打ち上げ
ナイフが散らばったままの地面。そこにレシアは、一人小さなノートを片手に近づいていく。そしてその周囲の地面に対して何かの魔法を使うと、ぶつぶつと小声で呟いてからノートに文字を書き記した。身をかがめて地面に散らばったままのナイフを全て集めると、持参した袋に収めてバイクの荷台に縛り付ける。
「……まぁ、一本くらいはいいですかね」
そう呟くと、僅かに袋を開いてレシアは一本だけナイフを取り出した。そして、それを地面目掛けて投げつける。
「墓標替わりに一本だけ置いておきますね」
地面に刺さった一本のナイフ。それをもう一度見ることもせず、リオーシュ達とレシアは、車とバイクを走らせてその場を後にした。
「……」
その光景を、一羽の鳥が見ている。その鳥は小鳥であり、どこにでもいるありふれた鳥であった。しかし、その鳥はロギル達がその場を立ち去ったのを念入りに確認すると地面に降りてナイフへと近づいていく。
「……この程度か」
野太い男の声がその場に響いた。その後、その鳥は空へと羽ばたくと何処かへと消えた。
「それで、どうだった?」
「ひどいもんだったよ。あれじゃあ人間すら超えられていない。失敗作さ」
「そうか」
何処かの部屋の一室で黒いローブに身を包んだ男は、自身よりも背の高い男の話を聞いていた。その黒いローブの男は、腰のホルスターに差していた黒い銃を手に取る。
「まぁ、予想の範囲内だな」
「酷い言い方だな。あれもあれで上を目指していただろうに」
「彼は役に立ってくれた。それだけで十分だ。ただ、力がなかったというだけだ」
「それで、次はどうするんだ?」
「……君はどうだ?力を得たものとしては?」
「俺かい?俺は、目立つのは嫌いでね。細々とやりたいってところかな」
「そうか。考えるに、君の考えが一番私の求める理想に近いのかもしれない」
「ほう」
「君の行先を見てから次を決めることにするよ」
そう言うと男は、銃をしまって部屋を出て行った。
「……俺は、道半ばで潰える気はないんだよ。悪いな」
男の出て行った部屋で、長身の男がそう呟く。すると、長身の男の体がみるみる萎んでいって小さな小太りの男へと変わった。
「俺は踏み潰すぜ。あんたすらもな」
そう言いながら男も反対の出口から部屋を出ていく。
「俺が、唯一の神になってやる」
小太りの男が部屋の扉を開けた瞬間、さらにその体が縮んでいく。すると小太りの男だったものは、小さな鳥へとその姿を変えて何処かへと飛び去っていった。
「いえ~~~い!!かんぱ~~い!!」
「「「「かんぱ~~い」」」」
陶器で出来たグラス軽く打ち付け合ってロギル達は、テーブルの上に置かれた料理たちへとその目を向ける。
「よ~~し。じゃんじゃん食うぞ!!!!」
「奢りありがとな、ノーマン!!」
「おいおい、割り勘だろ!!」
「奢りあり~~」
「ありがとうございます」
「助かります、ノーマン先生」
「……割り勘じゃないのか?」
ロギルだけが割り勘だと思っていた中、他の4人はノーマンに奢らせようとしていた。
「おいおい、そりゃねぇだろ!!皆でのお祝いだろ!!皆で負担して祝おうじゃねぇか!!」
「だって、ノーマンが飲みに行きたいってだだこねたんじゃん」
「そうそう」
「そうですよ」
「わざわざ呼び出したんですから、それぐらいは」
「え~~~~」
事件が片付いたあと、車とバイクを走らせてロギル達は都市へと帰還した。その後、学校に戻って仕事に戻ろうといていた時、ノーマンが飲みに行きたいと言い始めたのだ。その結果、学校が終わった時間、飲食店に一同は集まって今に至る。
「いいじゃん。皆で頑張ったじゃん!!こういうのって、必要じゃん!!」
「いる?」
「私は、なくてもいいわよ」
「そうですね。私たちで集まるっていうのは、その、不都合を生む可能性もあるかと」
「一人は生徒ですしね」
「……うむむむむ」
冷ややかな言葉にノーマンは押し黙る。そんな中で、ロギルだけは自身の取り皿にサラダをよそって食べていた。
「ロギル先生、いるよな?こういう時間?」
ノーマンは、助けを求めるようにロギルに視線を向ける。
「……まぁ、一回ぐらいはいいんじゃないですか?出張の疲れを食べて治すためにこういう時間があっても」
「流石ロギル先生!!分かってらっしゃる!!」
「ただ、学生に払わせるっていうのは、ちょっと……」
「……」
「ノーマン先生、奢りありがとうございます!!!!」
「……分かった。アマナ君、君の分だけだす。それでいいでしょ!!!!」
「やれやれ」
「私達は、そのままですか」
「しょうがないですね」
「よし。決まりだ決まり!!じゃあ、食べようぜ!!この肉料理がまた美味いんだよ!!」
「どれどれ」
「あ~~~~!!一気にひと皿分の肉をさらうなよ!!!!」
「じゃあ、私はこっちで」
「私は、こちらで」
「ちょ、店員さん!!注文!!注文いいですか!!!!」
「……」
ロギルは、一人静かに食事を続けた。
「ふ~~~~、くったくった」
腹を叩きながらノーマンが椅子の背もたれへと体重をかける。その光景をロギル達は、飲み物片手に見つめていた。
「満足したかしら?」
「ああ。皆はどうだ?」
「いっぱい食ったぞ!!」
「もう十分だ」
「そうね」
「ご馳走様です」
「美味しいお料理でした」
「よし。なんだかんだで気分良く食べれたからな。俺が八割は払う。残りを任せていいか?」
「二割を四人でね」
「そのくらいなら」
「いいですかね」
「いくらだ?」
ロギルだけ素早く懐から財布を取り出した。伝票を見ながらお金を出し合って、そのお金を握り締めるとノーマンは会計へと向かう。会計が終わったあと、6人は並んで帰宅への道を歩き始めた。
「いや~~、これからも上手くやっていけそうだよな」
「でも今回だけよ」
「この六人では、難しいでしょうね」
「分かってるって」
リオーシュ達の小言を背に、ノーマンは早足で歩き始めた。
「よう、ロギル先生、レドリア先生」
「うん?」
「なんですか?」
ノーマンは、先を歩いていたロギルとレドリアの肩へと手を回す。
「これからもよろしくな」
「……ああ」
「ええ」
「よし。男子教師仲間の絆も深まったな!!これでこの先の仕事でどんなに躓こうともやばいことにはならないだろう」
ノーマンは、二人から離れると二人の前へと進み出る。
「これから改めてよろしくな。同僚諸君」
「それと生徒な」
「未来の同僚ということで」
「それならいい」
その言葉に、上機嫌でノーマンは歩いていく。そのあとを、ロギル達はやれやれといった表情でついていった。
「それで、私の今日のごはんは?」
「今から作る」
ロギルは、帰るとチーズと野菜とハムをパンにはさんだだけのサンドイッチを作ると、それをお皿に乗っけてソフィーに渡した。
「どうぞ」
「いただきまうす」
ソフィーは、躊躇することなくサンドイッチにかぶりつく。息つく暇もないほど一気にサンドイッチを咀嚼するとソフィーは、ジト目で皿をロギル突きつけて返した。
「私もあっちの美味しそうなお肉料理が良かったなぁ~~」
「……今度、食べに行くか」
「本当!?」
「ああ」
「やった~~!!!!」
ソフィーは、嬉しそうにベッドで飛び跳ねる。機嫌の直ったソフィーは、上機嫌でロギル日課のトレーニングを見守ると、無理矢理一緒にシャワーを浴びてベッドへと寝転んだ。
「おやすみ、ご主人様~~」
「ああ、お休み」
ロギルは、ソフィーの体温を感じながら目を閉じる。いつも通りに眠気に任せていると、すぐにロギルの意識は眠りへと落ちていった。
「……うん?」
眠っているロギルの横で、寝苦しそうにソフィーが身をよじる。既に眠って数時間が経っている。その中で、ソフィーだけが体に違和感を感じてベッドの上で体の姿勢を変えた。
「う~~ん?うん?」
覚醒しきっていない意識の中でソフィーは、自身のオデコへと手のひらを持っていく。そして、手のひらを乗せると腕を下へと移動させ、乗せていた布団をめくった。
「……熱い」
その変わった様子に気づいたのか、一人の魔獣が部屋へと音もなく舞い降りる。ダンタリオンは、本を片手にソフィーを見つめると、本のページをめくりながら何かを観察していた。
「ほう」
ダンタリオンは、あるページを見るとソフィーを見つめ直す。そして、笑みを浮かべた。
「喜びなさいソフィー。貴方は、進化するようですね」
「う~~~~ん、熱い……」
ソフィーのその言葉に、ダンタリオンは布を水で湿らせるとそのオデコに乗せて、少しだけソフィーが寝むり続けやすくしてあげた。




