#.5
「ほら菜月、こぼしてるよ?」
「んむ〜・・・眠たい〜」
僕もだよ。
と思ったが言わないでおいた。
昨日の夜―――・・・
母たちが出て行ってから菜月が僕を部屋へ引っ張りこみ、トランプだのテレビゲームだの色々した。
その内、菜月がうとうとしだした。
『あ、ちょっと菜月・・・』
倒れ掛かってきた菜月を慌てて支える。
『眠たいの?』
って言ってもまだ10時だけど・・・
『・・・んー・・・』
目がほとんど閉じかかっていて、コントローラーを持つ手にも力が入っていない。
『眠いんでしょ?・・・もう寝る?』
『やだぁ・・・』
菜月はそこだけはっきりと答えた。
『やだって・・・でももう半分寝かかって―――』
『だって明純が・・・』
僕?
『明純が・・・いるから・・・』
『っ?!』
思わず赤面してしまった。
いきなり何を言い出すこの子は・・・。
『だ、大丈夫だよ。まだいるから。』
『・・・ホント?』
寝ぼけているのだろうか?とろんとした顔で僕を見上げてくる。
『うん。だって―――』
『ずっと・・・一緒に・・・・・・い・・・て・・・・・・』
・・・え?
菜月はそのまま眠ってしまった。
固まった僕の耳には、菜月の寝息と、ゲームの音。
『・・・どういう意味・・・?』
訊いてみるが、もうすっかり眠りに入ってしまっていて何の反応も示さない。
僕は心配になるほど軽い菜月を抱き上げ、ベッドに入れた。
布団をかけて離れようとすると、服の袖を掴まれた。
『なに・・・・・・え?』
菜月は眉根を顰め、寝ているはずなのに今にも泣きそうな顔をしている。
僕はすぐに『一緒に寝ようね』と約束したことを思い出し、菜月の隣に寝転んだ。
するとすぐに菜月は僕に抱きついてきた。
顔がかっと熱くなり、鼓動が早くなった。この熱と音で菜月を起こさないだろうかと心配になるほどに。
僕の胸元にある菜月の顔を見ると、さっきとは打って変わって、幸せそうな顔をしていた。
『・・・あ・・・ず、み・・・・・・』
むにゃむにゃと僕の名前を言う姿が可愛くて、僕はそっと頭を撫でた。
――・・・あのこと、覚えているだろうか。
僕は思い出すだけでどきどきしてしまう。けれど菜月はけろっと・・・は、していなものの、寝ぼけた顔はいつも通りだ。
よし、訊いてみよう。
「な、なぁ菜月・・・」
「ん〜?」
パンを咥えたまま、また寝そうになっている。
菜月はかなりの低血圧なのだ。
「昨日の夜のことさ、覚えてる?部屋行ってから、しばらくして・・・」
菜月は首をかしげていたが、やがてはっとした顔になった。
「そういえば・・・僕・・・」
「うん?」
「ボス倒す前に寝ちゃった・・・」
「・・・。」
期待はしてませんでしたよ、はい。
「うむ〜・・・」
口を尖らせる菜月を見ていたら、なんだか可笑しくなってしまった。
まぁ・・・良いか。
「明純〜」
「ん〜?なんだ?」
「コーヒー床に零しちゃった…」
「マジか?!」
とにかく早く起きてくれ、菜月・・・