遭遇
「もう遅い時間だけど、何かあったのかい?」
「……先生は、あんなことを言った私を拒みませんのね」
「ああ、勿論だよ。俺の仕事は、この学校の皆の役に立つことだからね」
「……宜しければ、少しお話をさせていただいても構いませんか?」
「どうぞ」
そう言ってロギルは、相談室へとエルダを招き入れた。
「失礼致します」
エルダは、そう言って入室する。そして、ゆっくりと扉を締めた。
「さて、今日はどうしたのかな?」
椅子に座ってロギルは尋ねる。向かいの席にエルダは座ると、ゆっくり話始めた。
「先生は、先程の生徒の方と仲がよろしいんですね」
「……アマナさんのことかな?」
「ええ。私がここに来る途中、忠告を下さいました。またロギル先生に変なことを言ったら許さないぞと」
「あはは、同じ学校から来てるからね。心配してくれてるのかも」
「それだけではないと思います。先生は、余程信頼されていらっしゃるのでしょうね」
エルダは、髪を触りながらどこか落ち着かない様子でロギルを見つめた。
「ロギル先生は知っていますか。今、この学園で何が起きているのか?」
「それはどういう意味かな?」
ロギルは、平静を装ってエルダの言葉を待つ。
「……知っていますか、この学園では4人が一つのチームとなって学び共に過ごし成長していく。そういう授業方針を持っています」
「ああ、アマナさんから聞いたよ。面白い方針だね」
「ええ、そうですね。ですがそれは、本来であればの話です」
「本来であれば?」
「ええ。実は、この学園の4人一組のチームなのですが、今は、3人一組のチームが増えてきています」
「確か、お休みになっている生徒さんがいるって話だけど」
「はい。そう言われています」
エルダは、胸元から一枚の紙を取り出した。それを、ロギルが見やすいように机の上に広げる。
「これを見て下さい。全部で14人。いずれも長期の入院をしていると言われている生徒達です。この人数は、我が校の生徒のおよそ10%に相当します」
「多いね」
「ええ、とても。そして、この中の誰も未だに復学していません」
「俺も詳しくは知らないんだけど、重い病気なのかな?」
「私も校長先生に聞いたのですが、原因不明の病気であると言われました」
「それは、なんというか厳しい話だね」
「はい。ですが、それは本当に事実なのでしょうか?」
「……」
エルダの発言にロギルは、目を細める。
「ロギル先生、原因不明の病気を発症する生徒が14人も出たんですよ。なのにこの場所で授業を続けているのって、おかしいと思いませんか?」
「なるほど。確かにそうだね」
「その病気にこの場所自体が関係しているかもしれないのに、私達は未だにこの学園にいる。これって、この学園自体が病気に関係無いと分かっているってことじゃないですか。原因不明なのにも関わらず」
「……」
「まして原因不明の病気が発症するかもしれない状況下で他校の先生を招いている。これは、本当に病気がある状況下で出来ることなんでしょうか?私は、違うと思います。もしかしてこの14人は、病気とは違う理由で学園に来られないのではないか?そう私は、考えているんです」
「……病気とは違う理由って?」
「……この生徒達は、どこかに消えてしまった。そうじゃないかと私は思っています」
エルダは、重苦しい声でそう言った。
「どこかにって、どこに?」
「分かりません。この子を見て下さい。私達のチームの一人だった子です。ですが、ある日目を離した時から彼女は帰ってきませんでした。それまでの彼女は、とても元気そうで病気なんて患っているようにはとても……」
「……」
「私、聞いて回ったんです。ケイトは、どこに行ったんですか?お見舞いにいけませんか?って。でも帰ってくる返事は、駄目、いけない、だけでした。それでも私は、誰か知っているだろうと思って一生懸命探しました。親にも調べてくれるよう頼みましたし、他の長期休暇を取っている生徒のいるチームの子達にも話を聞きました。そこで分かったんです。皆、ある日を堺に突然いなくなっているって」
「……皆か」
「はい。彼女たちの誰もがその日何もなかったのにも関わらず消えた。そう皆言っていました。先生、この学園で何が起きているんですか?」
「……」
ロギルは、静かに首を横に振る。それを見てエルダは、紙をしまった。
「……ロギル先生、先生は本当に来ないほうがいいかもしれません。ここでは、何かが起きている。私には、そんな気がしてならないんです」
「それで、君はどうしたいんだ?」
「……探します。彼女達がどこに行ったのか」
「一人でかい?」
「はい。周りの皆を巻き込むわけにはいきませんから」
「……」
「……ロギル先生には、知っておいて欲しかったんです。気をつけて下さい。私の杞憂だといいのですが」
エルダは、椅子から立ち上がる。それを見て、ロギルも立ち上がった。
「待ちなさい」
「えっ?」
「わざわざ危険なことをしようとしている生徒を見逃すわけにはいかない」
「……先生、私の邪魔をなさると言うんですか?」
「いや違う。俺が変わりに調べよう。その代わり、君は大人しくしていること。いいね」
「……信じられません」
「俺と君は出会って間もない。でも君に危険なことをさせるわけにはいかないんだ。だから、俺を信じて欲しい」
「先生に、何が出来ると言うんですか?」
「生徒である君たちは、自由に外出もできない。だが俺なら出来る。この学園から出て調べることが出来るんだ。どちらが情報を得る上で有利か、君なら分かるね」
「……ですが」
「なら君一人で危険なことはしない。誰かに何かを誘われたり、着いてくるように言われたら俺に相談しにかならず来ること。そう約束してもらえないか。その時は、俺が君を守るよ」
「先生が、私を」
「ああ。だからいいね。無理はしないこと。必ず俺に助けを求めること。約束だ」
そう言ってロギルは、エルダに手を差し出す。その手をエルダは、ゆっくりと握った。
「分かりました。約束致します」
「……これを君に渡しておこう」
ロギルは、そう言うとバッグから一つのアクセサリーを取り出した。それは、小さな石のついたネックレスだった。
「これは?」
「お守りだ。危ない時、君を守ってくれるだろう。気休めかもしれないけど、つけててくれないか」
ロギルは、そう言ってネックレスをエルダの首にかける。エルダは、ネックレスが見えないように服の内側に隠すとロギルに頭を下げた。
「ありがとうございます。大切に致しますね」
「無理をしないこと。いいね」
「はい。では、失礼致します」
エルダは、そう言うと相談室を出ていった。
「……俺も校長室に行くか」
ロギルは、書類とバッグを持つと校長室へと移動した。
「……そうですか。早朝に彼女が」
「ええ。俺の顔を見ると無言で出ていかれました。もしかすると彼女は……」
「……彼女も、男性の先生が来ることに反対でして」
「やはり」
ロギルは、日誌をマリミアに渡して意見を聞いていた。話は、今朝の掃除に来たと思わしき女性のことから始まり、その後は後日確認してマリミアが聞きたいことを聞くという話の流れになっていた。
「それでは、ロギル先生。また明日お願い致します」
「はい。お疲れさまでした」
そう言うとロギルは、校長室から出ていこうとする。
「あっ、ロギル先生」
「なんでしょうか?」
「今日は来られるのが遅かったようですけど、何かありましたか?」
「……ちょっと生徒と話し込んでしまいまして。大したことはありません」
「そうですか。引き止めてしまってすみません。お疲れさまでした」
「失礼致します」
ロギルは、マリミアに背を向けると校長室から出ていった。
(あの子のこと、黙ってるんだ)
「いらない心配をさせる必要はないからな。これでいいんだ」
ロギルは、その足で食堂へと向かった。外には、まだ強く雨が降っている。暗雲を見つめてロギルは、未だ姿さえも分からない敵のことを考えて舌打ちをした。
「……」
次の日。お昼を食べ終えてロギルが校内を散歩しているとターシャがまた土いじりをしていた。
「やぁ、今日も花植かい?」
「あ、ロギル先生。はい、そうです」
「よし、俺も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます!!」
ロギルがスコップ片手に穴を掘って、そこにターシャが肥料をまき花を植えていった。
「ふぅ~~」
「しかし、こんなにいっぱい植えるための花があったんだね。どこに置いてるんだい?」
「あ、これはこの前肥料を返した倉庫に置いてあるんです。雨風で流されたり、飛ばされないように」
「へ~~、あの倉庫にあったのか。昨日見た時は、分からなかったなぁ」
「扉の裏側に置いてましたから」
「それは分からないわけだ。もしかして、まだここ以外に植える用の花もあるのかな?」
「いえ、ここだけしか今は頼んでいませんので。出来るなら、あちらの方にも植えたいんですけどね」
「あっち?」
「ええ。ここからだと見えないと思いますが、この奥に水を浄化するための装置を置いた建物があるんです。そこにも開いたスペースがあるので」
「この奥に?」
「はい。丁度あの木々の向こうです」
「道もないけど、本当にあるのかな?」
「ええ、景観重視で隠されているらしいです」
「へ~~」
ロギルは、ターシャと昼休憩が終わる間際まで土いじりをした後、浄水器の置かれている建物へと向かった。
「……なるほど。確かにあるな」
木々の間を縫って進むと、たしかにそこには小さな建物が存在していた。
「鍵は、かかっていないか」
建物のドアを開けてロギルは中へと入る。すると、面で見た建物の大きさよりも広い空間がそこには広がっていた。
「地面を掘って作ったのか。わざわざ景観を損ねないために。……怪しいな」
設置されていたゆるやかな階段を降りてロギルは進む。周囲には、浄水用の装置と思われるものが稼働していた。その奥には、複数の木箱が積み上げられている。
「……中身は、魔石か」
そこにあったのは、大量の水の魔石であった。
「これらの装置が壊れた時の代用品か。普通だな」
ロギルは、周囲を見回したり叩いたりして怪しいところがないか探す。だが、怪しいところはどこにもない。
「はずれか」
ロギルは、相談室に戻ることにした。
「……ん?」
建物の外に出ると一人の人物が立っていた。それは、エルダであった。
「ロギル先生、探しましたよ」
そうエルダの声でそれはそう言う。
「どうしたんだ?」
ロギルは、ゆっくりとその何かに歩み寄っていった。
「ええ、実は、ロギル先生に教えていただきたいことがあるんです」
「教えてもらいたいこと?」
「はい。その、やはり男の方がこの学園で過ごすのは色々と辛いのでは無いですか?」
「……いや、そんなことはないが」
「男性の方は、女性が多いと我慢が出来なくなるものであると聞いているのですが」
「いや、それは間違った知識だと思うぞ」
「本当ですか?」
それは、ゆっくりと服を脱ぎ始める。ロギルの目の前である程度服をはだけると、それはロギルを見つめた。
「これでも、そう思いますか?」
「ああ。間違った知識だな」
「……」
それは、ロギルの言葉を聞くと服を直した。
「先生は、欲望というものがないんですね」
「いや、普通だと思うが」
「いえ、普通じゃないですよ。その上、あの子の渇望意欲を下げてしまった」
「……」
目の前にいたそれの形が崩れだす。
「困るんですよね。あの子にそんなことをされると。安心されちゃあコマル。モット、モット求めてモラワナイト」
「……何が目的だ?」
「何って、カンタンデショ」
人の形をしたその灰色の液体は呟く。
「シネシネシネシネシネ」
その瞬間、灰色の液体がロギル目掛けて飛びかかってきた。
「……」
ロギルは、足元にあった石を蹴って液体にぶつける。しかし、石が液体を突き抜けても液体が動きを止めることはなかった。
「チッ」
ロギルは、舌打ちをすると腕を空中で払うようになぐ。すると、目の前にあった灰色の液体が姿も残さずに消えた。
「先生、周囲には」
(本体らしき生物はいませんね。余程慎重な相手のようです)
「そうですか。ですがこれではっきりしました」
(ええ)
「俺達が殺すべきやつが、ここにはいます」




