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ライトニングガン  作者: 一条イチ
第一章
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最悪の夜

 父さんが死ぬ? その銃で撃つとでも言うのか。


「と、父さん……」

「纏……警察に電話を」

「オイオイオイオイ警察に電話ァ? てめーも警察だろうがァ。つーかそんなヤボなことしたら撃っちまうぞ!!」


 そう、俺の父さんは警察官だ。だがなぜこいつはそれを知っている。


「撃ったら銃声で結局警察は来る。お前に逃げ場などない」

「ククク……ハハハ……ヒャーッヒャッヒャ!!」


 バカみたいな笑い方して、何がそんなにおかしいんだよ。おかしいのはお前の頭だろうが。

 父さんの言うとおり、銃声が響けば警察が来る。おいそれと撃つことはできないはずだ。


「この九六式(きゅうろくしき)なら完全犯罪なんて余裕のよっちゃんなんだよォ!!」


 笑いながら男は父さんに銃口を向けた。

 『九六式』はその銃の名前だろう。完全犯罪なんて余裕って、どういう意味だ。

 ……まさか。


「おー坊ちゃん気が付いたかァ? この九六式自動拳銃の秘密に」

「纏! 早く電話だ!!」


 父さんの声に押されて俺はポケットから携帯を取り出した。

 そのとき。プシュン、という小さな音がした瞬間、父さんの胸から血が噴き出した。そのまま父さんはその場に崩れ落ちる。


 やはりあの銃には消音器、サプレッサーが内蔵されている。しかも超高性能の。普通のサプレッサーじゃここまで銃声を小さくすることはできない。

 いや、そんなことより。


「父さん……!」

「あーあーちゃんと俺の言うこと聞かないからこうなっちゃうんだよォ。お前のせいだよォ!!」


 お前だろうが父さんを撃ったのは。でも、俺が携帯を出してなかったら。よく考えてれば……。


「腹立つ目つきしてんなクソガキィ。てめーもついでに死んどけ」


 男は冷酷な目つきで俺に銃口を向けた。

 こいつは異常だ。躊躇なく父さんを撃ったんだ、俺のこともなんの感慨もなく撃つはずだ。


 死ぬのか、俺は?


 いや……こんなところで死んでたまるかよ。


「がっ!?」


 とっさに手元にあったテレビのリモコンを男の顔に投げつけた。ちょうど目に当たり、男は自らの顔を押さえた。


 この状況を打破するにはあの銃を奪うしかない。


 男が体勢を整える前に俺は思いっきりタックルした。男は後ろにバランスを崩し、右手から拳銃がこぼれ落ちる。

 俺はそれをすかさずキャッチし、後ずさりした。


「よし……!」


 これで形勢逆転だ。


 男が九六式自動拳銃と呼んだこの銃。古めかしい外見で、サプレッサーが内蔵されているからか、銃身が長い。グリップは手にぴたりと収まるサイズ。

 当たり前だが本物の銃なんて撃ったことはない。だが安全装置は解除されているはず、引き金を引けばいいだけだ。

 そう考えを巡らせていると、男は俺に向かってきた。


「この野郎!!」


 必死の形相でこちらに向かって手を伸ばす男。

 俺は引き金を引いていた。銃弾は男の右肩に当たり、その体は後ろにバランスを崩す。

 撃てた。当たった。拍子抜けするくらいに簡単に。

 エアガンならば撃ったことはある。引き金はそれよりも重かったが、両手で構えたからか反動はさほどでもない。


「ぐ……クッソォ!!」


 男はふらつきながら玄関へ走りだした。

 逃がすかよ。お前は父さんを撃ったんだ。その罪の代償はきっちり払ってもらわないといけない。

 玄関を出た男を追って、俺も走って玄関を飛び出した。


 玄関から出てあたりを見回すと、非常階段を駆け降りる男の姿が見えた。マンションの外に出られるとまずい。エレベーターは使えない、待ってるうちに逃げられるかもしれない。


 階段を降りていく男を追って俺も降りていく。だがマンションのエントランスを抜けると、男の姿はもう見えなかった。


 くそ、逃げられた。

 いや、今気にすべきは父さんの安否だ。


 俺は家に戻れなかった。本当は今すぐにでも父さんが大丈夫かどうか確認しなきゃならない。でも、もし父さんがもう息絶えていたとしたら。その現実に直面するのが怖くて足を踏み出せなかった。

 携帯で救急車を呼んだ。もうあとのことは救急隊員と医者に任せる。病院まで付き添うべきだってのはわかってる。でも血を流して横たわってる父さんを見て正気でいられる自信がないんだ。


 その場に立っていられず、俺は走り出していた。


 目の前に公園が見えた。息を切らした俺はそこに入り足を止めた。前ここのベンチに座って桜井とモンハンやったっけな。いや今そんなことはどうでもいい。

 なんで俺の父さんが狙われたんだよ。銃で撃たれるなんて、そんな理由あるわけないだろ。

 許せない。あの野郎。




 ぽつぽつと雨が降りはじめた。最初は小さかった雨粒は徐々に大きくなった。そういえば今は梅雨だったんだ。

 雨に打たれても、俺は誰もいない公園でただ立ち尽くしていた。


「動くな」


 いきなり背後から声がした。少しびくっとしたが、もともと動いてもいないっての。俺は右手に握られたままの銃に今ようやく気が付いた。ずっと持ったまま走ってたのか。まあこれを見ても誰も本物の銃だなんて思わないだろうけど。

 もしかして警察? 俺、捕まっちゃうのか? 銃刀法違反、傷害、殺人未遂?


「銃を地面に置いて両手を上げろ」


 言われたとおり、俺は銃を地面に置き両手を上げた。

 逮捕されてもいいのかもしれない。あの男を逃がしたままなのは嫌だ。でもこの日本で私刑なんて許されていない。このままやつを見過ごして生きていくのは耐えられない。


 だが俺はこの声が知っている声だということに気付いた。


「……島本さん」

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