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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
3章 眠り
22/76

眠りの塔

 飛行速度を上げてロギルは街中を進む。だが次第に周囲の景色が変わり始めていった。


「……これは、現実なのか?」


 コンクリートで出来たビルの壁面がピンク色に染まっていく。そして、その周囲に作られていた鉄柵は、まるで焼き菓子で作られているかのような見た目に変化していった。


(始まりましたね。侵食が)


「建物がお菓子になるなんて、あり得るのか?」

(有り得ますよ。認識のネジ曲がった世界ではね)


 ロギルは、変わっていく街並みを見つめる。よりカラフルに変化する家。傷ついてボロボロに変化していく家。そして、要塞と化したフォーザピオーゼを眺めてロギルは、ため息を吐いた。


「誰かがこの場所をこんなふうに思っている。だからこうなるのか」

(ええ、そう言うことです)

「寮が見違えてしまうようになる前に着くといいが」


 ロギルが寮へと着くと、寮の周囲の敷地に草原が広がっていっていた。


「……まぁ、寮自体は原型をとどめていたから良しとするか」


 ロギルは、寮のドアを開けて中へと入っていく。そして目的の部屋につくと、ドアを蹴破って部屋に押し入った。


「……ぐぅ~」

「悪いなアマナ。起きてもらうぞ」


 ロギルはそう言うと、パジャマで寝ているアマナの胸元にソフィーのしっぽを部分召喚して差し込んだ。


「……ここはどこだ」


 ロギルが目を瞑って開けると、そこは広い草原であった。目の前には山小屋があり、そこから声が聞こえる。


「行くか」


 ロギルは、山小屋へと進む。そして、山小屋の扉に手をかけて中へと入った。


「お邪魔します」

「うん、誰だあんた?」

「……あっ、ロギるん」


 山小屋に入ると年老いた男が出てきた。そして、その後ろにアマナが居る。


「アマナのお友達か?」

「まぁ、そうなの。入っていただいたほうが良いんじゃない?」

「そうなのか、アマナ?」

「うん!!」

「そうか。ようこそ、セルテド家へ」

「どうも」


 小屋の中の椅子へと案内されてロギルは腰掛ける。そしてアマナを見つめると、目を細めた。


「……何かあったんだね、ロギるん」

「ああ」

「……行くよ」

「頼めるか」

「うん」


 アマナは、そう言うと立ち上がる。ロギルも、それに続いて立ち上がった。


「おっ、どうしたんだアマナ?」

「出てくるよ」

「お友達と一緒にか?大丈夫か?ついて行こうか?」

「うううん、良いよ。お父さん」

「そうか」


 アマナは、ロギルに続いて山小屋のドアをくぐる。


「お父さん、お母さん、お祖父ちゃん」

「ああ」

「どうしたのアマナ?」

「私、三人が守った世界を救いに行くね」

「……行ってらっしゃい」

「気をつけるのよ」

「健康に気をつけるんだぞ」

「うん」


 そう言うとアマナは山小屋の扉を締める。すると、アマナの夢が消えた。


「……なんだかいい夢を見ていた気がする」


 アマナは、起き上がると涙を一筋流してそう言った。


「おはよう、アマナ」

「……ロギるん、夜這いか?」

「今はもう昼近い。それよりも、街を救いに行くぞ」

「……うん」


 ロギルの言葉に、アマナは自室で着替え始める。ロギルは、蹴破った扉を立て掛け直して外で待つことにした。


「朝起きたら街の人が全滅の危機とか、今日ほどひどい日もそうそうないだろうなぁ~」

「俺もそう思う」

「で、今は誰が起きてるの?」

「俺とキャスター、そしてアマナだけだ」

「……リオーシュとか、ノーマンとレドリアは起こさなかったんだ」

「急いでいてな。……確かに、今考えると社員寮に行った時点でノーマンは起こしておいても良かった気がする。ただ、あいつの部屋を知らない」

「ああ、それなら探す手間があるか」

「そうだな」

「レドリアもそうだとして、リオーシュは?」

「そもそもリオーシュは、どこで寝ているのか知らない」

「フォーザピオーゼの中だよね」

「多分な。だが、どこか知らない」

「じゃあ、探してる間に一日が終わる可能性もあるわけだ」

「そう言うことだ」

「今度、部屋情報の共有しとこうよ」

「……こんな事があった以上、止む終えまい」


 ロギルがそう言い終えると、着替えを終えたアマナが部屋から出てくる。


「よし。行こう!!っと、その前に」

「なんだ?」

「ここにもう一人役に立つ子が居るんじゃないかな?」

「……セシルか」


 ロギルは顎に手を当てて考える。アマナの言う通り、セシルの部屋ならばロギルは知っているし、セシルの特殊な魔法が役に立たないとは言えないと考えた。


「確かに、起こす価値はあるな」

「決まりだね」


 ロギル達は、セシルの部屋へと向かう。そしてセシルの部屋のドアを蹴破ると、寝ているセシルにソフィーのしっぽを突き刺した。


「……なんだ。相談室じゃないか」

「どうしました、ロギル先生?」


 ロギルが目を開けると、そこは見慣れた相談室だった。そこには、ソフィーが居てアマナが居て、セシルが居てリータが居て、マリナとパセラ。そして、パセラの友達達が居た。


「あ~~、パセラさんその手はちょっとタンマ。待ってもらえませんか!!」

「ふふっ、ダ~メ」


 セシル以外は、楽しそうにゲームをしたり勉強をしている。そしてセシルは、ロギルの隣の席で書類を書いていた。


「今日は常連だけで相談者は居ないですけど、これも生徒達のストレス低下に役立ってますよね。そこを押し出して今日は書いてみます!!」

「ああ、そうだな」


 ロギルは、一生懸命に書類を書くセシルを覗き込んだ。すると、セシルと目が合う。ロギルの視線に気づくと、セシルは顔を赤らめて目線をそらした。


「ど、どうしましたロギル先生!!な、何か間違ってますか!!」

「……セシル」

「はい!!」

「バイトにも慣れてきたろ。そろそろ、あれをやってみるか?」

「……」

「あれ?」

「なんですの、ロギル先生?」


 ロギルは、無言でセシルを見つめる。ロギルの言うあれとは、現場での活動のことだ。それもレギオンが出向くような場所での。


「分かりました。私、相談を受け持って見ようと思います!!」

「うん。じゃあ行くか」

「はい!!」


 ロギルとセシルは立ち上がる。


「なんだ。相談室の本格的な仕事って訳か」

「ファイトですわ、セシルさん」

「うん、ありがとう」

「行くぞ」


 相談室をロギル達は後にする。すると視界が歪んで夢が消えた。


「……えっ?」

「おはよう」

「おはよう~」

「えっ、ええええ~~~~!!!!」


 寮内に、セシルの悲鳴のような叫び声が響き渡った。


「こほん。お待たせいたしました。では、行きましょう」

「うん、私とお揃いの戦闘服だな」

「はい!!頑張ります!!!!」

「よし、じゃあ行くか」

「あっ、私が足を用意しますね」


 セシルは、そう言うと指を口に加えて指笛を吹く。すると、寮の地中から何かが出てきて密集し大きな狼の形をなした。


「よし、ポチに乗ってください」

「おう」

「……ロギるん、これって」

「ああ、虫の死骸の集まりだ」

「気持ち悪いですかね、やっぱり」

「……これって速い?」

「はい」

「……なら良いか」


 アマナは、ポチに飛び乗るとロギルの背中にしがみついた。


「では、街の中心目指して行きます」

「おう」


 セシルは、脇腹を蹴ってポチを発進させる。ポチは虫の死骸の集まりとは思えないほどその体を機敏に動かして進み風を切り裂いて街中を駆け抜けていった。


「……えっ?」

「今」

「何か居たぞ、ロギるん」


 誰も起きていないはずの街で、ロギル達は進む途中動く影を見つけた。


「アマナ」

「見てみる」


 アマナは目をつむる。そして見開くとその瞳が緑の炎で燃えた。


「……ロギるん。化け物がいるぞ」

「化け物?」

「なんか、ニヤついたお面をつけたおっさんだ」

「……おっさんの化け物?」

(夢魔でしょうね。それで大きな袋を背負っているのなら、恐らくザントマンでしょう)

「そのおっさん、大きな袋を背負ってないか?」

「背負ってるな。しかも2つ」

「……」

(連中がこちらに現れ始めたということです。現実世界に出来たこの眠りの街に引き寄せられてきたのでしょう)

「……」

「どうするロギるん?」

「必要ならば殺そう」

「了解」

(夢魔に実態はありません。ですので死という概念がないのですが、一時的に消すことは出来るでしょう。なのであまり構わないほうが良いでしょうね)


 ダンタリオンのその言葉に、ロギルは一人頭を抱えた。それを見てアマナは、不思議そうな顔をした。


「ところでアマナ。お前には、中心地の怪しそうな場所をその目で見て回ってほしいんだ。その方が足で回るよりも速い」

「おっ、分かったロギるん。見てみる」


 そう言うとアマナは、目を細めて集中し始めた。


「頼むぞ」

「ロギル先生。私達は、どこに最初に向かいましょう」

「魔道具メーカーの会社が密集しているところにキャスターが居るはずだ。まずは彼女と合流する」

「了解です。となると本当に中心地ですね。分かりました。飛ばします」


 セシルがポチの足を早める。その間にも景色が歪み、道がうねったり突き出て急な坂が出来たりしたが、ポチはそれを難なく越えて走り抜けていった。


「便利だな、ポチは」

「はい。自慢の研究成果です。人様に迷惑もかけないですし」

「だな」


 その時、アマナがロギルに抱きつく力を強める。


「……見つけたぞロギるん」

「どこだ、アマナ?」


 アマナは、道の先に目を向ける。そこには白い靄が漂っていた。


「霧?」

「いや、妄想の産物ってやつだろうな」


 靄の中を速度を緩めずにポチは進む。すると、一つの大きな建物が見えてきた。


「何だあれは?」

「周囲の景色があれに取り込まれているな。差し詰め、眠りの塔と言ったところか」


 その建物は、周囲のビルが集まってできたような景観をしていた。その全長は空へと雲を突き破らんばかりの勢いで今もなお伸び続けている。


「まさか」

「あれの頂上に居るんだろうな。犯人が」

「あれを、登っていくんですか!?」

「ああ。今もなお伸びるあれをな」


 アマナは、腕をロギルから離して弓を出現させて構える。そしてビルに狙いをつけると矢を出現させて放った。


「……ちっ」


 矢がビルの頂上へと登っていくその途中。矢が、何かに当たって消えた。


「見えない壁が空に出来てる。外からは頂上を目指せ無いみたいだな」

「壁が空に?」

「意味が分からんがそう言うことなんだろう。なら」

「ビルの中を進むしか無いな」

「……分かりました!!行きます!!」


 ポチがビルの入口へと駆けていく。そして入口のドアを勢いのままに突き破ると、そのままビルの階段を駆け上がって登り始めた。


「キャスターはすでに登ってるのか?」

「分からない。確認は出来てないけど周囲に見慣れない乗り物があるみたい」

「なら、すでに上にいるだろう。このままキャスターを追うぞ!!」

「はい!!」


 明らかにビルの中にある階段にしては広すぎる階段をポチは駆けていく。しかし、駆けていくポチの目の前に大きな袋を持った男たちが現れた。


「……まずいぞ!!」

「大丈夫っと!!」


 男達が袋から粉のようなものを取り出して下層のロギル達目掛けて投げつける。しかし、その粉はアマナの放った炎の矢によって焼き焦がされて消えた。


「そのまま消えてろ」


 アマナの放った炎の矢が、ザントマン達目掛けて命中しその身体に大きな穴を開ける。仰け反ってザントマン達は倒れると、痙攣してその体を煙のように消した。


「殺したって感じではなさそうだな」

「死なない奴ららしい」

「私達の相手としては、面倒極まるな」

「ああ」

「死なない敵が相手ですか。初任務としては、重い気がします」

「悪いがうちの仕事は、どれも世界を救うものばかりだ。重さはどれも同じだよ」

「やることは違ってもな」

「……分かりました。覚悟して行きます」

「うん」

「良い答えだ」

「ありがとうございます」


 階段を抜けると大きな通路があり、その先にまた階段が続いていた。その通路で、猫のような顔をした女がポチ目掛けて飛びかかってくる。それをポチは、力任せに跳ね飛ばして進み続けた。


「げっ!!ポチに抱きついてる!!!!」

「撃ち落とすか?」

「いえ。ポチは全身が死骸ですので」


 ポチの肉体がうねって変化する。その毛皮らしき一部から犬の前足が形成されると、抱きついてきていた猫女を蹴って遠くに吹き飛ばした。


「足が五本とは、器用だね」

「ちょっと操りづらいんですけどね。こういう事もできます」

「便利なもんだ」


 上に伸び続けるビルをロギル達は上がっていく。その地上で、蠢く何かがロギル達を追うようにビルの中を駆け上がり始めていた。




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