兵士は門へと戻っていった。


「仕事熱心ねぇ」

「……どうやら、治安がいいというわけではなさそうだな。不審者を、見抜こうと焦っている」

「ダンタリオン先生が、そう言ってたの?」

「ああ」

「ふ~ん。楽しくなりそうだね」

「どうかな」


 数分後、戻ってきた兵士に案内されて、2人は都市へと入っていった。


「よく見ると、俺達と同じような服装の人もいるな。なぜだか安心するよ」

「見て~!!あの服、可愛い。あそこの子たち、皆お揃いの服着てる」

「あれは確か、学生服というやつか。職場の生徒が、着る服のようだ」

「ふ~ん。ということは、職場で買えちゃったりするのかな?」

「どうだろうな」


 地図を頼りに、ロギルとソフィーは進む。途中、動く鉄の箱が道の中央を走っているのをまじまじと眺めたり、色々な服がおいてあるお店に目を奪われたりもしたが。なんとか、予定の時間にロギル達は学園へと辿り着いた。


「戻っててくれ」

「はいは~い」


 ロギルに言われると、ソフィーは消える。ロギルは一人、学園の門へと歩いていった。


「何か用かい、兄ちゃん?」


 門にいたのは、年を取った老人であった。白い顎髭を蓄え、気だるそうに守衛室に座っている。だが、その目の睨みは鋭く、只者ではないとロギルは感じた。


「面接に」

「おいおい、今は昼だぜ。こんな時間に、面接に来る奴なんていやしないよ。兄ちゃん、時間を間違えたんじゃないか?」


 気さくに、老人はそう言う。だが、ロギルは一枚の書類を取り出すと、老人へと渡した。それに、老人はさっと目を通す。


「……これが、部屋の鍵だ。あっちに、大きな建物があるだろう」

「どれも、でかい建物に見えるがなぁ」

「あれだよ。あの一番奥のデカイやつ」

「あれか」

「そうそう。あれの屋上に部屋がある。そこが、あんたの部屋だ、兄ちゃん。ま、精々頑張んな」

「ありがとう」


 そう言うと、ロギルは建物へと向かって歩き始めた。


「……来られましたよ。ええ、最後の一人です。お通ししておきました」


 老人は、丸い水晶玉のような物を耳元に当てて喋り始める。そして、短くそう言うと、水晶玉を机の上に置いた。すると、先程まで光っていた水晶玉から、光が消えていく。


「さて、あの若いのは、どんな判定を受けるかな」


 老人は、そう言いながら一人お茶を口に含んだ。


 一方ロギルは、言われた通りの建物に辿り着き、屋上へと続く扉を鍵で開けて屋上へと進む。すると、そこには1軒の小さな家が建っていた。


「建物の中に家か」

「不思議な光景」


 ソフィーが、出てきてロギルの隣に立つ。その家はとても簡素で、シンプルな外観をしていた。しかし、壁は厚く作られているようで、丈夫そうな家だとロギルは感じた。ロギルは、もらった鍵で家の扉を開ける。すると、机が一つ置かれており、その上には服と書き置きが残されていた。


「学園内で活動をするときは、この服装をすること。か」

「へ~、着てみたら?」

「それもそうだな」


 ロギルは、屋上の扉に再度鍵をかけ、家の扉にも施錠を施したあと、支給された服へと着替える。


「用心深いねぇ~」

「一応な」


 ロギルは服を着終わると、服の抵抗を確かめるように、軽く体を動かし始めた。


「なんというか、飾りっ気のない服だね」

「そうだな。そして、動きやすい」


 ロギルが着ている服は、作業用の服だった。強度があり、動きやすく作られている。そして、同じく用意されていた帽子をかぶると、ロギルは置かれていた椅子へと座った。


「なんだか、別の世界の住人にでもなったかのようだ」

「私もそう思う。なんだか、ご主人様ぽくないかも」

「そうか?」

「地味すぎるよねぇ。なんていうか」


 そう言いながら、ソフィーは備え付けられていた衣装棚を開く。そこには、何着かの服が入っていた。


「お、黒いローブ」

「仕事用のやつだな」

「本当の?」

「ああ。恐らく、全員で話し合う時などに着るものだろう」

「これじゃあ、お互いの顔が見えないけど?」

「レギオンは、身内にでさえ身分を隠すようだ」

「ふ~ん、陰険な集団だね」


 そう言いながら、ソフィーはローブをしまう。そして、もう一着の服を手にとった。


「お、これ良いじゃん。カッコいいんじゃない?」


 それは、一着のスーツだった。それに合わせるように、ネクタイがかけられている。そして、スーツのポケットに、着方を示したメモが入っていた。


「どうこれ?どうこれ?」

「いや、今はやめておこう。なんというか、着にくそうだ」

「大丈夫だよ。着てみよう。ほら、着方のメモもあるし」

「いや、いいって」

「照れないの。ほらほらほら~」


 ソフィーににじり寄られてロギルは、逃げるように外へと出ていく。


 その時、ふと門の方を見つめると、一人の女生徒があくびをしながら老人に怒られて中に入ってきているのが見えた。その僅かな数秒間、ロギルの視線に、その女生徒は真っ直ぐに目を合わせてロギルを見つめ返してきた。そんな気がした。しかし、それも一瞬。再びあくびをすると、女生徒は校舎へと入っていった。


「……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 ロギルは、大人しく部屋に戻って、時間が過ぎるのを待つことにした。ソフィーに着せ替えられるのを、我慢しながら。


「ほら、格好いいって」

「そうか?」


 鏡で、スーツを着ている自身をロギルは確認する。新品同然のスーツは、彼の体に馴染んでいなく。ロギルの目には、浮いているように見えた。


「これで、良いんだろうか?」

「メモ通りだもの。あってるよ。ほら、コートってやつと、帽子もある」

「おっと」


 ロギルは、ソフィーが投げてよこしたコートと、帽子も身につける。だが、やはりロギルには、自身にそれらが似合っていない気がしていた。


「これは、慣れが必要かもな」

「コートは、返り血なども洗って落とせて、強度もある軍用品です。破損の際は校長にご報告を。すぐに新品とお取り返します、だって」

「こんな少し厚いだけの布がか。それを、いつでも補充可能か。流石、レギオンと言うべきか」


 感心したように、ロギルは呟く。すると、何かの物音をロギルは感じ取った。それは靴音。どこかを歩き、何者かがこちらへと近づいてくる音だ。その音を感じ取った瞬間、ロギルはローブを身に纏ってソフィーを内へと戻し、部屋の隅へと身を隠した。


「……」


 暫くすると足音が止まり、部屋の中に存在していた絵画が掛けられている壁が開く。そこから、一人の女性が姿を表した。


「……」


 女性は、ぐるっと部屋の中を見回す。そして、腕に持っていた銃を構えて狙いを定めると、ロギルが隠れていそうな物陰目掛けて、銃をぶっ放した。


「!?」


 ロギルが身を隠していたベッドが、その一撃で粉々に粉砕される。だが、ロギルは弾丸が放たれると同時に、部屋の柱の影へと隠れながら、天井へと飛んでいた。天井へと張り付き、ロギルは女性の様子を伺う。ベッドが粉砕された衝撃でホコリが舞い、女性にロギルの姿は確認出来なかったはずだ。それならば、やり過ごすことが出来る。だが、気づかなかったとして、ロギルは心の中で選択を迫られていた。


(殺すべきか。それとも、今は見逃すべきか)


 女性の動きに気をつけながら、ロギルはそう自問自答する。だが、そんな彼に助け舟を出すように、頼れる味方が彼に声をかけてきた。


(彼女は遊んでいるだけですよ。貴方を驚かせようと思ってね)

(ダンタリオン先生!!)

(どうやら、彼女が校長。この学園の、レギオンのリーダーのようです)

(あいつが、リーダー?)


 女性は、何かを探すように部屋中を覗き込んでいる。赤い髪を振り乱し、まるで忘れ物でもしたかのような表情で、彼女は部屋中を見ていた。


「もしかして、居ない?」


 一人、そう呟くと女性の顔に汗がにじむ。焦ったかのように、女性は再度部屋の中を見渡し始めた。粉砕したベッドの破片の下、クローゼットの中。手当たり次第に開けて、女性はロギルを探す。だが、彼女はロギルを見つけられなかった。


「まずい。居ないのに、ベッド壊しちゃった」

「いや、居ても壊しちゃ駄目だろ」

「!?」


 ロギルの声に、女性が銃を構えて振り向く。すると、彼女の背後には、ローブで顔を隠したロギルが立っていた。


「何のつもりだ、校長先生?」

「……知ってたの。なんだ、つまらない」

「つまらなくは無い。到着早々に、ベッドを壊された」

「ま、それはスペアがあるから。気にしないで。それ古い家具だし、取り替えようとしていたの。だから、ついでにぶっ壊したわけ」

「何のついでだよ」

「貴方の実力を見ようと思ってね。サモナー・ロギル」

「やることが過激すぎるんじゃないか?ガンナー・リオーシュ」

「名前まで知っているなんて、意外と情報通なのね」

「職場の事ぐらい、調べてもおかしくないんじゃないか?」

「そうね。懸命な判断だわ」


 そう言うと、リオーシュは迷いなくロギル目掛けて銃をぶっ放した。それを、最低限の首の動きでロギルは回避する。


「弱くはなさそうね」

「弾速を遅くして、威力を抑えたろ。その程度じゃあ、当たってやれないなぁ」

「素晴らしい。ようこそ、我がレギオンへ。歓迎するわ。レギオンサモナー」


 リオーシュは、銃をしまってロギルへと歩み寄る。すると、ロギルはそれに合わせるように、後ろへと下がった。


「……握手しましょう。握手」

「ゼロ距離射撃は、流石にやめてもらおう。そちらが一発貰う覚悟があるのなら、話は別だが」

「……」


 リオーシュは、ロギルのその言葉に、足早に歩み寄る。そして、スッと自らの右手を差し出した。


「改めて、私がこの学園の校長。そして、レギオンのリーダー・リオーシュ・エレメリオ。よろしくね」

「ロギル・グレイラッド」


 ロギルも腕を差し出し、リオーシュと握手をする。その次の瞬間、リオーシュが左腕で銃を取り出し、ロギルに銃口を押し付けてぶっ放した。


「それでも、やってくるのか」


 ロギルは、素早く身をひねると、銃口を腋の間に移動させて挟む。そして、銃弾を背後へと逃した。


「……見てみなさい。貴方のローブ。穴すら空いてないわよ」

「むっ?」


 よく見ると、確かに銃弾が抜けたはずのローブには、穴が空いていない。しかし、彼女の発射した弾丸も、地面に落ちた形跡はなかった。


「空砲、というわけではなさそうだが」

「魔弾よ。弾は残らない。とは言っても、似たようなものね」

「そうか」


 リオーシュが、銃をしまおうとする。だが、銃をロギルが腋で挟んでいて抜けない。そして、もう片方の腕も、ロギルに握られていて固定されていた。


「……離してもらえるかしら?」

「言っただろ。一発貰う覚悟があるのならと」

「……なるほど。あなたも私を試すと。良いわよ。この距離で、どうぞ、お構いなく」


 そう言うと、リオーシュはニッコリと微笑んだ。


「そうか」


 すると、ロギルの胸に光が灯る。そして、服の隙間から、長く黒いムチのような何かが、リオーシュ目掛けて飛び出した。


「へぇ……」


 リオーシュは、それ見てニヤリと笑う。彼女の右腕側のコートにしまわれた銃。それが、その彼女の動きに同調するかのように、一人でに床下目掛けて弾丸を発射した。それは、床に魔力で出来た壁を作って跳弾し、ロギルの放った黒いムチを撃ち抜こうと迫る。しかし、その銃弾がその黒いムチを捉えようとしたその瞬間、黒いムチは、すんでのところでその動きを止めて、跳弾をやり過ごした。


「……どう?まだやる?」

「いや、やめておこう」


 そう言うと、ロギルは彼女の腕と武器を離した。そして、黒いムチが消える。


「いきなりこういう事をしたのは謝るわ。でもね、貴方の実力を見ておく必要があったの。ここはレギオン。死に向かわせるような過酷な任務もあり得る場所。だからって、実力に合わない任務を押し付けるつもりはないわ。せっかくのチームだもの。長くやっていきましょう。できるだけ、誰も欠けずにね」

「そうか」

「貴方は、いえ、私達のチームは全員長生きできそう。ようこそ。最後の我らのチームメンバー。レギオンサモナー・ロギル・グレイラッド。歓迎しましょう、我が校の相談係さん」

「……相談係?」

「そ。貴方は相談係。役職としては用務員。でもね、この学校には、悩みを抱えた人間が溢れている。それは生徒であり、教師であり、保護者でも有る。その悩みを、解決するのが貴方の仕事。欲しかったのよね、そういう人材」

「……具体的に、何をやるのかその説明では判断しかねるのだが」

「ま、おって指示を出すわ。貴方がこなす仕事は、私の方で選別しておくから。貴方は、それを解決する努力をしてくれればいい。OK?」

「……まぁ、理解した」

「そ。ならいいわ」


 そう言うと、リオーシュは、自身が入ってきた壁を指差した。


「あの壁、見ての通り隠し扉なの。絵画を、一定の動きで動かすと開く仕組みになってるわ。右に3回。左に2回傾ける。すると開く。間違えた時は、一度上下に揺する」

「なるほど」

「あの先には、レギオンの集会所が有るわ。今夜9時、全員で集まることになってる。遅れずに来ること。あ、夕食や、昼食がまだだったなら、この屋上から見える緑の屋根の建物。そこが食堂になっているから、そこで食べて。はい。無料食事券。職員専用」

「無料、食事券」


 ロギルは、リオーシュが差し出したカード状の食事券を受け取った。


「それを見せるだけで、食堂では好きなだけ食事が出来るわ。貴方以外の人に、貴方が食べさせたい場合でも無料に出来る。そして、何度でも使える」

「す、すごい……」


 ロギルは、その言葉に思わず息を呑んだ。


「ただし、食堂の開いている時間は、夜の8時まで。それ以降の時間に食べる場合は、自前で用意してね」

「了解した」

「それでは、また9時に。期待してるわよ、ロギル」


 そう言って、リオーシュは隠し扉から出ていった。その際、リオーシュは通路の一部分の壁を押す。すると、扉が閉まり、元の壁へと戻った。


「なるほど、あれを押して閉じるのか」

「で、どうする?」


 部屋に出てきたソフィーが、ロギルに尋ねる。少し考える素振りをすると、ロギルはソフィーを見て食事券を見せた。


「食べに行くか」

「賛成!!」


 ロギルは、部屋に鍵をかけるとソフィーと一緒に食堂に行くことにした。


「あっ」

「どうしたのご主人様?」

「ベッド、壊されたままだ」

「……まぁ、野宿用の毛布あるし」

「3日ぶりのまともな寝床が……。あとでスペアもらわないと!!」

「そ、そうだね」


 ロギルは、力強く拳を握ってベッドの事を深く心に刻み込んだ。その後、部屋に戻ると床がきれいに片付けられ、新しいベッドが置かれていた。メッセージカードと共に。


「ごめんね、か。悪い校長ではなさそうだ」

「そうかな。いきなりベッドを撃つなんて、クレイジーだと思うけど」

「まぁ、それはそうだと思う」


 そう言いながら、ロギルはベッドに寝転んだ。


「ふかふかだ~」

「ホント~」


 寝転んだロギルに、覆いかぶさるようにソフィーが抱きつく。柔らかな身体が、ロギルの鍛え上げた肉体に押し付けられ、その形を変えた。ロギルの鼻を、ソフィーの甘い匂いがくすぐる。


「いや、俺の上に乗っても分からないだろ」

「えへへ、暖かくて気持ち良いよ」

「はぁ~、寝るなら布団の上だろ。避けろ避けろ」

「もう、つれない……。あ、そっか。私の力で興奮作用をコントロールしてるから、興奮できないんだっけ」


 ソフィーが、その場で指を弾く。すると、徐々にロギルの顔が赤くなってきた。


「どう?興奮する?」

「耳元で囁くな……。そ、そんなわけ無いだろ」

「ふふっ、強がっちゃって……」

「……おい」


 ソフィーは、ロギルの耳に吐息を吹きかけた。それだけで、ロギルは身を震わせる。ソフィーの手がロギルの胸に置かれ、肌をつたって下へ通りていった。そしてソフィーは、ロギルのベルトに手をかける。その手を、ロギルは握って止めた。


「言っただろ。代価は払ってる。だから、これ以上は無しだ」

「確かに、生命力は貰ってるけど、ご主人様が可愛いから、我慢出来ないかなって。したくない?すっごく、気持ちいいと思うよ」


 ソフィーは、自身の体を押し付けながら、ロギルの耳元で囁く。その甘い脳髄がとろけそうな誘惑に、ロギルは身を震わせると、体に一気に力を込めてベッドから逃げた。


「……やめろ。力を直せ。ベッドから叩き出すぞ」

「ふふっ。は~い。でも、したくなったいつでも言ってね」

「それはない。お前の力が、俺には有るからな」


 ロギルは、息を整える。すると、顔から赤みが引いていき、自然な状態になった。


「まったく、何を考えてるんだ。やめろよ」

「でも、結構一緒に過ごしてきたし。そろそろ良いかなって。新しい職場に就職もしたし。2人の新たな門出の記念みたいな?」

「はぁ~、結婚しているわけでもあるまいし。だいたい、お前はサキュバスだ」

「サキュバスでも、肉体的接触は出来るよ。今まで生命力を吸う時は、しっぽを刺すだけだったから、ちょっと上手く出来るか心配だけど。ご主人様に喜んでもらえるようにその時は、い~っぱいご奉仕するね」


 妖艶な笑顔で、ソフィーはそういう。それを見て、ロギルは頭をかいた。


「そうだ」

「ん?する?」

「しない!!ソフィー、お前、そのご主人様っていうの人前ではやめてくれ。今までは、お前が表に出ている時に外の人間との会話は少なかったが、ここにいる間は、どうなるか分からん。だから、人前でご主人様はやめてくれ」

「う~ん、じゃあ、ロギル先生で!!」

「せ、先生?俺、用務員だぞ。なんか、おかしくないか?」

「ダンタリオン先生だって、先生じゃないでしょ。どっちかって言うと、師匠的な意味だし」

「まぁ、それはそうだな。だが、ダンタリオン先生は、俺に戦闘の技術を教えてくれた。だから、そこは先生で良いだろ」

「じゃあ、私もそれでいいじゃん。ご主人様に、人間の常識とか聞いて教えてもらったし」

「……分かった。じゃあ、それで行こう」

「は~い」


 ロギルは、ソフィーの返事を聞くと、ソフィーの隣に寝転ぶ。そして、食後の眠気に任せて、少しの眠りについた。



「……そろそろか」

「おはよう、ご主人様」


 目を開けたロギルの額に、ソフィーが優しくキスをする。ロギルは、起き上がってソフィーの頭を撫でると、黒いローブをかぶった。


「行くか……」

「うん」


 部屋にある、時計を見てロギルは呟く。そう言うと、静かにソフィーは召喚を解除して、彼の内へと戻った。


 壁にある仕掛けを動かしてロギルは、隠し通路へと入る。時刻は夜の8時40分。少し早めにロギルは、集合場所へと移動することにした。


「一応、壁も締めて。……当たり前だが、真っ暗だなこの通路。夜目が効くソフィーが居てくれて助かった」

 

 ロギルの目には、光のない通路の中でさえ、はっきりと見えている。それは、ソフィーの能力の一つ。それを、ロギルは自身へと使って通路を進んで行った。暫くすると、下に降りる階段が長々と続いている。その階段を降りきって、一つしか無い通路を進むと、そこは行き止まりになっていた。


「えっと、この辺か?」


 ロギルは、側面の壁を両腕で触る。すると、壁の一部がロギルの力で押され、目の前の壁が開いた。


「……何だ、これは?」


 そこは、大きな部屋になっていた。そして、部屋のすべてが赤い物で覆われている。赤い絨毯。赤い天井。壁だけは白く。しかし、その壁には赤い絵が飾られていた。


 通路を出た瞬間、ロギルの目の前には赤い机が置かれていた。そして、その後ろの壁の天井付近には、何かの紋章が描かれている。それは、揺らめく炎のように見える光放つ魂。サモナーの紋章であった。


(俺の席、ということか)


 ロギルの席は、部屋の6つの席の中で、ガンナーの紋章が描かれている席よりの位置であった。ガンナーの紋章の反対席には、剣、ブレイダーの紋章が描かれている。ロギルの席の目の前には、弓矢、アーチャーの紋章が。隣の席には、杖、キャスターの紋章が。その反対の席には、鋭い爪を持つ手、バーサーカーの紋章が描かれていた。


(バーサーカーと、アーチャーはすでに来ているのか。というか、アーチャーの奴は寝てないか?)


 バーサーカーとアーチャーは、すでにそれぞれの席に黒いローブで顔を隠して座っている。バーサーカーは、体格から見て男性のように見えた。背筋を伸ばし、彼は微動だにせずにそこに座っている。アーチャーは、そのまま机に突っ伏して動かなくなっていた。体格から、ロギルは女性だろうと判断した。


(俺も、座っておくか)


 ロギルも、席に座ろうとする。すると、バーサーカーの席に座っている人物が立ち上がり、ロギルに綺麗な礼をしてきた。


「……」


 考えること数秒。相手が頭を上げると、ロギルも返すように丁寧に礼をした。それを見ると、相手は満足したように微笑んで座った。


(いい人みたいだな)


 バーサーカー。その紋章とは不釣り合いなほどの礼儀正しい彼の動きの中に、ロギルは優しさを感じた。


 暫くすると、残っているそれぞれの席の後ろの壁が開き、人が集まってきた。次にブレイダー。そして、キャスター。最後に、ガンナーのリオーシュがその場にやってきた。この場に集まったレギオンの中で、リオーシュのみがローブを着ておらず。顔を隠していない。しかし、それ以外のメンバーは、全員が黒いローブで顔を隠し、喋らずにその場に座っていた。


「う、うん。起きなさい、アーチャー」

「ふぇ?」


 リオーシュが、歩み寄ってアーチャーを起こす。アーチャーは、ローブで口元を拭くと、姿勢を正して座り直した。


(やっぱり、寝てたのか)

「こほん。さて、改めて皆さんに自己紹介いたしましょう。私がこのレギオンのガンナー、リオーシュ・エレメリオです。皆さんに招集をかけてから3日。ついに、我が校にレギオンが全員集いました。この6人で、我々は任務をこなしていくことになります。その前に、皆さんに優先順位をお伝えしておきましょう」


 リオーシュは、そう言うと手元の水晶を触った。すると、中央に映像が映し出される。


「我が校、フォーザピオーゼは、多くの生徒を抱えています。皆さんは、その生徒たちに色々な場面で接することが有るでしょう。教師の中にも、一般の教員が居ます。あとでリストを回すので、その人物には目を通しておいてください。リストは、暗記後焼却してください。それらの一般の人物。勿論、我が校の大切な人材です。皆さんの守るべき対象にもなりますが」


 リオーシュは、わざとらしく喋るのを区切ると、一呼吸置いて話を続けた。


「我々がレギオンだと一般人に知られた場合。それが、我が校の生徒であろうと即刻処分してください。我々の存在は、最重要機密に当たります。我が校の生徒だから、教員だからという優劣はありません。規定通り、正体を知った一般人は、直ぐさま処分すること。これが、優先となっています」

(即座に殺せか。規定どおりとは言え、ひどく残酷な規定だ。この学校には、まだ若い人間が多いというのに)


 ロギルは、表面上は反応しなかったものの、心の内側でぼやいていた。


「他に何かあれば、質問は私の方までお願いします。その他は、レギオンの規定通りに。そして早速ですが、2人の人物に任務を受けていただこうと思います。誰か、都合のつく方はいませんか?」


 そのリオーシュの言葉に、誰も手をあげようとしなかった。


「ブレイダー?」

「ごめん。直近は、表仕事の都合であまり時間が取れないかも。他に人が居たら、その人のほうが良いと思うな」

「そうですか。キャスター?」

「私も、資料作りが……。あと、準備も」

「バーサーカー?」

「すみません。同じく」

「では、アーチャーとサモナーにお願いしましょう」

(全員、大変なんだなぁ)


 今日入ってきたばかりのロギルには、明確に表の仕事が割り当てられていない。つまり、この中でロギルは暇なのだ。


「私も無理だぞ~。手続書類とか多いんだぞ~」

「アーチャー。貴方、まだあれも書けていないの?」

「書けるわけ無いだろう!!だいたい、こんなの仕事じゃないぞ!!もっと、楽なのにしてくれ!!」

「はぁ~、分かりました。貴方は、明日の夕方、校長室に来るように。教えますから、一緒に書きましょう」

「むぅ~、しょうがない。お願いします」

「はいはい」

(あれ、ということは、俺一人か?)


 校長であるリオーシュは、この中で一番忙しいだろう。他が無理となると、担当者はロギルしかいない。リオーシュも、ロギルが暇なことは分かっているはずだ。ならば、自分一人になる可能性が高い。そう、ロギルは考えていた。だが。


「仕方ありません。では、この任務は私と、サモナーで担当することにしましょう。宜しいですね、サモナー?」

「……」


 リオーシュの言葉に、ロギルはゆっくりと頷いた。



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