新しい先生
「まだ犯人が捕まっていないのか?」
「ええ。別部署のレギオンが探しているらしいけどまだ捕まらないみたい」
「どこかに潜伏しているのか」
「その可能性が高いわね。でも奴が進んできている道のりは分かってる。あとは、その進路上で待ち構えていれば捕まえられるでしょうね」
「そうだな。……なのに俺達にまで情報が回ってきたのか?」
「道にいる人間を全てミンチにするような相手よ。普通だと思うほうがどうかしてるわ」
「……来る可能性は、あるってことか」
「ええ」
「……ノーマンには、このことは言ったのか」
「授業前だしまだよ」
「どんな相手かは分からないが。この地図を見る限り相手は、恐ろしく速いな」
「そうね。地図で見てるから分かりにくいけど、この道のりはかなりの長距離よ。それを一日程度で移動している」
「……ノーマンが一番向いている相手だろうと思うが」
「そうね。あとで彼には言っておくわ」
「それがいい」
ロギルは、そういうと紙をリオーシュに返した。リオーシュは、紙をポケットにしまう。
「さて、それまではゆっくり体を休めて。何かあったらまた連絡するわ」
「……分かった」
「……嘘つき」
ソフィーがそういうが、ロギルは聞き流す。リオーシュも特に反応を見せず部屋から出て行った。
「こんなに体を傷つけて回ってたら精神が先に壊れちゃわない?」
「俺には、悲劇を繰り返すことのほうが苦痛だ」
「……ならいいけど、程々にね」
「ああ」
ロギルは、そういうと白紙の紙を出して向かい合った。
数時間後、いつものようにお昼を迎えてロギル達は、残りの時間を相談室で過ごす。お昼休憩の間、ロギルが目をつぶって瞑想しているのをソフィーが頬をつついて邪魔したが、無反応でロギルはそれを乗り切った。
「……で、伝統ある魔学をうちではより強く押し出し」
お昼が終わり暫くした後、廊下で話し声が聞こえる。声は、リオーシュのものであったがロギルはソフィーに目配せをした。するとソフィーは、ロギルの内へと戻っていく。その数秒後、相談室のドアがノックされた。
「入るわよ」
「ええ、どうぞ」
ドアを開けてリオーシュが入ってくる。そして、その後ろに一人の女性が立っていた。
「おっ?」
「あっ」
女性は、ロギルを見ると一瞬顔を伏せてしまう。そして顔を再度上げると、眉を引き締めて相談室へと入ってきた。
「紹介するわ、ロギルせんせ……」
「ロギルだあああああああああああああああああ!!!!」
女性は、ロギルの近くまで来ると問答無用でロギル目掛けて飛びかかってきた。その突進を、ロギルは両手で受け止める。女性は、ロギルの首筋に顔を埋めると頬ずりを始めた。
「ロギルうううう、もう会えないかと思ったよおおおお」
「……取り合えず落ち着け、サシャ」
「……こほん。サシャさん、感動の再会はそのくらいでいいですか?」
「あっ、すみません校長先生!!」
リオーシュに言われてサシャは、ロギルから離れる。そしてロギルに向き直って姿勢を正した。
「……改めて紹介するわね、ロギル先生。こちら、新たに雇ったサシャ・ヒルベルトさん。事務員で貴方と同じ仕事をしてもらうことになるわ。サシャさん、それでは再会の続きをどうぞ」
「は、はい!!本日付けで配属になりました。サシャ・ヒルベルトです!!……ロギル、また一緒だね」
「ああ、そうみたいだな」
そういうサシャを見つめた後、ロギルはリオーシュに視線を移した。
「どういうことだ?」
「サシャさんがここにいる理由?」
「それもあるが、俺と同じ仕事をするというところだ」
「そっちね。実はね、ロギル先生のおかげで相談室は、かなり学校改善に貢献しているという紛れもない事実が出来たのよ」
「それは良かった」
「でもね、ロギル先生も多忙じゃない。出張などで居られないときもあるから、その代理にというわけ」
「なるほど」
「後、私が知る限りだとロギル先生は怪我をされることが多いみたいだから。その間の代わりも考えてね」
「……」
「本当!?大丈夫、ロギル!?」
「ああ、大丈夫だ」
サシャが心配そうにロギルを見つめる。ロギルは、気にせずに話をつづけた。
「だが、何故サシャなんだ?」
「それは、政府に強い人くださいって言ったから」
「……何?」
「強い人くださいって言ったから」
「えっへん。強さを買われてこちらに来ました。あと、ロギルっていう人がいるとこじゃないとやだ。働きたくないって言い続けました」
「……」
その発言にロギルは、複雑そうな顔をした。
「まぁ、貴方の知り合いだと仕事も教えやすいだろうから楽かと思ったんだけど、どう?大丈夫そう?」
「……サシャなら問題はないだろう」
「そう。なら良かった」
「だが、相談室の先生に強さはいるのか?」
「相談室の先生に強さはちょっとぐらいあったほうがいいけど、強い人を雇った理由は別」
「つまり?」
「お留守番ね」
「えっ?」
リオーシュのその発言に、サシャは初耳といった顔をした。
「この学校にも、実は昔レギオン選抜試験に参加した猛者たちがいるの。でも皆さんお年を召してきたからここらで私達世代の人も雇おうと思って」
「なるほどな」
「それに、この街意外とトラブルが多いみたいだから」
「……そうだな」
赴任してまだ一年も経っていないのにロギル達は、数件の事件を解決している。これは他のレギオンの赴任地から見ても短期間にしては多い件数であった。
「こんなにも街が滅ぶ要因があっちにもこっちにもあるようじゃ、とてもじゃないけど私達の首が回らなくなりそう。だから今のうちに人員を確保していきたいなぁ~と」
「正しい判断だな」
「えっ、私、お留守番ですか?」
「そうよ。いざとなったら学校を守る。それが貴方の務め」
「えっと、ロギルと一緒に現場に出たりとかは……」
「特殊な時以外は、無いでしょうね」
「そ、そうですか」
リオーシュの言葉に、サシャは肩を落とす。
「サシャ、残念に思わなくていい。むしろ出ないほうがいいぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ。少なくとも俺が体験したことを考えれば、出ないほうがいい」
「めんどくさい連中ばっかだからね」
「そうだな」
「そうなんだ」
サシャがそういうとリオーシュは、相談室の扉前に移動した。
「という訳で、今日一日は相談室の仕事を教えてあげて。頼んだわよ、ロギル先生」
「はい、校長」
「仕事終わりに一緒に校長室に来てもらったら私が住むところには案内するわ。じゃあ、それまでよろしく」
リオーシュは、そういうと校長室に戻っていった。
「……えっと、久しぶりだねロギル。元気にしてた?」
「それなりだな」
ロギルは、そういいながらサシャに椅子をすすめる。サシャは、ロギルの隣に椅子を動かして座った。
「その、二人っきりだね」
「二人っきり?いや、それは違うな」
「そういうことよ。この発情子猫さん」
「ひゃあ!!誰!?」
いつの間にかロギルの向かいには、ソフィーが座っていた。
「あんたに初対面だけど言っておくことがあるわ」
「えっと、ここの生徒さんかな?な、何でしょうか?」
「ロギルの初めては、私が貰う」
「……」
「ふざけたことを言ってないで仕事を始めるぞ」
「いや、これすごい重要だから!!ほんと、すごい重要!!」
「ソフィー、ちょっと黙っててくれないか」
「……ぶ~、はいはい」
「えっと、ソフィーさんて何者なのかな?」
「……そうだな。俺の相棒だ」
「相棒?」
「夜のね!!」
「違う!!俺の契約した初めての魔獣がソフィーだ。だから一番付き合いが長い」
「なるほど~~。って、女性型の魔獣と契約してたの!!!!」
「そうだが」
そういえば言ってなかったなとロギルは思った。
「私がロギルご主人様にいろんな役に立つお方達を紹介したの。あんたとは、付き合いの深さが違うのよ」
「お前が紹介してくれたのは、ダンタリオン先生だけだろ。確かに一番の功績ではあるがな」
「ロギルも色々大変な旅をしてきたんだね」
「ああ。必死にやった。滅茶苦茶死にかけたが、奇跡的にまだ生きている」
「確かにそうだよね。よく今まで死ななかったなぁ」
「……俺が一番そう思ってるよ」
ロギルとソフィーは、二人で顔を見合わせて溜息を吐いた。
「えっと、その話は今度聞くとして、一応仕事を教えてもらえるかな。校長に覚えるように言われてるから」
「おっと、そうだな。先ずは、報告書の書き方から教えよう」
「はい。よろしくお願いいたします」
「報告書は今は、この紙面通りにレイアウトを決めて書くようにしていて」
「ほうほう」
放課後までロギルは、サシャに相談室の仕事をゆっくりと教えていった。
「ロギル先生、来ましたよ」
「お邪魔します」
「ああ、セシルさん。リータさん。よく来たね」
「初めまして、サシャと言います」
「……誰ですか?」
セシルは驚き、リータは目を細めてサシャを見つめた。
「へ~~、先生の同郷の」
「はい。そうなんです」
「……」
セシルは直ぐにサシャと打ち解けたが、リータだけは時折サシャをにらむような目つきで見つめていた。
「遅くなりましたわ。ロギル先生、お邪魔いたします」
「あ、パセラさん」
「セシルさんと、そちらの方はどなたでしょうか?」
「初めまして。サシャと申します」
「はい、初めまして」
挨拶をし終えた後サシャは、パセラにも自己紹介をする。それを聞き終えるとパセラは、何故かリータの隣に座って同じように目を細めてサシャをにらみ始めた。
「えっと、どうしたのかな?」
「あの二人はほっといてあげましょう」
セシルがそういう中で、パセラがリータに顔を近づけて小声で何かを話し始める。
「あれは、本物ですわ」
「何が?」
「見て分かったでしょ。私とあなたが感じている感情は同じはず」
「……」
「私達は生徒。でも一番先生との距離が近い立場。この状況のままなら、ここを卒業するまでは焦る必要はないと思っていました」
「……」
「でもあれは、本物です。肉を目の前にした野獣。獰猛なハンター。そして狙われているのは、紛れもなくロギル先生」
「……だから何?」
「……協力しませんこと」
「協力?」
「お互いに無理のない程度で邪魔をする。それだけですけどね」
「私、そんな気にしてないし」
「……そうですか。では、気が向いたらでお願いいたします。気が向いたらね」
「……分かった」
そのリータの言葉にパセラは微笑むと、またサシャをにらみつける作業に戻った。
「どうしたんだあの二人は?」
「ロギル先生は、モテますねって話」
「?」
二人の行動の原因に当のロギルは気づいていなかった。




