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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
3章 眠り
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歪む現実

ダンタリオンから状況の説明を聞いてロギルは、ベッドから起き上がる。そしてスーツに着替え始めた。


「今のこの状況で危ないのは、入院患者と言ったところでしょうか」

「そうですね。医者も寝ているわけですから、この状況が長引くほど治療が必要な患者は命を落とす確率が高くなるでしょう」


 ロギルは、言葉を聞きながらスーツとコートに着替える。そして玄関へと移動した。


「行きましょう。この馬鹿げた現象を解決する」

「ええ。ただ注意点がございます。ロギル様は、目覚められたとは言えそれも一時の事。この街を覆う眠りの力は次第に強くなっているようです。我々も魔獣であるためこの程度で眠気を感じることは有りませんが、それも何時まで保つか」

「……一日持ちますかね」

「夕方を過ぎれば常人ならば眠気を感じるはずです。その後は、我々でも起きていられる保証はありません」

「うえ、かなりやばめの事態じゃん」

「解決に闇雲に時間を割いている余裕は無いということですロギル様。慎重に行動なさったほうが良い」

「……まずは、この手の事象の専門家を起こしたほうが良いですね」


 ロギルはそう言うと部屋の外に出た。それに合わせてソフィーとダンタリオンがロギルの内に戻る。ロギルは、自身の背中にソフィーの羽を部分召喚して校舎から飛び立った。


(専門家を頼るって、誰のとこに行くの?)

「レシア・ファルテノの所だ。恐らく、社員寮に居るはずだ」

(キャスターって人のとこね。でもダンタリオン先生よりその人凄いのかな?)

「レギオンキャスターは、あらゆる魔法を学んだものだけが着くことを許されている。ダンタリオン先生も凄いが、あいつも普通ではない者のはずだ。きっと力になってくれる」


 ロギルは、社員寮目指して空を飛んでいく。その間街を見て回ったが、誰も町の外には居なかった。


「……ここだな」


 フォーザピオーゼの教員は住む所を自由に選択出来る。実家が近ければ実家住まいでもよく。学校が抱えている社員寮に住んでも良い。だが、この社員寮は表向きはフォーザピオーゼが所持しているものではなく、一般のアパートとして作られている。だがそれは表向きの姿であり、ここは普通の社員寮ではなかった。


「……」


 ロギルは、社員寮玄関の扉を開ける。寮内は静寂が支配していた。その中を、ロギルは慎重に進んでいく。一回を見回して人の住む部屋がないことを確認するとロギルは、2階へと続く階段へとその足をかけた。その瞬間、階段に置いた足の下が光り始める。


「チッ!!」


 ロギルは、すかさずその場から飛び退いた。その瞬間、光った床を中心に左右にあった壁から別の壁がせり出して来てロギルが先程まで居た通路を塞いでしまう。


(……ひどい防犯システムだね)

「……一度外に出て外部からどの部屋か先に確かめるか。うかつに中で動き回らないほうが良さそうだしな」

(賛成)


 ロギルは、一旦寮の外に出る。そしてソフィーの羽を使って寮の周りを飛び回った。


「……当たり前だけどどこもカーテンが閉まってるな」

(そうだね。これじゃどこがキャスターの部屋か分からないよ)

「う~ん、強行突破して窓ガラスを一つ一つ破壊して部屋を調べて回るしか無いのか」

(いえ、そうでもなさそうですよ)

「本当ですか、先生?」

(ええ。あの右端の部屋。他の部屋に比べてあまりにも大きな魔力障壁が張られています。もしかしなくてもあの部屋でしょう)

「なるほど。ありがとうございます先生」


 ロギルは、右端の部屋の窓ガラス前まで行くと部分召喚してナーガの毒をガラスに吹き付ける。すると音もなく窓ガラスは溶けて消えた。


「……さて」


 ロギルは室内に向かって手を伸ばす。だが、見えない壁に阻まれて室内に入ることが出来なかった。


「これが魔力障壁か」

(どうする?)

(壊せばよかろう。こんなもの)

「えっ?」


 ロギルの胸元から光が生じる。その光から大きな腕が出てくると魔力障壁目掛けてデコピンをした。すると、何かが砕ける音がして透明な壁が消える。


(ほれ、早くしろ)

「あ、ありがとうレヴィアさん」

(うむ)


 ロギルは、室内へと侵入する。すると無数の光の槍が部屋の空間に出現してロギル目掛けて飛んできた。


「!?」


 慌ててロギルは伏せる。その結果、窓のあった壁が粉々に粉砕されて風通しのいい部屋になった。


「後で謝ろう」

(そうしたほうが良いね)

「さて」

「机で寝てるじゃん、この人」

「あはは~」

「寝言で笑ってるし」


 そこには、机に突っ伏して寝ているキャスター、レシア・ファルテノの姿があった。


「さて、問題はどうやって起こすかだな」

「また私がやるしか無いかな?」

「ソフィー、頼む」

「あいあい」


 そう言うとソフィーは、レシアの背中にしっぽを突き刺して目を閉じた。


「……」

「……何だこの人」


 ソフィーは、そう言って目を開ける。


「どうだ?」

「……無理じゃない?」

「なんでだ?」

「私の話を聞こうともしないんだもん」

「なるほど?」

「……あっ、そうだ!!ご主人様がやってみてよ。私のしっぽを部分召喚してさ!!」

「俺がか」

「うん!!」

「……やらずにおくよりはやったほうが良い。そう言うことだよな」

「そう言うことそう言うこと」

「よし、やってみよう。アドバイスを任せる」

「了解~!!」


 ソフィーがロギルの内に戻るとロギルは、部分召喚でソフィーのしっぽを手のひらから出現させる。そしてレシアの背中にしっぽを刺すと、目を閉じてソフィーのアドバイスに従い意識を集中させていった。


「……俺が相手の頭の中にいるイメージ」


 そして目を開けるとロギルは、よくわからない実験施設にいた。


「あはは~~!!凄い凄い!!!!画期的な理論があっちにもこっちにも!!!!今日は研究がよく進む日ですね~~!!最高の日です~~!!!!」


 その中でレシアは、試験管を揺らしながらよく分からない液体を混ぜ合わせて喜んでいた。


「おい、キャスター」

「あはは~~」


 ロギルは、レシアの顔を覗き込む。だがそんな身近にロギルが顔を持っていっても、レシアにロギルは見えていなかった。


「……ふむ」

「お~~、この反応も新鮮ですね!!大発見ですよ!!!!」


 そう言ってレシアは、本に何かを書き記す。


「……転移魔法、知りたくはないか?」

「……えっ?」


 ロギルがそう言うと、レシアは初めてロギルを認識したかのようにロギルを見つめた。


「転移魔法を知りたくはないか?未だに魔学では原理すら解明されていない転移魔法を」

「……何言ってるんですか。知りたいに決まってます!!!!教えなさい!!!!それよりも本当に知っているんですか!!!?嘘じゃないでしょうね!!!!」

「ほ、本当だ。俺の先生が知っている。この前も、転移魔法を使って学校の外から中に入り直し直接敵のアジトに乗り込んだんだ。先生の転移魔法技術は確かなものだ。どうだ、知りたいか?」

「知りたいです!!!!」

「そうか。じゃあ起きろ。ここでは話せない」

「分かりました!!よく分からないけど、起きます!!!!」


 そうレシアが言った瞬間、実験施設にヒビが入っていき崩壊した。


「……ふぇ、夢でしたか」


 レシアが、よだれを拭って起き上がる。その横でロギルは、目を開いた。


「おはようキャスター。早速で悪いが、力を貸して欲しい」

「……えっ?……ええええ~~~~!!!!」


 レシアが大きな声を出して驚いたが、寮にいる誰もが起きることはなかった。


「……なるほど。そんな事態に」

「なにか手はあるかキャスター?下手に探し回っている時間は無い」

「そうですね。この様な事件の場合、発生源を中心として現象が広がっているはずです。つまり、この現象が拡大している範囲が正確に分かれば、その中心点に原因がある可能性が高い。というのが普通ですね」

「なるほど。しかし、それをどうやって見極める。肉眼では判断できないみたいだが」

「肉眼では判断できないことでも魔力的変化は空中で起こっているはずです。この水晶をお使いください。これは、一種のフィルターです。この水晶を通して外部の景色を見ると魔力変化反応があると水晶越しには景色が赤く見えるはずです。これで空中から見ることができれば、この現象の効果範囲が分かるかと」

「なるほど。やってみる」


 ロギルは、水晶を持ってソフィーの羽を使い空高く舞い上がった。そして上空で水晶をかざして街を見下ろす。


「……かなりの広範囲だな。街の全域が真っ赤じゃないか」

(とすると中心は)

「……フォーザピオーゼの近くってことになるな」

(思ったよりも近場っぽいね)


 フォーザピオーゼは、街の中心部に存在している。その周囲のどこかに発生源があるはずなのだが、水晶に映る色だけでは、それがどこかロギルには判別できなかった。


「一旦戻るか」


 ロギルが戻ると、レシアはスーツに着替えてコートを着ていた。


「どうでしたか?」

「街の中心部から広がっているようだが、どこかは特定できなかった」

「そうですか。発生が短い時間でのことならば色の濃さで分かったと思うのですけど」

「ほとんど街の全域が真っ赤だったぞ」

「それはかなり汚染が進んでいる証拠ですね。急がないとまずいということです」

「どうする?これ以上は、足で探すしか無いのか?」

「いえ、街の中心であると分かった以上、ある程度の推論を組み立てる事ができます。ちょっと待ってください。えっと、あった。これです」

「街の地図か」


 街の地図を机の上に広げるとレシアは、大きく赤い円を書き込む。


「街の中心が発生源と考えるのならばこの赤丸の近辺に発生源があるはずです。一応聞いておきますけど、街の末端の赤色は薄かったですか?」

「ああ、わずかだが」

「ならこの範囲の可能性が高そうですね。フォーザピオーゼは、我々が拠点にする特殊施設です。校内には一部の警備員とレギオンのメンバーしかいません。なので今回の発生源対象から外します」

「ああ」

「怪しいのは、企業施設ですね。マジックアイテムを開発している企業が街の中心には何社かあります。この近辺が候補としては一番怪しいですね」


 レシアは、地図上の企業の会社にばつ印をつけていく。


「そして、その周りの住宅街。企業社員が住んでいる寮などがあります。こちらの場合だと少々骨が折れますね。無数に点在していますし、特定が難しいと思います」

「そうだな」

「優先的に回るのは企業でいいと思います。この現象は、街全体を巻き添えにして広がっている。無差別テロでなければ、何かの事故の可能性が一番高いでしょう。そう考えた場合、マジックアイテムを作っている企業が有力な発生源になるはずです」

「実験中の事故でこれか?洒落にならないな」

「街一つを沈黙させているわけですからね。かなりの責任問題になると思いますよ。さてサモナー、人手が要ります。他に頼れる人はいないのですか?」

「……アーチャーだな。あいつなら広範囲を見れる。それに、あいつの目は特殊だ。もしかしたら、発生源を特定できるかもしれない」

「グッド。なら貴方は、そちらをお願いします。私は、先に行って発生源を探して回ります」

「分かった」

「では、後ほど」


 そう言うとレシアは、大きく開いた窓際の壁から外に向かって飛び降りた。風魔法で着地の衝撃を逃がすとレシアは、着地と同時に指で空中に何かを描く。すると、寮の中庭から三輪のバイクがレシアの近くにやってきた。


「さて、じゃあ行きますか」


 レシアは、バイクに跨ると魔導力エンジンを魔力で始動させる。そしてヘルメットをかぶってバイクを走らせた。


「……便利なもの持ってるなぁ。あれも車か?」

(さぁ……)


 ロギルは、ソフィーの羽を出して飛び立つと、学生寮目指して進み始めた。


「……ん?」


 ロギルは、空を飛んでいる。しかし、突如として目の前に壁が出現した。


「おっと!?」


 ロギルは、身を捩ってその壁を躱す。見ると、下にあった家の屋根が伸びてロギルの行く手を塞いできていた。


「なんだ、これは?」

(どうやら現実が歪み始めてきたようですね)

「現実が歪む?どういうことですか先生?」

(この辺りに充満している魔力は、普通の物ではありません。夢魔の住む世界。ドリームランドと言われている世界には、この魔力が多く充満しています。これは夢魔の力の源であり、人間を眠らせる力がある。それと同時に、もう一つの特性があります)

「もう一つの特性?」

(認識を変えるのです。ドリームランドとはよく言ったものですね。夢を叶える。誤認させるのです。現実に存在する景色すらもね。しかし、それはただの誤認ではなく脳が理解した本物です。ただの幻覚だと思わないほうが良いでしょう)

「……面倒ですね」

(ええ)


 ロギルは、現象が悪化する前に寮に辿り着こうと多少無理をして移動速度をあげることにした。



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