読める者
「なるほど、それは嫌だな」
「だろ。この四人組システムがこの学校で一番嫌いだな。四人の成績の合計で学校内での待遇が変わる。これが一ヶ月ごとに測定されるから、毎月全教科のテストが入る。成績が悪い4人は、狭い相部屋に押し込まれる。成績が上位の者は、模範生徒として他の生徒を取り締まる役割をする。部屋も広くて家具も良い。ふざけてるだろ?」
「生徒が生徒を取り締まるのか?」
「うん。生徒会と呼ばれている組織に入る成績上位の者達は、成績が下位の学生グループの者たちに対して身だしなみや、出席の確認。また授業態度の指導をすることもあるそうだ。うざったいよな」
「なるほど。この学校の中で社会の縮図を作っているわけか。しかし、これだと上下争いに対して過激になるかもしれないな」
「それが狙いなんじゃないのか?ここは、お家的に苦労する学生が多いらしいぞ。反骨心を養おうってことだな。私は、発狂しそうだが」
「発狂しないでくれよ、アマナさん」
「それは、ロギル先生次第じゃないか?」
「OK、愚痴ぐらいなら聞こう。だから抑えなさい」
「食べ終わりました」
アマナにロギルが学校の事情を聞いていると、ミシェルが食事を食べ終わった。
「よし。そろそろ俺は、部屋に帰るよ」
「私達も帰るか」
「うん。下位脱出目指して勉強しよう!!」
「……まぁ、程々にな」
「頑張れ、アマナさん」
ミシェルの言葉に肩を大きく落としたアマナに声をかけてロギルは、自室へと戻った。
「……」
自室に戻ると部屋の変化をロギルは確かめてからドアに鍵をかける。その後、窓を締めてカーテンで塞ぐと部屋のベッドに腰掛けた。
「窮屈そうな学校だね」
「フォーザピオーゼとは、かなり違うようだ」
ロギルの横に寄り添うようにソフィーが出てきて腰掛ける。それと同時に、複数の頭を持ち仮面をつけた魔獣がロギルの前に出現した。
「どうでしたか、ダンタリオン先生?」
「ええ。生徒と職員の頭の中をこれまで覗いてみましたが、犯人らしき者はいませんでしたね」
「そうですか。……次に誘拐されそうな者はいましたか?」
「欲深い者ですと、あの質問をした生徒エルダ・エルドリスク。彼女は、何かを焦っていますね。焦りは、求めに継る。その感情が彼女は、人一倍強いようです。マリミア校長も大きいですね。行方不明の生徒を心配している。自身の保身のためでもあるようですがね。その感情が重なって大きな求めになっている」
「他にはいますか?」
「その2人程ではないですが、小さな欲を持つ者たちならいます。甘いものが食べたい。学校を抜け出したい。少しこづかれた程度では転ばないでしょうが、根気よく誘われたらすぐにでも誘拐されそうな子は大勢居ますね」
「縦社会をこの学校は作っているようですからね。抜け出したいと思う者は多いでしょう」
「甘いお菓子一つ求めて人生を狂わせる。まさに人の人生ですね。ふふっ、おっと失礼」
「いえ、先生は、刹那的な生き方が好きなのでしたね」
「はい。時に考えでは、明らかに間違っているという選択肢を選んでしまう。人間とは、本当に面白い。それ一つで全てが変わるとも知らずに」
「……そうですね」
ロギルは、その言葉に目を伏せた。
「どうする?夜に動く?」
「いや、今日は素直に寝ておこう」
「今日誘拐される者が出るかもしれないのに、ですか?」
「キャスターのように俺は、便利な結界なんて使えません。それに、ダンタリオン先生が目星をつけた人間に何もしてないとは、俺は思っていませんよ」
「……ふふっ、いい洞察力ですロギル様。観察対象には、目印を付けておく。初歩的なことですね」
「では、体を洗ったら今日は寝るとします。そして、明日から念入りに調査を始めましょうか。気づかれず、深くね」
「あ、私なにか食べたい」
「……干し肉食うか?」
「食べる~」
「私は戻りますよ。必要があればまた呼んで下さい」
「はい、ありがとうございます先生」
ロギルがそう言うとダンタリオンは、その場から消えた。ソフィーは、まだ透明なままのかばんを開けて干し肉を出して食らう。
「さて、体を洗うか」
「職員用の風呂場すら使えないなんて嫌な学校だね」
「だが集会場付近の水場を使っていいらしい。俺には、それで十分さ」
「プールだっけ。そんな溜池作るほどお金持ちの学校なのに、格差をわざわざつけるなんて非効率だと思わない?」
「確かにな。充実した環境があれば、争うだけでは育たなかった何かが伸びるかもしれない。だが、俺達がそれをぼやいても意味がないさ」
「それもそうだね。はむっ」
ソフィーは、干し肉を一気に食べ終える。そしてカバンを閉じて直すとロギルの内に戻った。
(私が魔法でお湯出してあげるね)
「それはありがたい。まだ温かいとはいえ、あまり体温を下げるのは避けたいからな」
(ついでに背中も流してあげる)
「……程々にな」
その後、結局いつも通りにソフィーにロギルは身体を洗われる。ロギルの頑張りによって学園内にロギルの奇声が響き渡ることはなかったが、毎回こうなるのかと思うと少し憂鬱になるロギルであった。
「……誰だ?」
深夜。ロギルの部屋の前で気配がする。それに気づくとロギルは、即座に目を覚ました。寝ぼけ眼をこすって隣に寝ていたソフィーも起きる。そしてロギルの内に戻った。
「先生、私、私。アマナ」
「……」
ロギルは、警戒しながらも部屋のドアを開ける。すると、暗い廊下にパジャマ姿のアマナが立っていた。
「お邪魔するぞ」
「……ああ」
ロギルは、部屋にアマナを招き入れる。部屋の明かりはつけないまま2人はベッドに腰掛けた。
「先生のベッド大きいな。羨ましいぞ」
「これより狭いのか?」
「う~ん、若干。すぐ横向くと落ちそうになるしな」
「小さすぎるだろ」
そう言うとロギルは、立ち上がってアマナと向かい合う位置に立った。
「さて、何のようだアーチャー?」
「お菓子貰いに来たぞ」
「……え?」
「お菓子貰いに来たぞ」
ロギルは、困惑した表情を浮かべるとカバンを開けてクッキーを取り出した。
「あまりないからな。一枚だけだ」
「ヒャッホー。ロギル先生大好きだぞ」
「しかし、よく本当に持ってると分かったな」
「私は、他人の心が読めるからな」
「……ん?」
「私は、他人の心が読めるからな」
ロギルは、そう言ってクッキーを食べるアマナをまじまじと見た。
「なんだロギル先生?まさか、心を読める奴なんて居ないと思ってたのか?私達は、最凶の魔道の継承者だぞ。ロギル先生お抱えの魔獣じゃなくてもそのくらいは出来る」
「……どうやら本当らしいな」
ロギルは、そう言うとアマナに鋭い視線を向けた。
「うん、ああ、別に私はロギル先生の復讐を邪魔しようとか思わないぞ。むしろ応援する」
「何故だ?」
「何故って、村一つ虐殺するなんて異常だぞ。殺すのが当然だ。手伝ってもいいとすら思える」
「そうか」
「むしろ皆喜んで手伝ってくれるだろう。それが私達の仕事だからな。皆にも言って協力してもらったらどうだ?」
「それは出来ない」
「どうしてだ?」
「救える者を俺の都合で皆を振り回して救えないようにする訳にはいかない。あいつに固執しているのは俺だ。大きな理由がない限り、あいつは俺が殺す」
「もしだが、私がそいつを殺したらロギるんは怒るか?」
「いや、怒らない。俺がしたいのは、あいつを確実に殺すことだ。あいつが生きているのが許せない。奴が死ぬのなら、俺でない誰に殺されても良い。ただ死んだという事実だけは知りたいな」
「分かった。見かけたら私も殺すよ。約束する」
「助かる。……ところで、ロギるんってなんだよ?」
その言葉に、アマナは首を傾げた。
「愛称だ。ロギルだからロギるん。可愛いだろ?」
「……そのセンスは、理解出来ん」
「え~~、良いじゃん。私とロギル先生の仲じゃん。二人っきりの時は、そう呼ばせてくれよ。おっと、二人っきりでもないか。ロギル先生のお仲間は、言葉を理解する魔獣が多いからな」
「まぁ、そうだな。ところで、どうやって人の思考を読んでるんだ?人に可能なのか?」
「普通は無理だ。お互いに特殊な魔道を習った。そのせいだと言っておくよ。私の目には見える。それだけさ」
「そんな魔道もあるのか」
「全ての動きが読め、確実に全てを撃ち抜く。外すことなどめったに無い。故に私達は、アーチャーと言われている」
「外す場合もあるのか?」
「矢より速い相手だと見て回避される場合がある。それ以外は、無い」
「なるほどな」
アマナは、ゆっくり食べていたクッキーを食べ終えた。すると自身の隣を叩いてロギルを手招きする。ロギルは、その行動を見て再度ベッドに腰掛けた。
「……心が読めるなら犯人を見つけられたんじゃないか?」
「それがいないんだよね。本気出せば奥底まで見えるけどそれやると流石に普通じゃないのがバレちゃうよ。キャスターには、私の力のこと言ってないけど探さなかったわけじゃない。全員見て、それでも分からなかったんだ。もしかすると内部に居ないかもしれないと思ったけど、それでも一人誘拐されてしまった」
「心が読めても犯人が見つからないのか」
「訳が分からないよ。私、疲れちゃったな。もう成績で争うのは飽きた。どうせ私にかかれば全部灰になるのに、上っ面の争いなんて意味ないよ」
「皆、そんな力で争うのを求めてないさ」
「分かってる。でも私が誇れるものだもん。ロギるんの前でくらい誇っていいでしょ?」
「……ああ、お前は凄いよ」
「ふふっ、ロギるんは優しいな」
そう言うとアマナは、その場で立ち上がった。
「で、私は何をすればいい、サモナー?」
「心を見ても犯人が分からないんじゃ次の犠牲者を探すしか無い。隠し部屋の探索もするが、まずは欲深く誘拐犯の誘いに乗りそうな人物を探す。それが意外と犯人に早く辿り着ける近道かもしれない」
「分かった。当たりをつけたら知らせるよ」
「……根気がいる作業だ。もう少し我慢してくれ」
「ロギるんがいる間なら耐えられそうだけど、それ以上は厳しいから早くしてね」
「ああ」
アマナは、部屋のドアに手をかけて開く。
「おやすみ、ロギるん」
「ああ、おやすみ。お前、だぞとか語尾につけてたの、キャラ作ってたんだな」
「ふふっ、内緒だよ」
微笑むとアマナは、ドアを締めて部屋へと戻っていった。
「……ダンタリオン先生が居れば早く終わると思ったんだがな」
「時間かかりそうだね」
「……寝直すか」
「うん」
出てきたソフィーと共にベッドに寝そべるとロギルは、夢の中に落ちていった。いつもの悪夢から目を覚ますと、薄っすらと外が明るくなっている。ロギルは、軽く準備運動をするとソフィーの出したお湯で濡れタオルを作って体を拭いた。そしてスーツに着替えて相談室へと移動する。
(人来るかな?)
「どうかな?初日だし怪しいな」
早めに相談室について掃除をしていると、一人の年を取った女性が相談室のドアを開いた。その女性は、ロギルの姿を見ると無言で扉を締めて部屋を出ていく。ロギルは、気にもせずに掃除を続けた。
(ここの掃除をするはずだった人じゃない?)
「だとしたら彼女には任せられないな。昨日の今日でやっと来たんだ。いい加減過ぎるにもほどがある」
(まぁ、そうだね)
軽く掃除を終えるとロギルは、服を正して椅子に腰掛けた。そして、カバンから紙の束を取り出すと日誌の作成を始める。
「取り敢えず、昨日のことから記録していくか」
ロギルは、相談室の掃除がされていなかったこと。生徒に男性恐怖症のものが居ること。そのせいで男性が校内にいることに不満を持つ生徒がいること。それら全てを漏らさず書いて今後行うべき対策と改善案を書いていく。優先順位をつけて忘れそうなところを先に掃除してもらう。一ヶ月の経過を見守り慣れさせるところから始めるなどだ。それらのアイデアを思いつく限り紙に書いて採用できそうなものを選びマリミアと一日の終りに相談する。少しでも学校の役に立つためにロギルは、知恵を絞って日誌作成に没頭した。




