#.2
「吉田君たちって、いっつも一緒にいるよね。」
掃除の時、箒で教室の床を掃いていると同じ班の女子が話しかけてきた。
彼女とは何度か話したことがあるので、あまり戸惑わなかった。
僕は比較的女子が苦手だ。
「ん?うん・・・」
「あれ?たちってだけで誰か分かるの?」
自分から訊いたにも関わらず、彼女は目を丸くする。
「え?菜月のことじゃないの?」
そう言うと、面白そうに彼女は笑った。
「やっぱりねー。仲良いんだ?」
「まぁ・・・」
「ねぇ、いつから仲良いの?」
「えっと・・・幼稚園入る前・・・・・くらいかな。」
すっごーいと言って、彼女ははしゃいだ。
「てかさ、吉田君ってモテるじゃん?」
「え、そうなの?」
「そうだよぉ。なのにさ、女の子と歩いてるとこ一回も見たこと無いしー。」
女の子苦手なんだよね。なんて、彼女に向かって言えないか・・・。
「うん・・・まぁ・・・」
「好きな子とか、いないの?」
「えっ・・・」
その言葉に、僕はどきっとした。
彼女は目をきらきらさせる。
「え、なに?!いるの?!」
「い、いない・・・」
「うそうそ!今ちょっとどきってしたでしょ〜!ね、誰?秘密にしとくしさー、教え―――」
「こらーっ、そーじしろよ、そーじっ!」
ちょうど僕のクラスの担任である女性の教師が入ってきた。
「もぉせんせータイミング悪い〜。今ちょうど事情聴取中だったのにー。」
「そういうことはやるべきことが終わってからー。ちゃっちゃと終わらせちゃってよー?先生今日用事あんだから。」
「デートですかー?!」
「ばかもんっ。」
「きゃーっ」
・・・女子って怖い
僕は掃除を再開した。
「好きな子・・・か。」
僕は後片付けをしながら、くすっと笑みをこぼす。
「あーずーみーっ!」
鞄を手に取ると、教室の入り口で菜月が満面の笑みで手を振っている。
「そーじ終わったー?」
「うん、終わったよ。」
「じゃ、帰ろうよーっ」
「・・・そうだね。」
菜月に腕をひかれ、教室を後にする。
「今日ねー、家で焼肉するのっ。母さんが、たくさんお肉あるからあっちゃんとこも呼びなさいって!」
「あ、そっか・・・。分かった。」
僕はちゃんと返事をしたつもりだったが、菜月は首をかしげた。
「どしたの?」
「ん?なんで?」
「だって明純、元気なさそーな声してるよ?」
僕はまたどきっとした。そんなに、分かり易いだろうか?
「なんでもないよ。」
「ホントにぃ?」
「うん。」
僕が微笑んでみせると、菜月はぱっちりとした目で少しの間僕をじっと見上げていたが、やがて笑って「そっか」と言った。
・・・いつかは、言わなければいけないだろうか・・・・・・