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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
4章 疾走
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夢から覚めて

 ──── 歩いていて生きた壁に遭遇することがある。それは群れていて、無駄に横に広がり後ろからくる者などお構いなしに声を発している。ああ、何故目の前にこれはあるのだろう。何故後ろを見ることすらぜずにこれは、通行を妨げるのだろう。ああ、やはりこれは壁なのだ。生きている壁。であるのならばもういっそ。



 

「……」


 表面を見る限りでは想像もできない内面の肉体的破壊。その過程を乗り越えてロギルは、用務員としての仕事を新たにスタートさせた。ロギルは、一つ前の事件以降日課を一つ増やしていた。それは、レヴィアタンの召喚訓練であった。


「……はぁ~」


 片腕に意識を集中させる。何時も通りに腕を光らせて召喚を開始した。ロギルの手のひらに龍の頭の先が出てこようとしている。しかし、その頭の召喚時の消費魔力は大きく、サモナーとしての修行を終えたロギルにでさえ多大な負荷を与えていた。


「良いよ。そのまま一気に!!」

「……」


 応援しているソフィーの声を脳内で無視してロギルは、一気に腕に魔力を集中させた。その瞬間、召喚のための光のリングが広がって一気に龍の頭がその場に姿を現す。しかしそれも一瞬。その次の瞬間には、召喚は解除されてロギルはその場に口から血を流して膝をついた。


「だ、大丈夫、ご主人様!!」

「……ああ、問題ない」


 問題ないはずがない。ロギルにしてみれば意識はあるといった意味合いでしか無かった。召喚時にかかる魔力を無理矢理に肉体が作り出す。結果、肉体内に無理な負荷がかかって内臓が傷つき破壊されていた。回復魔法がなければ、普通の人間ならば死を迎えるしか無い状況下である。しかし、ロギルには回復魔法をかけてくれるものが居る。その御蔭で、常人ならばただの自殺としか思えない訓練ができていた。


「……昨日よりは、マシになっているはずだ」

「そ、そうなのかな?」


 ソフィーは、回復魔法をかけながらそういう。その微々たる実感は、ロギルにしか分からない。


 ソフィーは、ロギルに自身を傷つけることはやめて欲しいと言いたかった。ロギルが心配なのもあるが、ロギル自身の肉体が負荷のある状態だと性欲が溜まりにくいというのが大きな理由だった。肉体を癒やすために大半の肉体の栄養が使われ性欲が貯まるどころではない。危機的状況に人間の肉体が陥ると種族を残そうとして生殖本能が刺激されて性欲が極限まで高まる場合があるが、ロギル事態はこの危険な訓練にも命の危機を感じてはいなかった。その結果、性欲の貯まりは以前よりも悪くソフィーは腹八分目の生活を送っている。もしソフィーたちの使っている回復魔法がもっと上位のものであればそれも解決できたのかもしれないが、今の状況では上位の回復魔法を手に入れるすべはなかった。


「うむ。少しづつだが馴染んできている。確実に成長しているぞ」

「……どうも」


 小さな女の子が出てきてロギルにそう言う。それは、魔力を抑えて呼び出しやすい人形の肉体を作り出したレヴィアタンであった。


「にしても本当に少しづつじゃな。もっとこう、がっと馴染まんものかのう」

「無理ですよ、レヴィアさん。だってロギルは人間なんですから」

「いや、魔獣だろうと同じだと思うんじゃが、人間だからと諦めずそこを何とかするべきではないか?」

「人をやめろと?」

「いや、そうは言わん。手はあるはずじゃ。一気に肉体を改革する手が」

「……」


 人でありながらそんな事ができるのならば今すぐにでもしたいとロギルは思った。もう二度とロギルは危機的状況に陥るわけにはいかない。何故ならロギル達はレギオン。この街の人々を守る最後の防衛線である。そのロギル達が苦戦するということは、それだけ街の人々が危険にさらされるということである。それがロギルには、許せなかった。自身の肉体が傷つくことよりも。


「……力が欲しい」


 ロギルは夜空を見上げて、一人強く拳を握った。



 翌朝、ロギルは目覚めて体を動かし始める。回復魔法のおかげで体の動きに支障はない。それを確認するとロギルは、服を着替えて時間まで部屋で瞑想を開始した。


「……」


 肉体に流れる魔力の動き一つ一つに精神を集中させる。そしてそれを伸ばして自身の内側に居る者たちを観察する。そうすることでロギルは、召喚時に掛かる負担を少しでも減らせる手がかりがないかと頭の中で思考を巡らせていた。


「……行くか」

「……うん、朝?」

「ソフィー、飯にするぞ」

「うん」


 ソフィーと共に食堂へと移動する。ランチを食べて食休みをした後、ロギルは相談室へと移動した。


「おはようございます、ロギル先生」

「……おはよう」


 まだ始業前なのにも関わらず相談室の前には、パセラ・デボリアがいた。


「早いね。何かあった?」

「いえ、特には。それよりもロギル先生、お体の方は大丈夫ですか?」

「ああ、心配かけたみたいだけどもう大丈夫だよ。ありがとう」

「急に一週間お休みになるなんてなにか無理でもなされたんですか?お休みになる前にはあんな事がありましたもの。ロギル先生にも、やはりなにか目に見えない影響が残っている可能性もあります。もし私でなにか力になれることがあれば遠慮なくおっしゃってください。なんでもお手伝いいたしますわ」

「ははっ、ありがとう。でも大丈夫。俺の体調不良には、あの事件は関係ないから」

「そうですか。世間では、あの事件以降突然仕事をやめたり外出を一切しなくなった人もいると聞きます。ロギル先生も、なにかありましたら私に教えて下さいね。必ずですよ」

「ああ、ありがとう。約束するよ」


 相談室へと鍵を開けて入る。ロギルは何時も通りの席へと座ると鞄を置いてパセラの方を向いた。パセラも鞄を置いて何時も彼女が座る席に座っている。ソフィーは、何時も通りロギルの向かい側に座った。


「それにしてもソフィーさんも早いですね。こんな時間に来られるなんて」

「私、ロギル先生と一緒に学校に来るの。だからこの時間なんだ~」

「い、いい、一緒にですか!!!!」

「そう。私、朝弱いんだよねぇ~。何もなかったら普通にお昼まで寝てる感じだから、ロギル先生に連れてきてもらわないとほんと無理だよ」

「そ、そうなんですか。それは、羨まし、いえ、大変ですわね」

「人間ってなんでこんな早くから動き出すのかなぁ。もっとゆっくりして欲しいよ」

「それは難しいですわ。一日は、二十四時間しかありませんのよ。寝る時間も考えると日中の早い時間から行動するしかありませんわ」

「あ~~、そうだよね。でも私には、もうちょっと遅くてもいいと思うなぁ」

「まぁ確かに、もうちょっと遅くても良いかもしれませんね。私は、もっと早くても良いのですけど」


 そう言ってパセラは、顔を赤らめながらロギルをチラチラと見ていた。


「パセラさんはさぁ」

「はい」

「どんな夢を見たの?」

「はぁ~~~~~~!!!?」


 ソフィーの何気ない質問に、パセラは大声を上げた。


「あれ、もしかして人に言えないこと?」

「……いえ、そんなことはありません。家で楽しく食事会をしている夢でしたわ。こほん」


 そう言うパセラの顔は、先程よりも赤い。嘘だというのがよく分かった。


「それでさぁ、そんな夢を見て現実が嫌になった人もいるみたいじゃない」

「そうみたいですね」

「パセラさんはさ、そうはならなかった?」

「……ええ、なりませんでしたね」

「なんで?」

「……どんなに良くても夢は夢ですもの。現実ではない。だから私は、そうはならなかったんです。夢の中でより現実で会いたい人達が居ますから」

「ふぅ~~ん、なるほどね。現実の方で大切な何かを見つけるか。今後のロギル先生の相談の参考になりそうだね」

「ああ、そうだな」


 夢に囚われ続けているものもいるが、こうして現実を大切に思うものもいる。そういう人がいると思うと、やはりあの現象を止めてよかったとロギルは思った。


「さて、そろそろ始業ですわね。ソフィーさん、行きますよ」

「あ~~、私校長室に呼び出されてるから後で行くよ。気にしないで」

「あら、そうなんですか。事件関連の聞き取りでしょうかね?分かりました、それではまたお昼時に」

「うん、また」


 パセラは、相談室を出ていく。それを見届けるとソフィーは、机に寝そべった。


「授業ない学園生活最高~~」

「お前は生徒じゃないからな」

「そうなんだよね。ただ皆と喋って愛しの先生のお仕事を手伝ってれば一日が終わる。ああ、平和って良いねぇ~」

「……あんな事がもう無いと良いがな」

「でも」

「そうもいかないだろうな」


 この街には、まだロギルが殺したいと思っている者がいる。しかもそいつらは集団で己の私利私欲のために行動し、他人の命をそのへんに転がる実験材料程度にしか思っていない。ロギルには、まだそいつらの誰かがこの街にいるという確信が勘ではあるがあった。


「この街の平和も数日持つか否かか」

「少しでも長いと良いんだがな」

「私もそうだと嬉しいなぁ~」

「残念だけど、そうもいかないみたいね」


 相談室の扉が開く。そこには、一枚の紙を持ったリオーシュがいた。


「……勘弁してよ、校長先生」

「私もそう言いたいわよ。でも急ぎって程では無いわ」

「急ぎではない?何故だ?」

「それはね、事件が起きているのが他のレギオンの縄張り内だからよ」


 リオーシュは、紙を机の上に置く。そこには、山道に奇妙な惨殺したいが複数存在しているという文面が書かれていた。


「奇妙な惨殺死体?」

「細切れどころかミンチですって」

「それは、普通じゃないね」

「そう。で、一番の問題は」


 リオーシュは、一番下の地図を指差す。


「この街に事件現場が近づいてきているということよ」



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