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戦場

 そんなはずはない。――大体私は『別人』のはずだ。何の魔力も通っていないただの人間だ。その筈だ。であると言うのに。何故――。考えても分からなかった。


 本来『浄化』は母から子――しかも長女――に受け継がれる。その特殊さ故、継ぐ者はこの世界に稀。今となっては(オルガ)しか存在しない筈だった。その為なのか何なのかその力は歴代最高とまで言われていた。


「おい、なにぼさっとしてやがる!!」


 叫ぶ声。私は我に返っていた。目の前に翳む剣を反射的に薙ぎ払い、人ともしたいとも言えない何かに自身が持っていた剣を突き刺す。そのまま流れるようにして、背中に迫っていた敵を薙ぎ払うと私ははあっと一度息を付いていた。


 周りを見渡せばついこないだまで笑って話していた男や女が屍となり倒れている。私は少しだけ眉を跳ね上げ、再び迫って来る敵を見据えて構え直した。


 何かを思っている場合ではない。


「集中力!」


 後方から――バニアの声。それに答えるようにして私は『はいっ』と叫んでいた。


 方々から剣のぶつかる音や悲鳴。身体が引きちぎられる音や、爆発音が聞こえてくる。臭いは醜悪で思わず逃げ出したくなるようなものだった。


 何故逃げ出さないのか。そう問われればひとえに『慣れている』からだろう。それがとても嫌だった。


 骨と肉を立つ感覚が私の腕に伝わって来る。元は人だったのか動物だったのか分からない何か。浄化するまでその『生』は終わることのないもの。浄化以外で救えるとすれば――おそらく魔王を倒すことだけだろう。おそらくは。


 私の中にある『浄化』は微量すぎて役になど立たなかった。


「しつこいっ!」


 叫んでその動きを剣で仕留める。次から次へと。一定のインターバルを経て復活するそれは確実に私達の体力を奪っていった。


 私――オルガがいないと圧倒的に不利だ。


 肩で息を吸い込みながら私は唇を噛んでいた。


「相変わらず、捨て駒に使いやがって――あの女」


 いつ隣に来たのだろう。並ぶようにバニアが剣を構えていた。機爆の短剣はすでに使ってあるようだ。少し離れた所が焦土と化している。


「……仕方ないです。あの人は一人しかいない。その上大勢は浄化できないから――」


 なので隊群の場合は別れてこまめに潰していくという戦法を取らざる得なかった。しかも敵は無尽蔵と言う人類の不利さだ。今にして思えばこれで勝てたのが不思議なくらいだ。

 棒になりかけた脚。それを無理にでも動かして剣を振るう。


「けどよ。魔術師の一人でも回してくれればもう少し違うだろう?」


「いや、そもそも三人しかいませんし……」


 そのうちの一人は回復で後ろに下がり救助に徹しているはずだ。一人はオルガの横で最大火力を振るっている。もう一人は違う部隊に居る。――そちらの方が敵の数が多く熾烈だからと言う理由だ。


 ちなみに、オルガも魔導士だが数には入らない、と思う。


 その代わりと言っては何だが、こちらには『強さ』が上位に割り振られる者で編成されていた。(アーゼル)が何故入っているのかは分からないのだけれど。


「アーゼル!」


 何かが目の前を掠めた気がした。その影を視線で追っていけば敵が倒れている。その頭には剣がざっくりと突き刺さっていた。


 正常な神経であればおそらく吐き気を催しトラウマにでもなるのかもしれない。けれどそれは私たちにとっていつものこと。周りを見回してみればそんな『物』はいくつも転がっている。臓物と血。何かの一部であったものの上に私たちは立っていた。


 おそらく――地獄だ。


「――何をしている! 死ぬぞ?」


 声の方に視線を向けてみれば、アリアナ様が立っていた。鎧もつけず軽い装備には傷一つついていない。彼は露払いの様に敵を大きな剣で薙ぎ払うと、しっかりとした足取りで近づいて来た。


 私を襲った敵。その頭に刺さった剣をぐっと抜き取る。


「アリアナ――お前が、来たと言う事は?」


 バニアは言いながらアリアナ様が来た方向に目を向けた。埃などで霞みがかった世界は視界など良くはない。よく見るために彼女は眉間に皺を寄せた。


 未だ、何の影も見えはしない。どうやらアリアナ様は先に一人で賭けてきたようだった。


「姫様も一緒だ――お前たちは下がれ。後は俺たちがする」


 大剣を構え、もう一方の剣は鞘に仕舞い込んだ。その様子を見ながら、バニアは疲れを吐き出すように息を大きく吐いて見せる。


「やっとかよ――死ぬかと……まぁいい。あたしは生き残った奴に伝えてくるから、アーゼルは下がって休め」


 了解――。


 その言葉を聞かずにバニアは駆け出していく。


「よく――生き延びたな。後は任せろ」


 ふと、私は先ほど倒された敵に目を向けた。もうここから再生は始まっているはずだ。――しかし。一向にそれは始まることはない。


 (オルガ)の力かと思ったが――これは。違う。と眉を跳ねていた。


 これは魔を倒す力だ。――アリアナ様の力。


「まぁ、役に立つよな? まぁ、それでも削ることしかできねぇけど」


 くくっと笑ってから剣を振り上げ薙ぎ払う。ただ。その目は笑っていなかった。



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