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ライトニングガン  作者: 一条イチ
第一章
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金髪のホスト

 月曜日、俺はけだるい体を押して学校に向かった。

 それにしても朝課外とかいう制度、月曜くらいやめてほしいんだが。


「纏、おはよう。なんか顔色悪いな」


 教室に入るなり桜井が近寄ってきた。


「まあちょっとな」


 昨日も一昨日もずっと組織との戦いのことを考えててよく眠れなかった。白沢のことも少し考えてたけど。


「あーわかった。前の日抜きすぎてテクノブレイク寸前だったんだな!」

「お前、俺がこの三日どんな気持ちだったと……」


 桜井をにらみ、すぐに目線を外して席についた。

 何も知らない桜井に非はない。そんなことはわかってる。だが俺の父さんは撃たれたんだぞ? それを茶化されれば腹のひとつも立って当然だろ。


「ど、どうしたんだよ?」

「優人、今日の数学の課題なんだけどさー」


 同級生がノートを持って桜井に話しかけた。


「ま、纏! ……ああ、4STEP(フォーステップ)の発展問題だっけ?」


 ふん、それでいい。当分お前とは話す気はないからな。

 ふと白沢のほうを見ると、向こうもこちらを見ていた。たぶん自意識過剰とかじゃないはずだ。まああんなことがあったんだから注目するのも不思議じゃないけどな。


「お、おはよう」

「おはよう、黒木君」


 うおお、返してくれた。ってさっきまで腹立ててたのに、俺もわかりやすいやつだな。


 机を見ると青チャートとノートが開かれていた。朝っぱらから勉強かよ。学生なんだから当たり前なのかもしれないけどさ。


 チャイムが鳴り島本さんが教室に入ってきた。


「よーしそれじゃ授業始めるぞー」


 島本さんと目が合い、俺に向かってウインクしてきた。意味がわからない。




「あっ纏先輩!」

「外村」


 昼休み、購買に行くと外村に声をかけられた。今日は桜井は一緒ではない。朝のことを気にしてるのか、話しかけてこなかった。


「纏先輩顔色悪いですよ? 夏風邪でもひいたんですか? あーでも纏先輩頭よさようだし夏風邪なんてひかないかぁ」


 いや、偏差値42だけどな。


「……昨日ちょっと頭痛くて、熱も7度5分くらいあったんだ。でも、もう大丈夫。熱も下がったし」

「そうなんですか! よかったぁ」


 寝不足の理由を説明することもできないし、適当にごまかした。しかしこの屈託のない笑顔を向けられると大抵の男は落ちるはずだ。


「ありがとう。心配してくれて」

「いやー。でも纏先輩が見た目より大丈夫そうでよかったですよーっ」


 そう言いながら外村は少しうつむいた。やや顔が赤い。お前のほうが風邪ひいてるように見えるぞ。


「あっあの、纏先輩、今日は何にするんですか?」


 外村はまたこちらに顔を向けて尋ねた。


「そうだな、今日もチョコチップかな」

「あっ、じゃあちょっとお先失礼します!」


 外村は並んでいる俺を抜かして前に出た。なんだ?


「チョコチップパン2つで」


 買ったチョコチップを外村は1つ俺に差し出してきた。


「この前分けてもらったぶんですっ」

「いや、俺があげたの半分だったけど」

「空腹時のチョコチップ半分は、普段の価値に換算するとチョコチップ1つなんですよ!」

「なんだそれ。まあ遠慮なくもらっとくよ」

「はい、ぜひぜひ」


 チョコチップを受け取って少し頭を下げた。


「っていうかお前もチョコチップでいいのか?」

「そこは纏先輩リスペクトですよ」

「なんだよそれ。ディスリスペクトよりはいいけどよ」


 それを聞いて外村はウインクした。

 以前、外村がコンバースを履くのは俺へのリスペクトだと言っていた。実際に俺も外村も中学のころからコンバースばかり履いている。

 リスペクトとはどういう意味なんだ。


「あっ、あたし昼練あるんで。それじゃまた!」


 小さく手を振ってから外村は走っていった。

 廊下走ったら危ないぞ、なんて言う前に見えなくなった。そういや中学のとき短距離の県大会で一位取ったんだっけ。なんで陸上部入らなかったんだろ。まあ桜井にとっては空手道部に入ってくれてよかったかもな。




 放課後、島本さんに呼ばれた。まさか組織の話か。


「勉強アプリ作ったんだよ。試しに使ってみてくれねえか」

「なんの話かと思ったら。肩すかしもいいとこですよ」

「まあまあそう言わずによ」

「どういう内容なんですか?」

「英語と古文の単語帳アプリだよ。桜井にも頼んだんだけど、あいつのスマホiPhone(アイフォーン)だから無理でさあ」

「わかりました」


 島本さんからURLを教えてもらいアプリをダウンロードした。島本さんなりに勉強に興味持たせようとしてくれてんだな。


「ちなみに位置ゲー要素も入ってて、外を歩くと新しい単語が手に入る」

「その要素絶対いらないでしょ」




 今日もまた来るだろうか、組織の連中は。二人も返り討ちにされたとなれば、少しは躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。というか金田もゲイボルグのデブも、犯罪のプロという割には弱かったぞ。いや、逆に俺が強いのか? 俺ってもしかして才能あるんじゃないか?


 午前0時前。ヘアピンをつけ、九六式を持って家を出た。家の周りを10分ほど歩いてみたが、それらしき人影は見えなかった。やっぱそう連日は攻めてこないか。


「纏!」


 その声に振り向くと、桜井がいた。こんな時間だってのに制服を着たままだ。


「桜井、なんでこんな時間に?」

「いや、今日のこと謝りたくてさ」

「なんのことだ」

「朝のことだよ。ライン送っても未読のままだし、直接会って謝らなくちゃって思ってさ」


 桜井がそんなに気にしてるとは思わなかった。


「纏のこと何も考えずに茶化すようなこと言って悪かったよ。ごめん」

「いや、お前が俺の事情なんて知らないのは当然だし、俺も大人げなかったよ」

「本当に悪かった! 反省してる!」


 深々と頭を下げる桜井。そこまで怒ってるわけじゃないんだが。


「もういいって。それにしてもラインの返信来なかったからってこんな時間に家に押し掛けるなんて、少しおかしいぞ」

「おかしいとはまた辛辣(しんらつ)な」

「表現が悪かった。お前ストーカーだぞ」

「もっとひどいんだけど!?」

「じゃあなんでこんな時間に来るんだよ」

「今までドトールで勉強してたんだけど、やっぱ今日のうちに謝っときたくてさ! いやさすがに外村さんにはこんなことしないよ!?」


 白沢もだが、まだ二年だってのにご苦労なことだ。俺が勉強しなさすぎなのか?


 桜井と話していると、タバコをくわえた金髪の男が見えた。身長は桜井よりもさらに高い。190cmくらいあるんじゃないか? そしてその顔立ちはまさしく眉目秀麗。


 細身の黒いスーツを身にまとい、金髪と相まってぱっと見ホストのように見える。右手には何か握られている。銀色の、ブリキのおもちゃの銃みたいな……。いや、おもちゃのはずがないが。

 その男が俺たちに近づいてくる。


「纏、あんなイケメンホストの知り合いいたのか?」


 全く危機感のない桜井。こいつを巻き込みたくはないんだが。


「お前、どっか逃げてろ」

「知り合いじゃないのか? 纏が絡まれたら俺が助けるよ!」


 この野郎。


「お前、なんて名前だ」


 金髪の男が話しかけてきた。桜井も俺の仲間と認識されてるかもしれない。もう遅いか。


「人に名前を聞く前に、まず自分の名前を名乗ったらどうですか」


 少しもの時間稼ぎだ。喋っている間にベルトの九六式に手をかけ、親指で安全装置を外した。


「ふん……俺は大和光流(やまとこうる)。これで満足か? 名前を言え」

「……黒木纏」


 どうせ嘘ついたって無駄だろう。

 こいつは今までの二人とは格が違うと直感が告げた。


 その男、大和光流がこっちに向かって走ってきた。とっさに九六式を取り出そうとしたが、遅かった。


 大和は俺の顎に右手の銃を突き付けた。


「九六式を返してもらう。さもなくば、お前を殺す」

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