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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
3章 眠り
24/76

夢に映る絶望

「……」


 霧が晴れていく。そしてゆっくりと地面から緑が失われていった。かわりに、足元にはどこから流れて来たのか水が広がっていく。


「……先生。私、なんだか息が」

「何だこの重圧感は。空気が重い?」

「何かが近づいてきます」

「……皆下がってろ」


 ロギルは、一人ポチから降りる。そして、何かが蠢く方向へと歩いていった。その後姿を、アマナ達は眺めている。ロギルには、この重圧感に一人覚えがあった。


「この空気の重さ。まさか」

(そんなことってある?)

(……これは間違いないでしょうね)

(何の話じゃ?)


 ロギルは、足元に水が広がった先の空間でそれを目にする。森の中に、それは横たわって居た。それは一匹の巨大な龍にも見える。しかし、それは海という巨大な空間を支配する為に生まれてきた存在。魚類の王。それは、首を持ち上げるとロギルを睨みつけた。


「……レヴィアタンだと」

(わしじゃな)

(貴方ですね)

(うん)


 森の中に居たレヴィアタンは、ロギルに向かって口を開くと大質量の熱線を一瞬で放ってきた。


「ちっ!?」


 ロギルは、羽を出現させて熱線が放たれるよりも早くその場から回避する。だが、あまりの威力にその場から吹き飛ばされた。


「グアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「あ~~~~~~~~!!!!」


 威力の余波でポチに乗っていたアマナたちも吹き飛ばされた。ロギルは、空中で体勢を整えてレヴィアタンを見つめる。レヴィアタンは、遠くからロギルを見ていた。


(何でわしが二人も居るんじゃ?)

(あれは偽物ですよ。この空間が作り出したね)

(なんじゃ、同族ではないのか)

(恐らく、この空間を消したくないという者たちの思いがロギル様が一番戦ったら負ける可能性の高い相手をここに作り出したのでしょう)

(いや、それは無いじゃろ。わしがおるしな)

(いえ、貴方が本気で力を使えばまだロギル様は耐えられませんから)

(……)


 ロギルは、翼を広げてゆっくりと近づいていく。そして一定の距離まで近づくとレヴィアタンの周りを旋回し始めた。


(また同じことするのか?)

(それしか無いと思いますが)

(何日かかったと思う。時間がないんじゃろう?)

(ええ。ですが今回の目的は、倒すことではありません)


 ロギルは、レヴィアタンの視線が自身から外れないことを確認すると、その頭目掛けて突っ込んでいった。


 レヴィアタンが大きく口を開いて熱線をロギル目掛けて放つ。それを、ロギルは身を捻ってギリギリのところで回避した。ロギルには、一度レヴィアタンと戦った経験がある。故に、ある程度の攻撃ならば、すでに見切ることが出来るようになっていた。


「……今のうちに行くぞ」

「は、はい」


 アマナ達は、ロギルがレヴィアタンをひきつけているうちに家へと近づこうとした。しかし、家の周りにはレヴィアタンのしっぽが巻き付いて壁が出来ている。


「……不味いな」

「あれを登るのは気づかれますね」

「とすると、飛び越えるしか無いか」

「ですね」

「えっと、どうするんですか?」

「こうします」


 レシアは、ポチから降りると風の魔力を地面に叩きつけて大きくジャンプした。


「おお、上手い。あれなら行けるぞ」

「ですね」

「……避けろ!!!!」

「えっ!?」


 その瞬間、レシア目掛けてレヴィアタンの首が向いていた。


「ちっ!!」


 ロギルが、レヴィアタンの首目掛けてナーガの頭を振るう。ナーガの頭がレヴィアタンへと牙を突き刺し毒を流し込んだ。それによってレヴィアタンは、身じろぎをする。その御蔭で、レシア目掛けて発射されるはずだった熱線の角度が僅かにそれた。


「うわああああ~~~~!!!!」


 レシアを逸れて熱線が水場へと直撃する。その衝撃で、レシアは再度アマナたちの方向へと吹き飛ばされた。


「よっと。あいつ、近づくと問答無用で反応するな」

「で、ですね」


 アマナが、飛んできたレシアを掴んでポチの上に乗せた。


「一旦下がりましょう」

「だな」


 アマナ達は、一旦距離を取る。その間にレヴィアタンの頭に取り付いたロギルは、ナーガの頭を使って手当たりしだいに毒液をレヴィアタンの体に流し込んでいった。


「グギャアアアアアア!!!!」


 レヴィアタンが痛みに身を捩る。しかし、ロギルは止めない。レヴィアタンはロギルのいる位置目掛けて自身のしっぽを叩きつけようとした。その動きを察知してロギルは、羽を出して飛び立つ。空中にロギルが逃げたのを確認するとレヴィアタンは、ロギル目掛けて口を開いた。そして、熱線を発射する。熱線がロギルへと迫ったがロギルの体は、突然その場から消えてなくなってしまった。


「……助かりました、先生」

(いえいえ)

 

 ダンタリオンの転移魔法を使い、ロギルは別の地点へと降り立つ。そしてまた羽を使って羽ばたき、レヴィアタンの近くへと移動した。


「……やはりあまり効いている気がしないな」

(あれでも痛いというよりはむず痒い程度じゃからの)

「……」


 ロギルは、その言葉に絶句する。しかし、じわじわとではあるがナーガの毒はレヴィアタンの体を破壊している。だからこそロギル達は、一度レヴィアタンに勝てたのだ。しかし、それは時間があったからこそ出来たことだ。この空間で長時間戦い続けることは、再び眠りに落ちることを意味する。つまりそれは、ロギルたちの死を意味していた。


「……どうすればいい」

(なに簡単なことじゃ)

「……」

(命をかけよ)

「……」


 ロギルは、自身の顔を両手で叩くとレヴィアタンを見つめた。


「お~い、ロギるん。何か手はあるか?」


 ロギルの近くに緑の炎が現れる。それからは、アマナの声が聞こえてきていた。


「……俺があいつを一時だけ完全に沈黙させる。後は頼んだぞ」

「……分かった。気をつけて」

「ああ」


 緑色の炎が消える。ロギルは、覚悟を決めるとレヴィアタン目掛けて急降下した。


 レヴィアタンが首を動かして狙いを定めると熱線を放つ。そしてその熱線は確実にロギル直撃しようとしていた。


(集中しろ)

「……召喚」


 ロギルの体の全身が光る。そして次の瞬間、ロギルを包んでいた光に放たれた熱線が着弾した。


「……そんな。ロギル先生!!!!」


 セシルが、その光景を見て叫ぶ。しかし、熱線が直撃した付近からは、ロギルとは違う物体が出てきていた。


「わしのマネをするな。この偽物が」


 そこには巨大な龍が存在していた。その姿は、地上に居る龍ととても良く似ている。レヴィアタンは、自身の偽物目掛けて口を開けると魔力を自身の口へと一点集中させた。


「寝ていろ」


 レヴィアタンの口から、チャージされて巨大になった熱線が放たれる。それは偽物のレヴィアタンへと直撃し、その巨体を吹き飛ばした。


「ふむ。一撃で限界か。まだまだじゃな」


 そう言い終えると空中からレヴィアタンの姿が消える。その代わりに、空中から力なくロギルが落下してきているのが見えた。


「うおおおおおおおおおお!!!!ロギるん!!!!セシル、ポチを走らせろ!!!!レシア!!お前は、家へ行け!!!!」

「分かりました!!」


 レシアがポチから降りて駆け出す。セシル達は、ロギル目掛けて駆け出した。


「急げ!!!!」

「はい!!!!」


 ロギルは、動く様子がない。地面にロギルが激突しようとするその瞬間、アマナがロギルの体を掴んで止めた。


「うぐぎ!!捕まえたぞ!!!!」

「はい!!」


 セシルは、その言葉を聞くと家へとポチを走らせた。その途中、家の中から閃光が巻き起こって巨大な爆発が起きる。その瞬間、周囲の景色がビルの中の一室へと戻っていった。


「……ふぅ。爆破完了です」

「レシア先生、やったんですね?」

「はい。任務完了です」

「……はぁ~」


 その言葉を聞くとセシルは、安心したように息を吐いた。


「……で、あいつがこの事件の犯人か」


 アマナがそう言う視線の先には、一人の老人が寝ていた。


「……のんきなものですね」

「……行きましょう。残りは、私達の仕事ではないわ」


 ロギルは、口から血を流した状態で気を失っている。それを確認すると、レシア達は病院へとポチを走らせた。


 それから一週間後。


「どう、体の調子は良くなった?」

「ああ、だいぶな」


 校長室でロギルは、リオーシュと向かい合っていた。


「しかし参ったわね。私達の誰もが寝ていたなんて」

「そうだな」

「……私達が六人いる意味って知ってる?」

「?」

「六人もいれば、誰かが危機を止める。誰かが犠牲になったとしても。だからよ」

「……」

「でも全滅する可能性だって0じゃない。それでも私は、皆で一緒に生き抜いて行ければいいと思ってる。でもこんな事件が続くとそれも難しいかもしれないわね」

「そうだな」

「……だから今度から私がどこに居るか、貴方には教えておくことにするわ、ロギル先生」

「……」

「勝手に忍び込もうとしちゃダメよ」


 リオーシュは笑顔でそう言うと校長室の壁の一部を叩いて隠し部屋を開けた。


「……理解した」

「そう、ならいいわ」

「それで、あれからどうなった?」

「国の兵士が研究者と研究成果を押収したわ。それで研究者には、尋問中」

「それだけか?」

「今の所わね。研究者の発言の裏とりとかがあるから結果が出るには暫く時間がかかるでしょうね」

「あの研究者はどうなる?」

「街一つを壊滅仕掛けたんだもの。良くて長期の懲役」

「悪ければ?」

「私達に出会ったんだもの。それを覚えていれば」

「死か」

「そういうこと」


 リオーシュは、そう言うと椅子に座る。


「まぁ、暫くは休んだらロギル先生。重症だったんでしょう?」

「問題ない。傷は治った」

「……無理はしないでね」

「ああ」


 そう言うとロギルは、校長室を後にする。


「……まだ俺は、あの程度しか出来ないのか。レヴィアさんが居ながら」


 ロギルはそう言うと、強く自身の拳を握りしめた。



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