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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
2章 欲望
18/76

アーチャー

「エルダさん、いらっしゃい」

「……はい、ロギル先生」


 その後、エルダは相談室へとやって来た。浮かない顔で彼女はロギルを度々見るが、ロギルが聞いてもその訳を話そうとはしなかった。


 そして遅くなると、いつものようにアニーと一緒に帰っていった。不安げな表情のまま。


「……動きましたか」

(ええ、しっかりと食いついて来ましたよ。ふふっ、危ない選択であると分かっていても彼女が欲しいのでしょう。つまり)

「余程甘い餌なのでしょうね。エルダは」

(ええ。渡すと大変なことになるかもしれませんね)

「……彼女が、この学園を地獄に変えるかもしれない鍵か」


 ロギルは、椅子から立ち上がる。そして相談室を出た。


「で、どうします?」


 女生徒に変装したダンタリオンが現れてロギルの隣に立つ。


「今日の彼女の態度でアマナにも伝わったでしょう。決着をつけます」

「ふふっ、いいですね。では、彼女には私から伝えておきましょう。行き違いの無いように命をかけたやり取りをするとね」

「その必要はない」


 ロギルは、その声に辺りを見回すが姿はない。暫くすると、ロギルの目の前に緑色の炎が現れてアマナの声を発し始めた。


「状況は理解した。今夜動くことは分かったがどうする?私が部屋を抜けるには、ある程度全員が寝静まった時じゃないと不可能だが」

「そこは今から校長に俺が言ってくる。今夜俺達は、名目上はこの学園を離れることにする。理由は、寮に住んでいるアマナさんに寮の改築とその説明をする会に出席してもらうためだ」

「なるほど。……それはマジか?」

「寮の改築があるのは本当だ。近々お前たちは、少し寮を離れることになるだろう。もっとも、その説明会はまだ決まっていないらしいが、明日ということになった。今な」

「うへぇ、あの部屋から物を移すのか。めんどいな」

「ところで、お前持ってきてるのか」

「うん、何をだ?」


 アマナの言葉に反応して緑の炎が傾く。


「俺のコートみたいなやつだ」

「ああ、戦闘服か。あのうちの学生服を無駄に黒くして黒いコートと合わせたやつだろ。一応あるぞ」

「それに着替えてこい。それで外に出て俺達は、もう一度学園内に侵入する」

「どうやって?」

「そこはうちの先生がなんとかする。分かったな」

「……あの服意味が分からないんだよな。無駄に黒いし、防刃タイツって意味分からんものまで付いてスカート押しにしてるからな。そこまでするならスカート止めたらいいのに」

「あ~~、一応学生服の色違いだろ。恐らく公共の場で着ていても怪しまれないようにだと思うぞ」

「じゃあなんで黒くしたんだ!!いつもと同じでいいだろ!!」

「多分だが」

「うん」

「リオーシュの趣味だろうな」

「……なんか納得した」

「じゃあそれで。後で合流する」

「了解」


 そう言うと緑色の炎が消えた。


「ふむ」

「どうしました先生?」

「なるほど。面白い魔法だなと思いましてね。これが精霊魔法ですか。興味深い」

「精霊魔法ですか」

「この世には、魔力が溢れています。空気のようなものですがしかし、その中には別の世界がある。それを理解し使うのが精霊魔法です」

「えっと、すみませんどういうことなんでしょうか」

「まぁ、それは今度お話いたしましょう。今は、今日の準備を」

「そうですね。では、行きますか」


 ロギルは、校長室目指して歩き始めた。


「世界を全て見下ろすか。まさか本当に人間に達し得る境地だったとは、面白い話ですね」


 そう呟くとダンタリオンは、その場から消えた。


 数分後、アマナを拾ってロギルは、学園の門から外に出る。そして、少し進んだ木々の中に身を潜めた。


「さて、何時動くかな」

「見てるから大丈夫。エルダの動きは、全部把握済み」

「……お前、ここ建物の外だぞ」

「それが?」

「……本当に見えるのか?」

「アーチャーを知らないみたいだねロギるん。私達は、魔力で構成されたもう一つの世界。精霊界を通してこの地上を観測する魔法を持っている。実際に見えるんだよ。この目で見たいものをね」

「ガンナーも有り得ないと思ったが、アーチャーも大概だな」

「まぁ、今回は私がアーチャーの力を存分に見せてあげるよ。敵をロギるんがおびき出してくれたからね。そっちで役に立たなかった分、今日は私が力担当さ」

「……学園のストレスを発散するために暴れたいだけじゃないよな」

「そうとも言う」

「……はぁ~」


 アマナの発言にロギルは、ため息を吐いた。


 深夜、大半の生徒達が寝静まった頃エルダは、こっそりと制服に着替えて部屋を出た。月明かりを頼りに暗い廊下を進む。そして、自身のクラスの教室へとたどり着いた。


「……遅かったですね」


 教室の中央にエルダが進むとどこからともなく声がする。部屋の隅の机が揺れて震えると、その近くに放課後に見た女生徒が現れた。その女生徒は、紫色の髪をしていてその女生徒を、エルダは今まで学園内で見たことがなかった。だが、彼女は実際にそこにいる。


「……行きましょう」

「……」


 エルダは、動き出した女生徒の後をついていった。その女生徒は、暗がりで辺りが見えづらくとも迷わず進んでいく。そして、更衣室の前で止まった。


「ふむ」


 ドアノブに女生徒が手をかける。一瞬、その女生徒の腕が溶けて消えたように見えた。しかし次の瞬間には、女生徒の腕は元に戻って更衣室のドアをひねって開けていた。


「鍵なんてしなくていいのにね」

「……」


 女生徒がそう言って更衣室へと入っていく。その後を、エルダは追った。女生徒は、一つのロッカーの前で止まる。それは、掃除道具が入っているロッカーであった。


「……」


 ロッカーの扉を開いて女生徒が腕をロッカーの中へと入れる。すると、女生徒の腕の先から灰色の液体がこぼれ落ちてロッカーの底の隙間に消えていった。


「じゃあ、行きましょうか」

「……行くってどこに」

「ここよ」


 そう言って女生徒が指差したのは、更衣室の壁の一部であった。見ると、徐々にその壁の一部がスライドして動いていく。その後には、地下へと続く階段が現れた。


「こんなものがあったなんて」

「さぁ、どうぞ」


 女生徒が、階段を降りて地下へと入っていく。エルダも恐る恐るその後を追った。暫く進むと、階段上の壁が動いて閉まる音がする。もう後戻りできないことにエルダは気づくと、恐怖に顔を歪ませた。だがエルダは、頭を振って自身を奮い立たせると女生徒を追ってまた階段を降りていった。


 周囲には、独特な匂いが漂っている。地下特有の湿っぽい匂いがエルダにとっては、不気味で仕方なかった。長い階段を降りきると一つの部屋へとエルダは辿り着いた。女生徒は、その部屋のドアを開いて部屋に入っていったらしい。エルダも覚悟を決めるとその部屋へと入っていった。


「……これは、何?」

「ようこそ、エルダさん。ケイトも喜んで貴方を歓迎していますよ」


 エルダが見たものは、部屋一面に存在する銀色の巨大な卵であった。それらは、粘膜のような物に包まれていて小刻みに胎動している。中に何かがいるのがエルダには、一瞬で理解出来た。


「これは何!!ケイトは、どこ!!!!」

「ここよ。ここ」


 女生徒が一つの卵を指差す。その卵は、一際激しく胎動していた。


「……嘘、でしょ」

「ああ、やっぱり貴方を連れてきてよかった。生まれるわね。こんなにも早く」


 ケイトと言われた卵が震える。そして、その殻を突き破って灰色の腕が出てきた。


「……お姉様」

「……ケイト、なの」


 粘膜をかき分けて中からケイトが姿を現す。しかし、その体は正常な人間のものとは言えなかった。


「……あっ、ああ」

「お姉様」


 ケイトの6つの目がエルダを見つめる。4つの腕を床についてケイトは立ち上がるとゆっくりとエルダに近づいていった。


「嘘、嘘よ」

「オネエサマ」


 ケイトの口からよだれが溢れている。それを拭うこともせずケイトは、エルダへと近づいていった。


「オイシソウ」


 巨大な4つの腕をケイトは振り上げる。それが、エルダ目掛けて降ろされようとした。しかし、その動きが途中で止まる。


「駄目よ。まだ価値があるんだから」


 女生徒がそう言うと、ケイトは動きを止めた。まるで意識がなくなったかのように。


「素晴らしい。貴方が居るだけでこの子は自分に素直になれる。どうこの醜い姿。欲望をこの世に直接現したようで素敵でしょ」

「貴方は、自分が何をしたのか分かってるんですか!!!!」

「ええ、分かってるわ。素晴らしいでしょ。解き放ってあげた。私が、この子の力を」


 その声に反応したかのように周囲の卵の震えが大きくなっていく。


「ええ、そうよ。貴方達も素直に成りなさい。そうすればこの子のように力を得て欲望を叶えることが出来る。この子が、エルダを自分の思うままにしたいと願ったように」

「何を、言って」

「考えたことが無い。自分が二人いればいいのにって。やりたいことを出来る力があればいいのにって。でも人の体ですべてを叶えることは不可能に近い。だけど魔法はそれすらも解決してくれる。彼女達は解き放たれるのよ。人間という器からね」


 周囲の卵が割れ始める。その中から灰色をした人間とは思えない異形の何かが這い出してきた。


「まさか、これ全部が」

「そう。貴方が会いたかった生徒達よ」


 エルダは、力なくその場に崩れ落ちる。それと同時に、周囲に灰色の液体が近づいてきていることを知った。


「いや、なに」

「およそ不可能なことを実現したいと願うからこそ欲望は力をその体に映し出す。貴方は、彼女達を救いたい。そうよね」

「……」

「なら、欲しいでしょ。その力が」

「……」

「いいわ、あげましょう。貴方にもね」

「いやあああああああああぁぁぁぁ!!!!」


 エルダの身体に、灰色の液体が巻き付いていく。それはエルダの自由を奪い、身体を拘束していった。


「助けて、誰か、助けて!!!!」

「あははははっ!!!!いいわ!!貴方が居ればケイトももっとその姿を変えていくでしょう。そして、貴方もこの光景を見たからこそ見たこともない異形へとその姿を大きく変えていくはず!!ああ、最高だわ貴方!!!!最高!!!!」


 女生徒の笑い声が聞こえる中、エルダの身体が徐々に灰色の液体に包まれていく。足を、腕を、身体を、そして最後にエルダの頭へと灰色の液体が覆いかぶさろうとした。


「助けて、ロギル先生……」


 その瞬間、エルダの身体が灰色の液体から開放された。


「えっ?」


 エルダは、誰かに体を支えられた。しかし、身体に力が入らない。自分の背後に何かが刺さって自分から力を吸い取っている。それゆえに極度の疲労に襲われたエルダは、一瞬でその意識を手放した。


「怖い夢を見たろ。これは夢だから、寝てたほうがいい」


 そう言ってロギルは、エルダを抱きかかえた。


「ロギるん少し下がってて。ささっとケリをつけるから」


 ロギルの背後でアマナがそう言う。アマナは、部屋の中を見回すと腕を構えた。


「ちっ、やはり来ましたか邪魔者が。しかし、残念なことに計画は既に動き始めています。後は、彼女達がこの学園を餌として大きく成長するのを待つのみ。再誕してしまった以上、彼女達を止められるものはいません」

「再誕?さぁ、どうかな」


 アマナは、笑みを浮かべる。すると、アマナの白い髪が薄緑色の透き通った炎に包まれて靡き始めた。


「穿つ」


 何もない虚空にアマナは腕を構える。すると、その腕に緑色の炎の弓が現れた。


「数は14。同時で十分だな」


 弓を引き絞る。すると、その間に14の炎の矢が現れた。


「はい」


 アマナの軽い口調とともに矢が放たれる。その矢は、それぞれの怪物のある一部分に命中するとそこを穿って消えた。


「これを再誕とは言わないだろ。これは、寄生って言うんだよ」


 一部分を失った怪物達が倒れていく。そして、その体が液体のように崩れて流れて消えると、その中から一部を怪我した女生徒達が出てきた。


「アーチャー、俺が彼女達を治療する」

「OKロギるん。こっちは任せて」


 アマナは、紫髪の女生徒へと弓を構えた。


「……貴様、よくも」

「終わりにしよう、ミシェル」

「……」


 女生徒の身体から灰色の液体が流れて消えていく。そして、その中からミシェルが姿を現した。


「いや、アマナ。そいつは、ミシェルじゃない」

「……」

「レイト・バーンズ。それがお前の名前だな」

「いやぁ~~、まさか再びその名前で呼ばれることがあるとは思わなかったね」


 床が振動を始める。すると床の隙間から灰色の液体が溢れ出してミシェルを包んでいった。


「その通り。僕は、レイト・バーンズ。ミシェルの保護者だよ。よく分かったね」

「ようやくお前の心が読めた。なるほど、通りで今まで分からなかったはずだ。ミシェルの身体に寄生してやがったのか」

「寄生とは言わないで欲しいものだね。僕とミシェルは間違いなく一心同体だよ。この頭を間借りさせてもらってるからね」

「日中は息を潜めてミシェルに行動させていたわけだ。だからお前の意識を読めなかった」

「分かった所でもう遅いよ。彼女達は残念だが、その欲望のデータは残っている」


 ミシェルを包んでいた灰色の液体が、その形を変化させていった。その姿は、先程アマナが倒した女生徒達が異形だったころの姿の特徴を全て取り込んでいる。


「さて、ミシェルには申し訳ないが君たちには死んでもらおうかな。そしてもう一度始めないと行けない。欲望のままに成長する人間の強さの観察を」

「……ふざけるなよ」


 アマナの目が薄緑色の炎を宿して輝く。髪に宿る魔力も増えて大きな炎のようにその髪を逆立てていた。


「レイト・バーンズ。お前を殺す」


 アマナは、そう言って弓を構えた。



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