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虚ろな願い

ちょっと今週も更新してみました…。

 私は軽く唇を噛んでいた。


 それまでは『何があっても』死にはしない。――絶対に。反対に言えば絶対に魔王の死と共にその命は終わると言う事だ。


 この戦いは自分を殺しに行く――そんな気分だったのかもしれない。皆で魔王を倒した後の世界を夢みて語り合った日、アリアナ様はどういう気分だったのだろうか。明日が『あるかもしれない』人々の中で『未来がない自身』。それでも笑っていた。


 将来は食料に悩む皆の為に小麦を育てたいと嬉しそうに言っていたように思う。


 その願いは叶わないのを知っていて――。


 私の所為だ。私は王族の出。浄化の力も相まって、人々を助けるために、導くためにそう育てられ、自身もそう願って生きたけれど。アリアナ様は違う。


 私の所為だ。


 そう考えるとぐっと込み上げてくるものがあった。


「……あの」


 いつの間に視線を落していたのだろうか。


 ふと気づけば軽い音を立てて頭に何かが乗った。温かくて大きい。視線を上げると困ったように笑って私の頭をぐりぐりと撫でているアリアナ様がいた。


 何故か子供扱いに私は眉を潜めていた。恐らくアーゼルはいい年だというのに。その容姿を外から見たことがすらりとした足と豊満な胸。下肢は女性らしい曲線を描いている。ただそれを覆い隠すようにして緩めに服は着こみ、胸には晒しを付けている。恐らくバニアと一緒で一見すれば男性の様にも見えるだろうか。


 それは自衛でもあるのだろう。


「そんな可哀想がらなくてもいいだろうよ? 全て俺が選んだんだからそれはいい。奴を倒せる『力』もありがたいと思ってる――人はいつか死ぬものだしさ」 


アリアナ様は息を付いてから手を放すと空を仰いだ。


「何故?」


 選んだのだろう。『(オルガ)』は自身を選べと言ったはずだ。いや――言ったし決まっていた。であるのに一歩進み出たのは何故だろうか。『辛い』とも『人でなくなる』とも言われていたのにそれを笑って受け取ったのは――否。


 無理にでも奪い取ったのは。


 ただ、その先を言葉に乗せることは無い。小さく呟いた声は誰にも届かずに掻き消えていくようにも思えた。


「国が滅んだとき、俺も死ぬんだと思ってたんだよな。浸食されていく世界の中で。でもさ、姫様が来てくれて、手を差し伸べてくれて。その手が温かくてさ――俺はこの人の為に生きようって思えたんだんだわ」


 質問が届いたのか何なのか、ゆっくりと空を見上げたまま言葉を紡ぐ。それはまるで独り言のようでもあった。


「当然だろ? 恩返しするのは。――好きな女に負担をかけさせたくないって思うのは」


「……」


 一瞬、何を言われているのか理解できなかった。思考停止しかけた脳で先ほどの言葉を思い返せば顔が真っ赤に染まる。嬉しいのか――恥ずかしいのかよく分からない。何を考えればいいのか何を思っていいのか分からないほど混乱してしまう。


 けど、違う。と私は心の中で何度も言い聞かせた。分かっている。


 私はアーゼルであると言う事は。


 でも止めることは――私の力ではどうにもできなかった。ただ救われたのは視線が私の方に向いていないと言う事だった。


 軽く、落ち着かせるようにはあっと大きく息を付いていた。


「まったく。あの女はそうは思ってねぇのによくやるよ。諦めればいいものを婚約までしやがって馬鹿じゃねぇの?」


 声と共にむくりと起き上がったのはバニアだった。突っ伏して寝ていた為に前髪が天に向けて逆立っている。目は座ったままなのでまだ酔っているんだろうと思われたが、幾分かましなようだった。


 ともかく髪を直しながら、不服そうにバニアはアリアナ様を見る。


「まぁな。でも。すこし。少しだけ欲が出た。だけど俺はそれだけで十分だ。――そうすればあのひとの記憶に残れるしな」


 はっとバニアは鼻を鳴らして見せた。胡坐をかいて顎を付く姿はもはや中年男性の様に見える。止めた方がいいのかとも考えたがどう止めていいのか分からないので放棄した。


「バーカ。きれいごと言ってんじゃねぇよ。乙女かよ。おめーは?」


「ははっ、俺は上司だぞ。――ったく。良いからもう寝ろよ」


 アリアナ様はゆっくりと立ち上がると小さく伸びをした。『じゃあな』そう言ってくるりと踵を返す。その足元には枯れずともしなびた草木。普通の闇夜であったならば誰も気づかなかったのかもしれない。しかしながら当然のように置いてあるランタンに照らされていた。


 バニアは少し眉をひそめた後でアリアナに目を移す。その視線に気づいたのだろう。アリアナ様は無言で振り向いていた。


 言い訳をする様子もなく。


「お前――何で?」


 代わりに慌てたのは私だった。アリアナ様を孤立させるわけにはいかない。何とかごまかさないと。そう思ったのだ。


「ふ、踏んだからですよ。ほら、こうすれば――」


 私は必死に枯れかけた葉を無理やり正す。無理がある。自分でもそう思ったのだが。――どうやらそうでもないようだった。


 必死に笑顔を作って見えれば少しだけ首を傾げた後で『そっか』と呟く。うまくいったように思えたが私には驚きだった。


 酔っているおかげなのか何なのか。困惑した表情でアリアナ様を見れば彼は驚いた顔で見返していた。


 何かしたのか困惑する。


「――え?」


「……ともかく、行くから。二人とも早く寝た方がいい」


 余裕なく再び踵を返すとその場から弾けた様に立ち去るアリアナ様。それを不思議がることも無くバニアは手を上げていた。


 どうしたらいいんだろう。考えて視線を触れた草に戻せば――戻っていた。元の通りに。触れたところだけだけれど。


 思わず――息を飲んでいた。


「うそ」


 浄化の力――世界で唯一。(オルガ)しか持ちえなかった力が機能していたのだ。


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