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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
4章 疾走
27/76

ブレイダー

*****


「……」

「……お、……ノー」

「……ぅう?」

「起きろ、ノーマン」

「……ああ、起きてるよ」


 目を開ける。薄暗い部屋の景色がノーマンの目には映りこんでいた。使い古された木の椅子から立ち上がる。そして、自身に声をかけてきた同僚の姿を見つめた。


「お前の番だぞ」


 そう言ってひげ面の男は背後にある扉を指さした。


「……飯はまだか?」

「残念だがまだだ。お前の番が終わるころには、食えるだろう」

「そうかよ」


 扉に向かってノーマンは歩き出す。ドアを開けると部屋の中には、剣を持った男が立っていた。


「よう。ご苦労さん」

「……ノーマンか。これで一周だな」

「ああ。もう少しの辛抱だ。俺は、これからだけどな」


 ノーマンは、腕を振って剣を出現させる。それは、ノーマンの魔力を固めて作った剣。いつでもどのような形ででもその剣は、ノーマンの意思のままに作り出すことが出来る。ノーマンは、その剣を軽く振り回すと相手に向かって構えた。


「お疲れのとこ悪いけど、手合わせ願おう」

「……はぁ~、正直に言うときつい。慣れるものかと思ったが」

「皆動きが良くなっていくよな。分かるよ」

「……特にお前だよノーマン。剣の振りすら一番遅かったお前がだ」

「敗北を知るからこそムキになるってね」


 ノーマンの目の前の男が剣を構える。二人は一定の距離まで近づくと、お互いに剣を打ち付けあった。


「……重いな」

「どうも」


 流れるように刃を離して斬撃を打ち付けあう。足は動かさない。その上でお互いに全力の速度で刃を叩きつけあった。相手の出方を見て刃を合わせて弾いていく。しかし、徐々にノーマンの斬撃の速度が上回りはじめ相手の斬撃を押していった。


「疲れが出てるんじゃないか?」

「お前こそ、その速度を今出して最後までもつのか?」

「ああ、多分な」

「言うねぇ」


 男の額から汗が流れ落ちていく。しかし、ノーマンは涼しい顔で剣をふるい続けた。一時間ほど斬撃押し合いが続く。そして部屋の中に終了を告げる音が鳴り響いた。


「……終わったか」

「ご苦労さん」

「これから10人だ。頑張れよ」

「ああ、ありがとよ」


 男が出ていく。そして別の男が部屋に入ってきた。


「……始めるか」

「おお」


 一定の距離まで近づくとノーマンと男は剣を打ち合わせる。そして10人相手にするまでノーマンは、部屋で剣を振るい続けた。


「……終わったか」

「ああ、お疲れ」

「おう」


 ノーマンは、最後の相手に短く返事をしてから部屋を出る。部屋を出ると自身の椅子の上に昼食が準備されていた。


「……冷めてるじゃねぇか」


 ノーマンはそう言って準備された物を口の中へと運んでいく。一気に食べ終えて水を飲み干すとまだ切りあいが行われている部屋の中を見つめた。


「……」

「……何が見える」


 ノーマンの後ろの席から声が聞こえた。ノーマンは、視線を向けずに答える。


「そんなの決まってるだろ。剣だよ。あるいは、それを汗まみれで振るうあいつらってところか」

「お前も同じだぞ」

「ああ、そうだな。水を頭からかぶりたい気分だ」

「俺もだ」

「寄らないでくれよ。臭いから」

「……マジか?」

「冗談だ。疲れでそれどころじゃない」


 ノーマンは、椅子の背もたれに体重を預けて目を閉じる。


「いつまでこんなことを続けるんだろうな」

「前は1週間だった。これも同じじゃないか」

「魔法剣の生成。それから地獄の走り込み。そしてこの切りあいか」

「何人やめたかな?覚えてるだけでも大分見ない顔が増えたな」

「……こんなところに押し込められて切りあっているんだ。やめたくもなるさ」

「そうだな。もうちょっと部屋が清潔だったらなぁ~」

「そんなもの、今となっては気にもならんだろう」

「いや、大事なことだ。匂いは雑念を生む要因になる。臭いのはごめんだ」

「それは俺もだが。気にしてる余裕がないからな」


 そう話していると、部屋のドアが開く。


「……ゴード。交代だ」

「……分かった」

「頑張れよ」

「ああ」


 そう言ってゴードは部屋へと入っていく。それを見届けるとノーマンは目を閉じた。


(いつまで俺達は、こんなことを続けるんだろうか)


 精神と肉体を擦り減らしていくような毎日が続く。その中で、ついていけぬ者達が消えていき。やがて、ゴードの姿もノーマンは、目にしなくなった。


「ノーマン」

「……ああ」

「お前の番だ」


 椅子から立ち上がる。声をかけてきたのは見たこともない顔の奴だった。だがそんなことはどうでもいい。ノーマンは部屋へと向かっていく。剣を出し、そして部屋の中へと入った。


「……」


 部屋の中には、髭を生やした老人が立っていた。


「構えろ」

「……」


 無言でノーマンは剣を構える。そして、老人との切りあいを始めた。


「……」


 二人は無言で剣を振るい続ける。もう立ち止まって剣を振るう訓練は終わり、今は足を使って動きながら切りあっている。老人の足さばき、剣の動き。全てに意識を集中しながらノーマンは剣を振るう。その剣は、研ぎ澄まされていて速く鋭く老人を襲う。だが、老人はそれを当たり前であるかのように弾き続けた。


「……その程度か?」

「……」


 ノーマンは、距離を僅かにとるともう一本剣を出現させて片腕に握った。


「二刀を使うか」

「……止めてみろよ」


 ノーマンが足を延ばして一歩踏み込む。その瞬間、変幻自在に降り注ぐ2つの剣の斬撃が老人の目の前に広がった。


「……ほぉ」


 笑みを浮かべて老人は、ノーマンの斬撃を切り払い続ける。ノーマンの斬撃は、片腕で放たれているのにも関わらず、速くそして重い。


「いつこんな技を覚えた」

「長時間切りあったからな。片腕に負担をかけるのを避けるために両手を使えるようにするのは当たり前だろ」

「なるほど。やるものだ」


 両手の力を一本の剣に込めて老人は、ノーマンの二刀を受け止めて吹き飛ばした。ノーマンは、その力の押し合いには付き合わず、自分から後ろへと飛んで距離をとる。


「何故ここまでの高みにまで来た?やめていった者も多いというのに」

「……俺さ、体を動かすことだけは得意だったんだよ」

「……」

「でもさ、世の中にはまだまだ俺以上の奴もいるってここにきて分かった。だから必死になって今までをこなしてきた。遅れないように、負けないようにってな」

「……」

「そんで、気づいたら今ここにいる」

「何となくでお前は、ここにいるというのか?」

「いや言ったろ。俺は体を動かすことが得意なんだって。だからさ」


 ノーマンは、二つの剣を構えなおす。


「得意なことを使って人の役に立ちたい。だから俺は、ここにいる」

「……そうか」


 老人が剣を寝かせて突きの構えをとる。ノーマンは、一本の剣を前に出し、もう一本の剣を振り上げ気味に構えた。


「その覚悟で得た力、見せてもらおう」


 老人が一歩を踏み出す。その足が地面についた瞬間、無数の突きがノーマン目掛けて飛んできた。


「……」


 突きに合わせてノーマンは二本の剣を振るう。突きをそらして凌ごうとするが突きの雨はいつまで経っても止むことがない。普通に考えればこのまま突っ張らずに後ろに飛びのくべきだろう。だが、そうしても老人は歩みを進めて突きを繰り出してくるだけだとノーマンは考えた。それを繰り返していくとやがて、ノーマンは壁際へと押しやられて逃げ道を失ってしまう。


「……」


 ノーマンは、二本の剣を振るう速度を早めて前に踏み出す選択をした。


「……なんと」


 じりじりとノーマンは、突きをそらしながら距離を詰めていく。そして、老人の眼前へと迫った。


「それでそこからどうする?」

「こうするのさ」


 ノーマンは、一本の剣を突きを放ってきた剣の刃を滑らせて老人の持ち手に叩きつけようとした。


「ぬぅ」


 たまらず老人が飛びのく。


「悪いな。俺は、足も速いんだ」


 老人が後ろに下がった僅かな間にノーマンは、距離をさらに詰めていた。


「油断しすぎてたんじゃないか」


 地面に老人は着地する。その瞬間には、ノーマンの剣がのど元近くに突き付けられていた。

 

「……ふ、はははははははは。合格だ」

「合格?何がだ?」

「ノーマン・ステイラス。お前が、今回のブレイダーだ」

「……マジかよ」

「本当だ」


 師匠である老人に部屋を出るように促されてノーマンは、部屋を出る。そして最後に残った男、ノーマン・ステイラスはブレイダーとなった。


*****


「もうちょっと腕振ったほうが速く走れるぞ~。頑張れ~」

「ちょっ、先生待って。ちょっとタイム。休憩」

「なんだ、もうへばったのか?」

「もう十週もグラウンドを走ってるんですよ。そりゃ疲れますって」

「休ませてください」

「しょうがない。10分休憩だ」

「「「「やった~~!!!!」」」」


 ノーマンの言葉に、生徒たちが歓喜の声を上げる。そしてグラウンドにへたり込んだ。


「……」


 その光景をノーマンは見つめる。疲れたと言い、座り込むと生徒たちはお互いを労わって話し始めた。そこには競争もなく。誰かが脱落するということもない。


「……俺も、こんな青春を送りたかったな」


 生徒たちを見て、ノーマンは誰にも聞こえない声でそう言った。


「ノーマン先生」

「おっ、その声は」


 ノーマンは、声のする方を振り返る。するとそこには、一人の女性に腕に抱き着かれているロギルが居た。


「……ロギル先生」

「はい」

「彼女さんを学校に連れてきたんですか?」

「……いえ、違います。彼女は、新しい事務員のサシャ・ヒルベルト。俺達の同僚です」

「サシャです。新しく相談室に務めます。よろしくお願いいたします」

「あ、ああ。どうも」


 若干動揺するノーマンを放っておいてロギルは、話を続ける。


「クラブ活動が終わったら校長室にお願いします。校長が用があるみたいなので」

「あれ、そうですか。分かりました。あとで行きます」

「ええ、では俺達はこれで」

「これからよろしくお願いいたします」

「ああ、どうも。よろしく」


 そういうと足早にロギル達は去っていく。ロギルが早足で、サシャがそれに合わせてついていく感じだった。


「……ロギル先生はモテるんだなぁ」

「そうみたいですね」


 何気なく言ったノーマンの言葉に、生徒の誰かが返事をしてくれた。








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