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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
1章 肉体
3/76

拠点

 そこは、とある街役場の地下室。街の住民達が平穏に職員達に書類提出をしている中、その地下室では、銃弾の発砲音が響いていた。


「彼女が?」


「はい。9代目の子孫にあたる者です」


「確か、ワイバーンだったな」


 護衛を連れた老人が2人、射撃場に立っている女性を見ている。赤い髪をポニーテールにして纏め、その女性は両手に拳銃を握っていた。片方は白。片方は赤の塗装を施された銃だ。だが、彼女は銃を構えようとしない。だらんと力なく、銃を握ったまま腕をおろしている。


 だというのに、彼女の目の前の的、それにはど真ん中に撃ち抜かれたような穴が開いた。聞こえた発砲音は一発。だが、彼女の前に立っていた別の列の的6つ全ての真ん中に、撃ち抜かれた銃痕が出来ていた。


「……早いな」


「私も、あれほどの早撃ちは見たことがありません」


「それもあるが、恐ろしいのは銃弾の軌道のコントロールだ。あの腕を下げた状態から引き金を引き、弾丸を正確に的に向かわせている。恐ろしい魔力コントロールだ」


「実は、それだけではないのです」


「と言うと?」


「私が一番驚いたのは、彼女は既に、リロードも終わらせていることです」


「なんだと?そんなバカな。次弾装填まで、どんなに慣れた魔術師でも、1秒はかかるはずだ」


 紫のコートを羽織っている老人が、そう呟く。だが、そんなことは眼中に無いのか。彼女は、腕を上げて普通に撃ち始めた。人型の的、全てに穴を開けて顔を描いていく。正確な射撃に射抜かれ、喜怒哀楽の表情を描かれた的が完成した。


「おかしいですね。いつもなら、的を端から削り落としていき、残骸がなくなるまで連射するのですが」


「……ふむ。少し、試してみるか」


 女性は、残りの的に驚きと落胆の表情を刻むと、腰にあるホルスターに銃をしまった。その瞬間、紫のコートを羽織っていた老人が懐から銃を抜いて女性に向かって構える。だが、構えきろうとした瞬間、その紫の銃が、何かの攻撃を受けて弾き飛ばされた。


「……」


 先程、銃をしまったはずの女性の手には、既に白い銃が握られている。もう一方の腕には、赤い銃が握られていた。女性は、その目を皿にして老人を見据えている。まるで、撃ち殺すぞとでも言うかのように、白い銃の銃口を迷いなく老人に向けて構えていた。


「ははっ、遊びが過ぎたようだな。唯のフリだ。すまない」

「リオーシュ!!彼は、レギオンの2代目ガンナーだぞ!!」

「……」


 リオーシュは、スッと銃を下ろすと、ホルスターにしまった。そして、ポニーテールに束ねていた赤い髪を解いて、白いコートを羽織る。そして、射撃場から出ていった。


「末恐ろしい娘だな」


「あれで、まだ16でございます」


「16……。居るのだな。天才というのは」


「はい。魔法、射撃、魔弾の開発。どれをとっても歴代最高かと。彼女以外に、今代のレギオンのリーダーはおりません」


「まだ選抜戦も行っていないのに、そう言ってしまって良いのか?」


「はい。残念ながら、リオーシュ以外にゾアン殿から銃を弾く者など、居よう筈がありません」


「そうか……」


 老人は、弾かれた銃を拾う。そして、力強く銃を一瞬握りしめると、懐にしまった。


*****


 それは、とてもひどい光景だった。リオーシュは、髪を結んですらいない。ただ、銃を持ったまま立っていた。辺りの、全てのレギオンガンナー候補生の銃を撃ち抜いて。


「お、俺の銃が……」


 それは一瞬だった。ガンナーの試験は、全員での潰し合い。誰が誰を狙うかなど、全て決まっていない状況の中での争う試験だ。だが、リオーシュ以外の全員が、最初にリオーシュに向かって銃を構えた。そして、試験は終了した。リオーシュが、全員の銃を、その一瞬で破壊した。


「それまで。リオーシュ、君が次のレギオンガンナー。そして、レギオンのリーダーだ」

「……ふっ、謹んでお受け致します」


 リオーシュは、銃をホルスターにしまうと丁寧に礼をした。


 別室に残された候補生達と別れ、リオーシュは、師匠であったビブルに呼び出される。リオーシュは、髪を呼び出された部屋の前で結び、銃を抜いてシリンダーを一回転させると、銃をしまって扉のドアを叩いた。


「入りなさい」

「失礼します」


 リオーシュは、部屋へと入室する。そこには飾りがなく、ただ一組の机と椅子が存在していた。その椅子から、ビブルが立ち上がる。


「リオーシュ、先程全ての29代目レギオンメンバーの選抜が終わった」

「遅かったですね」

「ガンナーの様に、一瞬で終わってしまう試験は無い。これが普通だ」

「そうですか」

「早速だが、レギオンは何処に組織を作っているか分かるか?」

「街の兵舎、役所、山奥の農場、国境端の山小屋などです」

「そうだ。レギオンには、拠点が無数に存在する。そして、その全てにレギオンはチームで潜み、国の治安を維持している」

「それで……」


 ビブルは、机上から書類を取り、リオーシュに渡した。リオーシュは、書類を取り出して見つめる。


「君達の活動拠点候補だ。それを選ぶことが、君のリーダーとしての初めての仕事になる」

「拠点、ですか」


 興味無さそうに、リオーシュは書類をめくっていく。だが、ある所でその手が止まった。


「これは……」

「それは、9代目の方々が使われている拠点だ。そろそろ落ち着いた拠点に移りたいと言われたのでね。次の活動候補を探している」

「そう、ですか」


 リオーシュは、その書類のみを抜き取った。


「ここにします」

「そうだろうと思ったよ」


 そこには、学園・フォーザピオーゼと書かれていた。


「では、君は今からそこに赴いて9代目との交代、レギオンメンバーの受け入れ準備を行ってくれ。残りのメンバーには、こちらで拠点位置を通達しておく。以上だ。君達の拠点に旅立ちなさい」

「……実は、1つ心残りがありまして」

「……」


 リオーシュは、銃を引き抜く。そして、ビブルに向けた。


「死霊王ビブル。その魔弾、是非頂きたい」

「私の、ファントムキングが欲しいのか?」

「はい」

「……君が、髪を結んでいたからな。嫌な予感はしていた」


 ビブルは、自身の銃を手に取る。それは、水色の銃だった。それに、ビブルは一発だけ弾丸を込める。


「着いてきなさい」


 ビブルは、リオーシュを引き連れて射撃場へと向かった。


「ガンナーが相手から魔弾を得る場合、その魔弾以上の力を示さねばならない。分かるな」

「はい」

「そして、負ければ君の魔弾を私が貰う。フレアドラゴンをな」

「ええ」


 リオーシュは赤い銃を、ビブルは水色の銃を相手に向けて構えた。


「では、勝負と行こう!!」


 2人が、同時に引き金を引く。


 一発の弾丸が、お互いの銃から発射され、空中で弾けた。すると、そこから強大な魔力が形をなした存在。霊獣が姿を現す。


 霊獣とは、魔力で作られ、一時的に生物の形を成した存在だ。ビブルの魔弾から、青い炎を纏った首なしの騎士が現れる。その騎士は、雄叫びを挙げると、リオーシュに斬りかかろうとした。だが……。


「ガッ……」


 リオーシュの、放った弾丸が光る。それは、一瞬でファントムキングの腹を貫き、その存在を消滅させた。


「何だ、これは……」


 ファントムキングは消え、その後ろには金色に光る龍が浮いている。龍は、ファントムキングを消し去ると、その場から消えた。


「ビブル先生」

「……分かっている」


 ビブルは、一発の魔弾をリオーシュに投げてよこした。


「では、私はこれで」


 リオーシュは、髪を解くと射撃場を出て行く。その後姿を見送ると、ビブルは大きなため息をはいた。


「卒業後、すぐに師匠超えとは、末恐ろしい子だ」

 

*****


「元気だったか、リオーシュ」


「はい。お祖父ちゃんも、元気そうですね」


「ハッハッハ、そうでもない。なにせ、これ以上教師とレギオンは兼任出来そうにないからな。お前が、ここに来てくれて嬉しいよ」


「そう言ってくれると、私も嬉しい」


「……しかし、ここに新たなレギオンが来るのか」


 リオーシュの祖父。9代目レギオンガンナーのマグファスは、校長室の窓から空を眺めた。


「最初に、ここに来た時のことを思い出すよ。誰が私の仲間なのだろうと、期待と不安に悩んでいた。ハチャメチャな連中ではあったが、いいチームだったな」


「お祖父ちゃんにそう言わせるなんて、いい人達なんでしょうね」


「いや、良くはない。変わり者しかいなかった。レギオンとは、何処で聞いてもそういう人間の集まりのようだ。だが、だからこそ築けるものがある。友情、信頼。まぁ、愛は育ちはしなかったが……。ともかく、面白い出会いになることは確かだ。どっちに転んでもな」


「だと、良いけれど……」


 リオーシュは、気を紛らわせるかの様に自身の髪を弄った。


「その癖、まだ直っていないのか。お前は、退屈になると自身の髪をいじる。ただ、髪をまとめている時は、相手に期待している時になるが」


「まぁね。私が相手にしたがる人がいるのか、ちょっと疑問だし」


「良いか、リオーシュ。ガンナーはな、確かに現在の魔道の中でトップクラスに入る実力を秘めている。レギオンのリーダー格でもある。だがな、決して他の5つの魔道が弱いわけではない。もう数年前になるが、当時は異端の魔道として皆にどれもがその存在を恐れられたものばかりだ。そして、何代も続いているのに、未だに全ての魔道の底が見えない」


「……サモナーは?」


「むっ?」


「サモナーには、底があるんじゃないかしら。所詮、別の獣の力を借りるだけでしょ?」


「そう、思うか」


「ええ」


 マグファスは、何かをリオーシュに言おうとしたが、その口を閉じた。


「おっほん。ならば、見定めてみると良い。私が言った所で、お前の見るサモナーは、ただ一人になるかもしれん。そう思うなら、見定めてみよ。お前のチームのレギオンサモナーを見て、サモナーが底に到達しているのかどうかおな」


「……そうね。そうするわ」


 リオーシュは、興味無さそうにそう返した。


「ところでだが、お前たちには、レギオンとは別の仕事もこなしてもらうことになる。言うなれば、隠れ蓑にするための表の職業だが、立派な職業には違いない。この学園の、どの職業に誰を就かせても結構だ。お前が、予め仲間たちの職業を決めなさい。こっちで手配しておこう」


「任務に、支障は出ないのよね?」


「大丈夫だ。ここは、表向きは資産家が寄付を募って出来た学校だが、裏の顔は政府の教育機関だ。スタッフの殆どは政府の息がかかっているし、お前たちのバックアップもこなしてくれる。いざという時には、彼らに任せて本来の仕事をこなしなさい。アリバイも、彼らが作ってくれるだろう」


「楽そうね。なら安心だわ」


「いや、そうとも言えん。特に、お前はな」


「?」


 そう言うと、マグファスは自身が座っていた椅子から立ち上がる。そして、自身の椅子を指差した。


「ここが、お前の新しい表の職業だ」


「……校長?」


「その通りだ。16歳の学校長。これは、一躍有名になるぞ」


「レギオンが、名前を売ってどうするんですか?」


「それこそが狙いだよ。隠れ蓑というやつだ」


「逆に、ということですか?」


「うむ。表では、最年少にして実力のある学校長。裏の顔は、レギオンを束ねるガンナー。どうだ、人々がその事実に気づくと思うか?」


「思いません」


「そうだろうな。なんせ、学校長は仕事が多い。普通なら、両立は出来ん。ここ以外でわな」


「それよりも、突然校長になるのは大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫だ。経歴は、幾らでも捏ち上げることが出来る。それに、表向きここは国営ではない。才を買われて、校長を務める者が居ても、誰も気にすまい」


「なら良いのですが」


 マグファスは、一冊の本をリオーシュに渡す。それは、この学校のパンフレットだった。


「表紙にも書いてある通り、我が校の校風は自由その物だ。武道、芸術、文学、科学、魔学。ありとあらゆる学科が存在する。魔学は得意だろ、リオーシュ」


「はい」


「魔学を、最近は専攻するために入学する生徒も多い。魔学学科の教育設備の強化に、力を入れようとも思っていてな。そういう点で、魔学の知識の高い君を校長として雇うことにする」


「それなら、一応理由としては通りますね」


「そうだろう。ガンナーは、全員が魔学者だからな。適任だ。それに、君は国営の学校で既に魔学科の飛び級卒業をしている。しかも、成績1位でだ。文句のつけようがない」


「空白の一年がありますが……」


「レギオンの訓練生としての時間だな。それなら、この学校が招いて、学校運営に携わってもらっていたことにすればいい。気にするな」


 マグファスは、そう言いながら部屋の壁を3回魔力を込めて叩く。すると、壁の一部が開き、隠し金庫が現れた。その中から、マグファスは新たな書類を取り出す。そして、リオーシュに渡した。


「これが、君の仲間の評価・経歴リストだ。どの職につかせるのかは、それを見て判断するといい」


「経歴だけですか。顔写真などは、無いのですね」


「ああ。書面とは言え、レギオン関係者の情報をそのまま全て載せることは出来ない。それも、君が見たらこちらで処分することになっている」


「そうですか。……私の評価リストも、あるのですか?」


「……」


 マグファスは、金庫から一枚の紙を取り指すと、リオーシュに渡した。


「ドラグーンですか。戦闘力、魔学知識共に高く、優秀な能力を持つ。まぁまぁの評価ですね」


「そのドラグーンと書かれているのは異名だな。その人物の特徴を、評価者が表すために着けたものだ。人物特定の参考になるかは、少し怪しいな」


「しかし、これだけしか書いていないのですか。もっと、書けることもあるかと思いますが」


 そのリオーシュの言葉に、マグファスは遠い目をする。


「皆、最低限な情報で一生懸命に書いたんだ。言ってやるな」


「……」


 その光景から、リオーシュはこれ以上深く言うのをやめた。


「スピードスター、戦闘力が高い。マイペース。ジェントルマン、戦闘力が高く、礼儀正しい。教養も高い。マナ、魔学知識が高く、戦闘力も高い。自分勝手。トリニティ、気分や。謎が多く、戦闘力が高い。若い。勉学が苦手。これだけで、職を決めるのですか?」


「……難しいかも知れないが、頑張ってくれ」


 マグファスは、その疑問に分かる分かると言った感じで頷いていた。


「最後に、ビースト。シンプルな異名ね。これがサモナーかしら?歴代でも突き抜けた戦闘力を持つ。教養、不明」


「……」


「脳筋ということでしょうか?」


「サモナーだが。実は、修行期間が他と比べると長い。それは、身体全体を使った特殊な魔道ゆえなのだが。大半が、その修業期間に使われる。そこから、君達と同じ一年を過ごすわけだ。その一年間、師匠は彼らに接さない。その為、教養は不明なのだ」


「……用務員にでも、なってもらおうかしら?」


「分からないなら、それが良い。実際、私の仲間には用務員が二人いた」


 その言葉に、リオーシュは少し考える。


「でも、ただの用務員だと面白くないですね」


「と、言うと?」


「彼、いえ、彼女かしら?には、少し別のこともやってもらおうかしら」


 そう言うと、リオーシュはニヤリと笑った。


*****


「でだ、ロギルよ」


「はい」


「ここが、お前達のレギオンが活動拠点とする地だそうだ」


 ロギルは、ファイスから一枚の紙を受け取った。


「学園、ですか」


「そうだ。……行ったことは、無いよな?」


「はい」


「そう言えば、修行期間中に街へは行かなかったのか?」


「行きはしましたが、観光などはあまり……」


「そうか。学園とは、多くの人が知識を学ぶ場所だ。しかも、この学園は規模も大きく、在籍している生徒も多い」


「なるほど」


「そして、この学園がある街自体も、国としては重要な大都市として機能している。国を形作る、重要拠点でもあるわけだ」


「……」


 ロギルは、その言葉に険しい顔をした。


「大都市、ですか」


「不服か?」


「いえ。ただ、都市部から離れた村などを襲う連中とは、縁が無さそうなので」


「ふむ」


 ファイスは、椅子から立ち上がった。そして、窓際に立つ。


「ロギルよ。人々の平穏を乱すのは、なにも魔獣だけではない。悲しいことに、人が人の平和を奪うことのほうが多いのだ」


「……」


「お前が、魔獣を狩るためにこれまで必死に修行してきたことは分かっている。だが、お前はレギオンとなった。その力、街の人々を守るために使ってはくれないか」


「……」


 ロギルは、沈黙する。そのロギルを見かねたのか、ファイスは目を閉じて話し始めた。


「実はな、魔獣はこの大都市・ファーゼンにもいる」


「……大都市に、魔獣が?」


「ああ。今から行くお前に教えていても問題はないだろう。今、ファーゼンでは、原因不明の魔獣に関連する事件が起きている。ただし、全て我々レギオンが解決し、もみ消した」


「魔獣が侵入していたとなれば、住民に不安が広がるからですか?」


「その通りだ。そして、残念ながら今も、魔獣の事件は無くなっていない」


 ファイスの言葉を、出来るだけ無表情でロギルは聞き流す。


(どうやら、赴任先は当たりのようですな)


 ダンタリオンが、ロギルにそう呟いた。その言葉に、ロギルは内心でニヤリと笑い返す。ロギルには、ファイスにも話していない事実がある。魔獣に襲われる街、隠れる自分。その中で見た、2つの拳銃を持つ銀髪の男。ロギルは、魔獣と共にその男を探していた。魔獣を、先導するガンナーの男を。


(俺の街の住民を、笑いながら撃ち殺していたあいつ。あの男だけは、この俺が殺す……)


 ロギルは、もしかしたらその事件の背景に、あの男が居るかもしれない。そう思うと、顔が笑ってしまいそうだった。だから、拳を握って、強く感情を押さえつけた。


「どうだ。少しはやる気が出たか?」


「そうですね。魔獣から人々を救えるのなら、行く価値はあると思います」


 ロギルは、そう言うと資料をカバンにしまった。


「……行くか」


「はい。今まで、お世話になりました」


「いや、よくぞここまで成長してくれた。私は嬉しい。最高の恩返しをしてもらった気分だ。最後に、1つ良いか……」


「はい」


「死ぬなよ。レギオンは、常に危険な任務の最前線に少数で立つ。その為、危険も多い。だが、死ぬな。私の様に弟子を育て、退屈な書類仕事をこなし、戦いと離れた老後を迎えろ。それが、私からロギルへの最後の課題とする」


「……努力します」


 ロギルは、そう言うと部屋を出ていった。


「ロギル、お前は私に力を求めた。そして、私の与えた課題の殆どをその才ある努力で成し得た。きっと、そう答えたお前なら生き残れるだろう。そう、信じる」


 ファイスは、暫く天に祈るかのように、空を眺めていた。


「ふぅ、やっと自由ね」


「久しぶりに出てきたな、お前」


 ソフィーは、拠点からロギルが少し離れると、その姿を現す。そして、嬉しそうにロギルを背中から抱きしめた。


「だって、最近は何処かの誰かさんが、内面的に瀕死だったし。これでも、気を使ってたんだから」


「そうなのか?」


「そうよ。吸精だって、量を減らしてたし」


「そうだったのか」


「でも、もうレヴィアさんが回復も担当してくれるようになったから、だいぶ調子いいみたいね。だから、久しぶりに出てきたってわけ」


「そうだな。確かに、普通にしている分には、血を吐かなくなった」


「うんうん。感謝しないとね」


 そう言いながら、ソフィーは腕の力を強め、豊満な胸をロギルに押し付ける。サキュバスの好物は、人間の精気だ。それは、男性が女性を強く感じた時。あるいは、女性が男性を強く感じたさいに、多く生成される。それ故に、ソフィーは暇さえあれば、ロギルにくっついていることにしていた。


「あいつの力、扱える日が来るんだろうか」


「ご主人様の肉体より、核が大きかったもんね。ちょっとかかるかも」


(無理のない融合を進めている。時間の問題だ)


 その声が、脳内に響いただけでロギルは歩みを止めた。


「不思議な気分だ。俺が生きていて、あいつの声が聞こえている」


「あはは、確かに、私もあの時は生きた心地がしなかったなぁ……」


 ロギルの内で、ダンタリオン、サブノック、ナーガが頷いていた。


 今、彼のうちで静かに存在を潜めている怪物が存在する。その姿は恐ろしく巨大で、まるで島を相手にしているかのような錯覚に、それと対峙した時のロギル達は陥っていた。


 海を制する圧倒的強者。見る者を凍てつかせ、逆らうことすら忘れさせるその容姿。その身体は、無数の強力な鱗に覆われて、完全無敵。神すらも殺すと言われたナーガの毒を受けてなお、その生物は生きながらえて、ロギル達と10日に渡る激闘を繰り広げた。神が作り上げたとされる史上最強の生物、それは……。


「海神獣・レヴィアタン」


(うむ。尊敬と親しみの念を込めて、レヴィアタンさんと呼ぶが良いぞ。言いづらければ、レヴィアさんでも良い)


 それは、神獣。伝説にのみ語られる、人には大きすぎる力。その核を、ロギルは取り込んだ。仲間の治癒能力で、身体を安定させるまでにさらに3日の日数をロギルは費やした。そして、ついにロギルは痛みを克服した。


 身体の崩壊は、止まったわけではない。だが2日目から、痛みが少し和らいだ。3日目には、少し歩けるようになった。4日めには、なんとか戦えるレベルまでに回復し。レギオンの座を勝ち取った。それは、レヴィアタンがロギルの身体の中で再生の魔法を解析し取り込んで使えるようになったために成し得たことだ。


「レヴィアタン。いや、レヴィアさん」


(うん?)


「俺の復讐に、付き合ってくれないか?」


 ロギルは、空を見上げながらそう言った。まるで、目の前にレヴィアタンがいるかのように。


(……好きにするが良い。暇つぶし程度にはなるだろう)


「ありがとう」


 ロギルは、丁寧に礼をする。そして、また歩き出した。


「で、何処へ行くの?」


「大都市・ファーゼン。その中の学園・フォーザピオーゼ。そこが、俺達の新しい拠点となる」


 まだ見ぬ未来を求めて、ロギルは歩き出す。ロギルを含めて6人。新たなるレギオンが、学園・フォーザピオーゼに集おうとしていた。


*****


 そこは明るい室内でありながら、異様な雰囲気に包まれていた。長いテーブルには、6人の人物が座っている。その誰もが顔と体を隠し、椅子に座っていた。ある者は、テーブルに足を乗せて休み。ある者は、気にすること無く目の前に置いたナイフを眺めている。


「新しいレギオン、それがこの街に来るらしい」


 その男は、黒い銃を持っていた。黒い銃を2つ。男は、腰に下げている。まるで威嚇するかのように、男はその銃を両手に握った。


「新しいレギオン?」


「不確かな情報ではあるが、警戒しておいたほうが良いだろう」


 男が銃を握ると、全員がその場で姿勢を正す。そして、男の声を真剣に聞き始めた。


「新米のレギオンなど、いいカモでしょう。むしろ、早めに殺した方がいいのでは?」


「俺もそうしたいところだが、目立つと別の連中も集まってくる。控えめに行きたい」


「では、少し間引くというのはどうでしょう?何人か殺す程度なら、新人が無理した程度で済むのでは?」


「……そうだな。それが良いかもしれない」


 一人が、椅子から立ち上がる。


「では、早速餌をまくとしましょう」


「おい」


 銃を持った男は、立ち去ろうとする男を呼び止めた。


「油断するなよ」


「……ええ、勿論。レギオンになど、遅れを取るはずもございませんが」


 そう言って、男は出ていく。その後、銃を持った男が退室し、他の者も退室すると、その部屋は静寂を取り戻した。




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