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向日葵の勇気

作者: Riago

初めて書いたのでグダグダで、矛盾してる所はあるはず。たぶん。

「田中さん、これでいいですか?」


「ああ、ありがとう孝司くん、助かったよ」


休憩しようかと言って、田中さんは古びた民家の奥に姿を消した。


8月の真っ只中。連日の暑さに吐きそうになるが、それが出来ないのが社会人だ。

明日には台風上陸とニュースで言っていたが、このカンカン照りの一面青空が広がる中で、雨が降るなんて想像する事すら難しいだろう。

それでもお天道様は気まぐれで、すぐ青空は灰色の雲に覆われて滝のごとく雨を降らす。

その恐ろしさを知っているから、今日は地元で昔からお世話になった田中おじさんの家を台風に備えて強化していた。


「孝司くーん、入っておいで、休憩にしよう」


民家の中から田中さんが声を掛けてきた。


「あ、すみません、今行きます」


縁側に腰を下ろして靴を脱ごうとしたら庭に咲く向日葵が視界に入った。

天まで伸び伸びと咲く向日葵が好きだと、勇気をくれるんだと、あいつは言っていたな。


ふと、記憶の中であいつが笑った。


『孝司くん!あのね、家の裏山で子猫を見つけたの、それが可愛くて可愛くて』


そう言って嬉しそうに白い子猫を抱いて笑う。


『名前はね孝司くんと私の名前を取ってシエって言うの』


『最後の文字から一文字取っただけじゃねーかよ』


『だって思い付かなかったんだもん!だけど良い名前でしょ、シエ』


そう言ってまた笑う。嬉しそうに、本当に嬉しそうに、笑う。


「早苗」


その呼び掛けに答えるあいつはもういなくて。


気を紛らわしたくて俺は急いで田中さんの所へ向かった。



――――――


「もう随分経つねぇ……早苗ちゃんはどんな大人になっていたかねぇ」


麦茶を飲みながら、田中さんは独り言のように話す。


早苗は高校3年の夏。滝のようなどしゃ降りの雨の日に、いなくなった子猫のシエを探して森に行ったきり帰ってこなかった。

捜索しても早苗もシエも見つからなかった。

川に流されたとか崖に落ちたとか神隠しだとか、色々と噂されたけど、早苗はもういない。


「さぁ、あいつの事ですから俺にも分からないですけど、色々な事をやって最終的には昔からの夢を叶えてそうですね」


「ははは、教師だったかな、早苗ちゃんの夢は」


「なんでも小学校の先生になりたかったそうですよ」


その夢を聞いたのは早苗が近所の子供と遊んだ帰り道だった。もう夕方だぞと、迎いに来た俺にあいつは語った。


『子供たちのね笑顔を見てると元気になれるの、でも幼すぎると壊れるんじゃないかと怖くて、逆に中学生くらいだと反抗期とかで怖いでしょ?だから小学生なの』


『あのなぁ、今時の小学生も怖いぞ、無理だろ、早苗メンタル弱いじゃん』


『あー!、またそんなこと言う、そんな孝司くんの将来の夢はなんですかー?』


『サラリーマン』


『わー、夢がない!夢がないぞ孝司くん!』


そう言い笑うあいつは俺には眩しくて、夕日のオレンジ色でさらに輝いて見えた。


――――――


「孝司くんは今は働いているのかい?」


「そうです。東京で働いて5年になります」


「ほー、本当に時間が経つのはあっという間だねぇ」


あんなに小さかったのにねぇ、そう言い田中さんは冷たい麦茶を飲み干し立ち上がる。


「孝司くんにね、見てもらいたい物があるんだ」


「俺にですか?」


いまだ座り続ける俺に田中さんは待っているように言い奥の部屋に入って行った。


――――――


田中さんが持ってきたものは手紙だった。

しかもそれが早苗からの俺宛の手紙だった。


「これね、早苗ちゃんが凄く落ち込んでそこの縁側で座り込んでいた時にね預かったんだよ」


「早苗ちゃんが落ち込むのは珍しくてね、何事かと思って聞いてみたんだよ」


『渡せなかったの、ほら孝司くん格好良いから、女の子に人気だから、私自信が無くて』


『田中おじさん!預かってて、私に自信が持てたら取りに来るから!』


だけど早苗は取りに来ることは無いままいなくなった。


「孝司くんに、渡すか悩んだんだけどね」


俺は田中さんの話を聞くなり手紙を受け取った。

時が経って少し褪せたピンク色の封筒を開けると、向日葵をモチーフにした便箋が出てきた。


『孝司くんへ


私は向日葵の花が大好きです。伸び伸びと咲き誇る向日葵は私に勇気をくれます。そんな向日葵の力を貰って、私は孝司くんに伝えたい事があります。

本当は直接言うべきなのか悩んだの、でも今の私には向日葵の力を貰ってもまだまだ勇気が無くて、だから手紙で勘弁してください!あのね、孝司くんの事がずっと、ずっと前から


大好きです。』



ちゃんと早苗の字で、学生らしい内容で、とても温かくて、懐かしくて、悲しくて。


「なんでいねーんだよ、早苗」


目から溢れる物が止まらなくて、いつの間にか田中さんの姿は無く、蝉の鳴き声だけが聞こえる蒸し暑い部屋でただ泣いていた。




「ありがとうございました」


「いや、こちらこそ家の強化をありがとう。とても助かったよ。でも良いのかい?手紙」


そう言う田中さんの手には早苗からの手紙。


「良いんです。早苗は田中さんに預けたんですし……それに俺もその手紙を持つ勇気なんて今無いんです。はは、早苗に何も言えませんね」


「そうかい、それじゃあ預かっとくかね」


「後悔を自分に取り込めたら、早苗に向き合えるようになったら、また手紙を読みに来て良いですか」


田中さんは少し目を見開いた後すぐに微笑んだ。いつでも待ってるよ、と。



――――――


だが、俺は予想よりも早くに手紙を読みに行くどころか引き取りに行くことになる。

そう、異世界にいたんだとか、シエが精霊だったんだとか、相変わらず可笑しな事を言う美しく成長した早苗と一緒に。


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