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死の世界

バニアの一人称が『俺』になりそうで怖い・・・。脳が筋肉で出来ているタイプの人です。

灰色の世界だった。音も無い。たた足に転がる灰を踏みつける音だけが辺りに響いている。そこは死の世界だった。世界そのものが『死霊』となった姿だ。ここに生きている者は私たち以外いない。空気も土も、木々も。すべてが澱んでいる。


 それでも生きている者が存在しているのは『私』が通ったからなのだろう。私はこの時点では知らなかったのだけれど、歩くだけでも浄化してしまう特性があった。


 ついでに私と長くいればいるほど『加護』が高まるので護衛は平気なのだろうと理解する。アリアナ様はその強い加護持ちと一緒だから問題ないのかもしれない。


 心を差とてくるような冷たい空気に私はキユッと唇を噛む。


 足を進めれば動物なのか人なのか骨が散乱している。草木は枯れむき出しの地面がそこにはあった。


「気分が悪かったら言えよ? ――ったく。なんでこんなところに来たいと思ったんだよ。薄気味わりぃな? まじで」


 そんな文句を言いながらついてきたのはバニアだった。私一人行かせられない。教育係だからと自分もついていくと言い始めたのだ。


 当然のように、私の同行を渋っていたアリアナ様だが、バニアが一緒ならと許してくれた。バニアはそれを知っていて願い出たのかもしれない。


 ガサツだがとても良い人なのは確かなようだった。


「この辺か?」


 すこし開けた場所に出ると、小さな滝が流れていた。私は此処が緑いっぱいになった時を見ていないが話によるととても『かわいい』景色なのだと聞いた。


 イワンデールの滝。


 覗き込むと水は汚れ光を反射しもしない。泥が流れている。そんな感じだ。しかもどこか異臭さえ放っている。


 『今』は。


「まぁ、ほとんど危険はないと思うが――ここで待ってろ? 俺たちは姫様を探してくるから。動くなよ? 絶対だぞ?」


 下手に動くと死ぬからだろう。何度も念を押して森の中に入っていく護衛たち。仕組みを理解していないバニアは『うっせーな』と答え、私は軽く『はい』と答えていた。


 そんなつもりなど毛頭ない。


 私は、私を見つけ出さなければならない。アリアナ様よりも前に。


「で、お前は何がしたいんだ?」


 かちゃりと音がして視線を向けるとバニアは剣を取り出していた。刃こぼれが無いか確認するように眺めた後ですっと鞘に閉まっている。


 それはどことなく美しい仕草の様に思えた。


「――聖女を見つけます」


 と言うか、『私』が助けるでいいのだろう。私が私を助ける。よく分からない状況だけれど。


 ともかく、あの時。好奇心を出して――と言うより何かが呼んだような気がしてふらふらと一人で歩いたのが間違いだったのだ。


「見つけるって……お前、何とどうやって戦うつもりなんだよ? まだ剣だってまともに扱えねぇし、持ってないじゃん」


「戦う?」


 私は驚いた顔で見ると不思議そうに返された。


「――そんな顔してたぜ? 違うのか?」


 違わない。確かに私は『獲物』を持っていない。すこし集中して体内の『流れ』を気にしてみたがこの身体には『魔力』は流れていないようだ。


 腕は傷だらけで(演習でもしたのだろう)まだ細い。古い記憶に戦い方は一通りあるけれどこの身体で実際できるのか分からなかった。


 暫く考えて落ちていた枝を拾うと『枝なのかよ!』と大きな突っ込みが返って来る。いや、多分枝でも攻撃できる――と思う。


 ため息一つ。彼女は苦笑気味に言葉を紡ぐ。


「まったく。まぁ、打たれ強いことだけはあたしが補償してやるよ。戦ってやるからせいぜい壁に張り付いてな」


 元々期待していなかったが――とことんいい人だ。感動してしまいそうだ。涙腺は元々強いわけではない。涙を浮かべにじり寄っていく私にバニアは顔を引き攣らして逃げ越しになっているのが見えた。


 怖がっているらしい。どうしてだろう。


「バニアさん」


「先輩と呼べ。良いから、抱き付くなよ? いいな? アーゼル」


 アーゼルとは『私』の名前らしい。こくこくと頷くとほっと一息ついた。それがどこか寂しく覚える。抱き付くことはお礼と同義語であるんだけれどどうしてか昔から嫌がられるのは何故だろう。アリアナ様にしても――仲間にしても。


「けれど、どうして助けてくれるんですか?」


 言うとバニアはくっくっくと喉を鳴らす。楽しそうに。


「アリアナに一泡吹かせたいじゃねぇか。それに。もし、あいつらより先に見つけ出したら昇進か、金一封位はいただけるだろ? 聖女様を救ったとなればなおさらじゃん? ま、一度でいいからあいつの悔しがる顔見てみてぇんだよな」


 本当か何なのか。ずいぶんと屈折した理由になんといっていいのか分からず私は取り合えず苦笑いを浮かべておいた。


 大体上司なのだがその態度でいいのだろうか。呼び捨てだし。私の記憶の中でこの人の存在は一つも無いのだけれど仲が良かったのだろうか。


 よく考えれば私はアリアナ様の事をあまり知らないな、と思う。婚約者であるけれどお互いの事は大して話さなかったように思う。


 私たちは『皆』が望んだから婚約したようなものだったし、最後まで何も無かった。そしてそんな暇も無かったのだ。


 これで良かったのかアリアナ様に聞くことも出来なかった。


「んな事より、どこか見当はつくのか? やっぱ魔術的なものか? でもお前にはその力無かったはずだけど?」


「まぁ、そんなものです」


 そう言えばもっと突っ込まれて聞くだろうかと思ったがそうでも無いようだ。『そんなもんなのかよ』と一言。あまり深く考える人ではないらしい。それはありがたいような気がした。


「じゃ、早く見つけ出そうぜ? バカ女――いや、聖女様困ってるだろうし」


 確実に聞こえた。『馬鹿』と。言い直しても遅い。私に言っているようで言っていない悪口に半ば顔を引き攣らせていた。どう反応していいのか困る。なんだか悲しくなるので肯定もできないし、多分『(アーゼル)』は私と面識はないので否定もできない。


 こんな事なら抱き付いておけば良かった。そう考えながら私は無理やり笑顔を作る。


「そうですね」


 抑揚なく吐いたそんな言葉に『なんかこえーぞ?』と引き気味に言われたのは当たり前だった。


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