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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
2章 欲望
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初日の午後

 スーツに着替えてロギルは、身だしなみを整える。襟を直し、ネクタイの位置を調整した。


「第一印象が人との対面では重要だからな」

「うん、OK。決まってるよ、ご主人様」

「ありがとう」


 ソフィーが一瞬だけ出てきてロギルの服装をチェックする。そしてすぐにロギルの内に戻っていった。


「さて、行くか」


 部屋のドアを開けてロギルは、マリミア校長と合流する。


「どなたか中にいらっしゃいましたか?」

「いえ、いませんが」

「そうですわよね。別のとこから聞こえたのかしら?」

「そうだと思います。部屋の中では、聞こえませんでしたね」


 適当にソフィーが居たことをロギルは、はぐらかすと校長と共に集会場へと移動した。集会場は、校舎から離れたところにある建物だ。その大きさは、全生徒が入っても十分なスペースが存在し、既に中には多くの女生徒が集まっている。


「わざわざ放課後に何かしら?」

「ほら、この間から他校の活動を学ぶために他校の先生の出張受け入れをされてますでしょ。またその活動ではないですか?この前もこうして放課後集められましたし」

「そうかも知れませんね」


 女生徒の話し声が聞こえる中ロギルは、マリミア校長の後に続いて集会場の壇上へと上がる。ロギルが女生徒達の前に姿を表した瞬間、生徒達のざわつきが一際大きくなった。


「男性」

「男性の方ですわ」

「有り得ない。校長は、何を考えていますの?」

「それほど清廉潔白な方なのでしょうか?」


 声を無視してロギルは、表情を正したまま校長の横で待つ。校長が壇上に備え付けられている棒状の何かに魔力を流すと、それが拡声器の役割を果たして校長の声を大きく響かせた。


「お静かに。……先日フォーザピオーゼからお招きしておりました教師、レシア先生が今日お帰りになりました。先生からは、我が校にはない発展した魔学の授業をして頂き、多くの生徒達の今後に役立つ経験が得られたと私は、レシア先生に感謝しています」


 そう言うとマリミアは、ロギルに促して生徒達の方にやや歩み寄るように合図した。ロギルは、それを見てマリミアよりも前に進み出る。


「そこで今度は、フォーザピオーゼで導入されている相談室という制度。それを我が校でも活かせないものかとフォーザピオーゼの校長先生に相談しましたところ、特別に相談室で仕事をしていらっしゃる先生をお招きしてもいいという許可を頂きました。ご紹介いたしましょう、ロギル・グレイラッド先生です。先生、自己紹介をお願いできますか?」

「はい。ロギル・グレイラッドです。フォーザピオーゼでは、相談室という所で生徒、保護者、教員。学校に携わる多くの方々の悩みを解決すべく力を尽くしています。この度は、一ヶ月という短い期間ですが皆さんのお役に少しでも立てればと思いやってきました。どんな小さな悩みでも、大きな悩みでも構いません。皆さんの為に私は、相談いただければその悩みを解決するべく力を尽くしたいと思います。気軽に相談に来て下さい。よろしくお願いします」

「ありがとうございます、ロギル先生。先生には、東棟の端にあるお部屋を相談室としてお使いいただきます。生徒の皆さん、悩みや相談で普段先生方や友人に出来ない話しや、打ち明けられない思いもあるでしょう。その悩みを、ロギル先生は受け止めてくださいます。何か悩んでいることが有りましたら、是非先生に相談してみて下さい」


 そのマリミアの言葉にまた生徒達がざわつき始めた。マリミアは、その声に片腕を静かに上げる。すると、生徒達の声がやんだ。


「何か、質問がある方はいらっしゃいますか?」

「はい。校長先生」


 一人の生徒が手を挙げる。ブロンドの長い髪をした生徒だ。その立ち姿は、堂々としていて自信に満ち溢れている。


「どうぞ、エルダさん」

「はい。ロギル先生に質問です。あなたは、私達の悩みを解決するために力を尽くす。そうおっしゃられましたね?」

「はい、そうです」

「でしたら、すぐにこの学園から立ち去って頂けませんか?男性が居るだけで授業に集中できないと言う生徒もいます。その生徒達のために今日を最後にこの学園に来ないというのは、いかがでしょうか?」


 エルダと呼ばれた生徒は、口調を強めてそう言う。その言葉を聞いてロギルは、笑みを浮かべた。


「なるほど。それは問題ですね。でしたら俺は、ここを立ち去るわけにはいきません」

「……何故ですか?」

「それは、その生徒の為を思っているからです。その生徒は、この学園に男性が居るだけで授業に集中できない。そう言っているんですね?」

「ええ、そうですね」

「はっきりと言いますが、社会に出て男性のいない職場を探すのは、とても難しいことです。このファーゼン国立女学園のように特殊な環境でなければ、そのような条件は満たせないでしょう。だと言うのにその女生徒は、男性が周りにいるだけで集中出来ないと言っている。これは、その生徒にとって大きな弱点となるでしょう」

「なっ!?」

「集中できないということは、実力を発揮できないということです。職場で、対人関係で、相手が男性だと言うだけで実力を発揮できなくなる。これは、社会という場において大きな弱点になります。もし男性に慣れずに社会に出てしまうとその生徒は、どうなると思いますか?面接官や、職場に男性が居ると言うだけで実力が発揮できず過小評価を受ける可能性があります。男性の詐欺師などに慣れがなかったばっかりに強引に迫られ貶められることもあるでしょう。大丈夫です。男性が同じ建物にいたからと言って貴方達の生活は、劇的に変わりはしません。それに私が居るのも一ヶ月という短い期間です。まずは、その短い期間で同じ建物に男性がいても気にしなくなることから克服を始めましょう。それがその生徒の為になると私は思います。ですから私は、ここを立ち去りません」

「……」

「よろしいですか?」

「……分かりましたわ」

「……他に質問のある方?」


 マリミアがそう言うが、他に手を上げる生徒は居なかった。


「では、本日は解散と致します。皆さんは、寮に戻って休まれて下さい。相談室は、明日からロギル先生に開いていただきます。先程も申しましたように、悩み相談ごとのある生徒の方は、ロギル先生を頼ってみて下さい。きっと貴方達の力になってくれるでしょう」


 そう言うとマリミアは、壇上を降りていった。それに続いてロギルも壇上を降りる。集会場で生徒がざわつく中ロギル達は、その場を後にして相談室へと移動した。


「……申し訳ございません、ロギル先生。生徒が失礼なことを」

「いえ、学園に日常的に普通の男性がいないことがああいう意識を彼女達に持たせてしまっているのかもしれませんね」

「私も職員たちからの反応を見て少なからず生徒にも苦手意識を持っている子達がいるのではないかと思っていましたが、まさかこれ程とは……」

「でもこれは、チャンスですよ校長先生。私がここにいる一ヶ月という期間が彼女達の中では、社会に出た時に自信につながるはずです。少しでも慣れていただければ、私が来たかいもあったというところでしょうかね」

「……ロギル先生。一ヶ月、よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 お互いにロギルとマリミアは、礼をしてその場で分かれた。


「さて」


 相談室に残ったロギルは、部屋の隅の何もない空間に向かって手をのばす。すると、ロギルの手が何かを掴んだ瞬間、その場にロギルのカバンが出現した。


「一度部屋に帰るか」


 カバンを持ってロギルは、自身の部屋へと移動する。すると、締めたはずのドアが開けられていた。


「……窓が開けられている。換気のためにわざわざ開けたのか?レシア先生が言ってたことは、こういうことなんだろうか?」


 ロギルは、部屋のドアノブを見る。中から鍵がかけられるようになっているがロギルは、鍵を持っていない。恐らく、誰かが寮全体の鍵を持っているのだろう。それで部屋を勝手に開けて換気、掃除をする。この学園は、そのような仕組みであるのだろうとロギルは、考えた。


「……プライバシーが無いか。たしかにこれではそうかもな」


 部屋を一度見回すとロギルは、部屋の隅にカバンを置く。


「ダンタリオン先生、よろしくお願い致します」

(分かりました)


 その声の後、部屋の隅に置いてあったカバンがその姿を透明に変えていった。


「……やっぱり先生はスゲェや」


 ロギルは、そう言うと食堂に食事に向かった。肉少なめで野菜多めのランチを頼むとロギルは、食堂の隅で静かに食事をする。食事をしているだけなのに、早めに食堂に来ていた生徒数名に存在を警戒されているかのような態度を取られた。


(もういっそ全員フェロモンで落としちゃえばいいのに)

(あからさまに不自然だろ。明日俺がいきなり生徒達に馴れ馴れしくされてたらな)

(まぁ、それもそうか)

「あっ!!居た、ロギル先生!!」

「ちょっとアマナちゃん、走っちゃだめだよ」

「小走りだ!!」


 その声にロギルが目を向けると、アマナと生徒一人がこちらに向かってきていた。


「ロギル先生、私も食べるから待っててくれ」

「あ、先生ごきげんよう。アマナちゃん、落ち着きが無いよ」

「……ごきげんよう」


 ロギルは、いきなり言われた言葉に取り敢えずオウム返し気味に返す。聞き慣れない挨拶に、内心で少しロギルは戸惑った。少しすると、アマナと女生徒が食事を持って戻ってくる。そしてロギルの向かい側に座った。


「ふぅ、ここのランチは、肉が少なくて駄目だな。フォーザピオーゼが恋しい」

「そうかな。私は、このくらいで丁度いいけど?」

「ミシェルは、少食だからだ。先生は、物足りないよな?」

「……そうだね。もう少し多いほうが先生は嬉しいかな」


 ロギルは、ランチを食べ終えてから内心で食料をカバンに詰めてきてよかったと思った。


「……ロギル先生ここでは、増量とか2品目とか、そう言う事言うと止められるからな。頭おかしいぞ」

「ああ、見たよ。食堂の入り口に貼ってあったね。過度な食事はやめましょうって」

「この量に上乗せで過度?正直訳が分からないぞ。この学校の生徒は、普段どういう生き方をしてるんだ?カロリー消費が極度に少ない生き物なのか?新人類か?」

「アマナさん、答えは見れば分かるよ。さっき皆さんの前で挨拶をした時に生徒達を見たが、ふくよかな体型の子は、一人も居なかったね」

「……やっぱり、痩せうる量なんだな」

「さぁ、どうかな。過剰ではないというのは、確かみたいだね」


 その二人のやり取りを、ミシェルと言われた女生徒は静かに見ていた。


「……おほん。ところでアマナさん、こちらのミシェルさんは、君のお友達かな?」

「おう、よく聞いてくれたロギル先生。こいつが一番この学校でマシな生徒、ミシェルだぞ」


 そう言ってアマナは、隣りにいる金髪のショートヘアーの子を紹介した。


「ミシェル・バーンズです。よろしくお願い致します、ロギル先生」

「ああ、よろしく。アマナさんと友達になってくれてありがとう。彼女元気でしょ。合わせてると疲れるかもしれないから、程々にかまってあげてね」

「ロギル先生、それはどういう意味だぞ?」

「アマナさんは、明るいって意味だよ」

「ふむ。いい意味か」

「まぁ、そうかも」

「ふふっ、お二人は、仲がよろしいんですね」


 ミシェルは、二人のやり取りを見て微笑む。


「私は、ロギル先生の相談室の常連だからな」

「アマナさんは、将来のことを考えてよく悩んでいるみたいなんだ。それでよく相談室に来てたよ」

「うむ。勉強を出来るだけ回避したいからな。相談は欠かせない」

「それって、どうにかなるのかな?」

「最低限には出来る。そうロギル先生に聞いた。必要なことだけ覚えれば変な先生じゃない限りある程度点は取れると。そのためのアドバイスを、毎日もらってたぞ」

「相談室の先生なのにまさか教科書とにらめっこする時間があるとは、俺は思わなかったよ」

「ロギル先生は、色々な科目を学習なさっておられるのですか?」

「いや、してないよ。魔学の基礎ぐらいかな」

「それでも私より勉強上手いぞ」

「アマナさんは、まず教科書を見たがらないからね。見ればすぐさ」

「……教科書の発明をした奴をしばきたい」

「アマナちゃん、口が悪いよ」


 そう言うミシェルは、アマナの発言に少し笑っていた。


「な。ミシェルは、冗談が分かるんだロギル先生。まともだろ」

「うん。でもアマナさんが若干本気っていうのが、俺には分かるよ」

「それは言わないでくれ。教科書なんてここ最近発明された物じゃないだろ。発明者も、もうこの世には居ないだろうし無理だ」

「居たらどうする?」

「……教科書で叩く」

「目には目をか」

「教科書の恨みは、教科書でだな」

「皮肉が効いてる」


 そう言ってロギルがミシェルを見ると彼女は、笑いを堪えて震えていた。


「ミシェルさんは、笑い上戸かな?」

「確かに、くだらないことでもよく笑うな。この学校では、貴重な才能だぞ。大切にして生きて欲しい」

「笑顔になる人がいると雰囲気が良くなるからね。でもここでは、あまり簡単に笑わないほうが良さそうだ」

「そうだぞ先生。周りの奴らがでかい声で笑うと嫌味たっぷりに見てくるからな。生きづらいったらありゃしない」

「マナーに厳しいってことか。厳しすぎるのも、それはそれで困るね」


 そんな会話をしている内にアマナは、ランチを食べ終えていた。ミシェルのランチは、まだ半分以上残っている。


「ミシェル。食べるのに集中していいぞ。私は、ロギル先生と適当に話しとくから」

「うん、分かったよ」

「慌てなくていいからね」


 ロギルは、ミシェルが食べ終わるまでアマナと食堂で雑談を続けた。




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