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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
5章 狂乱
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違和感

 一時間後。


「おっしゃあああああああああああ!!!!終わったぞおおおお!!!!」

「うん。矛盾点もない。これで大丈夫だろう」

「えへへ、余裕だったな!!」


 机の上には、何度も文章を考えながら書いた下書きの紙が散乱している。それが清書されて一枚の紙として今は、ロギルの手にあった。


「あとは、これを持っていくだけだな。良くやった」

「えへへ~」


 ロギルは、アマナの頭を撫でる。アマナは、照れ顔でロギルに身をゆだねて頭を撫でられていた。


「……羨ましい」

「お、復活したのか?」


 サシャが、ゆっくりと顔を上げる。その顔からは、赤みが引いていたがまだ少し赤かった。


「取り敢えず、リオーシュに持って行ってこい。いや、もうお昼近いな。ついでに俺も飯を食べに行くか」

「お、一緒に行くのか?」

「ああ。サシャは、どうする?」

「行くーー!!!!」


 三人揃って相談室をでる。そのまま校長室に向かうと、扉に向かってアマナがノックをした。


「校長~~!!持ってきたぞ~~!!」

「うん、早かったわね。入っていいわよ」

「失礼します」


 ドアを開けて三人は、校長室へと入っていく。ずかずかと早足でリオーシュの座る机前へと移動したアマナは、机に書類をゆっくり置いた。


「どうだ、完璧だろう!?」

「……いいわね。矛盾点もなし。これで出しておくわ」

「よし!!」


 アマナは、ガッツポーズを勢いよくする。そのままくるっと回転して扉の方へと体を向けると、駆け足でロギルへと迫り抱きついた。


「さて、食堂に行こう~~!!」

「ああ、そうだな」

「……」


 サシャが目を細めているが、アマナはそれを気にした様子がない。


「仲がいいのはいいけれど、程ほどにね」

「うむ!!」

「そうか。もうお昼か。私も行こうかしら」

「お、校長も行くか?」

「そうね。あと五分もないし行くわ。これぐらい問題ないでしょ」

「うむ、問題ない。では、行こう!!」


 リオーシュが席から立ち上がる。そして歩き始めたアマナを追いかけて校長室を出た。最後まで残っていたロギルの横を通り過ぎてリオーシュは、廊下へと出る。その時リオーシュは、違和感を感じてロギルの方を振り向いた。


「……どうかした、ロギル先生?」

「いや、何でもないですよ。校長先生」


 ロギルは、そう言って校長室から出ると扉を閉める。


 しかし、リオーシュには、それが何でもないことには思えなかった。リオーシュは、ガンナーである。銃を扱う魔法使いであるがために、相手の視線には人一倍気を向けるようになっていた。


 視線を向けるということは、何かを狙うということである。そう思うからこそ相手の視線には、リオーシュはとても敏感であった。そして先程ロギルは、確実にリオーシュを見つめていた。その確信が、今までの経験からリオーシュにはあった。


(何故だろう。自然と目で追ってたな) 


 ロギルは、こちらを見ているリオーシュに愛想笑いを浮かべながらそう考える。リオーシュは、違和感を感じているのか不思議そうに首を傾けると前を向いて食堂へと歩き始めた。その後ろを、ロギルは、黙ってついて行く。その途中で、昼休憩の鐘が鳴った。


(……おかしい。視線が自然とリオーシュに向いてしまうな)


 前方を歩くリオーシュを見つめながらロギルはそう考える。いつもならばロギルは、視界の前方を大きく捉えている。いつ何が来ても対処できるようにする為だ。


 しかし今のロギルは、リオーシュの後ろ姿をただ漠然と眺めていた。


(綺麗な髪だな)


 赤い髪が日差しを受けて揺れている。その色に、ロギル心が動かされているのを感じた。


「……」


 食堂前、食堂に入ろうとした瞬間にリオーシュは立ち止まる。そして素早く振り向くと、ロギルを真っ直ぐに見つめてきた。


「今日はどうかしたの、ロギル先生?」

「……」


 リオーシュは、真っ直ぐにロギルを見つめている。その目をロギルも見つめているが、ロギルはリオーシュの瞳の綺麗さに見とれていた。


「……」

「……」


 見つめ合っていると徐々にロギルの顔が赤くなっていく、それを見ると、何故かリオーシュも自身の顔が赤くなっていくのを感じた。


「……おっほん。ロギル先生」

「はい」

「あまり気が多いのは、良い事ではないわよ。特に、私なんてね」


 リオーシュは、ロギルから視線を外しながらそう言った。


「いや、そんなことはない」

「……えっ?」


 顔を上げたリオーシュの目をまっすぐ見つめて、ロギルは答える。


「リオーシュは、その。いい女性、だと思う」

「……そ、そう」


 二人は、同時にお互いの視線から顔を背ける。そして、無言のまま食堂へと入っていった。


「どうしたんだ校長、なんか口数少なくないか?」

「え、そ、そうかしらね?」

「……」


 食事中、ロギルとリオーシュの視線が合うことはなかった。と言うよりも、お互いが目を合わせまいと視線をわざとずらしていた。


「……怪しい」


 サシャが、誰に聞こえるでもなくそう呟く。


「じゃ、じゃあ」

「おう」


 よそよそしくロギルとリオーシュは、挨拶をして分かれる。その光景を見てさらにサシャは、目を細めた。


 三人は、食事を終えて相談室へと移動する。するとそこには、見慣れない男子生徒が扉の前で佇んでいた。


「あっ」


 男子生徒は、ロギルたちが近づいているのを見ると声を上げる。そして、意を決したようにゆっくりとロギルへと近づいてきた。


「あの、ロギル先生」

「なんだい?」


 真剣な男子生徒の声に、ロギルは返事をした。しかし、それでも聞くことを躊躇っているのか男子生徒は、ロギルから視線を外して黙る。だが、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「先生」

「うん」

「僕の、知り合いの従兄弟の話なのですが」

「うん」

「……もしかしたら」


 男子生徒の体が震えている。そこには、不安と恐れが見えた。それでも男子生徒は、言葉を振り絞る。


「別人、なのかもしれません……」

「……中で詳しい話を聞くよ」


 ロギルは、そう言うとアマナ達と男子生徒を連れて相談室へと入っていった。


「それで、別人っていうのはなんでそう思ったのかな?」

「あの日、従兄弟が家に来た時のことでした。従兄弟は、マジックアイテムを作る工場で働いていまして、その仕事を誇りに思っていました。なので、自社の新商品が出るとわざわざ自分で買って見せびらかしに来て自慢に来るほどでした。それがどんなくだらないものでも。あの日、従兄弟の扱っていた商品を僕は買ったんです。それを、僕は従兄弟に見せました。やっぱりこれは使えるね。凄いねって。でも従兄弟は、僕の買ったそれをまるで冷めたように見ていました。あんなにも嬉しそうに僕に教えてくれたのに」

「……なるほど」

「でも、それだけなら単に疲れてただけって可能性もあるんじゃない?その時だけ、たまたま素っ気無かった可能性は無いの?」


 サシャは、男子生徒に尋ねる。


「それは、有り得ます。でもあの時の従兄弟は、疲れている様子なんてなかったんです。しかもそれどころか、いつも猫背気味だったのですが昨日だけは、従兄弟の背筋が奇妙なほどよく伸びていたのを覚えています。母さんたちは、普通に接していたけれど、僕には、まるで別人のような違和感があって」


 震えながら男子生徒はそう言う。それを見てロギルは、サシャに目線を向けた。

 

「ははっ、変な話ですよね。従兄弟が別人なんて。きっと勘違いなんです。でも、どうしても違和感があって」

「確かに、そうかもしれないね。ただの勘違いかも知れない」

「そう、ですよね」

「でも俺達の仕事は、君の不安を取り除くことだ」

「……先生?」

「調べてみよう。君の違和感がなんなのかをね」

「……ロギル先生、ありがとうございます」


 男子生徒は、ロギルにゆっくりと頭を下げた。ロギルは、サシャとアマナを残して部屋を出る。そして、校長室へと向かった。


「なるほどね。まるで人が変わったみたいになったと」

「ああ」


 机の書類を見つめながらリオーシュは、ロギルの言葉に耳を向ける。


「世の中には、自分と似ている顔の人が3人くらいいるって話があったわね」

「なりすまし、ということか」

「無くはないかもね。……ロギル先生」

「なんだ?」

「貴方、今日はいつもと調子が違うでしょう」

「……そうだ」

「それ、任務に支障は出そう?」

「……いつも通りの力は、今は出せないだろう」

「そう。この件は、一旦レドリア先生に預けるわ。後でその男子生徒の家庭の情報を教えてあげて」

「分かった」

「それと」


 リオーシュは、ロギルの目を見つめる。


「貴方も体調がおかしい時は無理をしないこと。いいわね」

「……ああ」


 そのままお互いに見つめあう。気恥ずかしくなったのか、二人は同時に目線をそらした。


「レドリア先生の調査待ちと今はします。男子生徒にはそのように伝えて下さい」

「分かった」


 少し早足でロギルは、校長室を出る。その背中を出て行くまで見つめたあと、リオーシュは小さく息を吐いた。



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