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ライトニングガン  作者: 一条イチ
第一章
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警察の松田さん

 島本さんにマンションまで送ってもらうと、その前にはパトカーが停まっていた。そして入口には立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。それらは今日の事件を否応なく思い出させた。


「やばい、警察ですよ。俺の九六式自動拳銃、しっかり隠しといてくださいよ」

「任せときな!」


 返してもらった九六式をまた島本さんに渡すことになるとは。

 島本さんの車を降りると、パトカーから降りた、眼鏡をかけた若い女性警官が俺の方へ歩いてきた。


「もしかして黒木さんの息子さんですか?」

「はい、そうです」


 俺が答えると、警官はやや神妙な面持ちでこちらを見た。


「今日は大変なことがあって……心中察するわ。申し訳ないけど、君が居ない間に部屋の中をちょっと調べさせてもらいました」

「そうですか」


 力なく答えたが、そのあとで気が付いた。俺がやつを撃ったって証拠が残っていたら。そう考えると一気に不安が押し寄せてきた。


 リモコン、指紋……。いや、リモコンなんて普段使うものだ、指紋なんて付いてて当たり前だろ。それは問題ないとして。

 薬莢(やっきょう)、男の血痕が残っていたら。そんなものが見つかったら疑われるのは俺なんじゃないか?


 警察に捕まっても構わない。マンションから飛び出した直後はそう思っていたが、今は違う。組織と戦うために捕まるわけにはいかない。


「まだもう少し取り調べがあるの。ごめんなさい、今日はこちらで用意したビジネスホテルに泊まってもらいたいんだけど、大丈夫かしら?」

「はい、わかりました。それに僕、あの部屋に戻るのは嫌です。……怖くて」


 それは正直な気持ちだった。部屋に戻れば思い出してしまう。狂った高笑いを見せる男、放たれた銃弾、倒れた父さんの姿を。


「それじゃ、ホテルまで案内するわ」


 車の中の島本さんに軽く頭を下げた後、その警官の後をついていった。


「あのランエボの方はどちら様?」

「僕の高校の担任、島本先生です。気が動転して家を飛び出したあと、電話で経緯を話して来てもらったんです」

「そうなんだ。好きなんだね、その先生のこと」

「いやあ、好きっていうか……」


 俺は少し首をかしげ苦笑いをした。しかしランエボがわかるなんて若い女性にしては意外だな。


「あっ、自己紹介がまだだったね。私は松田春香(はるか)。去年から警察に入った新米ですけど、よろしくお願いします」


 目の前の女性警官、松田さんは新米だと謙遜はしたが、すでにしっかりした印象だった。黒髪のショートカットで眼鏡をかけた美人。顔はまだ大学生、いや高校生と言っても通じるくらいだったが。


「僕は黒木纏といいます。よろしくお願いします」


 ホテルの中に入り松田さんは受付を済ませた。どうやら事前に警察からホテルへ話は通してあるようだった。


「はい、部屋の鍵」


 松田さんから差し出された右手から鍵を受け取った。


「あの、制服とか鞄とかどうすれば。まだ部屋には入っちゃいけないんでしょう」

「えっ明日は土曜日だよ?」


 そう言って松田さんは微笑んだ。

 ああ、明日は休みだったんだ。まあ休みじゃなかったとしても、あんなことがあってすぐ次の日普通の顔して学校に行くなんてできやしないけどな。


「それに、ちょっと話を聞かせてもらわなきゃならないから」


 その言葉に冷や汗が流れるのを感じた。やはり俺は犯人として疑われているのか? 他意はないのかもしれないが。


「それじゃ、今日はゆっくり休んでね。お疲れ様」

「お疲れ様です」


 小さく笑みを浮かべ松田さんはホテルを出た。


 松田さん、悪い人じゃなさそうだ。……美人だし。


 エレベーターで階を上がり、鍵に書かれた番号の部屋に入った。そういやホテルに一人で泊まるなんて初めてだな。今までならワクワクしてアダルトチャンネルでも観てたところだろうが、今はそんな気分になれるはずもない。

 携帯をいじる気にもテレビを観る気にもなれず、俺はただ椅子に座った。


 大浴場に行く気にもなれず、俺は部屋のユニットバスに入った。いつも以上に念入りに体を洗った。返り血なんて浴びてないのに。


 風呂から上がりベッドに入っても一向に眠れそうになかった。時計を見ると4時31分だった。今日はもう寝れないな。




 不意にドアをノックする音が聞こえた。


「警察の松田です。開けてもらえるかな」


 時計を見ると9時すぎだった。もうこんな時間になってたのか。俺はけだるい体を起こして部屋のドアを開けた。


「おはようございます」

「おはよう、黒木君。昨日言ってたとおり、少しお話しましょう」

「えーと、これから警察署に?」

「いえ、ここで大丈夫よ。ちょっと失礼させてもらうわね」

「はい、どうぞ」


 容疑者なら取り調べは警察に出頭しなければならないはずだ。推測でしかないが、俺は少し胸をなでおろした。


「ああ、そちらの椅子にかけてください」

「失礼します」


 俺は部屋に備え付けられたポットでインスタントコーヒーを淹れた。


「どうぞ」


 椅子に座る松田さんにコーヒーを差し出した。


「ありがとう。さすがね」

「いえ、そんなこと。普通です」

「高校生くらいでこういうこと自然にできる子、あまりいないわ」


 そう言われると少し嬉しかった。


「それじゃ早速、昨日のことを聞かせてもらうわね」

「はい」


 俺の目を見て、松田さんは少し固い表情になった。


「お父さんが倒れているのを見つけたときのこと、話してもらえる?」

「夕食を食べたあと僕は自分の部屋でゲームをしてたんです。しばらくしてリビングに戻ってみたら、父が血を流して倒れていたんです。僕は怖くなってマンションを飛び出したんです」


 よくもまあ、いけしゃあしゃあと嘘がつけるものだと自分ながらに思う。


「そのとき不審な男とか見なかった?」

「いえ、特には見ませんでした」

「そう。それから?」


 松田さんは砂糖とミルクを入れたティーカップに口をつける。


「しばらくして我に返って、救急車を呼んだんです。それから一人でいるのが怖くて、島本先生、あのランエボの先生に電話して来てもらったんです」

「ありがとう。すまないわね、辛いこと思い出させて」

「いえ……大丈夫です」


 辛いのは本当だ。それまで話したことがすべて嘘だとしても。


「あの、ひとつ聞きたいことが」

「どうぞ」

「犯人は捕まったんですか?」

「いえ、まだ捕まっていないわ」


 それは、僕が撃ったからその傷を治すためどこかに身を隠しているんでしょうね。


「本当は非公開の情報なんだけど、黒木君には伝えておくわね」

「非公開?」

「……この事件、報道はされていないけど、警察関係者が襲撃されている一連の事件。それらと関連があると推測されているの。今回の犯人もそれらの事件を起こしている犯罪組織、名前もわかっていないけど、その組織の人間じゃないかって」


 組織、島本さんが言ってたのと同じ。疑ってたわけじゃないが、警察から話を聞かされると本当なんだと実感させられた。


「私たちも全力で犯人を探し出して捕まえるわ。申し訳ないけど我慢していてほしいの」

「いえ、よろしくお願いします」

「あ、携帯番号とライン交換しようか。不安なとき、力になれるかもしれないわ」

「はい。ぜひお願いします」


 松田さん、本当にいい人だな。

 松田さんは携帯を取り出したが、少し顔をしかめた。


「あの……」

「どうしました?」

「自分の電話番号ってどうやって見るんだっけ?」

「そのスマホAndroid(アンドロイド)ですよね? ちょっと貸してもらえますか」


 携帯の画面を見て松田さんの電話番号を登録した。


「僕の電話番号はこれです」


 俺の携帯を見て松田さんは電話番号を入力するが、なんだかたどたどしい。


「……ラインはどうすればいいのかな?」

「どうすればと言いますと」

「あーあの! 今まで私ずっとライン交換するとき友達にやってもらってて、ふるふる? とかよくわからなくて!」


 松田さんは恥ずかしそうに少し顔を赤くしながら言った。かわいい。


「ちょっと貸してもらってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」


 松田さんの携帯を借りて、ラインを開き友だち登録をした。


「これで登録できました」

「すごい、ありがとう!」


 俺の『友だち』についに女性が。あ、そういえば外村がいたんだった。


「そうそう、もう部屋の取り調べ終わったから適当にチェックアウトして帰っていいよ。それじゃ失礼します」

「お疲れ様です」


 会釈をして松田さんは帰っていった。

 松田さん、大学を卒業して2年目と考えれば23歳か24歳。俺は17歳だから7つ差か。松田さんから見ればガキなんだろうな。

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