#.1
「ねぇ、明純?」
僕は重くなった瞼を持ち上げ、夢うつつに声がした方を見た。
「次、隣に移動だよ?」
「…あぁ。そうだね。ありがとう、菜月。」
そう言うと、菜月は無邪気な笑顔になった。
早く早くとセーターの袖口を引っ張る姿に、なんだか母性本能の様なものが芽生える。感覚的には、兄だろうか。
「もぉ菜月、そんなに引っ張ったら伸びるでしょう?」
「だって〜、明純がゆっくりなんだもん。」
ぷくっと頬を膨らませる。
16にもなる高校生にしてはかなり幼さが残るこの子、菜月は、比例した様に背が低く、先月の体力測定で155cmという何とも可愛い結果が出た。
本人はそれなりに気にしているらしく、毎日牛乳を飲み、尽力している。
お菓子が好きで、毎日の様に食べているのに全然太らず、体重は約35Kgと軽い。
『明純〜っ。』
いつもニコニコと笑っていて、人懐っこい。
小さいときからずっとそう。
泣き虫で、何にでも一生懸命で、明るくて、笑顔が・・・・・・可愛い・・・
「明純?」
はっと声がした方を見ると、菜月は首を傾げていた。
「あ、ごめんね。行こうか。」
「うんっ」
満面の笑みで答えてから、菜月はスキップして教室を出た。
「・・・まったく・・・」
人の気も知らないで・・・
僕は思わずふふっと笑ってしまった。
「早く〜!」
「はいはい。」
僕、吉田明純16歳。
幼馴染の岩田菜月16歳に片想い中です。