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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
5章 狂乱
35/76

ロギル先生の長い一日 

「……う、うん?」


 ロギルは、目を覚ます。それはいつもの早朝、時間すら違うはずもないいつも通りの目覚めであった。しかし、ロギルは体に違和感を感じる。そして、隣から聞こえる唸り声に顔を向けた。


「ぅ~~~~ん」

「おはようございます、ロギル様」


 ロギルが見ると、そこには唸っているソフィーとソフィーの頭に濡らしたタオルをのせるダンタリオンの姿があった。


「……どうしたんですか、先生?」

「見てお分かりかと思いますが、ソフィーが体調不良を起こしまして」

「……なんで俺は、隣にいたのにその事実に気付かなかったんだ」

「それはですね」


 ダンタリオンは、乗せていたタオルが湯気を発すると新しく水につけたタオルをしぽって交換し、とったタオルを水につけた。


「貴方の体が性欲を回復するために全能力を使っていたからですよ」

「……」


 ロギルは、自身の体に目を向ける。隣の唸り声が気になって分からなかったが、今考えると懐かしいような感覚がロギルの体にはあった。その事実に気づくと、ロギルは眉間を押さえ、その姿勢のまま固まった。


「健康的な本来の男性としては、正しい反応でしょう。お気になさらず」

「……魔獣って風邪をひくんですか?」


 ロギルは、気にするのをやめてダンタリオンと話すべく顔を向けた。


「風邪、とは違いますね。ソフィーは格を上げようとしているのですよ。魔獣としてね」

「格を上げる、ですか?」

「はい」


 ダンタリオンは、そう言うとベッドに置いていた本を取ってロギルに渡す。本をロギルは受け取ると、適当に開いて目を通し始めた。


「……姿が変わる、ということですか?」

「そういう者が多いですね。格が上がるというのは、力を得て今までの立場からの脱却・向上を意味します。淫魔である彼女の特性そのものは失われないでしょうが、この姿に落ち着いている必要は無くなる可能性はあるということですね。そうなれば、ソフィーの姿も今のままではなくなるでしょう」

「うぅ~~、いやだぁ~~~。私は、ロギルの好きな今のままがいい~~~~」

「淫魔としての格が上がれば男は、その姿が視界に入っただけで魅了出来るようになるはず。そう容姿にこだわる必要はないのではないですか?抗えば抗うほど、この状態は長く続きますよ」

「嫌だああああああ!!ロギルの好みのままがいい!!!!」

「やれやれ。では、今日一日はこのままでしょうね」


 ダンタリオンは、ソフィーの頭に乗っているタオルに指先を乗せる。すると、タオルが冷えて凍り固まった。


「本来ならば数時間で終わるはずですが、これではキリがない。いっそこうした方がいいでしょう」

「何故ソフィーは、いきなりこうなったんですか?」


 ロギルは、ダンタリオンに本を渡しながらそう言う。


「いきなりではありません。ソフィーは、ロギル様から常に精気を受け取っていました。しかもそれは、ロギル様が女性に興奮さえ抱かなくなるような大きな供給。それがソフィーの中で力として溜まりに溜まり、そして今の事態を引き起こしたのです」

「ということは、必然ということですか。しかし、俺一人の精気でここまで早く、その格上げをするほどに力が貯まるものなんでしょうか?」

「ええ。普通の淫魔であれば途方もなく時間がかかるでしょう。何故なら、常に男性の精気を吸い続けることなど不可能だからです。本来であれば異常を見つけられ狩られる事態にも陥る状態でしょう。しかし、ロギル様は、その状況を認められた。そしてソフィーは、常にロギル様の精気を吸い続けた。だからここまで早く格を上げることが出来たのでしょう」

「なるほど」

「私の体は、ロギル100%です!!」


 苦しそうに顔を歪めながらソフィーは、そう叫ぶ。


「……他の要因としましては、力の使い方でしょうか。ロギル様は、主にソフィーの力を尻尾の活用にしかあまり使われていません。それは、体内の魔力をあまり消費する行為ではありませんからね。消費が少ない分、早く至ったという可能性もあるかと」

「もっとエッチなことにも活用していいよ!!というか、してよ!!!!」

「……いや、体が辛いんだろう。叫ぶな」

「……心の叫びです」

「淫魔が戦闘のみにしかその力を使っていない。それは、ストレスの溜まることなのかもしれませんね」

「……すまないな」

「……いいよ」


 ソフィーは、ロギルの言葉に布団を目が隠れるまでかぶって拗ねたようにそう答えた。


「さて、ロギル様。いかがいたしますか?」

「?」

「今日、ソフィーは見ての通り、力をロギル様にお貸しすることが出来ません。つまり、ロギル様は女性を意識してしまうということです。それも、今までソフィーに吸わせていた分、より強くね」


 そのダンタリオンの言葉に、ロギルは頭を抱えた。


「どうされますか?」

「……仕事には、出ます」

「そうですか。では」


 そう言うと、ダンタリオンは本から仮面を取り出して付ける。すると、その姿が黒髪をした女の子へと変わった。


「どうぞ」

「?」


 ダンタリオンは、ロギルに向かって手を広げてそう言う。しかし、ロギルにはその言葉の意図が分かっていなかった。


「……ロギル様は、日頃は常に精気を吸われた状態でした。つまり、ここでその状態に近づいた肉体に体を直すには、性欲を発散するしかないということです」

「なるほど?」

「普段ならソフィーが相手をするべきなのでしょうが、この状態です。なので私が。では、どうぞ」


 そう言ってダンタリオンは、着ている服を脱ぎ始める。それを、ロギルは一瞬で近づき止めた。


「先生、お気持ちだけで結構です」

「……ロギル様」

「はい」

「その下半身の状態でお仕事に行かれるおつもりですか?」

「……」


 ロギルは、ベッドから飛び起きると床に伏せて勢いよく腕立て伏せを始めた。


「体を高ぶらせれば、自然と治まるはずです」

「なるほど」


 ダンタリオンは、ゆっくりと立ち上がるとロギルへと近づいていく。そして、その背中に体重を預けて座った。その瞬間、ロギルの体がビクッと震えて止まる。


「どうされましたか?」

「いえ、何でもありません」


 ロギルは、無心で腕立て伏せを続ける。その姿を、ダンタリオンはジッと見つめていた。


「ふうっ。よし、大丈夫です」

「お疲れ様でした」


 汗だくになったロギルに、ダンタリオンはタオルを持ってきて渡す。ロギルは、体を拭くと仕事着に着替え始めた。


「いつでも運動が出来るわけではありません。無理は、なさらない方がよろしいかと」

「無理なんて、大丈夫ですよ」

「ロギル様、人間の衝動とは、抑えられていた時期が長いほど反発して大きく増長することもあるものです」

「……」

「そして、ロギル様の仕事場には、今、女性が多く出入りされています」

「……」

「もしもの時は、私が力になりましょう。覚えておいて下さい」


 ダンタリオンは、そう言うとロギルに近づきその体を密着させた。


「先生」

「……はい」

「ふっざけるなよおおおお!!!!ダンタリオンせんせえ~~~~!!!!私から、ロギルを取ろうとするなああああ~~~~!!!!」


 ソフィーが、布団を跳ね除けて飛び起きた。その姿を見るとダンタリオンは、呆れたようにため息を吐く。


「貴方がそんなだからでしょうが」

「だからって、先生がそんなことをする必要は、ないでしょうが!!!!」

「あのね、ロギル様が犯罪を犯してしまう可能性が今日はとても高いんですよ。人間には、制御できない衝動が湧き上がってしまう時だってある。それが今日は、とても有り得やすい日なんです。例えそれが、ロギル様でもね」

「ロギルは、いままで気にもしてなかったんだから、スルーできるもん!!」

「そうとは言えませんよ。感情を抑えていたのではなく、気にしていなかったですからね。それは、意識すると抑えにくくなっているということ。ですから、ここで今発散ついでに慣れさせ……」

「先生、もう、もういいですから!!俺、大丈夫ですから!!」

「……分かりました。ですが、私がいます。もしもの時は、それを思い出してください」

「分かりました」


 その言葉を聞くとダンタリオンは、ロギルから身を離した。


「たくっ、やめてよね。本当。やめてよ」


 それを見ると、ソフィーは再度寝転んで布団をかぶる。


「はぁ~~。私は、ソフィーの看病で今日はここに残らざる負えないでしょう。男でも女でもない私が一番の適任です。進化の途中では、何が起こり得るか分かりませんからね」

「頼みます、先生」

「ええ。ロギル様、今日は何卒慎重に、お気をつけて」


 ダンタリオンは仮面を外す。そして、ソフィーの近くに行くと茹で上がったタオルを外して新しいタオルを乗せて凍らせた。


「大丈夫。昔に肉体が少し戻っただけだ。大丈夫。俺なら行ける」


 着替えると、鍵を持ってロギルは部屋を出ていく。部屋に鍵をかけると、ロギルは相談室へと足を向けた。


「うん?」

「ロギル、おっはよ~~~~!!!!」


 相談室の近くに行くと、サシャが待っていてロギルへと抱きついてきた。普段なら堂々とその突進を受け止めるロギルであったが、肉体に触れたサシャの体の柔らかさ。温かい体温に、ロギルは驚いてその身を少し下がらせてしまった。


「うん?どうしたの、ロギル?」

「ああ、いや、なんでもない。そう言えば、鍵はサシャに預けてたんだったな。持ってきてるか?」

「うん、持ってきたよ」

「そうか。じゃあ開けてくれるか。あ、俺は食堂で今から朝ごはんを食べるだけど、サシャはどうする?部屋で待ってるか?」

「えっと、なら一緒に行くよ」

「そうか。……じゃあ、行こうか」

「うん!!」


 サシャは、ロギルの腕に捕まるとそのまま歩くロギルについていく。ロギルの腕をギュッと抱きしめてサシャは、ロギルの顔を見つめた。いつもは、サシャが抱きついても何事もない表情をロギルはしている。しかし、今日のロギルの顔は、どこか赤くなっていて照れているように見えた。ロギルが自分に抱きつかれて照れ、嬉しそうにしている。その事実に、サシャを嬉しくなってより強くロギルに体を押し付けた。


(……嘘だろ。まさか、こんなに)


 その隣で、ロギルは何かを我慢するように唇を噛み締めている。ロギルのある意味で長い一日が、今始まろうとしていた。




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