第3話
そうしている内に、国王陛下が崩御され、人魚姫の初恋の人である王太子殿下が即位されました。
新国王陛下は、宰相が若い妻を娶り、仲睦まじいことを聞いて、どんな女性なのか気になりました。
新国王陛下は、隣国の王女を娶っており、結婚当初は行き違いもありましたが、歳月が経つ内に王女と仲良くなり、きちんと王女を王妃にしたのですが。
どうにも初めて恋をした人魚姫のことを、新国王は完全には忘れかねており、宰相の結婚した若い女性が、ひょっとしてその女性なのではないかという疑惑を持ったのです。
「宰相の妻と会ってみたいのだが」
「妻は言葉が話せませんし、私の妻とは言え、貴族ではありません。王宮に赴く訳には行きますまい」
国王の言葉に、宰相は表面上は建前論を唱えましたが、本音は別でした。
宰相は国王が自分の妻に手を出すのでは、と不安を覚えたのです。
「それなら心配はない」
国王は、人魚姫を女公爵に叙爵しました。
こうなっては、授爵式の為にも人魚姫は王宮に赴かない訳には行きません。
授爵式に出席した人魚姫の姿に、国王は驚きました。
どう見ても初恋の人魚が人間の姿を取ったようです。
(実際にそうだったのですが。)
国王は、既に自分が結婚した身であることを嘆くばかりでした。
更に数年が経ち、宰相が病死しました。
口さがない貴族は、宰相が人魚姫に惚れ込む余りにやつれて死んだ、と噂しました。
人魚姫は夫の喪に服しました。
そして、王妃も病死しました。
国王は愛妻の死を嘆き、喪に服しましたが、その一方で、自分も人魚姫も今や独身の身であることに想いを馳せました。
王妃の喪が明け次第、国王は人魚姫に求婚しました。
しかし、今となっては、人魚姫も人間世界の慣習等が分かるようになっており、幾ら初恋の人とは言え、国王からの求婚をすぐに受け入れる訳には行きませんでした。
「私には、今や義理とはいえど子や孫のいる身です。このような身で王妃など」
人魚姫は、断りの手紙を送りました。
ですが、断られるほど、恋心が募るというのも現実です。
それならば、と国王は考えを巡らせました。
自分の息子、新王太子と宰相の孫娘(人魚姫の義理の孫娘でもあります)の婚約を、国王は周囲に提案しました。
二人共が10歳になるかならないか、という本当に子どもじみて本人の意思を無視した婚約ですが、王太子なら早く身を固めるべき、という国王の言葉には誰も逆らえません。
宰相の孫娘は、将来の王太子妃として王宮に住むことになりました。
人魚姫は可愛がっていた義理の孫娘が心配で、王宮を訪ねるようになりました。
今や人魚姫は亡くなった宰相の未亡人であり、女公爵であり、事実上の王太子妃の義祖母です。
人魚姫が王宮を訪れるのを誰も咎める訳が無く、むしろ当然と思う人が多くなりました。
人魚姫が王宮を訪れる度に、国王は人魚姫に求婚しました。
更に周囲に噂を流し、自分と人魚姫が相思相愛であると思わせました。
人魚姫が気が付いた時には、完全に外堀は埋められていました。
「若お祖母ちゃん、私のお母さんになりたくないの」
義理の孫娘までが、人魚姫にそういうようになりました。
こうなっては、人魚姫が国王からの求婚を断れるわけがありません。
人魚姫は、国王の求婚を受け入れ、王妃になりました。
王妃となった人魚姫は、国王とも琴瑟相和す夫婦になりました。
国王は人魚姫との間に子どもができないことを嘆きましたが、人魚姫自身は自分の体では子どもが産めないことを知っていたので、嘆くことはなく、むしろ国王との義理の子と仲睦まじくなろうと努力し、その努力は報われました。
義理の子や孫全員に慕われ、人魚姫は長寿を保ち、国王と幸せに暮らせたのです。
これで完結させます。
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