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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
5章 狂乱
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好調

 食堂で食事をしている間もサシャは、ロギルの隣に居続けた。ロギルは、サシャとの会話に対していつもどおりに返そうとする。


 だが、ロギル自身にも抑えきれない感情が、ロギルに変化をもたらしていた。


(……何故だ。無駄に顔が熱くなる。落ち着け。普通に話してるだけだろ。今までだって腕を組んだり、隣で話すことなんてよくあった。それこそ召喚を学んでいた時には、日常的に合ったはずだ。なのに、顔が熱くなるのを止められない!!)


「でね、ロギル」

「ああ、うん。なんだ?」


 出来るだけいつも通りに会話しようとロギルは努めるが、隣のサシャに目を向けた瞬間、ロギルの目とサシャの目が合ってしまう。


「……綺麗だな」

「……えっ?」

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

「うっ、うん。どっ、どうしたの急に!?て、照れちゃうなぁ~!!」


 ロギルは、サシャから目をそらした。ロギルは、平静を装いながら頭の中で困惑する。


(……おかしい。何故、何故今、そんなことを喋る必要があった!!!!)


 自身のありえぬ発言に、ロギル自身が困惑していた。しかし、サシャを綺麗だとロギルが思ったのは事実であった。ふと隣に居るサシャを見つめた瞬間、その感想がつい口をついてロギルの口から言葉として出てきてしまった。


(落ち着け!!何故今、サシャを綺麗だと思ってしまったんだ!?考えろ!!つい最近も一緒にいたサシャだぞ!!それが何でこんなに違って見えるんだ!!!!……これが、ソフィーがいないせいなのか!?)


 照れて口数が減ったサシャの言葉に、適当に相槌をつきながらロギルは、心を落ち着かせようと努力する。しかし、早まった胸の鼓動はすぐには治まらず、食堂を出て相談室に着くまでにその焦りが静まることはなかった。


「……」

「なんだ?」


 相談室の椅子にロギルが座ると、サシャは隣にではなく目の前に座る。そして、ロギルの顔を見つめた。


「ロギルってさ」

「ああ」

「今日、顔色良くない?」

「……そうか?」


 ロギルは、サシャの言葉に自身の顔を触った。確かに、いつもより顔が温かい気がする。それは、まだ少し同様がある心理状態から見てもいつもよりも少し暖かく感じた。


「今日、もしかして普段よりも調子が良かったりする?」

「……」


 サシャのその言葉にロギルは、自身の体に起こっている何かを言い当てられた気がした。


(そうか。俺は、ソフィーに性欲を吸われないことで、背負っていた肉体の負荷がなくなった状態になったのか!!つまり俺は、いつもよりも健康になったということか!?)


 ロギルは、自身の腕を見る。その瞬間、僅かにだがいつもよりも腕の動きが良くなっている気がした。それは僅かすぎる変化でロギル自身にしか分からないものだったが、確かにロギルは、体の好調を感じていた。


「……そうかもしれない」

「やっぱり?」

「ああ」

「昨日より動きが軽いから、そうじゃないかと思ったよ~」


 ソフィーの特性である性欲を吸うという能力。能力というよりもソフィーにとっては、自身の存在を保つための食事であり欠かせないものだが。それは、吸収されたとしても決して肉体に影響を残さないようなものではなく、むしろ吸い上げ続ければ死にすら至る肉体の健康を司るうえで大事な要素の一つである。


 それを、肉体の活動に支障のない分だけという制限付きではあるが、ロギルはソフィーに自身の体から与え続けていた。


 そんなロギルが、性欲を吸い続けているソフィーから今は解放された状態になっている。そんな状態で、ロギルの調子が良くなるのは、当たり前のことだった。


(そうか。何故、あんなことを言ってしまったのかと思ったが、そうか。なんだ。俺は、いつもよりも周囲に気を配るだけの体力と、行動力が有り余っているから発言してしまっただけか)


 調子がいいという状態が人間にはある。それは、やる気として人の行動に表れるが、ロギルの表面にも行動として滲み出していた。


 いつものロギルであれば、周囲の些細なことに構ったりはしない。しかし、今日は違う。いつもよりも体には、利用できるエネルギーが余った状態になっていた。それ故に、ロギルの体はサシャの行動に反応して発熱したり、サシャを見つめて容姿を観察する暇があった。だからロギルは、食堂でサシャに綺麗だと言ってしまった。


 サシャの可愛さを感じる余裕が、今のロギルにはあったから。


「……」

「どうしたのロギル?急に黙って?」

「いや」


 ロギルは、サシャを見つめる。


(サシャって、こんなにも綺麗だったんだな)

「うん?」


 サシャが、首をかしげる。その仕草一つ一つが、まるで見たこともないように、今のロギルには新鮮であった。


(可愛い)


 ロギルは、ふと手を伸ばしてサシャの頭の上に手を置く。そして、その髪を撫で始めた。


「ん!?んんんんんんん!?!?!?!?」


 突然のロギルの行動に、サシャの顔面は茹で上がり真っ赤に染まった。だが、それに構わずロギルは、サシャの頭を撫で続ける。


(さらさらだな。触りやすい。もっと触っていたい気もするが、これ以上はサシャに失礼だな。手を放そう)


 サシャの髪を愛でて堪能したロギルは、手を離した。その瞬間、サシャは頭の上を腕で押さえて固まる。


「……あっ、すまん。嫌だったか?」

「……心臓に悪いので、事前に一言お願いしてもいいですか?」

「あ、ああ。次からはそうする」

「……お願いします」


 赤い顔のままサシャは、そのまま顔を机へと伏せてしまう。それを見るとロギルは、書類を出して仕事を始めた。


 そのまま時間が流れていく。授業が始まる鐘が鳴ってもサシャは赤い顔のまま動きを止めていたが、ロギルは、気にせずに書類仕事を続けた。


「ふむ」


 いつもよりも筆の進みがいい自身の腕をロギルは見る。字もいつもよりも心なしか綺麗に書けている気がした。


「ここまで違うのか」


 ソフィーに性欲を吸われていないだけで良くなった自身の体調にロギルは、感動する。


 しかし、一方で相棒であるソフィーがいないことで肉体的に若干の違和感を感じるところもあった。


 肉体の修練を積んでいた時は、常にロギルのそばにソフィーがいた。部分召喚も、ロギルはソフィーをもっともよく使っている。


 そのソフィーがいないというのは、ロギルにとっては不安要素でしかなく、性欲を吸われることで多少体調が落ち込む程度なら早く良くなって戻ってきて欲しいとロギルは思った。


 その時、相談室の外からの足音をロギル耳は捉える。足音すらも今のロギルには、いつもよりもより鮮明に聞こえていた。


「ちわ~~っす。邪魔するぞ」


 相談室のドアが開く。するとそこには、鞄を持ったアマナが立っていた。


「よいしょっと」


 自然な足取りでロギルの隣にアマナは、椅子を移動させると鞄を机に置いて座る。そして、そのまま机の上に頭を伏せた。


「……どうした?」

「……授業はいいから、出張の報告書かけって校長が」


 そう言ってアマナは、頭を伏せたまま鞄から書類を出してロギルに渡す。それを、ロギルは見た。


「真っ白じゃないか」

「……なんで私なんだよ。レシア一人で十分だろ」

「これ、あれだろ。正式な課外授業のレポートのやつだろ」

「そう。やってきたことじゃない方の提出物」

「それじゃあ、お前が書かないと意味ないだろ。授業受けてきたのは、お前になってるんだし」

「レシア先生の報告があれば十分でしょ!!なんで、生徒にも書かせるの!!!!」

「そりゃあ、生徒の意見も大事だからな」

「だからなんでだよ!!私は、そういうのいらないんだよ!!!!大体、やってないこと書かせるなよ!!!!」

「……お前な、それで今後どうするつもりだ?これから同じようなこと、多分いくらでもあるぞ。通常用の書類提出」


 ロギルのその言葉にアマナは、机から顔を上げてロギルを見つめる。


「……手伝って」

「うん」

「ロギるんも、どうせ同じような書類を書くんだろ?だから、手伝って下さい!!」

「うん」

「いいの?」

「ああ、いいぞ。俺は、今日調子が良くってな。その書類も、もう書き終わってしまった」

「お~~、すげぇ~~~~!!」

「確か、アマナの課外授業の目的は、長期交換留学時に行われていた魔学授業の補完授業だったな。なら、その範囲をさっとまとめて書いていこう」

「これ、ある意味勉強だよな」

「要領よく行くぞ。ほら、そんなしょげた顔をするなって」


 そう言ってロギルは、アマナの頭をわしゃわしゃと撫でる。するとアマナは、少し顔に元気を取り戻して白紙の紙と向かい合った。


「ペン頂戴」

「おう、使え」


 ロギルは、自身が使っていたペンを渡す。そしてアマナと一緒に、本来やっていたはずの授業内容の部分の教科書ページとの戦いを始めた。


「……なぁ、ロギるん」

「うん?」

「終わったらさ」

「うん」

「また、頭撫でてもらってもいい?……その、元気になれる気がするから」

「……別にいいぞ」

「ほ、本当か!?よし!!」


 ロギルのその言葉に、ペンを強く持ってアマナはレポートを進めていく。頑張るアマナの姿を見て、ロギルは穏やかな笑みを浮かべた。


 

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