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ラグナレク・レギオンズ  作者: 北都 流
2章 欲望
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見えない部屋

「早速ですが、ロギル先生の受け入れについての話をしたいのですが」


 リオーシュは、そう言って書類を取り出す。


「期間は、一ヶ月。それでよろしいですか?」

「ええ。なんとかそれだけは、居られるように私が説得いたしました」

「説得?」


 マリミアの言葉にロギルは、違和感を覚える。


「その、気を悪くなさらないで欲しいのですが。こちらからお願いしたのにも関わらずこの学校は、男性の方が警備の外門勤務の方しか居られません。まして男性が学校内をうろつくことなど絶対になかったのです。この学校は、全寮制かつ女生徒しかいません。それに配慮して、教員も事務員も学校内で働く人員は、全て女性のみなのです」

「……はぁ」

「ですのでそんな中に男性が一人交じって仕事をする。それが危険だと思うという声もあり、いえ、多いですね。はっきり言いますと、ロギル先生がいらっしゃることに反対意見のほうが多かったのが現状です」

「皆さん、危機管理能力が高い方ばかりなんですね」

「人を信頼していないとも言えます。ですが反対意見が多い理由は、この学校の存在そのもの為でもあるということは、彼女達のためにもお伝えしておきます」

「この学校の存在?」


 ロギルは、首をかしげる。


「このファーゼン国立女学園は、貴族の方たちの娘達を教育するための学校なのです」

「政府関係者ということですね」

「そうですね。今は、王政も時代の流れとともに変革し緩やかに独断制から議会制に変わりつつ有ります。貴族の方々もそれに伴って最近では、議員という呼ばれ方をするようになってきましたが。元より貴族の娘達を教育するための場所としてここファーゼン国立女学園は、建設されました」

「つまり教育はしたいが、娘に誰かに手を出されるのは困る。そういうことですね」

「その通りです。貴族の娘とは、嫁ぐことも仕事と思われている時代が有りました。それは、議会制になった今ではだいぶ改善された考えなのですが。その考えがここでは、お預かりした大事な娘達を傷物にしては絶対にならないという考えとして生きています」

「それは、いいことなのでは?」


 そう言うロギルの言葉にマリミアは、優しく微笑む。


「そうですね。お預かりしている娘達を守る。教員としてあるべき考えだと思います。ですがここには、女性しか居ません。家に帰れば彼女達にも男性と触れ合う機会があるでしょう。しかし、それは身内の方。ここにいる間は、外部の男性と彼女達は出会いません。それが本当に教育の場として正しいのか。私は、時折りそう思うことがあります」

「なるほど。そうですね。性別が違うというだけで人間は、話しかけることを躊躇したり戸惑ってしまったりするものです。その逆もあり好奇心を持つこともありますが、それが必ずしもいい結果につながるとは考えにくい」

「そうなのです。慣れること。それが社会では、一番必要になってくる物であると私は思います。どんなに研鑽を積んだ実力があっても、とっさに実力が発揮できなければ力がないのと同じことです。それを行うのには、あらゆる状況下に慣れておく。これが必要だと思います。社会に出て男性が居ないという状況が有りえますか?私は、慣れておくべきであると思います。勿論その際には、信用に値する教師の方のもとでと思っていますが」

「理に基づいた素晴らしいお考えだと思います。しかし、この学校でそれをするには、まだ時間がかかりそうですね」

「……そうですね。ですので一ヶ月。それが彼女達からロギル先生が居てもいいと言われた最長の時間でした」

「なるほど」


 話しているロギル達の横でリオーシュは、書類に期日を書き込み判子を押す。


「正式な出張書類になります。内容をご確認いただいた上で宜しければ校長先生の判子を頂きたく」

「分かりました。……あら、一ヶ月以内に帰られることもあるとここには書かれていますが」

「ええ。我が校では、ロギル先生が勤務して2ヶ月。その僅かな期間で何人もの生徒が彼の帰りを待つように成りました。生徒達の為にも、相談室の効果を実感された際には、ロギル先生の出張を終わらせたく思います」

「それほどまでにロギル先生は、生徒達の信頼を勝ち取っているのですか」

「ええ」


 リオーシュは、笑みを浮かべて答える。


「……素晴らしい方のようですね。ロギル先生、うちの生徒達をよろしくお願いいたします」

「分かりました」

「それでロギル先生の扱いは、どうなるのでしょうか?」


 判子を押された書類を受け取りながらリオーシュは、そう言う。


「そうですね。この学校の空き教室を一ヶ月の間相談室として使うことにしています。日中は、そこでお仕事をお願い致します。食事は、この学校の学食をお使い下さい。朝は、6時から。夜は、7時までやっております」

「はい」

「お泊まり頂くところは、レシア先生が使っていた所が空きますのでそこを使っていただこうかと。もう掃除は、されていて問題なく使えるはずです」

「分かりました」

「後でご案内致します。生徒達にも今日の放課後紹介させていただこうと思うのですが、よろしいですか?」

「ええ、大丈夫です」

「では、そのようにお願い致します。ロギル先生の勤務開始のその前に引き継ぎのお話をレシア先生としたいのですが宜しいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「では、一度失礼致します」

「お話でしたらこの部屋の前の応接室をお使い下さい。今は、誰も使わないはずですから」

「分かりました、ありがとうございます。ロギル先生、行きましょう」

「失礼します」


 ロギルとリオーシュは、ゆっくりと校長室のドアを締めて出ていった。そして、待っていたレシアとアマナを連れて応接室に入っていく。そして、内側からドアに鍵をかけた。


「レシア、外には聞こえないようにして」

「お任せ下さい、リーダー」


 レシアがドアノブを触って何かを囁く。すると、部屋全体に何かが広がって外の音が聞こえなくなった。


「あ~~、お硬いのって嫌よね」


 リオーシュは、そう言ってソファーに腰を下ろす。


「聞いたぞ。一ヶ月しかロギル先生居ないって」

「そうよ。というか、うちもうちでロギル先生のような人材が必要なの。早く帰ってきて欲しい訳。一ヶ月も貸せる訳ないじゃない」

「……うちの学校って、そんなにやばかったのか?」

「うちがって訳じゃないけどね。学校ってそういうとこなのよ。多種多様な人が集まるわけだし、問題がないなんて中々難しいわよね。でもそれをロギル先生が少しでも改善してくれた。これが大きいのよ。先生方も、授業がやりやすくなって大助かりって言ってるし」

「本当それですよ。授業中に特定の生徒に向かって物を投げる生徒が居たんです。私がいくら注意してもやめなかったのに、ある日ピタリと止めて。しかもその子を気遣い始めて。それ以来、そのクラスの授業時の雰囲気が良くなりましたね」

「って訳。こんなの普通の人に出来ることじゃないでしょ。ロギル先生は、貴重な人材なのよ」

「ぐぬぬ。だが、一ヶ月しか居ないんだろ?それで解決できなかったら」

「アマナ、あなた一人残すわ」

「私がこの学校を全壊させてもいいならそれでもいいぞ」

「最悪それも有りかもね。ほら、学校一つと街一つが犠牲になるならどっち取るってことね。私は、学校を破壊する」

「よし、破壊しよう。今すぐに。今なら、レシアも喜んで手伝ってくれる気がするぞ」

「あはは。……そうじゃないと言えないのが辛いとこですね」


 レシアは、半笑いでそういう。


「さてレシア。いえ、キャスター。何が今分かってる?」

「外部からの侵入者の犯行ではありません。内部犯の可能性が極めて高いです。そして恐らく犯人は、魔術的な物を使って被害者たちを誘拐しているわけではないと思います」

「根拠は?」

「私が構内に張った結界に反応が見られなかったことですね。人の出入りから魔術の使用まで構内の出来事なら感知できます。しかし、この一ヶ月反応がありませんでした。なのに生徒が消えた」

「それって消えた生徒が外に出た反応もなかったってこと?」

「そうです。いなくなったのに外に出ていないと、私の結界は言っていました」

「とするとまだこの学校内のどこかに居ると?」

「ええ。そう思って最後の一週間アマナと虱潰しに学校内を探索したのですが」

「見つからなかった」

「はい」

「どう思う、ロギル?」

「難しいな。一応ここに来る前に被害者を調べておいたが共通点も何もない。あるのは、この学校にいるということだけだ。これ以上彼女達が拐われた理由を見つけるならここで調べるしかなさそうだが、何か手がかりはあったか?」

「共通点ですか。いえ、決定的だと思われるものはないですね。好きなものも関心があるものも被害者たちは、違ったようです。成績も不揃いですし、生まれも関係なさそうですね」

「そうか」


 そう言ってロギルは黙る。するとアマナがソファーに寝転んで天井を見上げた。


「あるだろ、共通点」

「えっ?」

「全員が消えた時の目撃情報がない。そうだろ」

「あっ、そうでしたね。でも、それが役に立ちますか?」

「いなくなった時の痕跡がないのが共通点か。なるほど、不自然かもな」

「あら、そう?」

「犯人に抵抗したなら何かしらの痕跡か、それに連なる情報を周囲に残すはずだ。それがないということは」

「抵抗できずに運ばれたでしょ」

「もしくは、自分から消えたかだな」


 そのロギルの言葉に、全員が一瞬押し黙る。


「自分から、ですか?」

「有り得る、そんなこと?」

「ここは、檻だ。もし俺がアマナに外からお菓子持ってきたから皆にバレないように深夜に俺の部屋で食おうぜって言ったら」

「めっちゃ行くぞ!!!!」

「……なるほど。十分有り得る話ですね」

「問題は、どこに誘拐された彼女達が連れて行かれたのかだな」

「やはりそこですか」

「構内を俺が探し回って見つかればいいんだが。それでもダメなら、次の犠牲者を特定しなければならないかもしれない」

「……ふむ、ロギル先生に任せて問題なさそうね」

「ですね。安心して引き継ぎをお願いできます」

「じゃあサモナー、アーチャー、後は任せるわよ」

「ああ」

「はいはい。解決したらすぐに帰らせてくれよ。それでやる気出るから」

「ふふっ、分かったわ」


 レシアが指をふると、部屋に広がっていたものが消える。そして、部屋の鍵が勝手に開いた。


「こんな細やかな事も出来るのね、レシア先生」

「ええ、リオーシュ校長。魔学の先生ですので」

「さて、それじゃあ行きましょうかロギル先生、アマナさん」

「分かったぞ校長」

「はい、校長」


 部屋を出る前にそれぞれが呼び方を変える。そしてもう一度リオーシュ、ロギル、レシアは、マリミアに挨拶をするとロギルはマリミアと、リオーシュはレシアを連れて学校に戻っていった。


「それでは、構内をご案内致しますロギル先生」

「はい。よろしくお願い致します」


 ロギルは、マリミアの案内で構内を見て回る。その中で、特に不信感を感じるような場所はなかった。


「ここがロギル先生にお使いいただく相談室のお部屋です」

「なるほど。入っても宜しいですか?」

「ええ、どうぞ」

「鍵は、開いてますね。では、失礼して」


 ロギルは、ドアノブに手をかけて扉を開けた。すると、部屋から独特の匂いが漂ってくる。


「……余程使われていない部屋のようですね。埃がすごい」

「あら、お掃除をお願いしていましたのに。す、すぐにさせますね」

「いえ、大丈夫ですよ。一日目に何をしようか悩んでいたんです。丁度いい仕事ですよ」

「そ、そうですか。……後で叱っておきますね」

「掃除道具をお借りしても?」

「ええ、こちらにございます。ついてきて下さい」

「分かりました」


 掃除道具の場所を聞き、住む場所も案内されたロギルは、部屋に荷物を置かずそれを持って相談室まで戻ると掃除道具を持ってきて掃除を始めた。


「……これは、無駄にやりがいがあるな。作業着を持ってきて正解だった」


 窓を開けて空気を入れ替えながらロギルは、掃除を進める。放課後近くまで掃除を続けると、見違えるように部屋はきれいになった。


「よし。完璧だな」


 置かれてホコリを被っていた木製の椅子も机もまるで新品のように輝いている。ロギルは、その光景に掃除をやり遂げた実感を感じていた。


「ロギル先生、そろそろ生徒達にご紹介したいと思うのですけど。あら、きれいになりましたね」

「ええ、これなら生徒達の悩みも咳き込まずに聞けそうです」

「申し訳ございません。掃除をするはずだった者は、叱っておきましたので」

「いえいえ、ちょっとお待ちいただけますか。汚れた作業着では、印象がよくありません。スーツに着替え直しますので」

「ええ、分かりました」


 そう言ってマリミアは、ロギルを見て佇んでいる。


「あの校長先生」

「はい」

「ここで着替えたいと思うのですが」

「……あっ、すみません。私の気が利かず」


 そう言うと顔を赤らめてマリミアは、外に出て部屋の扉を締めた。


「可愛いところもある人だな」


 ロギルは、そう言うと着替え始めた。



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