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第2話

 宰相は50歳近い男性で、孫が何人か生まれた身でした。

 言葉が話せない人魚姫は、宰相に身振り手振りで意思を伝えようとしましたが、やはり誤解が生じました。


「なるほど。気の毒に君は話せないのか。更に海の向こうからこの国に偶々来たが、身寄りがこの国にいないので、王宮に援けを求めたと」

 宰相は一人合点をしてしまいました。

「だが、王宮はそれどころではない。何しろ、先日、王太子と隣国の王女の結婚が決まってね。王太子が出迎えも兼ねて結婚式を挙げに行っていたのだが、海で難破してしまった。何とか助かったが、その際に人魚に助けられた、と言って、その人魚と結婚したい、と夢を王太子は見てしまった。国王や王妃以下、周囲皆で説得した結果、王太子はあらためて王女と結婚したのだが、その夢のせいで、王太子の新婚生活は上手く行っていないらしい。本当に困ったものだ」

 宰相自身は悪気は全くなく、事実を話したつもりだったのですが、人魚姫は絶望的な想いがしました。

 

「あの人は別の女性と結婚してしまった」

 人魚姫は落ち込んでしまいました。

 宰相は、人魚姫の様子を見て、更に人魚姫に同情してしまいました。

「君さえ良ければ、私の屋敷で住み込みで働いてくれないか。勿論、相応のことはする」

 そう宰相から提案された人魚姫は、宰相の屋敷で住み込みで働くことにしました。


 宰相は優しい人で、その妻子や孫も優しい人ばかりでした。

 言葉が話せない代わりにということで、宰相やその家族は、文字、筆談の方法を人魚姫に親切にも教えてくれました。

 聡明な人魚姫は、文字、筆談の方法を覚え、宰相やその家族とやり取りができるようになり、宰相やその家族に更に気に入られました。


 そうして3年近くが経ち、宰相の妻が流行り病で亡くなりました。

 宰相は独身生活を送るつもりでしたが、何しろ宰相です。

 周囲の多くが是非とも、我が家の娘、姉妹を後妻にと勧めました。

 宰相は煩わしくて、子や孫にどうしようか、と相談しました。


 宰相の跡取り息子が言いました。

「人魚姫を後妻に迎えて下さい。それが一番、我が家にとって無難です」

 宰相の娘たちも言いました。

「人魚姫なら、お母さんと呼んでも構いません」

 孫たちも口々に言いました。

「人魚姫を家族にしましょう」


 宰相自身も、人魚姫を女性として気に入っていたこともあり、家族の後押しもあることから、人魚姫に求婚しました。

 人魚姫は悩みましたが、初恋の王太子は既に既婚者です。

 そして、宰相とその家族は、自分との結婚を喜んでくれますし、何と言っても宰相は自分の恩人です。

 人魚姫は、宰相の後妻になることを受け入れました。


 人魚姫は、元々、人間の世界に身寄りがいません。

 そう言ったことから、宰相が人魚姫と結婚したことを、若い女性の色香に宰相が迷い、身分違いの結婚をした、と周囲の人の多くが、宰相と人魚姫の結婚当初は非難しました。

 何しろ人魚姫は、外見上はまだ20歳に満たない若さを誇る美女なのです。


 ですが、その一方で、結婚後は宰相と人魚姫は琴瑟相和す仲の良い夫婦になりました。

 宰相の連れ子の息子や娘たちは人魚姫を母と呼びました。

 また、宰相の孫たちも人魚姫を若お祖母ちゃんと呼んで懐く有様でした。

 そうなると周囲の反応も徐々に変わっていきます。

 数年が経つ内に周囲の人々からも、人魚姫は宰相夫人として重んじられるようになりました。


 しかし、その一方で、宰相と人魚姫の間には子どもができませんでした。

 人魚姫は内心で思いました。

 私が人魚だから子どもに恵まれないのだろう。

 人魚と人間は結ばれない、とはこういう意味があるのだと。

 人魚姫は子どもを諦め、ますます宰相の子と孫を可愛がるようになりました。

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