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ライトニングガン  作者: 一条イチ
第一章
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真夜中のセーラー服

「……黒木君」


 俺の名前、覚えてくれてたのか。去年から同じクラスだったとはいえ今まで話したことすらなかったから、名前を呼ばれたことは素直に嬉しかった。

 俺は白沢ゆりが好きだ。一年の四月、一目惚れだった。

 艶やかな黒いロングヘアで前髪はぱっつん。肌は白く、作り物かと思うような均整のとれた顔立ち。そして豊満な胸。


 そんな女子を男が放っておくはずがない。だがそれは一年の最初のころだけで、今となっては誰も話しかけようともしない。どんな話題を振っても返ってくるのは一言二言だからだ。しかも無表情で。

 男嫌いなのかと思いきや、女子と話しているのもほとんど見たことがない。たぶん友達いないんじゃないか? いや、俺が言えた義理じゃないが。


 いやいやそうじゃなくて。

 体中から冷や汗がどっと出た。急いで白沢に駆け寄った。


「し、白沢。今の……見たか?」

「見た、というのは?」


 俺と白沢以外に誰かいないか、あたりを見回す。運よく誰もいないようだが。ひとまず九六式をベルトに挟んだ。


「と、とりあえずここから離れるぞ。話はその後だ」


 俺は白沢の手を握って走りだした。そして島本さんに銃を突き付けられたあの公園に入った。


 いやなんで手握ってんだ俺。恥ずかしくなって慌てて手を離した。


「わ、悪い。焦っててつい」

「いえ、構わないわ」


 ……俺、手汗かいてないか?


「じゃ早速本題で。……俺が何してたか、見たのか?」

「今腰に隠している銃。その銃で人を撃っていたわね」


 くそ、しっかり見られてるじゃないか。しかし、この日本じゃ普通はありえない場面を見といてなんでこんなに落ち着いてるんだ、この女は。


「それにしてもその銃。銃声なんて聞こえなかったけれど。おもちゃよね」


 そうか、こいつが本物の銃だなんて、そう思わないほうが普通か。九六式を取り出し安全装置がかかっていることを確認した。


「いやそれがさ、九六式自動拳銃っていう本物の銃なんだよ。サプレッサーっていう消音器が内蔵されててさ」

「消音器が付いていたとしても、銃声を完全に消すなんて映画の中の話だと思っていたけれど」

「それがまたこいつのすごいとこなんだよ」


 なんで俺は嬉々として九六式の説明してんだよ。白沢と話せてるからって何舞い上がって口を滑らせてんだよ。バカか俺は。


「それなら、なんであなたが本物の銃を持っているのかしら。そしてその銃で人を撃つなんて、どんな理由があるの?」


 白沢は俺の目を見据えて言った。普段の学校のときと同じように表情を変えず。


 違うのは普段前髪で隠している右目を出していること。こんな真正面から見つめあうことになるとは思わなかった。二重でややつり目がちな、まつ毛の長い目。……顔赤くなってないよな、俺。


「……俺の父さんがこの銃で撃たれた。意識不明の重体だ。この銃は犯人から奪ったんだ」

「そうだったの。ごめんなさい、ご愁傷様だなんて、あなたの気持ちを考えれば軽々しくは言えないけれど」


 意外と気遣いができるのか。もっと冷淡な人間だと思っていた。こんなこと、思いを寄せる相手に言う言葉じゃないが。


「構わないさ。俺はこの九六式で犯人を、そしてそいつが属する組織を壊滅させるために戦っている」


 一呼吸置き、視線を下に外した。いや、その巨乳に目がいってるわけじゃないぞ。

 そしてまた白沢の目を見据えて。


「だからお願いだ。今日見たこと、誰にも言わないでくれ」

「わかったわ。私とあなただけの秘密ね」


 助かった。そして、その言葉に胸が高鳴ってしまう。まあ本当は島本さんも知ってるんだけど。


「……駅まで送ろうか」

「いえ、お構いなく」

「でも、さっき俺が戦ってた男、そんなのに絡まれたりするかもしれないし」

「それじゃお願いするわ」


 俺と白沢は駅に向かって歩き始めた。


「っていうかこんな時間にこんなとこで何してたんだ?」

「予備校の帰りよ。授業が終わったあと、自習室で勉強していたの」


 この時期からそんなに勉強してんのか。俺とは大違いだ。


「そういや白沢ってどこの大学受けるんだ?」

「東大の理科三類よ」


 マジかよ。東大は入学時は全員が教養学部に入るが、文科と理科のそれぞれ一~三類に分かれている。理科三類といったら三年生から医学部へ進む切符を与えられる科類だ。東大の中でも段違いの難易度の、間違いなく日本の最難関だぞ。


「このあいだの模試はどうだった?」

「一応A判定だったけれど」

「めちゃくちゃすごいな。理三受かるじゃん」

「高二の模試だからあてになるものじゃないわ。でもありがとう」


 この美貌で勉強までトップクラスなんて、どこまで完璧なんだよ。社交性以外は。だがそこにシンパシーを感じられるのだが。


「……でも、東京行くのか」

「ええ。わざわざ一生ここに留まる理由もないでしょう」


 地元を出るなんて今までその発想がなかった。福岡にいれば大抵なんでも揃うし、大都会への憧れなんて持ち合わせたことはない。

 福岡から東京なんてとてつもなく遠い。新幹線で5時間、飛行機なら2時間だが旅費を考えるとそう簡単に行ったり来たりはできない。

 白沢と一緒にいられるのはもう二年もない。


「黒木君の志望校は九大?」

「一応な。E判定だけど」

「そう」


 夢みたいなシチュエーションだってのに、進路の話が終わったら何も話すことが浮かばない。ちらと白沢のほうを見ると、まったく気にしてなさそうだった。……そうだな、白沢が楽しく雑談してるとこなんて想像がつかない。高校に入ってからずっと白沢のことを見てきた俺には。


 そのまま口を開くことなく駅に着いた。駅に着いてしまうのが少し口惜しく感じた。


「ここまで送ってくれてありがとう」

「いやまあ俺の家ここから近いし」

「それじゃ」

「ああ、また月曜日学校で」


 白沢は少し頭を下げ駅に入っていった。

 もっと話せばよかったな。でも今まで話したことすらなかったんだから大きな進歩だ。また月曜日って言ったからには、ちゃんと学校行かないとな。


 今気付いた。白沢と一緒に歩いてるとき、あの男を撃ったことが頭から完全に抜けてたことに。

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